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風の想い人  作者: 北見海助
第一章 小競合い編
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四十二話 居ない人

その頃中央支部の執務室では


「隊長報告します」


執務室に報告に来た人物の名前は振子 明人(ふりこめいと)。今年で34才になるが暗部では若い人の一人である。背は170センチぐらいで短い黒髪に黒目と余り容姿には特徴がない。だが使用する能力は特徴的で、振動を得意とする妖力使いだ。


振動は自ら音や衝撃、水の波などを意図的に発生させることが出来る。勿論、デメリットもあり強い波になればなるほど妖力の無くなりが速くなる。


やっぱり机の上が汚い執務室の机の近くに座る隊長テツはその報告に耳を傾ける。


「戦闘狂が一部の軍人を率いて、我が領地の最東端である蓋突き(ふたつき)村に侵攻しました」


「おい。その近くには中学院が無かったか」


「飯田領地側ですが隣街ですね」


冷静に話す振子に対して慌てるテツ。


「ここは風の民()()()だぞ。なぜ戦闘狂が軍人を少し連れて来ている軍隊を連れてくるのは法度だろ」


テツはバンと机を両手で叩いた。少しだけ書類が空に舞う。


テツが話した風の民自治区の通称が風の民であるが風の民自治区とはもう誰も呼ばなくなってしまっていた。


「落ち着いてくださいテツさん。まだ被害は出ていません」


振子はテツを嗜める。だがテツには逆効果だった。


「俺達は構わん。あの場所は30年前の事件のどさくさ紛れで編入した長老様への忠義が浅い蓋突き村だからな。だが中学院からここまでにはあの村を必ず通らなければ帰って来れない。分かるよな、めい」


「はい」


振子は頭を下げるしか無かった。黒の殺し屋(ブラックキラー)は最近になってまたあの四人の成長を考え始めているのを振子は知っていた。それが暗部の利益になることも分かっていた。


「だがその報告は大義であった。動ける人で対応しよう。ゆっくり休んでからまたよろしく頼む」


「はい」


落ち着いたテツら振子に労いの言葉をかけた。そして振子は頭を下げて執務室から出ていった。


「影、居るんだろ」


誰も居なくなった執務室に一人テツは言った。


「太陽はここには居ないぞ。あいつは魔京にいるからな」


テツしか居ないはずの執務室にテツ以外の声が聞こえる。その声はやはり暗部の副隊長、影道だった。


「任務か」


「いや勝手に一言、言って出て行ったぞ」


「他には」


「今日は誰も居ないな。その近くには多分だが天将がいると思うな」


テツの質問に淡々と答える影道。余り多くのことを語らずとも分かる二人ならではの会話だが頭を抱えたのはテツだった。そこにドアをノックする音が聞こえる。


「入って良いぞ」


ドアを開けると立っていたのは沙奈香と真だった。


「振子さんが俺達を見たときに慌てて執務室に行けと言われて来たのですが何でしょうか」


真は軽く頭を下げてからテツに質問する。


「いや安全確認だろうな」


「何かあったのですか」


沙奈香は質問しながら頭を働かせる。そして一つ思い出したことがあった。中央支部に帰って来る途中にいつもとは違う変化をした村があった。


「いや村に侵攻されたと聞いてな。何か変わったことは無かったか。それに時成と弥生は一緒じゃ無かったのか」


「はい。時成君と弥生ちゃんは私達より後に帰っていました。また侵攻された蓋突き村ですが私達が通った時には人が殆ど居ませんでした」


人が居ない村の沙奈香の記憶は確かであった。隣にいる真もその言葉を肯定しているように頷いている。


「人が居ない。あの村の人口は300人程度はいるはずだけどな」


テツは報告を聞いて今後の方針を纏める。


「影。この一件、お前に任せる。誰を使っても良い。ミスした時の責任は俺が取る。沙奈香と真は影が帰って来るまで中央支部で居て欲しい」


「了解です」


沙奈香と真の二人は納得して頷いた。


「時成と弥生は多分だが交戦している。二人の命が優先だ。最悪あの村を飯田に明け渡しても構わん」


その言葉を聞いた影道はテツに背を向けて何も言わずに執務室を出て行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


時成と弥生がこそこそ隠れていた頃飯田の拠点では。


「成功しますかあの作戦は」


虹目が正則の右斜め後ろから声をかける。二人は少し待たせている一階のエントランスに向かって歩いていた。


「正直に言うとわからん。でも今使っているのは風の民に不満を持っていた連中。成功しても失敗しても情報は手に入る。本番は12月。今回のはその前哨戦みたいなもの」


「暗部は未知数ですし軍部の詳細ももう少し欲しい所」


「幹部以上は死なせるな」


「はい」


歩いていた二人はエントランスに着いた。そこには300人を越える飯田の軍人が揃っていた。


「遅れてすまないこれから行く軍隊の大将は左出田雪間。副将は羽村風立。二人は風の民自治区の近くにある見ノ木町に行ってもらう。よろしく頼む」


飯田は高々に宣言して軍隊を送り出した。名目は見ノ木町の護衛。見ノ木町は今現在侵攻中の蓋突き村の隣で時成達が通う中学院のある村でもあった。


「おー」


と言う声と共に行ってきますと言うかのように左出田は頭を下げてエントランスから出ていった。


次回『風の想い人』四十三話は11月26日に投稿する予定です。

よろしくお願いします。

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