二百五話 レショット王子動く
アイスジーナ王国軍、軍長の執務室では第一王子派閥の公爵が集まっていた。
「あのゴミが人集めてるらしいよ」
軍長椅子に座るレショットの裏で金髪の髪を触りながら言うのはエミリー・メナトだった。
「エミリー嬢、さすがに実の父をその言い方で表すのは良くないかと」
ロロック公爵はそう言うが聞く耳を持たない。ここにいる人は当然エミリーの事情は知っていたからだった。
「イナンナサール公爵軍は使えないので?」
王都で立ち上がっても北部軍が駆けつけてくれれば戦況は随分と楽になることには間違いはない。
「祖父様によれば帝国が動いていて軍を応援に出せないと言われたそうだ」
王子ははぁーとため息を吐く。先日風の六代目かは話を聞いた限りでは風の動きを察知して対策するために水の都軍と連動しているのは無さそうだと思っているレショットだが否定はできなかった。
「メナト公爵がどれくらいの人を集めているのかは分かりませんがこれで我々は外からの援軍が来れないことになります」
「戦えば圧倒的に不利なのはこちらでしょうな」
最大戦力であった軍部は信用ができなくなっている。メナト公爵家は軍を持たずロロック公爵軍だけでは戦闘になった時の勝ち目は薄い。
「だが俺は動くぞ。この国で一番偉い椅子を盗りにいく。簒奪者とか売国奴とか言われる覚悟はできている」
「お……王子」
涙目になるゲンゾウはやる気になって自分達を引っ張って行くレショット王子を心待ちにしていた。
「デイノス。お前の所に視察に行く準備してくれ」
「はっ」
そしてその6日後からレショット王子は王都を離れた。
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8月17日。都市国家アクアストームの一つの病院ではある男が生死を彷徨っていた。
彼の名前は十川正吾。沙羅に刺された傷が塞いではいないがなんとかして生命を保っている状態だった。
そこに一人の男が見舞いに来る。
「あれだけ追い詰められたお前が死んで俺たちが生きているってのは皮肉なものだな」
一つ言えることは彼はただ招かれざる客だと言うことだけ。
もう10日以上政務から離脱していてあまり政務が回っていないことを知るに彼がどれだけアクアストームに貢献し牛耳っていたかがわかる。
「お前が死ねばこの国は終わりだ」
この暗殺者の名前を根木沼常伝。水都義勇軍総司令でトップの男が直々に彼を殺した。
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次回『風の想い人』二百六話は10月5日に更新する予定です。
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