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風の想い人  作者: 北見海助
三章 風雲児編
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百四十一話 「チャンスが無いなら消えるまで」

暗部の前に姿を表した浪花絶人のその姿を見て亮二は驚いていた。目は右目だけ開き左目は深い傷を負って失明しており右手は肘から先が無くなっているのにも関わらず魔法で剣を持ち振っているその姿からは歴戦の強者を感じさせる風貌だった。


「もう少し手薄なら確実に殺せたはずなのにな」


絶人の周りを漂う黒い斑点はまだ消えたり光ったりしている。失っている右手で剣を持つのに魔法を使った黒い義手にも目が向いてしまう。髪は黒だが中には茶髪など明るい系統の髪も生えている。


そんな絶人に警戒はますばかりになっていた。テツが側面から絶人に迫ると絶人は魔法を使い影道に黒い斑点を漂わせて影道の周りに付き纏った。


さらにテツの拳が絶人に当たると鈍い音と共に顔面を殴られた。


「あの野郎、こんな化け物をここまで作り上げたのか」


亡霊に吐き捨てるように話しかける絶人にテツは追い込みをかけるが剣で拳が止められてしまった。


「お前らの戦い方は熟知している。おっと動くなよ影道。動けばそれがどうなるか知っているだろう」


動きそうになった影道は黒い斑点が漂っておりそう言われては動くに動けず、翔や亮二は紗奈香と弥生を守るのに精一杯になっており攻撃陣営がテツしかいなかった。そこに天将と動仁と時成が来る。


「後悔をして生きていた。全ては俺の弱い心が原因だ」


「俺に勝てるとでも?」


炎を揺らす動仁の剣を見て笑う絶人はテツの拳を振り切ると剣を左手に持ち直した。


動仁は剣を斜めに振ると炎が勢いよく絶人に向かって延焼するが絶人の義手と思われていた部分が形をなくし始め炎とぶつかると大爆発が起こった。


「チャンスが無いなら消えるまで」


両者の魔法の爆風で多くの木々が倒される中、絶人は姿を消していた。


居なくなったことに気がついたテツは悔しそうに拳を地面に思い切り良く殴ると地面が少し割れていた。そして申し訳なさそうに口を開いた。


「俺の失敗は何も五代目を失ったことだけではないんだ。ごめんな弥生ちゃん。本当は弥生ちゃんにも偉大過ぎる母を見て成長して欲しかった。もう聞いたかもしれないが俺の口から改めて話させてくれ。『あの日の後悔と共に』」


「お母さん」


結界の中で守られていた弥生はそう言った。


「弥生の命の恩人だよ。あの人も子供の為に文字通り命を懸けて君を守ったのだから。五代目の幼馴染で世間からは『世代最強回復能力者(ヒーラー)』と呼ばれた長澤千愛音の話を」


そう言ってテツは過去を語り始めた。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

次回『風の想い人』百四十ニ話は8月29日に更新する予定です。

次回もよろしくお願いします。

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