百六十五話 王国第一王子と六代目当主の密談 1
都市国家アクアストーム『革命家消去事件』から約一か月後のw183年6月2日。アイスジーナ王国の東側に位置するメナト公爵領の領都シュルからさらに東端にある妖魔共和国との国境にあるジャメと言う街で密会している人達がいた。因みにこのジャメは東部国境の中では一番大きい街であり交易で栄えている街だ。妖魔共和国から攻めようと思えばまずこの街を落とす戦略を練る必要があるくらい重要な街である。
その街の高級飲食店が王国第一王子と風の六代目の密会会談の会場に使われていた。
先に入って会談する王子を座って待つ時成に店員がすれ違いざまに小言で話しかけてきた。
「今日はもう閉店しています。スタッフ一同怪しい人物がいないか仮に居れば処理できるくらいの実力は持ち合わせていますので何があってもご心配なく」
その店員はそう言うだけで離れていった。だが時成には聞き覚えが確かにある声だった。今いる店の名前はリョウテイアイ。西支部が出資、経営している飲食店でありスタッフのほとんどが西支部所属の暗部かその下の人間しかいない。だがそのことを知っているのは西支部所属の人間と暗部の幹部しかいなかった。
時成到着から約5分後遅れてきたのはアイスジーナ王国第一王子レショット・ジーナだった。
「初めまして会いたかったです。レショット・ジーナ。一応この国の王子だ」
いきなり挨拶をされた時成は驚いて立ち上がり彼の挨拶が終わると時成も挨拶する。
「春風時成です。まあ俺がしたことは知っていますよね」
そう言う挨拶をすると二人は黙ったまま同時に座った。そして料理が出てきて一通り出てきた後レショットから話しかけた。
「余り自分から会ってみたいと思うことはないのだがこと貴方だけは違った」
出された汁物、豆腐やねぎが入っている味噌汁を軽く飲んだ。
「もともと風には昔から興味があってね。その中で直ぐに異名が付き遂には風魔連合共和国の『裏の支配者』とまで呼ばれた男を公衆の面前で勝った人間と会話してみたいと思うのは普通だと思うんだよね」
「そうでしょうか?俺にはもっと別の目的があってこの場にいると思っているけどな。そうでなければあんなリスクしかないようなことをするはずがない」
そう言った後時成もレショットと同じように味噌汁を軽く飲んだ。そして箸がご飯を食べる速度を進めた。因みに国のトップクラスがこのようにご飯を食べながら会談することは当然だが非常に珍しいことだった。当然毒味も済ませてあり防音性能は完璧に備えている。
「君はかつて神童と呼ばれていた。だが、とある一件から自分を偽るようになったそうだろう」
淡々と時成は暗部が調べていたことを話していく。
「さぁな?」
「信じていたはずのメナト公爵の裏切りに気がついた貴方は自分を偽るようになった。君の本当の姿は放蕩王子ではなく猫を被った天才だった」
「……」
ニヤッと笑う時成は嫌な顔をするレショットの目をとらえた。そしてレショットはため息を吐いた。そもそも時成や周りが無能なら早いタイミングで帰る予定だったが自分の部下が無傷で丁重に扱われて帰ってきた時点でその予定はかなり低い確率だと思っており、実際にその予定は既になかった。それでもここまで踏み込まれたことを言われると思っても見なかった。
「メナト家現当主はかつて貰った恩をあだで返すような行動を今もなおしているとだけ言っておこう」
その言葉は暗部が掴んできた情報が真と言う可能性がかなり近づいたことを意味した言葉だった。
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次回『風の想い人』百六十六話は1月26日に更新する予定です。
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