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風の想い人  作者: 北見海助
第一章 小競合い編
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七話 仮面の剣士

羽村は剣帯から細身の長剣を抜刀していた。


「魔法使いを従える剣士かー」


時成は、ぼそっと呟いて木刀を再び強く握りしめる。


「そこを退いてくれないか緑目の少年。おれは後ろにいる冷眼の娘に要があるだけだ」


そう言って羽村は体を少ししゃがみ、左手を前にして体を横に向ける。そして剣先を時成に向け、頭付近に長剣を上げて肘を折り曲げる。


羽村は虎視眈々と相手の隙を伺う。その様子はまるで獲物に狙いを定める動物みたいに見てとれる。


「嫌だね」


時成はたった一言そう言った。


そして言ったと同時に、鋭い一撃が時成の心臓にめがけて羽村が突っ込んでくる。その瞬間時成は、握っていた木刀を左に少し傾け辛うじて攻撃をいなす。


速すぎだろあいつ。今の攻撃(やつ)、少ししか目で追えなかったぞ


そう時成が思ったとき、左の脇腹から痛みが走り始める。


斬られたか……斬れ味良すぎだろあの刀。やっぱイッテーな


何故ならこの1分間、時成は斬られたと思っていなかったからだ。


「ちっ殺ったと思ったんだが」


羽村は、さっきの突進で初めに立っていた場所から真逆の位置に立って同じ構えを取る。そして再び時成に向かって突進する。


その突進は、一回目の突進より少し遅くなったと時成は思ったが、その遅さは三連続突きとなって返ってきた。


三連続突きを打ち込まれた時成は、木刀で羽村の攻撃をいなしきれずに服と体は自分の血で赤く染まっていく。


「やっぱ、守りに入ってはあいつに勝てないか」


時成は呟く。両脇腹の斬られた傷は、体からアドレナリンがでているからか痛みを感じることはなかった。


「あれだけ強気だったのに、俺に手も足も弱者だったとはな。所詮口だけだったか緑目の少年」


羽村は三度(みたび)同じ構えを取る。


「口だけっ……か。終わりだよ、速いだけの人間さん。あなたは、『覚悟』って言葉知っていますか」


まだ太陽は高い位置にあるのだが羽村は時成の鼻から上が暗い影が落ちて行くのを感じた。それと同時に時成の緑目に異様な雰囲気をも感じさせられていた。


時成は左の腰に手を当て木刀を剣帯に差し込むような構えを取る。そして羽村が突っ込んでくる。そして時成は突進に合わせて木刀を右斜め上に斬り上げる。その瞬間だった。


「バギッ」


何かが折れるような音が聞こえた。見てみると羽村は時成の前方三メートルまで飛んで気絶していた。そして時成の木刀は、完全に根本から折れていた。


「羽村さん」


魔法使い達は、二人の包囲を解き羽村に駆け寄った。そして時成は、折れた木刀を手放し片膝を地面につけしゃがみこむ。


「時成……大丈夫」


弥生は、振り返って後ろにいた時成に声をかける。時成の体からは多くの血が流れ、息が上がっている。


私の能力(ちから)を使いたいけど、敵がまだ近くに居るよね


弥生はその考えと、自分の体がおかしい事に気がついた。


何故なら、さっきまで時成と一緒に魔法使い達や副幹部の羽村と戦っていた。それは目の前に居る人達が証明している。だからこそ、魔法使いの約半数と羽村は気絶しており、時成は両脇腹から多くの血を流している。


一方弥生は、さっきの戦闘で傷どころか怪我の一つもしていなかった。


「やっぱり……守ってくれたんだ」


誰にも気がつかない小声で、弥生は呟いた。そして自分の能力を使うと覚悟を決めた。


「おい貴様、よくも羽村さんをやってくれたな」


一人の男性魔法使いは羽村を背に時成と弥生に向けて炎の魔法を放つ。


放たれた瞬間は小さな火の塊に過ぎなかったが、周りの酸素を取り込み、直径五メートルまで成長する。炎の魔法が成長した時間は約3秒と一瞬だった。


その間弥生は、何が起こったのか分からないまま呆然と立ちつくしてしまった。


「お前ら、大丈夫か」


弥生が気がつくと目の前にあった炎の塊は消えて無くなっており、その変わりに一人の男性が立っていた。


腰の剣帯には白い鞘を帯び、刀は抜刀して右手にもっている。男性が持っている刀は黒い刀身で、印象深く頭に残る。更に黒で目と口だけしか穴が開いてない仮面を被っている。


その容姿は、風魔共和国以外でも異名が恐怖の象徴にまでなっている人物で間違いはなかった。


「つ……『辻斬り』だと」


炎の魔法を放った魔法使いは驚いた。


「お前らに選択肢(たく)を与えてやる。ここで全員が死ぬか、直ちに全員が引くかをな。だが後者の方が良いと俺は思うけどな」


辻斬りと呼ばれた男は、魔法使いに向けて殺気を放つ。その殺気は魔法使いの恐怖心を利用して、選択を強要させるためだけに放ったと、弥生は感じた。


「わ……分かった。今日の所は引く、引くから」


殺気をあてられた男は残りの魔法使い達に指示をして、気絶している仲間を回収して去っていく。


残ったのは怪我をしている時成と弥生。そして『辻斬り』と呼ばれた男だけだった。そして辻斬りは仮面を外す。


「久しぶりだね、弥生ちゃん」


弥生は、頭を下げお辞儀をする。そして嬉しそうに頭を上げた。


「はい。お久しぶりです。春風さん」


二人は簡単な挨拶を交わして時成の方に向いた。



次回『風の想い人』八話は、4月2日に投稿する予定です。

よろしくお願いします。

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