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風の想い人  作者: 北見海助
第二章 恐怖の象徴編
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五十二話 戦争前夜

妖心村から旧国境より西側。風の民自治区の七人の領主のうち水笠(みずかさ)家が治めている水増(みずまし)村は現在緊張状態にあった。


ここはレストム要塞。本部がある中呂村(ちゅうろむら)にまで延びている街道と眼下に広がる砂浜海岸を背にこの要塞は造られている。この要塞は風の民自治区の最南端の要塞である。


黒色の壁に魔法使いが魔法を放てるように穴が開いており中の道は攻めにくいように曲がり角や脇道が多くあった。


11月29日。夜10時。レストム要塞の中心部にある会議室では二人の男が座りながら話していた。


「旧国境の近くに住んでいた住民は全員避難が完了したそうだぜ、領主様」


そう言うのは、黒い髪の毛に所々赤が混じる金城ソーキだった。


領主と呼ばれた男はソーキより若く、左の腰には剣帯に剣を帯びさせている。体が大きくまるで熊みたいと言われても仕方がない体型をしていた。この男の名は水笠亮二(りょうじ)、水笠家の当主で風の民の幹部会議にも参加していた。


「ありがとうございます。ソーキさん」


感謝の意味を込めて亮二は軽く頭を下げた。だがそれは不要とソーキは手のひらを前にして亮二に向かって手を伸ばした。


「俺は暗部の部下だ。だから隊長に言われた任務はちゃんとこなす。だが亮二は領主であり、俺達の弟分だ。弟分が治める領土が戦場になるかもしれないと分かったら、助けに来るのが兄貴分の役割だ」


ソーキはニヤッと不敵に笑った。亮二はソーキの八歳年下で小さい時から黒の殺し屋(ブラックキラー)と呼ばれる人達の年代は彼の事をとても可愛がっていた。そんな中、ガラッと会議室のドアが開き黒い仮面を被った男女が部屋に入ってきた。


「報告します。ソーキさん。亮二さん。やはり水増村には明日、右原川狂朗率いる飯田軍別動隊2000人が戦争を仕掛けにきます」


と男の方は聞き取りやすい声で静かに報告する。


「首尾の方は大丈夫か、沙奈?」


ソーキは赤い髪の毛が混じった女の子の方に質問する。


「大丈夫」


普段通りにそう言って沙奈と呼ばれた暗部の部下は黒い仮面を外した。


「初めまして水笠亮二さん。沙奈香と言います。ソーキの娘です」


それに続いて


「僕の名前は真です。浮き雲の息子です。以後お見知り置きを」


二人は軽く頭を下げる。


「こちらこそよろしく」


亮二もそう言って頭を下げた。この時の出会いが二人いや暗部の次世代の子供達にとって心強い味方との出会いになったとはまだ誰も知らなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方その頃、中央支部の道場では時成が天将から貰った二本の刀の手入れをしていた。


「時成もいくの?」


時成の背後にはいつの間にか入ってきた弥生が

心配そうに俯いて話しかけてきた。


「うん」


時成の体が急に締め付けられる。自分のお腹付近には弥生の自分より小さくて白い手があった。


「や……弥生?」


困惑した時成は刀の手入れをすることをやめた。そして弥生は抱きついている時成の背中に向かって小さい声であの言葉を口にする。


「私も明日には水増村のレストム要塞に行かなければならないの。でも時成はいつも死にそうになる」


そこで弥生は黙ってしまった。私が軽々しくこの言葉を使って良いのか自分に自信が持てなかった。だけど時成の自分を大切にしない行動を止めるのにはこの言葉を使うしか、弥生に選択肢がなかった。


「私と()()して。死なないって()()して」


その言葉と同時に弥生はさっきよりも強く力をいれた。


いつの間にか弥生を心配させてたんだな。やっぱり俺は弱いからまだまだ強くならないとダメだなだから……


そんな時成は覚悟をもって自分が次に言う言葉を口にする。絶対に守るという覚悟を持って。


「ああ()()する。俺は死なないって」


「ほんとっ」


弥生の明るい声が道場に響きわたった。けれど弥生はこの後10分間は時成に抱きついたままだった。


平和な時間はもうすぐ終わろうとしている。だからこの瞬間を大切にしようと、その時時成は抱きつかれたままそう思った。


次回『風の想い人』は2月23日に投稿する予定です。


活動報告を更新しました。内容は今後の投稿予定です。


よろしくお願いします。



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