百七十三話 水無村
水無村は水笠家が治める水増村と風の民では反対側の位置にあり北側は4000mを超える山々がそびえたち冬にはその山々の山頂は雪景色に変わるがとても寒いとは思うような土地ではなかった。
「良くおこしになりました。お久しぶりです六代目」
出迎えてきたのは中橋漸三郎。白髪が目立つと言うよりも黒い髪がかなり減ったように思う時成は軽くお辞儀をしてから入った。そんな彼は隠居したいが息子では荷が重い問題が浮かびあがりまだ当主をしていた。
「ただの視察ですよ。様々な場所に顔を出しているだけです」
時成からは少し笑みがこぼれた。
「ただの視察にしては随分と護衛が少ないですな」
目に見えるものが全てではない。そう言いながらも心配になるのは年を重ねすぎてしまったのか……とも思う漸三郎。
「暗部の訓練も兼ねていますよ。ただでは動きません」
「でしょうな。そう言われて安心しました」
そう言う漸三郎も少し暗い顔をしていた。
「新たに貰った見ノ木村件ですが、わしには荷が重いようです」
「何かあったのか?」
「六代目を支持しない、とかなり隣の国に流れている人が増えています」
先導者が居て流れに身を任せているのか、それとも個人の意思で行っているのか。まぁ暗部に調査依頼を出すしかないな
そう思いながらふと見ノ木村の中学院に通っていたころの記憶を思い出した。
「まぁ無理やり編入したからな……。それに俺は学校時代は余り良くできた人間ではない」
「噂では聞いていたのですが、やはり魔法主義でしょうか?」
中学院は平等と言いながらも魔法主義が色濃く残る場所。魔法主義とは妖力で扱う能力ではなく人個人の魔法を優遇する飯田家の名残。昔もその風潮があったが今よりもひどくなかった。
「それに一部は飯田正則を敬愛していたのでしょう。それか俺のやり方に不満があるか……」
「生き急いではいませんか?」
漸三郎の記憶にあるのは五代目になった頃の七美を思い出した。今よりも時代に合っていなかった政策は彼女の手で改革された。その時に話していたことは未来の子供たちには自分達よりも豊かな生活で生きて欲しいだった。
「俺が生き急ぐ気持ちを分からないわけではないだろう?それに誰かが刃を入れなきゃこの国は未来が無いのにそれをすれば恨みを買いやすい」
テツからも最近忠告を受けていたがそれでもと一度進めたものを戻す勇気の方が改革を決行するよりもなかったのも事実だ。
「それは五代目が夢半ばで絶えてしまったから自分もそうなると……」
「母は偉大な人でした。幼い俺が分かるほどに……。小さい子供を見ていれば母があの時とった行動も何となくわかる気がするんです」
それを時成が言ってしまえばどんな想いになっても頷くしかなかった。
「……。そうですか」
「しんみりしてしまったな。見ノ木村の件は放置で構わないよ」
「良いのですか?」
良い手の付け方が思いつかない漸三郎だがそれを時成が言えば民を蔑ろにしていると取られても仕方がない。
「民を大切にしていきたいけど出ていきたい人間を止めるような人ではないからね」
暗部が出てくるな……国境は少し検問を厚くしとこうかな
そう思った漸三郎は次に水無村の方の報告を上げた。
「六代目には申し訳ないですが森野家の内政はかなり高水準であり良くないと思ったところは家臣と話し合って変更しているところです」
「最近余り水無村の方のことを言っていないと思ったらそんなことだったか。別に構わないよ。それが不都合があれば変更すれば良いからな」
そう言って時成は外を眺めた。外には領主軍の人達が今も鍛錬をしている途中だった。剣を振る人魔法を使う人、模擬戦闘をしている人もいる。
「7月頭の軍隊長試験でのことがうちの息子にとっていい刺激を貰ったと感じました。そこから最近は自分を鍛えることに努力の方を変えているみたいです」
「ああ紗奈香の結界はそう簡単には突破できないからな」
「私も見ましたがあの結界は普通のとは違いましたよね」
「俺も知らなかった。それに本番に近い環境で使ったのは初めてだったとか言われた」
それを聞いて驚いたのは漸三郎だった。当主になってからは色々な魔法使いにあったが初めて見たパターンの結界だった。それをぶっつけ本番で使う当たりの心の強さが凄いなと思った。
「それなら良かった。ここだけの話多く間者が紛れていてね一斉検挙できましたし副隊長だったザクの本性が見えて良かったよ」
それを聞いた時どこか暗部のやり方に似ているとも思えた。やはりあの二人の子供なのかとも。それを聞いて改めて敵対路線は無しだなと感じた。
はーもう隠居したい。長老は優雅な生活をしていると聞くからなー
そう思ったが口には出せなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』百七十四話は2月27日に更新する予定です。
次回もよろしくお願いします。




