四十四話 手助け
無言で倒れた時成に近付いていく狂郎。だがここで立ち塞がったのは弥生だった。
「この人は殺させない」
倒れた時成から二本の刀を回収して狂郎の前に立った。
「守られるだけの女に用はない。今ここから立ち去るのなら、お前には危害は加えないでやろう。悪くない提案だと思うが」
高圧的な態度の狂郎を睨み付ける弥生。その弥生を観察する狂郎。にらみ合いが少し続いた。
「結構よ。ここまで守ってくれたこの人を見捨てるという選択肢なんてありえない。死ぬ時は絶対この人と一緒だから」
弥生と狂郎の間を割り込むように黒い空間魔法が展開されていた。
「いい覚悟だが。その言葉は俺は簡単に言って欲しくわないんだけどな」
その声の主は南雲天将だった。そして空間魔法から出てきて戦闘態勢をとった。
「あいつを連れて行け。ここから先は俺達の仕事だ」
そう言って天将は弥生に時成を連れて逃げろと伝える。その天将を見た弥生は黙って下がっていく。
「娘を守りに来たのか冷眼の天将」
狂郎と天将はお互いに警戒しながら間合いを測っていた。
「いいや。最初から俺がお前らの相手になるつもりだったからな。戦闘狂」
そう言って天将は二本の刀を強く握って狂郎に向かって飛びだした。だが狂郎まで行く前に止められた。
「君が右原川の右腕、副幹部の上雲だな」
天将は難しい顔をして、自分の攻撃を止めた薙刀使いの男に声をかけた。
「いかにもそうだ冷眼」
そう呼ばれた男は天将の声に反応する。そして天将と力比べをする。その間も狂郎は天将を目指して氷の魔法を放っていたのだが上雲と天将の間には強力な結界が張ってあった。
「おい、グリーンアイと冷眼の娘が消えたぞ」
と一人の軍人は大きな声でさけんだ。それと同じくらいに力比べに負けた天将は後方へ弾き飛ばされてしまった。
「これで守るものは無くなったよ」
逃がした人物は、飛ばされて華麗に受け身をとった天将にそう言った。
「いつもすみません。姐さん」
「気にしないで。ここまできて静観なんて出来ないよ」
何もなかったかのように振る舞う沙羅だったが当たり前のように魔法陣の二重展開をしていた。因みに二人が戦っていた時に張った結界は沙羅が作ったもので弾き飛ばされる瞬間に解除していた。
はぁーと息を吐く天将は右手に握った刀を顔付近まであげて剣先を左にむける。左手に握った刀は右の肩に軽く乗せる。
「戦闘狂を相手にするけど良い?」
「お願いします。魔法使いなんて俺には逃げることしか出来ませんから」
「そんなこともないけどね」
沙羅は両手に魔法陣を起動する。沙羅は右手のひらを狂郎に見せた。そして魔法陣を展開する。その時間は僅かに5秒。
「燃えろ」
展開した魔法陣は青い炎の魔法だった。勢いよく燃える青い炎は狂郎を目指して一直線に燃えていく。
「対魔結界」
そう言って狂郎は一辺1メートルの透明な結界を自身と沙羅の間に作った。青い炎は狂郎まで届かずに作った結界に当たり消えていく。そして今度は狂郎が反撃した。狂郎も青い炎の魔法を沙羅に放った。
「ふうぅー。はっ」
沙羅の掛け声と共に狂郎が放った何千度もある青い炎の魔法は一瞬で凍りついた。そしてその氷は沙羅と狂郎の間に落ちて、道の半分を塞いでいた。
それを見た軍人の多くは狂郎の青ざめていた。
「あれを凍りつかせるかあの女。それに暗部はまだ戦力を隠していることになる。黒の殺し屋と呼ばれた女姓は世代最強回復能力者だけだったはず」
戦闘狂と呼ばれた狂郎でもここまでの魔法使いは見たことがなかった。
少しずつ飯田側は流れが悪くなっていくのを狂郎についてきた軍人は感じていた。近くで戦っている上雲と天将は上雲のほうが押していたが一人の軍人から報告が入った。
「左出田様率いる魔京からの援軍約300人が見ノ木村付近で鎌鼬に会い負傷者多数出ていて援軍に来れません」
「か……鎌鼬……風……辻斬り」
「確信はないですが多分その通りでございます、右原川様」
その報告と共に狂郎は遠くのほうで風の暗部の副隊長、川田影道が20人位の暗部と思わしき人々を引き連れて馬に乗って駈けている所を見つけてしまった。
「退くしかないだろ。くっそが」
多くの軍人は急いで反転して旧国境の方へ退いて行った。
次回『風の想い人』四十五話は、12月17日に投稿する予定です。
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