二百話 王城侵入
ここはアイスジーナ王国の王城、正門前。そこへ白いフードを被り、白いスーツに黒いズボンを着ている人物が問題を起こしていた。
「ここはお通し出来ません。お引き取りを」
150センチ以上ある槍と鉄の鎧を着ている門番がそう言った。
「サンザルト国王に話がある。通してくれ」
「国王様は今、会議中です。お待ちを」
「知っている。貴族もいるはずだ。狙ってきた。通してくれ」
白いフードを着た人物の隠れた顔は黒い笑顔になっていた。
「だったらなおさら通すわけにはいかない。お前は襲撃者だからな」
「そうかならば力ずくで通るのみ」
その言葉を言った白いフードの人物はうるさい門番を気絶させていた。
「俺を悪く思わないでくれよ、要件を断った君たちが悪いのだから」
そう言って侵入者は白いフードを脱いだ。黒い仮面で顔を覆った侵入者は王城の中へ入って行く。その仮面はかつて『恐怖の象徴』とまで言われた辻斬りの仮面だった。
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ここは王城の会議室。今は月に一度の会議中、議題はこれからの王国運営についてだった。そこに一人の男は扉を勢いよく開けて口にする。
「ほ……報告します。し……侵入者です」
会議室にいるメンバーはアイスジーナ王国の貴族6名に市民54名国王と王子に側近と合計63人いる。
その報告を聞き、先ず先に声を出したのは王国軍長のゲンゾウ・ゴトウだった。
「会議中だ。守護兵を使え」
簡潔かつ分かりやすい指示を出すが、顔しかめていた。ゲンゾウも分かってはいた。いつもなら多少の侵入者は部下だけで止まり報告も事後報告で済ませている。その部下の一人がここまで報告に来る時点で侵入者は猛者に違いなかった。だからこそ確認することは大事だった。
「服装は」
今度はレショット王子が冷静に声を出す。
「は……はい。白い服に黒いズボン。そして辻斬りの仮面みたいな仮面被っており顔は分かりませんでした」
ザワザワと口々に話始める市民の人達。だがその言葉の中、第二王子ロトナンはこう言った。
「辻斬りは四年前に死んだ。そいつは偽物だ恐れることはない」
と。この発言で怒ったのはイナンナサール公爵家当主のゼロシュだった。
「王子。口にして良いことと悪いことがあります。もう一度、勉強をし直したほうが良いですね」
戦争で他国なのにも関わらず、命の危険を省みずに剣を振るった辻斬り。誰もが現国王が負けたと思ったあの戦争。大恩がある人物に対して偽物と言うのは間違っていると言う貴族の人達。だがもう侵入者はこの会議室まで歩いて来ていた。
カツカツカツ。廊下から少しずつ人が歩く大きな音が聞こえてくる。そしてバンという音が響くと同時に会議室のドアが開いた。その場所に立っていた人物ら白い服に黒いズボン。そして辻斬りの仮面を被っていた。そのたった三つの特徴だけで多くの人達はすぐに侵入者と分かった。
「初めまして、呼びつけておいてこんな手荒な歓迎とは……王国との関係は見直さなければいけないかな」
仮面の奥で笑っている侵入者。片手には黒い刀身の刀を握っている。そしてその刀は血が付着している腰には白い鞘を帯びている。
会議に参加していた若い人らの多くは会議室の扉と反対方向の壁まで下がり慌てて守備兵を探していた。その瞬間、背筋が凍りつきそうなくらいに寒くなった。
当てにしていた守備兵は全員倒れていた。
「俺が行く」
と言って侵入者の方に歩くゲンゾウ。だがサンザルトは返事をしておらず頷いただけだった。昔、恩を受けた貴族の当主と国王には暗黙の了解がある。
風の民の人間が来たら恩は返す。
その時が来たのかもしれない
そう思いながらゲンゾウは魔法陣を展開した。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』二百一話は8月24日に更新する予定です。
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