三十六話 太陽の訓練その4
動かなくなった太陽の足元には魔法陣が形成していた。中央に三角形。その三角形の三つの頂点を結びながら丸い円になる。そして、その円は二重、三重に増えたり減ったりしていた。
「トラップ魔法陣展開」
沙奈香の声が太陽の背後から聞こえたと同時に姿を表した。そして、弥生は光の矢みたいなものが飛んで来た方向から歩いて来る。
バシッ。
訓練に参加した四人は同時に太陽へ一撃を与えた。その行動はこの勝負に四人が勝利したと言う意味だった。
太陽は悔しそうに顔を俯ける。そして、沙奈香に質問する。
「いつからこの勝負の意図に気がついていたんだ」
「それは最初からかな。でも指示していたのは山に入ってからだけどね」
「やっぱりお前達の頭脳は沙奈香みたいだな」
太陽は心の中で笑った。そして久し振りに戦闘で負けた気がした。
自分は山に入ってからはずっと沙奈香の手のひらの上で踊らさせていたらしい。それは戦場では致命的になる場合の方が多い。
「はぁー。完敗だよ。自分で仕掛けておいて30分も戦闘をすることが出来ないとはな」
この勝負は時間にして20分ぐらいで決着がついていた。
太陽は今度は空を見上げた。そして切ない気持ちになる。
あの時は40分くらいかかったんだっけ
遠い昔の記憶を思い出す。懐かしく夢中だった日々を。
夜の闇はいつの間にか深く、空に光る星はいつも以上に明るい気がした。
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その頃中央支部の執務室では、
「やるじゃん。子供達」
窓から眺めていたのは沙奈香の母、金城沙羅近くの椅子に座って書類整理をしているテツに沙羅は話かけた。
「それにしても姐さんがここにいるのは珍しいですね」
「今日は皆忙しいみたいだし。中央支部に信頼出来る強い留守番がいたほうが良いと思ったからね」
テツは書類整理の手を止めた。そして目を細めて難しい表情をする。自分達には好ましくない書類を見つけてしまったからだった。その書類にはこう書かれてあった。
四国連合会議の議決案の中に緑の目を世間に公表して、素性を本格的に調査する。
だからテツはあと10日しかない四国連合会議の対策を考えようと私案する。
金城沙羅。彼女は今も暗部の中では最強クラスの魔法を使用する魔法使いだが諜報に参加することはなかった。今の沙羅の仕事は中央支部が資金源としている、店の手伝い。それは暗部の裏方の仕事をしていると言う意味だ。
背は天将よりも低い。沙羅の特徴は肩までしかない短い髪の色は赤に近い茶色で、後ろで束ねている。顔は大きい目に白に近い肌色。沙奈香の綺麗な顔は母の沙羅譲りと分かるくらいパーツが似ていた。
そんな沙羅からテツに向けて一言こう言った。
「太陽。負けたわよ」
「えっ……何をしているんだあいつ」
今度は驚きの表情になったテツ。その様子を見て心の中でクスクスと笑う沙羅はテツに負けた理由を説明する。
「勝負の最中に太陽に与える事実と言う名前こ情報の中に虚実を織り交ぜる。勝利と確信した時の油断を誘い拘束魔法陣を展開する」
「見ていない俺にも分かりやすく説明してくださいよ。姐さん」
右の口角を上げて白い歯を見せる。顎を引き上目使いで外を見る。綺麗な顔は今は悪い顔をしていた。
「四人の連携がとれていないという事実。沙奈香の魔法が後数回しか使用出来ないという事実。気がつけば太陽が誘導されていたという事実。光の矢みたいな魔法が飛んで来たという事実。沙奈香と弥生の動向がはっきりと分かっていなかった太陽の落ち度。最低でも今言ったことは太陽を惑わし、考えさせるには有効だね」
「あっそうか」
テツは納得する。
「人は二つの行動を同時にすると片方が疎かになる傾向が強い。時成と真は太陽に考える時間を作らせなかった」
時成と真が勝負に積極的に参加していた事は見ていなくても適正を知っていれば容易に想像はつく。
「勝負の分かれ目は光の矢みたいな魔法だね。あれは沙奈香ではなく弥生が放ったみたいだし」
「弥生ちゃんが魔法かー。やっぱり素質はあるんだなあの娘は」
「素質は母親譲りだろうね。天将は努力の天才だから」
そんな事を言う沙羅はまた笑った。今度のその笑みは嬉しい感情のほうが強いと笑顔で語っていた。
次回『風の想い人』三十七話は10月8日に投稿する予定です。
本日中には活動報告も更新する予定ですが午後になると思います。
これからもよろしくお願いします。




