四十六話 オーバーヒート
影道を送り出してから20分後。中央支部の執務室では戦闘態勢が整えられていた。
「隊長。黒い転移魔法陣が展開されています」
「誰かきます」
いつも冷静沈着な暗部の一味が慌てていた。その理由は突如、黒い転移魔法陣が表れたことだった。執務室に居るのはテツに先ほど報告した部下二人だけだった。
黒い魔法陣から一人の少女が歩いてくる。テツも部下の二人も強い殺気を放った。だが少女は平然としており、負傷したと思われる男を背負っていた。
それを見てテツは大慌てで少女に近づいた。少女の方は目立った怪我は無いようだが、背負っていた男の方は意識が無かった。
「おい……時成」
テツは背負っていた男に声を掛けるが返事が帰って来なかった。そして黒い転移魔法陣から出てきた少女は南雲弥生だった。
「隊長。時成が気絶しています。医務室に運んでください」
中央支部の医務室は道場の隣にありベットが数台と暗部の中で治療に詳しい人が交代で勤務している部屋だ。
テツは時成を背負うのを弥生から変わった。
「ふー……弥生ちゃんは大丈夫?」
「はい。私は怪我をしていません」
「それは良かった」
テツはその言葉を聞いて安心したが表情は緩んでおらず怖い顔をしていた。
「後で詳しいことは聞くとして今は医務室に時成を運ぶことが優先だな」
時成を医務室のベットに寝かせて二人は執務室に戻った。だが時成はまだ意識が無いままだった。
「弥生、原因は何だ。それに飯田軍の状況はどうなんだ」
「時成はオーバーヒートになっています。飯田軍は父と沙羅さんが対応しています。私達は沙羅さんの転移魔法陣で帰ってきました」
オーバーヒートは能力の使用が過多になると発生する現象で魔法使いの多くの場合は、魔力が枯渇して約1日ぐらい魔法が使用出来なくなる。時成のような妖力を使う人は、オーバーヒートの発生が少なく、もし発生すれば死に至る可能性があることが多い。
「ね……姐さんと天将が対応している。影はどうした」
「副隊長も行っていたのですか?。ですが私達が逃げる時は、まだ居ませんでしたね」
「そうか。分かった」
弥生は目を瞑り暗い表情をしてうつむいた。そんな弥生を見たテツは励ましの言葉を送った。
「時成のオーバーヒートは酷ければ死に至る。今回は気絶だけで済んで本当に良かった」
テツは弥生の肩をポンと叩いた。そして弥生にこう言った。
「沙奈香達が待ってる。行っておいで」
弥生は頷いて、テツのもとから離れて行く。だが弥生にらいつものような笑顔が無いとテツは感じた。
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少し時間が経った執務室では、また黒い転移魔法陣が展開されていた。偶然近くにいたテツと部下は再び戦闘態勢に入ったがしかし、魔法陣の中から女性の聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ただいま」
声が聞こえた魔法陣から沙羅と天将と影道が出てきた。それを見て戦闘態勢をとっていたテツと部下は戦闘態勢を解除して、テツは執務室にある散乱した机の近くにある椅子に座った。
「報告します」
三人が並んでテツの方に向いた。真ん中にいた影道が少し前に出て自分の両手を背中で結んでいる。表情は険しく眉間にしわが寄っていた。
「侵攻してきた蓋突き村の飯田軍約40名は見ノ木村まで退きました。連れていった部下の数名が確認とっています。間違いありません。被害に関しては町の木々が少し燃えた程度で、人的被害は時成だけです」
「天将と沙羅さんは何故対応が速かったんだ」
テツは弥生から二人が対応していると聞いた時からの疑問を質問する。天将は軽く苦笑してから話始めた。
「太陽からの指示です。前回の戦闘と四国連合会議から踏まえて数ヶ月、命令が無い日以外は旧国境付近の飲食店で店の経営の手伝いをしていました。今回のような事件に対応するための隠れ蓑として」
「本気で攻めているように見えたか、姐さん」
「それは無いわね。蓋突き村を占領するならもう少し精鋭か人数がいるはず。向こうも私達と同じように警戒はしているはずだしね」
テツは頷いてから再び質問する。
「何故飯田は見ノ木村まで退いたんだ?」
「援軍が来なかったみたいです」
怪我の傷が癒えた天将が質問に答える。
「そうか」
テツは納得してからこう言った。
「太陽が帰って来るまで援軍の詳細は分からないがテツと姐さんはこのまま蓋突き村への侵攻の対応をしてほしい」
「了解です」
天将は胸に右手を当て目を瞑って、沙羅は笑顔で頷いて返事をした。
次回『風の想い人』四十七話は12月28日に投稿する予定です。
次回で今年最後の投稿になります。
よろしくお願いします。




