二十六話 刀を振る理由
7月30日に投稿する予定だった話です。
二日後。傷が完全に治った時成は、中央支部の執務室にいる南雲天将のもとを訪れていた。
「もう怪我は治ったのか」
今は天将と時成以外誰も居ない執務室に重く低い声が響く。
「はい。完治しました」
「そうか、なら良かった」
いつもテツが座っている椅子に天将は座って机に散乱した報告書を整理していた。だが天将は先の言葉を言わなかった。だから二人とも少しの間黙ってしまっていた。
辺りの空気は重く凍りつきそうなくらい冷えているように時成は感じた。
「ここにはお願いがあってきました」
「どうした」
天将は作業を止めて時成の方に向いた。
「俺に二刀流を教えてください。お願いします」
「ほう。俺にか」
頭を下げてお願いしている時成を、珍しい物を見たかのように天将は右の眉を動かした。
「太陽から教えてもらっている業があるだろ。何故お前は今、俺に頭を下げている」
「今のままでは、俺は誰にも勝てない。飯田正則もそれ以上の猛者達にも」
「何の為に俺に頭を下げる。復讐かそれとも目標の為か」
「……」
その言葉を聞いた途端に時成の胸はチクりと痛みが走った。そして黙って暗い顔になった。
「復讐や目標の為なら話は終わりだ。そのような人間に教える業などない」
冷たく突き放す天将に時成は話す言葉などなかった。それもそのはず天将が言っていたことは核心を突いていたからだった。
「要件がないのなら下がれ。お前も知っているだろ、この時期は忙しいんだよ」
その言葉の通りいつもなら人が10人位いるはずの中央支部はいつもより人が少なかった。
今のままではダメなんだ。変化しなければ時代に取り残される。あれっ……最近、何の為に刀を振ったっけ
唐突に思いだした刀を振る理由。復讐や目標ではない理由。その事を思い出した両手に握り拳を作り次の言葉を口にした。
「弥生を守る為に強くなりたい」
その言葉を聞いた天将は時成に殺気を放った。呑み込まれそうな強い殺気だったが時成は涼しい顔していた。
「小さいときからの約束だからか」
「違います」
「だったら何だ」
時成は少し躊躇ったがもう二度と後悔はしないと小さい時から心に決めていた。
「好きだから、守りたい」
顔を赤くして少し照れている時成を天将は嬉しそうな顔をして見ていたが、時成は気がついてはいなかった。
「一つだけ約束しろ時成。『二刀流』を使う時は誰かを守る時だけだと」
「は……はい」
驚いた表情をしている時成に天将はクスッと笑った。
「明日から特訓だ」
「ありがとうございます」
時成は頭を下げてお礼を言った。
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時成が執務室からいなくなった後。
「それにしても、人が悪いな天将は」
天将以外誰も居ないはずの部屋から声が聞こえる。
「見ていましたか影道さん。ですが、本音を言わなければ想いなんて伝わらない。それに時成は若い時の太陽にそっくりだ」
天将は嬉しそうに笑う。そんな男が娘を好きだと、守りたいと言っていた。
「ああ。お前の言う通りだ。だがそれを知りながら時成君から最後の言葉まで引っ張りだしたお前の誘導も流石だな」
影道は懐かしそうな顔して、天将を見る。
「ほんっとそっくりだよな。器用なはずなのに不器用な所とかな」
「ええ。本当です」
と天将は言った。明日から始まる稽古に、四国不可侵条約連合会議の調査など、時間が多くあっても足りないくらいに天将は忙しくなってしまった。
次回『風の想い人』二十七話は8月13日に投稿する予定です。
よろしくお願いします。




