十八話 幼き日の弥生
「弥生はここに居るのか」
外に出てきた太陽に、近くを歩いていた天将は話かけた。その時だった。後ろの部屋から濃厚なオーラみたいな妖力が感じられた。
「弥生ちゃん、やりやがったな」
太陽は笑いながら、時成が寝ている部屋のほうに向いた。
「妖力から使う回復能力だけど……」
「妖力の使いすぎから察するに、弥生ちゃんは今、試しているな。自分の今の限界に」
娘を心配する天将に冷静に考察する太陽。だが、二人とも心配はしていなかった。
「どうする天将。止めに行くか」
「そこに居るんだったらいいかな。さぁ太陽、執務室に戻ろうぜ」
と言いながら二人は、執務室に戻って行った。
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その頃弥生は、
今の私の全力
そう思いながら自分の妖力を集め始める。そしてベットに眠っている時成を見つめながら昔のことを思いだしていた。
再会してもあの時と同じだった。君が私の中でのヒーローになった日の事を。
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10年前。まだ風の民の長が五代目だった頃の話。
当時、弥生はまだ5歳だった。その日は、よく晴れていて、青空が広がっていた。ここは、風魔連合共和国の首都『魔京』の東の公園。
「君の名前は、何て言うの」
120センチぐらいの黒の服と紺の半袖半ズボンを穿いた男の子が立っていた。体の中心に何処と無く感じるオーラを秘めた小さな男の子。
将来を期待させるような大きな目に黒い瞳は、近くにいた少女を捉えていた。
「名前、言わない。あなたに言う必要ないと思う」
目線を男の子に合わせることなく話す弥生。その素っ気ない弥生の態度に、火がついた男の子はアピールを始める。
「俺の名前は、飯田正弥だ今年で8歳になる」
「ふーん」
弥生はどうでも良いのか正弥を無視して違う場所へと歩いていった。
「おい、待てよ。俺に逆らうとどうなるか分かってんだろ」
「知らない」
正弥は帰ろうとする弥生の肩に手を乗せた。
「父の名前は飯田正則。この国の裏の支配者だ。その気になればお前の一族だって全員殺す事だって出来るんだぞ」
脅しの言葉を並べる正弥はそんなことで動じない弥生を見て少し焦っていた。
「おい、お前本当に」
正弥は、弥生の肩を握った手の力が強くなっていた。
「止めて。離してよ」
そして5歳の弥生では正弥の手を振りほどくことは出来るはずがなかった。
「嫌がってんだろ」
そう注意したのはそこに立っていたのは弥生と同じ位の背をした小さな男の子だった。
次回『風の想い人』十九話は、6月11日に投稿する予定です。
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