五十七話 戦場の夜
「属性剣士は死んだのか」
飯田軍の侵攻作戦の完遂していた軍人は焦げた平原と城門を見ながらそう言った。
「こちらの被害は?」
右後ろに控えている自分の副官の上雲に質問する。
「被害は死者59名、負傷者180名です」
無表情で冷静に読み上げる上雲。その報告を聞き狂朗は顎に手を置いて考える。だが狂朗は僅か1分で結論を決めた。日が傾きかけて夕暮れに近かった。
「本日は引き上げる。引き続き包囲を解かず警戒しろ」
冷静に指示をだし、野営の準備に取りかかる飯田軍。その光景を見ながら狂朗に付き従う上雲は質問する。
「属性剣士は生きてるでしょうか?」
「さあな俺にも分からない。だが死んでいても死んでいなくてもこの戦争では関係はない。する事はただ一つ。レストム要塞を攻略して飯田軍の拠点にする。南側は暗部の支持者が多い。ピンチになれば絶対に黒の殺し屋が出てくるだろう」
ニッと笑う狂朗の笑みには猛者を求める猛獣に違いなかった。
「そうですね。今はこの要塞を攻略しましょうか」
上雲も笑う。静になるった野営の拠点には伝令が礼儀正しくが立っていた。持っていた紙を受け取った狂朗は書状を読み始める。そこにはこう書いてあった。
蓋突きは手に入れた。予想外に兵力を喰ってしまったが当初の予定通りレストム要塞を攻めることにする。虹。
とだけ。二人はこの書状を読み、次に移る作戦の内容を考えていた。
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時刻は午後6時。中呂村の村界の近くで時成は、深中動仁と会っていた。
「初めまして軍部隊長深中動仁さん。私の名前は時成です」
「初めまして」
礼をする時成に動仁も礼で返す。深中は本部に蓋突き村が侵攻されたと情報が入ってから約半日で900人の軍人をかき集め午後3時15分にはこの村界まで軍を指揮して布陣させていた。
「一つ聞きたいことがある。何故味方も人も居ない蓋突きを守ろうとした?」
現在、亡き五代目派閥で暗部派の支持者は南にある海側に面した水笠家と海鮫家の二家だけに対して軍部派閥は中呂村を除く四家のうち蓋突き村の双葉家が無くなり三家となった。
「隊長の指示に従ったまでです」
時成は冷たくそう言った。だが動仁はその様なことには一切と言っていい程気にしてはいなかった。
「そうかテツの指示だったのか」
余裕の笑みで笑う時成と名乗った目の前にいる暗部の人間は、中学院に通っている世代だなと動仁は思った。
「情報があります。飯田正則は明日、レストム要塞に一つの軍団を指揮しながら行軍し、要塞に総攻撃を仕掛けるそうです」
「そうか」
月明かりに照らされる。目の前に居る時成に動仁は眉を潜めた。
「それと深中さんにはレストム要塞に行くであろう飯田正則が指揮する軍を足止めしてくれと隊長が言ってました」
色々疑問に思った動仁だが今回は双葉の件があるため暗部には余り強く言う気持ちにはならなかったから簡単かつ明確に時成に質問する。
「勝算はあるのか?」
「あります」
即答する時成に動仁は背を向けて歩きだしてから
「あいわかった」
といって納得してから深中は自分の軍団に戻っていった。
次回『風の想い人』五十八話は3月18日に投稿する予定です。
次回もよろしくお願いします。




