百五十五話 王国と帝国の関係者
アイスジーナ王国、軍長の執務室には一人の軍人が軍長に報告に来ていた。
「公爵。ディトが帰ってきました」
『アイスジーナ王国の盾』と呼ばれている軍長ゲンゾウ・ゴトウ公爵の執務室では兵士の一人がそう言った。その隣ではこの国の第一王子が座っていた。ディトは公爵に軽く頭を下げると王子に時成からもらった書簡を渡した。
「レショット王子。これが六代目の書簡です」
ディトはレショットにそう言って時成から貰った書簡を渡したがレショットは驚いた。
「決着が着いたのか」
「はい。王子の読み通り暗部を率いる『緑の目』の時成が六代目当主になりました」
「暗部陣営はどうなった?」
「分断どころか結束がさらに強固になりました」
「それはほんとか?」
「ここに帰って来る途中に飯田正則の失脚の事件現場にいたメイデに聞いてきました」
「なら確定だな」
レショットは笑いながら貰った書簡を開き始めた。
始めまして。君の部下ディトを信じて君と非公式に会談したいと考えています。よろしくお願いします。PS君と私は同じ類の人種かもしれない
返答としては短くて盗まれたとしても前後が少ないため足が付きにくいと時成が判断して書いていた。
「なら、行くしかないな」
「それは仮想敵になるかもしれない国のトップと密談すると言うことですか?」
ゲンゾウの殺気が執務室に漂い始める。だがレショットの考えは変わっていなかった。
「ええ勿論。風とは有耶無耶になった同盟の件があるはずだが?風を敵にしては我が国の未来が暗いかもしれないな」
見てきたかのようにレショットはそう言うが実際は書物と話しか聞いていない。それでも自信をもってこの言葉が言える。
「戦場で共に戦った民は亡くなった『辻斬り』や今もなお現役な『鉄人』の名前を聞いて敵に回したとなったらどう言うか」
「誰がこの話を覚えている?」
それを聞いたゲンゾウは少し眉を動かした。
「今もなお現役の軍人や市民も思い出しています」
そう聞くとゲンゾウは手を上げてため息を吐いた。
「『辻斬り』は命の恩人です。発破かけてすみませんでした」
「そうでなくては。『王国の盾』とまで呼ばれた貴方らしい」
「ただ気をつけてください王子。密談するにしても相手がどう出てくるかわかりません。自分を過信していないですが黒の殺し屋は俺を子供みたい扱う人です。そして先代公爵の兄と共にあの時の戦場で活躍した人達です」
それを聞いてレショットは頷いた。
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ここは帝国サワバ・マジックの辺境伯ジノミ家の主城。帝国は貴族制を取っている国で辺境伯の地位は皇帝家を除けば3番目の地位に当てはまる。因みに階級は公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、男爵、魔法爵の六階級であり辺境伯は国境を接しておりある程度権利を認められている家に送られる爵位である。
ジノミ家は農地としては一般的な手法と作物を選択するとほぼほぼ使えない土地が約7割を占めており4000メートル級の山々の半分は国境になっており領内に入っている。そのような国境の中で唯一平坦に近いジェシ平原はかつて『五代目』と争った土地でありその先は多那箕田村の最北端にあるスパイン要塞もある。
「今までの作戦が破綻したのに上は待てと言うのか」
怒っている当主はケイテノ・ジノミ。長い髭を蓄えおでこには横一文字の痣がある丸顔で髪は後ろに一つに纏め結ってある。右頬にもバツ印の痣もあり歴戦の猛将と伺える目と口は大きく鼻は小さいそんな当主ももう今年で50歳と月日が経つのは早いと感じる年でもあった。
「じわじわと他国を苦しめるのが好きな人達ですからねぇ」
こちらは風の民では大罪人と呼ばれている浪花絶人はこちらの国ではゼツト・ナミハナ男爵と呼ばれている。開く右目でケイテノ辺境伯を見るゼツト男爵は纏っている黒い斑点を失った右手の義手で掴むようなしぐさを軽くしていた。
「ただ今は色々と力をつけなさいと言うことでございましょう」
「こちらは余り被害は受けてはいないが飯田正則に投資した軍人の補充と考えるとしなければいけないとも思うのだが、弱り切っている風の民を叩きたいんだがな」
そんなケイテノ辺境伯の言葉を聞いてゼツト男爵は首を振ってから否定する。
「やめといたほうが良いですよまだ『鉄人』が現役だった。俺は出会ったどんな人よりもヤバイ敵だと思っている」
「随分肩入れするじゃないか」
「なら『鉄人』の能力を正面から突破してください」
少し脅すがてら低い声になるゼツト男爵だが『鉄人』を知っているケイテノ辺境伯は直ぐに否定した。
「単騎ならそれはちょっと厳しいかな」
「それが奴、『鉄人』です」
それを話すと執務室は静かになった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』百五十六話は11月17日に更新する予定です。
次回もよろしくお願いします。




