百五十話 六代目継承
風の民本部の大会議室。一階にあるこの部屋は余り使われることはないが大規模の行事や会議などを行うそんな部屋に関係者は入っていた。
風の民の序列はどうか?『六代目』は誰を信頼しているのかこの会議室に座る席順でおおよそ察しはつくのだが今回ばかりは分かっている人達が殆どだった。因みに幹部より後に来れば一生昇格が無くなると言われるほどにこの行事は大切だった。
そのような中、一番初めに入ってきたのは財務担当の須佐浜太郎。この会議室にいる人にとってはよく見かける幹部の一人。長老政権なら最後の方に入ってくるその人が、一番初めに入ってくることに驚きを隠せなかった。そして幹部の席に座るのは十二席ある椅子の一番の末席。それを見て改めて政権交代が起こるのだと実感する。
農業・漁業担当日野花百合はその隣、建築・道路担当新芽里は通り道を挟んでその隣に座った。最前列まで歩いて座ることが当然のようになっている代々中立を保っている中橋家当主漸三郎が一番左に、仮面を被っている時成の最大の支援者組織のトップ暗部隊長。先代から継いでレストム要塞をも支配下に置く水笠家二代目当主亮二がついに一番前の通路を挟んで右側に暗部隊長が座っている一番目立つ所まで来ていた。水笠家は先代から領地幹部になって僅か約50年の快挙でもある。そして歴史が深い海鮫家当主翔が最前列の右側だった。
姿を現さないのは森野家、浪花家、雨墨家、軍部隊長、龍我炎弧だった。そして次に入ってきた人に一同驚いた。雨墨家次男光明の容姿に多くの人は目を奪われたが幹部の席に座る彼を知らないのがほとんどだった。だがこれから行うのは何十年に一回の大切な儀式である。声を上げて聞けなかった。そんな光明は漸三郎の後ろに座った。
その様な中最後に入ってきたのは敗軍の将、深中動仁に龍我炎弧が部下を連れてそこにいた。それこそここに現れるのは場違いだと多くの人が射殺すような視線で見ていたりざわついていた。最前列の席まで歩いてくると動仁は単身で堂々と座っていた時成の前に来て話しかけた。
「あの日と昨日見た貴方は確かに五代目と辻斬りの面影が残っていた」
「そうですか」
それを聞いて時成は立ち上がり通路の前に歩いて行く。そんな時成を動仁は追いかけて部下の前に来た時に口上を始めた。
「信じた人の為に動くこと、敵だった人の立場を考えること。その全ては六代目の人の良さです。これを悪く言う人もいるとは思いますが、俺はそこに風の未来を感じた」
動仁は膝をついて頭を下げる。もう確定事項だと時成のことを『六代目』と言い口上する。そこに悔しいと言った感情は無かった。唯この男なら自分が言ったことを守るはずだとそう思った。
「貴方の申し出は謹んでお受けいたします。私、深中動仁は貴方に一生の忠誠を誓いましょう」
「よろしく頼む」
その後に炎狐とその部下100人は同時に右膝をつき心臓に右手を当てて頭を下げた。全員、軍部の重要戦力であり他国と繋がりの無い人達が時成に忠誠を誓う部下になった瞬間でもあった。
それを見た透は頷いて話始めるタイミングだなとそう思った。
「この時よりわしはこの風の民の暫定当主の座を『六代目』春風時成に譲る。いいか」
「全ては長老様の心のままに、風の民の未来のために」
この会議室にいる人々が口をそろえて言うその言葉が強く重く時成にのしかかる。そしてこの人達の上に立つという言葉の重みも伝わってくる。
「新当主、挨拶を」
長老、透は短くそう言いながら目元に涙が溜まっていることは最前列にいた幹部は直ぐに分かった。因みにテツも仮面の奥で涙をためている。この時が『五代目』を失ったあの日からの暗部の目標だった。
大きくなったな
小さい時から苦労をして5歳から剣を取って修行を始める。最近では世界情勢や上に立つ心得なども教えていた。テツにとってこの日をどれだけ待ちわびたか数え切れなかった。
「先代から続くこの当主の座を未来へつなげるように動いていく。俺はこの豊かな土地を大切に、支えてくれる皆さんや民の為に多くの人を守り、平穏な世の中に変わるように動いていく。それが俺、『六代目』の目標だ。世界を変えるぞ。よろしく頼む」
こうして晴れて時成は、風の民の六代目に就任した。そして時成の粛清が始まる。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』百五十一話は9月24日に更新する予定です。
ついにここまで来ました。寄り道とかもありましたが思い描いて書き始めてから2年半かかってしまいました。連続更新は後3日続きます。
次回もよろしくお願いします。




