三話 中学院の転校生
10年後……。
時成は14歳になった。風の民は10年で弱体化し、変わりに旧妖魔共和国は力をつけた。
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風の民の本部。
風の民は、帝国ダークブラッドとの国境が本部から見て北の険しい山脈でつながっている。本部は言わば風の民の中心である。
「長老様」
呼ばれた初老の老人の男性は呼ばれた人物を見る。白い頭髪で顔には、無数の深いしわがある。黒のシャツとズボンを穿いている。名を龍我透。今の風の民の長である。
「どうしたんじゃ太陽」
呼ばれた男は、春風太陽。15歳の時に風の民に逃げて来た。170センチと背は平均だが胸板は厚く、腕や太股は太く良い体格をしていた。その顔はすっきりとしていて爽やかな中年男性という表現が一番合っている。
「南雲天将とその娘弥生が帰ってくるそうです」
座っていた透は立っている太陽を見上げた。太陽の顔は、少し嬉しそうに、少し心配をしているような、複雑な表情をしていた。
「そうじゃな」
透は首を縦に振って頷いた。それは、太陽に下がって良いぞという合図でもあった。
「失礼します」
太陽は少しだけ頭を下げてから両開きの戸を片方だけ開けた。そして開けた戸を閉めて出ていった。
「もう10年にもなるのかのー」
透は独り言を呟きこれからの風の民の行く末を考えていた。
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一人の女の子が二階建ての中学院の一階を歩いていた。
「ここが今日から君のクラスだよ」
一人の教師に連れて来られた女の子は頭を下げる。
「ありがとうございます」
その女の子は肩から背負うリュックサックを手に持ち、髪は背中まである長い髪を一つにまとめて結んでいる。背は150センチぐらいであった。
女の子は先生に教えてもらった教室に入ってクラスの人達に自己紹介をする。
「始めまして、私の名前は南雲弥生です。よろしくお願いします」
弥生はクラスの人達にそう言ってお辞儀をする。
クラスの中でその様子を見ていた時成は、弥生を見ながら自分の幼い時の記憶を思い出していた。
母を失ってから10年。今の時成は、中学院の生徒の一人である。
10年前と比べると、顔の幼さが失くなり凛々しさがました。それでもかっこいいタイプの顔ではなかった。しかしブサイクな顔でもない。要するに普通の顔ってやつだ。
「南雲っか……昔何かの約束をした女の子がそんな名字だったような気がするなぁー」
時成は一瞬弥生と目があった。彼女のことをクラスの男子は小言で話あっていた。だが、時成は気にも止めずに呟いていた。
次回『風の想い人』四話は、3月5日公開予定です。
よろしくお願いします