百七十七話 二年間の出来事
結婚式が終わった二日後の7月6日午後8時。時成は中央支部でテツと会っていた。
「夜分遅くに申し訳ございません」
「ほんとだよこっちは新婚だ」
皮肉たっぷりに言うが別にテツも申しわけないとかは思ってもおらず、時成もなんとも思っていない。
「とりあえず計画していたことは一区切りついたので確認させてください。世界情勢と領内の事情です」
二年間のうち立てた目標は後は結果を待てばいいだけの状況になっていた。
「ああ。よろしく頼む」
「まず国内ですがかなり安定してきています。1年目と比べても改革の手がとりあえず様子見となり結果が出るまでの待ちとなりました。それに不安定と予測されていた東部ですが今のところは中橋、水笠の両家で抑え込めています」
そこで時成は水を一口飲んだ。この両家のバランスを持たせながら内と外を警戒する。仮に軍部始動の内乱や妖魔共和国からの西進を備える役目があることを考えていた。
「妖魔ですが、議員たちが結束し始めて他の議員達に対抗すると新たな情報を得ています」
飯田正則亡き今カリスマを持ってまとめる人が妖魔共和国にはおらず利権を守りながら裏でこそこそと動く議員が増えた。そしてその議員たちが結束して対抗するとなると最悪は南北の境界である首都魔京で戦争となる。
「もう誤魔化しは効きませんか」
「よくこの状況が続いたと褒めるぐらいでしょう」
時成も手を打って自身の考え方に近しい陣営である南側陣営に肩を持ちながら武力衝突が起こらないようにならないか味方してくれている人達と話していた。
「水の都は?」
「現在調査中ですが市長選挙以降、市民の不満は市長に向かっています」
2年前の7月に変わった市長水野玲は軍拡を推し進め、民からの税金を引き上げた。まだ戦時中でも戦争が起こる前でもある。それに都市国家アクアストームは防衛力だけならどの国にも劣らないそんな国家であるからこそ自分達から侵略すると言う考え方よりも今を守ると言う戦争に関しては保守的な人が多かった。
「余り大きすぎる改革は民は嫌がるか……」
自分がしていたことは正しいのか正しくないのか時成は少し俯いた。
「六代目がしたことは間違いないと思いますけどね。特に民が良くなるように改革をしてきたと思っています。そして帝国ですがこっちは当分放置でも良いかもしれません」
「そうだな」
帝国は内と外から崩れだしていると言う報告が複数方向から届いていた。それも支配している一部の騎馬民族と山から大量に襲ってきた動物の被害が大きくなりその対応に気を取られていた。それが昨年の冬の出来事だった。それにより帝国が侵略してくることは六代目になってからなかった。
「王国も調査中ですが王の体調が余りよろしくないとの報告を受けています」
「あそこはまだ王太子決めていないんだっけ?」
「そうですね。調査の方は西支部に任せましょう。貿易や第一王子とか貴族の件とかもありますし」
「それは美羽さんから直接聞いた方が早いかもしれませんね」
そう時成が言うと一息ついてからテツは覚悟を決めた。
「それを踏まえて私は暗部隊長の地位を捨てようと思います」
元々決めていたことをテツは話した。それにタイミングについては今が一番だと考えている。他国は自国の問題で手一杯になっており自分たちの方に目が向けにくい状況だと考えている。それに世代交代も進んでいるからこそ、先代を支えた自分たちの引き際は正しく見極めたかった。
「今ですか……まぁ色々と考えた結果だとは思いますし止めません」
「ありがとうございます。ですが影響はあると思いますので情勢が落ち着くまでは次の暗部隊長の補佐をしようかと」
「次は真で良いんだな」
「任命権は私にはないので従うのみでございます」
そう言うテツは満足して何度も頷いた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』百七十八話は3月23日(木曜日)に更新する予定です。
次回もよろしくお願いします。




