章間20話 奇跡
飯田軍の大侵攻を事前準備と現場判断で切り抜けた風の民は打ち取ったことが確認が出来るだけの首級と暗部の報告により飯田家内でも戦争過激派の主力を討死させたことが発覚して喜んだ。
多くの人が喜び宴をしている中で七美は体調不良を訴えて千愛音に体を見てもらっていた。
「うっぷ」
顔が青ざめて気分が悪い七美だったが千愛音の表情からは怒りの感情が見て取れる。全く意味が分からない七美は千愛音が口を開くのを息をのんで待った。
「体に大きな異常はないわよ。ただ……」
「ただ……」
七美は唾を飲み込んだ。体に違和感を感じ始めたのは1か月前から。それを無視して政務に当たっていた。最近忙しかったことも言い訳に生活習慣もがたがたで無理をしていたから何を言われようが不思議ではなかった。
「おめでとう。最近無理をしすぎているから止めようと思ったけど理由がなくてね。良かったよ。これで胸を張って貴方の行動を止めることが出来る」
「お・め・で・と・う。ふぇ」
体調が悪い原因を言われずに喜ばれることに違和感を感じてここ最近のことを想いだし顔が赤くなった。
「妊娠3か月。もう貴方だけの体でないのだから考えてね。気分が悪いのは悪阻が原因ね。でもこれで三人目かー。いいなー子供出来るの。羨ましい」
そう千愛音は言っていたが結局暗部幹部の女性陣の四人とも見事に身ごもって動けなくなり人手不足が加速する暗部だが未来のことを想い、歓声が出て、宴会が三日三晩ぶっ通しで続き飲み明かした。これを人は『奇跡』と呼ぶんだなと納得した。
そして数か月が過ぎた頃水笠家の本邸では、七美がくつろいでいた所をレトに発見された。
「覚悟を決めた。一件爆弾問題があるの暗部幹部全員集めて」
「いやいやなぜここに居るのですか五代目」
最近、指示されたレトは水笠家の権力を完全に息子の亮二に移してもうすぐ隠居しようと考えていた。
「ここが良いの。私の原点だから」
「安静にしてください五代目」
その様なレトの話を無視して七美は近くにいた亮二に話しかけた。
「亮二君は生まれてくるこの子やみんなの子を大切にしてね」
「立場を捨ててでも約束は守ります」
頭を下げて約束を持ち出す亮二も幼い頃は今目の前にいる人達の後姿を見て成長していたからこそ、暗部の教えは分かっている。そんな亮二が約束を持ち出した。
「おい亮二、お前には守るべきものが増えるのだ何故そんな約束をする」
「幼い俺を助けてくれたのは五代目です。この土地を守ってくれたのも五代目。生まれてくる子が男の子であろうが女の子であろうが五代目から受けた義理を返したいと思ってる」
自分の意見を反論されてレトはボソッと口にしていた。
「俺は年寄かもな」
その様な会話をしていたら直ぐに暗部幹部が集まってきた。そして水笠家の大会議室では七美が問題を話していた。
「アイスジーナで政変があるのでしょう?」
「知っていたのですか?」
2か月前からこの情報を手に入れていた、驚くテツはこの話を流さないと報告に来た部下と影道に口止めをして中央支部では三人しか知らないと思っていた。
「介入してもらいたい。暗部メンバー総動員して次の王につけたい男がいるの」
「そう言うと思ってあえてその筋の情報を流してなかったのだけどな」
流さなかった理由は生まれてくる子達が片親になることは親子揃って今後大変な生活が待っていると分かっていると思うのだが、影道は諦めたようにそう言った。
「あいつか」
太陽は薄い記憶の糸を手繰り寄せて今思い出した。
「サンザルト・ジーナ、太陽は何回か会ったことがあるでしょう。武闘派の弟が国王に就けば直ぐに戦争になるでしょう」
そんな未来を見ているかのように言いきる七美には確かにそうなると確信していた。
「あの国なら私たちよりかは大きい国だし、サンザルト王子と同盟を結べば飯田家にも帝国にも大規模な戦争があったとしても対抗できるようになる。そのようなことが私達が生きている間に起こるかも知らないけどこれから生まれてくるこの子達の方が確立が高い。だから介入してほしい」
七美の真剣な目を見てダメだと思う男性陣は諦めがついてアイスジーナ王国に介入することを決意した。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』章間21話は10月29日に更新する予定です。木曜日金曜日と更新が出来なくてすみません。29日からは章間が終わるまで毎日更新します。
本編百五十四話は11月3日に更新する予定です。
次回もよろしくお願いします。




