二十二話 最悪の展開
天将と狂郎が戦った場所は比較的人通りが少ない通りだったが今は逃げて来て、首都の魔京付近まで戻ってきたいた。
天将はふと近くの公園を通りすぎようとした。だがそこに、弥生と正弥の姿があった。
「ごめんなさい。まだ、答えは、出せないから」
遠くからでも天将は、弥生の返事が聞こえてきた。
「弥生。俺のこの気持ちが伝わってないのかよ」
今の立場と弥生の未来のため、天将はどうすることも出来ない自分に嫌気がさしていた。
本当なら、助けに行ってやりたい。でも、弥生の覚悟や、五代目の遺言は背くことが俺には出来ない
歯をくいしばり立っていた天将は、いつの間にか握り拳を作っていた。
だが、その考えは一瞬で消え去った。その理由は、天将が公園以外の三方を飯田軍に囲まれていたからだった。
そんな状況で、天将は公園へ逃げ込むしか方法はなかった。
「いたぞー。『冷眼』だー」
一人の魔法使いがそう叫ぶ。三方から五十人ずつという、一人を追いかけるには圧倒的な人数で迫り来る飯田軍。その中で天将は口角を上げて笑っていた。
「苦しい時、死にかけそうな時ほど笑え」。相棒がよく言う言葉はこんな時ほど役に立つ。天将は、そんな相棒に向けてこう言った。
「太陽。弥生だけは死んでも必ず連れて帰るからな」
天将は勝手に自分の命を賭けて誓ってから、公園へ入って行った。
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長い時間を考えて、正弥の告白に回答した弥生は、周辺が騒がしいことに気がついた。そして正弥の近くには、黒い魔法陣が現れた。
「ここに居ましたか。若様」
魔法陣からそんな事を言いながら男性が出て来た。
「虹目さん」
あれってNo.2の上野虹目だよね。いったい何故こんな所に
軽く頭を下げる正弥に対して少し驚く弥生。
「若様。下がってください。今からここが戦場になります」
虹目は険しい顔で正弥に忠告する。
そのタイミングで公園の二つの入り口には、飯田軍に囲まれて逃げてきた、仮面をした天将が、逆の入り口には今まで天将の事を追いかけてきた狂郎が天将を挟み撃ちするために入って来ていた。
この事態に驚いたのは、弥生だった。飯田軍に追いかけられている父に、自分の隣には正弥と虹目。その奥にいるのは狂郎。
結果的に天将と弥生の退路を飯田軍は断つ形になっていた。
上野に、右原川。100人以上の軍。対するこっちは、弥生を知らないふりをしながら、戦っていかなければいけない
冷静に状況を把握するも、良くない考えが天将の頭に浮かんでしまう。だがそんな事で諦めない天将は立ち止まって二本の刀を抜刀する。右手に握っている刀を肩に乗せ、左の刀は剣先を地面に向けた。そして、天将は笑いながら、
「自分の命の使いかた、賭けかたを知っているのか」
と言った。
その目は、普段より真剣で、その言葉には、天将の心が籠っていなかった。
次回『風の想い人』二十三話は、7月16日に投稿する予定です。
7月9日は投稿を休みます。すみません。
今後の詳しい投稿予定日は明日、7月3日に活動報告の方に書くつもりです。
これからもよろしくお願いします。




