二十四話 風の暗部の副隊長
「おい、嘘だろ。今父さんって言ってなかったか」
目を大きく見開いて馬の方に振り返る虹目は、そんな事を口にする。それよりも驚いていたのは飯田正弥だったが驚きのあまり弥生を見ることしか出来なかった。
少し馬を見たあと虹目は、頭を抱えた。
おいおいおい。冷眼の娘かよ
虹目は、弥生のことを考えるのを止めた。今、目の前にいる天将を殺すことを考えるようにした。
だから威力の強い炎の魔法陣を起動し始めた。
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「娘に救われたな。天将」
自分の背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。その声は川田影道だった。だが影道がいる場所は天将の影の中からだった。
「はい。それから勝手にすみません。俺に能力を貸してください」
小声で言う天将だが、二人にはもう時間などなかった。
何故なら虹目は自分の目の前に赤い色をした魔法陣を展開する。
「開花の虹目っか。それに右原川もいるしな。良し分かった。二人で生きて帰るとするか」
それに、俺は二人とも連れて帰るって太陽と約束したからな。
フッと天将の影の中で影道は、笑った。
「燃えろ」
虹目はそう言いながら魔法陣を展開する。大きな炎の塊が近づいてくる。だが炎の塊はゴォッと言う音で斬られていた。
「なにものですか、貴様は」
虹目は心の中では分かっていたが、確認の為だけに名前を聞いた。
「シャドー」
黒いズボンに黒い服。おまけに黒い仮面。背は天将より高く、足が長い。影道は炎の塊を自身の刀に影を纏い四等分に斬っていた。
「化け物かよ」
風の民自治区の全盛期に民衆が恐怖の象徴と呼んだ人物は辻斬りだが、政治を行ったり軍を操る役人が恐れたのは影の執行人だった。
「やっぱり居たのですか、影の執行人」
確信した虹目は嘲笑った。だがその行動は自然だと天将は思った。何故なら、影道は死地に二人を助ける為だけにきていたからだった。
「何の為にここにきた」
「俺が守りたいのはこれからの未来だ。その夢には貴様らは障害だ。だから少しでも戦力は削いでおきたいからな」
と影道は笑った。
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それから30分後。
100人居た飯田軍の60人程度は気絶して、倒れている。残りの40人のうち31人は魔力切れ、9人は逃げ出してここにはいなかった。
天将の隣は影道が立っている。
「こ……これが黒の殺し屋」
ただ見ていただけの正弥は驚いていた。話を聞いていたこととはまるで違っていた。
虹目と狂郎の二人を相手していながら、8割以上の人を気絶させてなお、戦い続ける天将と影道に恐怖を感じ続けていた。
虹目は渾身の魔法陣を完成させた。この30分間、始めの大火球以外の大技魔法を使わずに虹目は、この魔法を起動させることに力を尽くした。その大魔法陣が今、展開する。
属性魔法はダメ。数でも効果が薄かった。だったら拘束しかないだろ
円形の魔法陣を中心に8方向に黒い帯状の線が進んでいく。そして、その帯は一定の間隔を開けて丸い線が入り太くなっていった。
いつの間にか魔法陣を中心に巨大な円形となって影道と天将を包んだ。
影道は天将の肩を触れてこう言った。
「待っていたよ拘束大魔法。最後に一つだけう。まだ時期が早いんだ俺達は帰らせてもらう」
と。そして、影道は天将と一緒に影の中へ消え去っていた。
「くっそ逃げられた」
魔力が無くなった虹目は、ふらふらしながら片膝をついて拳を握り地面を強く叩きつけた。
終始、影の執行人に踊らされていた。やっぱりあの能力は厄介だ『影を使いこなす能力』はな
虹目は次の一手を模索しながら動かなくなった体を無理やり地面につけた。
次回『風の思い人』二十五話は7月26日に投稿する予定です。
よろしくお願いします。




