八十五話 真に対する納得と疑問
飯田軍の伏兵が来る少し前。真の戦いを眺めていた蓮は昨日美羽と一緒に会った太陽の言葉を思い出した。
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「長老様の夢では俺は飯田正則に殺されるらしいんだ。俺は、俺達はこの約10年間ずっと黙っていたことがある。五代目の子供は生きている。『緑の目』の時成って聞いたことあるか。そいつが俺の実の息子だ」
二人は息を飲むが驚きで言葉も失っている。それが10年間騙されたと思って信じてついてきてくれと言った男が隠した事実だった。
「それはほんとですか、太陽さん」
口を開いたのは美羽だった。まぁ五代目や沙羅などに可愛がられ、弥生や真、紗奈香、時成が生まれた時から今も気にかけているのも美羽だった。
「記憶戻ってるはずだ。五代目の死因は、ボロボロになった体での禁忌使用による反動だからな。まぁ二人が時成の為なら死ねると思えば味方になればいいさ。強制はしない」
そう言われたらそうなのかと蓮も少しずつ記憶が戻って来るのを体感している。
不思議なものだ。禁忌死に戻りそれを使った五代目はそれだけ時成君、いや若に期待したのかも知れないな
蓮は太陽の言葉を聞いてそう感じた。
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ふうと息をはき思い出に浸るのをやめると蓮は殺気を感じた。垂れていた自分の前髪を右手であげるとキリッと普段から細い目を大きく見開いて目を光らせる。少し敵を気にしてから沙羅に話しかけた。
「太陽さんが言っていた話は本当なのですか?姐さん」
「どんな話をしていたかは知らないけど本当だと思うよ」
三人が話していた執務室に防音結界の魔法をかけて外に立っていた沙羅は答えをはぐらかした。
「今、歴史が変わる節目にいる気がします。選択を誤れば最悪、部下も自分も死ぬ可能性もある」
太陽に太陽が死ぬと言われて、10年の秘密を暴露され今後の方針を大きく変更せざるを得ないようになった蓮は苦虫を嚙み潰したように渋い顔をしている。まあ仮面で他人には気がつかないけど。そんな考えをしている中、真の側面を狙った飯田軍の一部は蓮と沙羅の方に向かって来る。
「『壊し屋』の蓮、覚悟ぉ」
そう言いながら剣士は3人一組で蓮と沙羅を囲んだ。それを見て蓮はため息をついて右膝と両手の握り拳を地面に置いて叫んだ。
「破壊」
そう言うと地面にバリバリとひびが割れ足元が不安定になっていく。それに驚いた飯田軍の軍人は挙動不審になって下がっていく。
「くそが……近くに行けねぇじゃねーか」
蓮はその後何もなかったかのように蓮は沙羅に話しかけた。
「昨日から考えてはいたんです。結論は今、真君を見て決めました。彼ならあの子を支えられるポテンシャルならあると思います。だから姐さん。俺も亮二を見習ってこの子達を信じてみようと思います」
「そう。ならうちの子達を可愛がってあげてね」
「分かりました」
沙羅は笑顔になった。今目の前には自分たちを慕ってくれる後輩がいてその後輩が今度は子供たちを信じようとしている。それが嬉しくてたまらなかった。
『対魔法使い殺し』とはよく言ったものですね。これを見たらあの時の返事は、そうだなって言いたいな
蓮は子供達につくの覚悟を決める。その中で真は能力を怖がっていた頃から彼は自分の恩人であるたくの息子を心配していた。だから少し彼のことが気になった。
「昔は君がこの能力を怖がっていたってことは聞いたよ。どうやって克服したんだ?」
倒れまくった飯田軍推定500人。その中に何人魔法使いがいたのかわからないぐらい居た。そんな中で圧倒した真に蓮は驚いていた。
「この能力をそこまで褒めていただきありがとうございます。蓮さんが言ったように俺は昔、この能力が嫌いでした」
真は少し目を細めたが仮面で隠れている。
「僕はこの場所で敵の邪魔をします。蓮さんが援軍に行かないのであれば少し昔話をしましょう。今は暇なので」
「ああよろしく頼む」
真はふうと息を吐くと夕暮れ時から少し進み空には星たちが顔を覗かせていた。時刻は午後5時54分になろうとしていた。
次回『風の想い人』八十六話は10月7日投稿予定です。
次回もよろしくお願いします。




