二百二十二話 あっけない終幕
活動も五年目に突入します。
よろしくお願いします。
「まだ終わらんよ」
七塚の影響に加えて、デント自身でも既に燃やし尽くしているはずなのに戦場はいまだ炎上中である。それにデントが連れてきた軍人は誰一人いないはずなのに堂々とした佇まいには畏怖しかなかった。
「おとなしく投降しろ。命は取らない」
無用な犠牲者を増やさないように降伏を促す根木沼だったがデントの固い意志は覆らない。
「既に身はボロボロ。魔力はガス欠寸前でも、俺は降伏しない」
戦場でヨレヨレな反乱軍がまだこの場所に留まるのは彼が原因であった。
「たとえ味方に裏切られても、ここで逃げたり降伏したりするようなら、既に自分の命で散っていった部下にあの世で合わせる顔がない。俺は俺の矜持のためにここを通さない」
流石に伊達ではないな都市国家最強の軍人デント。この言葉と行動の両方ができる人間がこの世の中に何人いるのだろうか
敵であり元同僚の根木沼は少し現在を想う。そんな人が埋もれたり死んだりするようなことは損失だと思うが彼とは敵であった。
「ならお前の屍もろとも越えてゆこう」
根木沼は剣を握ると大将自ら攻撃に出る。魔法も使わず剣のみで。そんな行動を予期していなかった周りの人たちは一歩どころかかなり出遅れた。
高火力の魔法を広範囲にぶつける魔力依存の脳筋型であり指揮は安定を取るタイプの将軍だが武芸も嗜んでいる。口では暴れる覚悟を決めているようだが彼は既に戦意はなかった。
俺が裏切るには時すでに遅し。民のことを考えて防衛をしていたがそれだけでは足りなかった
「さらば」
戦場に赤い血飛沫が上がった。この国の未来を想う一人の課長の命が散ることになる。防衛課課長『炎上』のデント死す。
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防衛課と特殊警察と衝突した反乱軍であったが、『発火師』七塚と『炎上』デント率いる軍を撃退するともう本庁に乗り込むまで妨害する人はいなかった。そして乗り込むのだが一人の少女が待っていた。
「やっと来た。遅かったね」
かなり返り血を浴びていたが少女を見て驚愕する人が多くいた。既に仮面はつけているのにも関わらず左右の頭にも仮面をつけている。根木沼から見て右の仮面は見たことがなかったがもう片方の仮面をよく知っていた。
「まさか『属性剣士』の娘?」
「そうよ。紗奈香って言うの。長い付き合いになったらいいですね」
えっ嘘だろ。宰相紗奈香と言えば六代目の幼馴染のはずだ何故ここにいる
少し驚いたがそれでも平静を装う根木沼は質問した。
「敵はどこだ」
「母親は消したけど息子は生きてる。そこにいたよ」
既にこの本庁は血で壁やら床が血まみれになっていた。それはまるでかつての『辻斬り』を思い出す惨状。それを紗奈香がしたとは考えにくい。そこに手を出した人間がいると考えるのが普通だ。
だが息子の水野玲の姿はなかった。
「人形には興味ないのよね。心があるとは考えづらい」
仮面の奥でにやりと笑う紗奈香だがそれには気が付かない。
「探し出せー」
そう指示した根木沼は紗奈香に質問を投げかけた。
「協力感謝しています。ですが何故助けてくれたのですか」
「民のために行動する人を支援したいのは当然のことです」
紗奈香は静かにそう言った。だがそれは方便であるのはわかりやすかった。それに彼女の役職は『宰相』。風の民の頭脳がそんな綺麗ごとを言うとは考えづらかった。
「水野玲よりも根木沼さんが水の都を指導したほうが私達の利益になるからかな」
パリンと紗奈香の左手から音が聞こえる。すると外から大きな声で報告が聞こえてくる。
「いたぞー」
「お前がすべて悪いんだ」
そう言う声が聞こえたと思ったらすぐに勝ち鬨が上がる。こうして幕が閉じた。
後世に語られるのは風の民の暗部『属性剣士』を暗殺したことで起きた事件はこう語られる。
『水の都の夜襲革命』
と。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』二百二十三話は明日、更新する予定です。
次回もよろしくお願いします。




