五十四話 暗部隊長『鉄人のテツ』
四日間、連続投稿二日目です。
押されに押された風の民の暗部はもうすでにボロボロだった。攻撃をしたり退いたりしながら戦うゲリラ戦法の中、太陽だけは飯田正則と互角の勝負をしていた。それでも1時間30分が経過した頃テツに影道から一つの報告が入った。
「姐さんの魔力がそろそろ尽きるそうです」
右翼と虹目を引き付けていた沙羅は大魔法をもうすでに4回使っていた。その分飯田軍の軍人を多く殺して負傷させたのも沙羅だった。
この報告を聞き、空いていた民家に入って戦闘の様子を見ていたテツはある決断をくだした。
さて、少し早いが引こうか中呂まで
テツは次の行動に移すべく、思案していた。
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「時成いいかよく見とけよ。これが暗部の戦い方だ」
時成は戦闘になる前に不敵に笑っていたテツを思いだした。今、時成の隣にはテツがいる。二人とも戦場で相手を翻弄しては下がりまた翻弄すると言った攻撃をしていた。
「多対一は広い視野と気配がいる。その分お前は良くできている」
「ありがとうございます」
二人は帰り血と自分の血で服は既に至るところて赤く染まっていた。この二人だけで飯田家軍人34人を殺した。最初は時成も不快で吐き気がしたが今は何とも思わなくなっていた。
「良いかよく覚えておけ。良い指導者は戦争を避けることを優先する。それが無理なら指揮者として戦闘に参加させる多くの人を生きて本部連れて帰ることが大切だ」
テツは覚悟を決めてそう言ってから時成の頭に手を置いた。
「お前は先に引け。まだお前が本気で戦っている場合ではないからな」
空に浮かぶ太陽の日差しは高くなっていた。戦闘が始まってから約1時間半。15人しかいない暗部は押されに押され旧国境ラインよりも風の民側に飯田軍の本陣が入っていた。すぐ近くには蓋突き村と中呂村の村界がある。
抵抗し、翻弄していた暗部の部下全員に隊長テツの指示が入った。
「これより本部へ退く。各々命を大切にしろ。殿は俺がする」
その命令を受けて交戦していた部下が退いていく。それを見届けながらテツは敵本陣とにらみ合いが続けていた。
「さすが暗部隊長『鉄人のテツ』。しっかりと抵抗し、退くタイミングを見間違わない。恐れ入る」
先ほどまで太陽と戦っていた飯田正則は、テツに聞こえるように大きな声でそう言った。それは皮肉であっても正則はテツを褒めていた。
テツは目を細めて笑った。その瞬間、飯田軍の魔法使いから高火力の炎魔法が飛んでくる。ボンと言う音と共にテツに直撃して煙が立っていた。
「なんだー今の温い魔法は」
煙の中からテツは何も無かったかのように歩いて来る。さっきの魔法で上半身の服が失くなったのか上着が失くなっていた。銀色に光るテツの体はまさに『鉄人』という異名の名にふさわしかった。
「開花もいるはずなのにな、拍子抜けだぜ魔法使いさん達」
テツはそう言って煙に紛れながら炎魔法の段幕を避けて、虹目の近くまで来ていた。
「ほらよ」
ドンと言う音と共に虹目はテツに殴られて吹っ飛んでいった。それを見て驚いた飯田軍人。そこに左出田が割って入ってきた。
右手に氷の片手剣を握って振り下ろしてくる。テツは殴った右手を背後に回した。氷の刀と右手の腕が交差する。甲高い音が響きわたった。今度は白い刀がテツを背後から襲った。テツは右側に避けて距離をとった。
っち……知ってんのか。俺の弱点を硬化したらその箇所が動かせないことに
テツは両肘を曲げて手に握り拳を作って戦闘態勢をとった。虹目は歩いて本陣に帰ってきた。そこに川田影道が黒い影を被って歩いて来た。
「隊長全員撤退に成功しました」
「死者は?」
「いません」
ニヤッと仮面の奥で笑うテツに影道が半歩右後ろに控える影道。暗部のトップ2が敵に向かって姿を現れした瞬間でもあった。
「本日はここまで。それでは皆さん」
二人が揃った虹目は起動していた魔法陣を展開する。展開した魔法陣から青い炎が広範囲で迫ってくる。その瞬間二人の足元に魔法陣が展開されていた。ビュッと言う音と共に二人は消えていた。
「勝ったが勝った気持ちにならないな」
炎が消えた場所を見ていた飯田正則は眉を潜めてそう言った。
この戦闘で飯田家側は死者153名、負傷者325名。負傷者を手当てする人510名。残り212名が今の戦力だった。それに対して風の民側は負傷者15人だけだった。
後の世にこの2時間の戦闘を『蓋突き村攻防衛戦』とつけられた。
次回『風の想い人』五十五話は2月25日に投稿する予定です。更新時間は遅くなると思います。すみません。
次回もよろしくお願いします。




