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風の想い人  作者: 北見海助
第一章 小競合い編
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十七話 太陽の心理

弥生が起きる少し前の話。


執務室では、太陽がテツに向かって今回の事件の詳しい報告をしていた。


「でっ。また賭け事をしたのか太陽。今回ばかりは言い訳出来ねぇぞ」


相変わらず乱雑におかれた資料がある、机の前に座るテツにその隣にあるお客様用に対談する二人用の椅子が二つ、四人用の机が一つあり、その椅子に影道は座っていた。


「すみません」


テツの前に立っている太陽は頭を下げた。


()()()()()で、ここまでの賭けをした。結果はどうだったんだ」


基本的に報告を受けたり、次の任務を決めるのがテツで、部下の配置から任務を任せる人材を決めるのが影道の役割になっている。


だから、結果を聞き急ぐ影道が珍しかった。


「ドローです」


太陽にとっては、時成の暴走の条件が知られたこと、上野、左出田が事件に関与してきたことが、『勝ち』だとするならば、子供達が全員気絶し、内二人は、大怪我を受けたことが『負け』ということになる。


「ドロー……ね」


影道は笑った。一通りの報告を聞いたからこそ、この言い方は正しいと思った。


「お前も()()()だな」


「いや()()()()()()だろ」


影道の言葉にテツの突っ込みが入る。でも、さっきみたいな重い雰囲気ではなくなっていた。


「まぁ……どっちでも良い。それでも、時成は何日も気を失っているだろうな。医師の報告には、体の細胞の一部が壊れていたり、処置はしたものの、左出田に斬られた傷が思ったより深かったりと様々だ」


テツは心配しながら、報告書を読み上げた。


「行ってやれ」


テツは、太陽に時成の病室に行けと合図する。それは、テツの優しさだった。


「はい」


と言い太陽は、頭をテツに向かって下げてから執務室を後にした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


時は戻る。


「失礼します」


ノックをしてから入った弥生は、ベットに寝ている時成を見つめた。


「何だ、弥生ちゃんだったか」


黒の背もたれに茶色い腰掛けに座っいた太陽は、少し驚いた表情をしていた。


「助けていただき、ありがとうございました」


弥生は頭を下げてお礼を言った。


「気にしなくて良いよ。こんな結果になってしまったのは俺のせいだから」


寝ている時成の方を見ながら太陽は目を細めた。


「それでも」


「最初から見ていた。真の察知から、時成が倒れて動かなくなるまで」


弥生が再びお礼をしようと言葉を開いた瞬間、太陽はあの時の真相を話し始めた。


「お前らの誰かがあの場所で死んだ時、俺が全ての責任をとり命を絶つつもりだったんだ」


「えっ」


「能力の暴走、沙奈香と真の能力の使い方や左出田の強さを、お前らに体感してほしかった。前の時もそうだったが、死線を乗り越えた時に得られる物だってある。例え敗北したとしても得られる物だってある」


ふうって息を吐いてから太陽は言葉を繋げた。


「死んでしまったら意味はないが、成長する機会があるのだったら、それを俺は、有意義に使いたいと思っている」


弥生は太陽を見つめていた。今まで父と太陽さんの不自然な行動の意図が初めて分かった気がした。


「そんな為に使えるのなら、俺の命を賭けたって構わない」


「そこまでの、覚悟を、どうして」


弥生は自分でも、言っている意味が分からなかった。それでも、自分にはそこまでの太陽みたいな覚悟はないと思ってしまった。


「親は子の成長を喜ぶものだろ。それに、()()()()なんだ。誰かの為に命を使うのが一番良いと思うからな」


()()()()……。それにどうしてそんな話を私に」


話を聞いた弥生は頭の中が疑問でいっぱいになっていた。


「最後の話は、忘れてくれ。それはそうとここには覚悟を持って来たんだろ」


太陽はニヤッと笑った。その顔は、何処と無く嬉しそうだった。


「はい」


弥生は頷いた。そして太陽は腰を上げてから弥生に向かって手を振って出て行った。


「時成をよろしく。後は、お前に任せる」


と言う言葉を残して行きながら。

次回『風の想い人』十八話は、6月4日に投稿する予定です。

よろしくお願いします。

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