百七十六話 結婚式 後編
多那箕田村には午前11時に時成が到着していた。黒服のスーツ姿だが真も同じ格好をして門番をしていた。
「ここを通りたければ俺を倒していけ」
「ここに弥生が居るんだな」
「勿論」
「一つ聞きたい。今回したことは誰が主導だ?」
「聞きたければここを通って本人に聞いたらどうだ」
殺気を放つ真だが何食わぬ顔で微動だにしない時成。周りに多くの人がいるのを感じるが手を出してこないような雰囲気を感じた。
「俺は今機嫌が悪くてね……捻り潰したくなる」
そう言うと剣と剣が真の前でぶつかり合った。真の方は一歩も動かずに時成の攻撃をいなした。
「珍しく本気だな」
もうすでに緑色の目と髪をしている。何十回何百回と戦っている真だからこそ出来るいなしかたである。お互いに手の内を知り尽くしている相手だけに小細工は聞かないことは百も承知であった。
「弥生に会いたいからな」
そう言うと真は剣をぶつけあっているにも関わらず左足をすり足で一歩前に出ると力を込めて剣を振り抜いた。
「浮雲の技術を」
小さい声でつぶやく時成に真はつけている仮面の奥でニヤリと笑った。お互い弟子だからこそその技を良く知っている。そして二人は再びぶつかり合った。完璧に攻撃を捌きあう二人の姿に今のままでは決着がつかないことは分かっていた。それにお互いに本気ではない。だが均衡が破れる瞬間は一瞬だった。
時成はずっと同じ威力の攻撃を続けていた。この勝負には何かがあることを感じていたからこその行動だったからこそそれを続けていたのだが真の攻撃は先ほどよりも弱く吹き飛ばしてしまう。それも教会の扉の方だった。
「さぁ花婿の登場だ」
吹き飛ばされた真は開いた教会大聖堂に吸い込まれていく。その扉の奥には風の民幹部、妖魔共和国の新風派の議員3人、大商人である暗部の千者大喜に商人のふりをしたアイスジーナ王国第一王子。
それよりも驚くのはその奥にいる純白のドレスとベールを纏った弥生と背後には二本の剣を腰に帯びて堂々と立っている天将を見てその時点で自分が罠に嵌ったと察しがついた。
おまけに来ていた服は花婿用にあらかじめ用意されていたのか一気に白くなる。それはかかっていた魔法が解けたかのように。もう大聖堂に敷かれているレッドカーペットを歩くしか選択が取れなかった。
一歩一歩足に力を込めて歩いた。周りにいる人を見ながらどう見てもこの教会には見えていないだけでもっと人がいることに気がついた。そして壇上まで歩いた。背後にあるガラスの窓から光が差し込んで弥生の表情とかも全く見えない。ただそこには不気味なくらい似合わない男が立っていた。
「娘をよろしくお願いします」
「心得た。昔の約束は今も継続ですから」
それを聞くと満足して壇上から降りていく。
「その……すまなかったな」
「ふふ。まあ今回は許してあげるからね」
そう言って弥生のベールをまくると普段よりもきれいな弥生が笑顔で立っていた。
「私をそれにこれから生まれてくる子も守ってね」
「ああ、また約束するよ」
ゴーン、ゴーン。教会の鐘が鳴る。何とも二人らしい誓いの言葉。昔から似たような言葉に振り回されている時成からすれば今と変わらないことをこれからもするだけ。その誓いの為の口づけをした。
「やっぱり人前は恥ずかしいね」
うっとりと時成を見つめる弥生に時成は2年前今よりも多い人たちの前でしたのになと思った。そして今回の騒動の主犯と思われる人物に話しかけた。
「お前ら何をしたか分かっているのか」
「全ては弥生が考えたこと。俺らは悪くない」
次期暗部隊長の真と宰相紗奈香が六代目に頭を下げるが言っていることは悪者のそれで、自分がしていますと言っているようなものである。
「っち。余計なことに頭を回す幼馴染だよ」
最後の最後で締まらない終わり方を迎えようとする中、久しぶりに着ている白い礼服のテツが笑いながら一枚の紙を見せた。
「ならここに書いている人達は連帯責任でなければなぁ」
それを見せるテツに時成は頭を抱える。気軽に排除することなど出来ない人々が名前を書いている。
「父のあの紙が俺を救い今度は牙を剥いてくるとは。一応反省だけしろよ弥生のせいだと分かったなら余り文句は言えん。俺が不甲斐ないのも原因だしな」
それを見て連帯責任の紙にサインしている人は首を縦に二回振った。この結婚式は風の民の結束の象徴になった。
「そろそろ動きますか」
意味深に言うその六代目の言葉に
「は」
参加した人が頭を下げた。自分の目標の為に動くことを決意する時成の『六代目』になって3年目の夏が近づいてきていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』百七十七話は3月20日(月曜日)に更新する予定です。
次回もよろしくお願いします。




