四十七話 闇夜の密談
今年最後の投稿です。
9月11日午前2時。月も星も照らしていない真っ暗な夜の中で中央支部の執務室では暗闇の中、一つの炎のランプが照らされていた。その中でガチャっと扉が開く。
「帰ってきたか太陽」
暗い中、深夜でも仕事する影道が執務室の散乱した机の椅子に座って開いた扉を少しだけ見て答えた。
「今日は影さんでしたか。すみません夜遅くに帰ってきてしまい」
太陽は軽く頭を下げた。暗くて表情はよく見えないが申し訳なさそうにしている雰囲気は感じとれた。だが影道は全て見えていた。
「悪いとは思ってないのだろう。それに飯田の援軍は斬ってきたのだろ」
太陽がこの時間帯に帰ってくる時は人を斬っている時だしな
そう思いながら影道は椅子の肘おきに手をかける。太陽は軽く一礼してから報告に入った。
「飯田軍約300人は虹目の転移魔法陣で見ノ木村付近まで転移していました。今回、蓋突きに攻めた軍人は戦争容認の過激派の人達です。それの援軍に幹部の左出田と副幹部の羽村が混ざっていました」
それを聞いて影道は目に手を当てて目を瞑り顎を少し引いた。飯田の幹部は三人。その内二人が太陽の証言によると風の民自治区に侵攻を試みていたということになる。これは明確な侵攻の意思があると見て良いと影道は思った。
「飯田の件は四国連語会議の後から行動していたみたいだし、今回のことは正直言って助かった。裏取りはしていないが蓋突き村の村民全員は風を裏切った」
「そうですか。あそこの村はやっぱり信用してはダメでしたね」
はぁーとため息をつく太陽に考え込む影道。この情報で一気に、行動しなければいけないことが多くなった。
「本当だよ。『風雲の悪夢』から約30年。蓋突き村はのらりくらりと自分達が生きるために動いているな」
「粛清の対象ですね。村長、双葉一利は」
双葉一利。現在29歳と若いながら蓋突き村村長として風の民の幹部会にも出席する権利を持った男だ。
「俺もそれで良いと思うし、お前はそんな人間が大嫌いだろ」
「よくわかっていますね。流石影道さんです」
太陽の目が鋭く光った。そして右の口角を上げて口元を緩める。今度は影道がため息を吐いた。
「分かってはいると思うが裏取りしてからだぞ、太陽」
「了解です」
影道は立って太陽の方に歩いていく。
「時成はオーバーヒートで医務室に寝ている。心配なら行った方が良いぞ」
「あいつは大事な人を守る為にそうなったんですよね?」
「そうだが、心配はしてないのか?」
「勿論。大切な人を守る為にそうなったのなら、この経験を生かすことも出来る」
影道はフッと笑った。自分の行動の本質を曲げない太陽は相変わらず凄いと思った。
「裏取りをするまで少し時間を貰う。今回の事は本当に助かった。ありがとう」
そう言うと影道は執務室の扉を開けて闇夜に消えて行った。
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9月11日午前8時。魔京では早馬で飯田正則と上野虹目に報告が入っていた。
「偵察隊。グリーンアイと冷眼と謎の凄腕魔法使いによって見ノ木村まで退きました。見ノ木村に向かった援軍は途中で辻斬りに会い死者は居ませんが殆ど怪我人で侵攻は出来ませんでした」
「ご苦労様。下がって良いよ」
一通りの報告を聞いて虹目は穏やかに報告者を下がらせる。しかし険しい表情をしていた。
「まだいましたか、暗部の猛者は」
「聞いてないか?昔に暗部を追撃しても旧国境付近で魔法使いによって居なくなると言った報告が」
「し……しかしあの報告はあまりにも嘘っぽかったですよ」
慌てた虹目は目を大きく見開いて正則を見る。正則もまさかと言った表情をしている辺り言っている本人も可能性があると思っていただけだった。
「兎に角、侵攻する軍隊を出来るだけ多く投入したいな。12月までに出来るだけ多く派遣してくれ」
虹目にこれからのことを指示する正則に頷く虹目。そして虹目はその部屋を出ていこうと歩き始める。
「12月は俺も行く。その為の準備をしっかりとしていくぞ」
正則は虹目にそう言って黒い笑みを浮かべた。虹目は背を向けて頭を下げてから部屋から出ていった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』四十八話は1月7日に投稿する予定です。
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