十四話 『氷の武器職人』
その頃弥生は幹部の左出田と一騎討ちをしていた。
「お前、若を誑かして何を得た」
左出田は弥生と間を開け質問をする。
「あなたには関係のない話でしょ」
弥生はふっと笑った。
その瞬間、左出田は手に魔法陣を起動させ展開する。
展開した魔法陣は造形の魔法だった。氷の両手剣が弥生の頭をめがけて斬り下げてくる。その氷の両手剣を弥生は、間一髪の所で避けていた。
「後でじっくり話を聞いてやる」
左出田は氷の両手剣を自らの手で壊し、違う氷の武器を創造する。
「氷の武器職人か」
弥生は左出田の通り名を口にする。多くの武器を創造しながら戦うスタイルからその名が付けられた。
何と言っても左出田の強さの秘密は、どんな武器でも達人みたいに扱える所と言ってもいいだろう。
そして左出田が今手に持っているのは氷の片手剣だ。
左出田は弥生に向かって右肩から斜めに向かって氷の片手剣を振り下ろす。弥生もそれに反応し、短刀を振る。甲高い音が鳴ったと同時に弥生が後ろに飛ばされる。
「取り敢えず君には退場してもらうと、する」
左出田は吹っ飛ばした先で弥生に向かってこれから起ころうとする事実を伝える。
「い……嫌だ。来ないで」
左出田は弥生が怯えているように見えた。
でもそれはただ見えただけだった。
「私を捕まえてどうするの。若って言っている人の所に連れて行くのかな。若って飯田正弥のことでしょ」
どれだけ足掻いても、今の自分では左出田に勝つことができないと分かっていた。それでも弥生は、戦って勝つことを諦めてはいなかった。
左出田は、地面に這いつくばった弥生を気絶させるために氷の片手剣を振り下ろす。
くっそ……全部私が招いたばっかりに
後悔しても謝っても、もう弥生の勝ちたいという気持ちでもどうすることも出来なかった。
ガキーンと鈍い音が弥生の頭の上で鳴り響く。そして左出田の氷の片手剣は砕け散った。
「だ……れ」
「へぇー『氷の武器職人』かっ、お前」
弥生を助けに来た人は時成だった。その時成は笑みを溢しながら左出田の言葉に一言そう言った。
「グリーンアイか貴様。邪魔をするな」
「奇遇だね氷の武器職人。俺はあんたが邪魔だ。それに弥生を殺そうとしたんだ。俺も本気で戦うことにしよう」
そう言った時成は左出田に向かって殺気を出しながら、髪の毛も少しずつ緑に変わっていく。
左出田は氷の両手剣を創造する。そして右斜め上から大振りで斬り下げ始める。それにあわせて時成は左下から木刀を斬り上げる。
その行動は時成の方が少しだけ速かった。
二つの刀がぶつかり、二人は鍔迫り合いをする。単純な力比べでは能力込みの時成で、やっと左出田と互角だったが、
「真ー」
時成は羽村に殺されそうになっている真に、一瞬だが視線を 向けてしまった。その僅かな隙を突いて左出田は時成を攻撃する。
斬られた時成の服は胸の辺りが、横一直線に赤い血で変色する。それでも時成は反撃の一撃を左出田に与えようと木刀を力強く握り、左出田に目掛けて振る。
「動きが鈍いな」
左出田は、下から来た時成の攻撃を右に避け、今度は、氷の両手剣を上から下へと斬り下げる。重い一撃が木刀で防御していた時成に襲いかかった。
そして時成は、後ろへと吹っ飛ばされて倒れてしまった。
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羽村は倒れている真の上に立ち、真に向かって刀を突き立てる構えをとった。
「しぶといな、まだ生きていたか。すぐ、楽にしてやる」
羽村は、刀の剣先を真の心臓に照準を合わせた。だが、次の瞬間、
「ぐはー」
飛んできた三本の斬撃によって吹っ飛ばされていく。
「二度ある……ことは三度……ある」
倒れている真は小声で静かに笑った。
それは、今までの羽村の行動の愚かさを。それは、自分の今の現状で勝てる可能性が、これしかないという悔しさを。
肉を斬らせて骨を断つってね。斬撃ブーメラン。これが今の俺がお前に勝つための唯一の勝筋だ。
真は、羽村に斬られた傷が痛すぎて動けなくなった。そして気を失った。
次回『風の想い人』、十五話は5月6日に投稿する予定です。
よろしくお願いします。




