百四十三話 「お前の未来に賭けたんだ」
話していたテツに変わり天将が話し出した。
「浪花絶人は帝国と繋がっていた。それに誰も気が付かなかった。その結果、師匠と千愛と妹様を失った。千愛が亡くなった後俺は亡くなった原因を探していたんだが、最大の原因は禁忌使用による代償だった」
「つまり母さんは……」
「お前の未来に賭けたんだ」
天将の普段より低い声にその言葉を聞いて泣き崩れる弥生。駈け寄る時成に天将はその後のことを話しだした。
「五代目は亡命した浪花を差し出すよう帝国と交渉したが決裂してしまい約5万人を連れて帝国に侵攻した。国境付近にある砦4個を破壊して多く占領することが出来たのだが、決戦で敗北した。死者は約1万人無傷な人はいなかった」
ここに居る人は戦争に参加していただからこそあの敗北をまだ思い出すことが出来た。動仁は問題を話し始める。
「戦争の中身は何時でも語れるが目の前の問題は条約だ。炎弧を育てる事、浪花家のお咎めなし、占領した地域の放棄を約束させられた。お前はどうする時成?」
旗取りは既に決着してるようなものだからこそ次代の長がどう決めるか気になった。
「旗取りが始まる前にある程度情報を集めてもらいました。浪花家森野家は取り潰し及び国家反逆罪の容疑で出頭してもらいます。それはこの風の民を裏切って機密情報を流して内通している奴も同じです。これをするからには徹底的膿を取り除いていきます」
時成の覚悟がこの場にいる人達に伝わって気が付けば弥生以外頭を下げていた。
「浪花家を処罰するのなら条約違反ではないかしら?」
目元を腫らして言う弥生に時成は首を振った。
「条約は守られている。屁理屈かもしれないが『今回のこと』を理由に処罰する。雨墨家が問題だが、当主の言い訳でも聞いてから考えても遅くないと思っている」
「若のお心のままに」
テツが代表してそう答えた。そこに暗部の報告が入ってくる。
「若様隊長。報告します。蓋突村と水笠家の領界付近での戦闘が起こり、総大将水笠家譜代家臣ダンさんと暗部、中橋家の援軍で外的を排除しました」
「了解した。時間が空いたら両家に訪問する。よくやってくれた」
報告に来た暗部の人は黙って頭を下げてから消えるように居なくなった。
「動仁さん。少し話があります。明日、軍部の執務室に寄るので待っていてください。炎狐君も連れてきてほしい」
「はっ」
動仁は右手を胸に当てて、深い敬礼をする。
「暗部メンバーは死ぬ気で集めたものを纏めてくれ。それと本日はありがとうございました」
風の民の二つの派閥が争った伝統の旗取りはなんとも締まらない形で暗部・南部領主陣営の勝利に終わった。
それは戦闘の準備よりも面倒くさい後片付けが始まることを意味していた。
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次回『風の想い人』百四十三話は9月5日に更新する予定です。
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