百二十九話 中橋家当主漸三郎
3月5日。正式に継承旗取りの内容と期間が発表され5日~10日まで準備期間で本番は11日と設定された今日。時成と紗奈香は中呂村の西外れにある中橋家の屋敷に来ていた。
「こんな所までようこそ若様。余り大人数でお迎えは出来ませんがよろしくお願いします」
門の前で出迎えをした漸三郎は今年で53歳白髪も多い。背が180センチと高くその年とは思えないほどの体が引き締まっておりその佇まいからは大物の風格を漂わせていた。少ししわが多い顔は鼻が高く一重の目には力が宿っているように時成は感じた。
「いえいえ突然押しかけて来たのに出迎えをしろなんて言わないから」
「そちらの方はどなたでございましょう?」
そう言って時成の背後に立っている黒い仮面をした紗奈香に目を向ける漸三郎はもう時成を品定めをしていた。
「俺の護衛だよ」
そう言うと納得したのか漸三郎は屋敷を案内し始めた。
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漸三郎は会議室まで案内をすると自分は奥の椅子に腰かけて時成は机を挟んで手前に座った。そして紗奈香は扉付近に立ち廊下と会議室を警戒する。この会議室は窓の一つもついていなく密室になっており壁や床の色は少し濃い目の茶色であった。
「わしももう良い年です。近い将来隠居も考えておりまして、息子も同席させてもいいでしょうか?」
「良いぞ。何十年先のことを考えればむしろ朗太に納得してもらわなければ行けないからな」
そう言うと扉を開けて入ってきたのは息子の朗太だった。朗太は今年27歳ですでに中呂村の内政の約半分をこなしている。そんな朗太は体を鍛えたり剣を振るのが趣味で父親の漸三郎よりも筋骨隆々で特に腕の筋肉は丸太みたいに太かった。背も父親譲りで179センチの青年であった。
そんな彼は漸三郎の右隣の椅子に座った。
「まず、貴方方中橋家に俺の味方をしろなどとは言わない」
「ほう?それで」
漸三郎は目を大きく見開いた。当然本部がある中橋家を引き入れば政治的にも勝ちがとても近くなる。
「中橋家が代々生粋の中立だったことも知っていますし漸三郎殿も今回の継承戦でもスタンスで間違いはないでしょう。ただ俺が勝った時、中橋家の皆さんには領土の転封を行いますが母が五代目になる辺りからの行動次第だがこちらの判断が出来る限りでの相応の報酬と手当は約束しよう」
「それはまた大胆でございますね。それが嫌なら敵になれとでも?」
先ほどまで驚きの表情から一転して目の付近には黒い影が落ちてきており静寂に包まれる。そして次に時成が話し出したのは一泊置いてからだった。
「ええ。それが嫌ならば俺は帰るだけだ。それに後から俺が言って騙された形で強制転封するよりかは良いと判断しただけだ」
「この俺が治めていた領土はどうなりますか?」
「実務の全てを各役職に負担させその部門の書類を風の民の当主が目を通して最終決裁を各役職の一番上がするそれらや他の領主の所で不正がないか新たに立ち上げる機関で監査を出来るように手配する」
「それが出来ると想いで?」
かつての領主がそれを望み、打ち砕かれていったこの古い悪しき慣習を知っているだけに漸三郎は時成が言っていることが高望みになっていることを感じた。
「何年掛かっても成し遂げてみせるしかこの風の民は生き残れないと俺は思う。不正を働いている人間を知っていて許したとなればそこから先は文句なんて正論では言えなくなる。それに民の為に使われる予算が好き勝手に着服するのは許しないからな」
漸三郎は話を聞くと朗太に目を向けた後こういった。
「中橋家は民の為に行動するだけです。その行動が炎弧様を援護しようが時成様を援護しようが我々はどちらにも味方しないと約束しましょう。ただ唯一味方するのは風の民当主のみでございます」
そう言うと漸三郎は頭を下げた。それを見て時成は立ち上がって背中を向けて歩いて行く。
「これは独り言ですが蓋突村付近で怪しい動きがある。侵攻の気配があれば民を守るために行動してくださいよろしくお願いします」
そう言うと時成は紗奈香と共に会議室から出て行った。
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二人が出て行った後、中橋親子は今後の会話をしていた。
「あの話はとても面白い。俺が後15年遅く生まれていたのなら彼の覇業を見れたかも知らないのにな。俺はお前が羨ましいよ」
「あの若様の話は聞いていてそれが出来るのならとても面白いと思います。ですが父上。長年、この領地を納めていたのに急に転封なんていくら何でも酷いのではないのでしょう。もし仮に北側領主を味方した場合この領地の領主の役目は安堵されます。どうして中立の立場を貫いたのですか?」
「良いか。時成若様の最大支援者は暗部だ。今の幹部が全盛期ではないにしろ、誰かが試合に出てくるのは間違いない。俺は暗部の幹部の能力を全員知っているわけではないが特に『鉄人』や『影の執行人』に確実に勝つ方法を知らない。かつてを知らないお前はわからないだろう、暗部が全盛期だった五代目の時代はまさに黄金時代。どんな事件でも先手を打ち続け戦争や外交で必要以上の戦果を上げてきた」
それ以上にやばいのはここに居るメンバーだけど、どこにいるか
漸三郎は会議室を見回すがそれらしき人影はなかった。不信に思っている朗太も見回すがこの部屋には自分達以外の人は一人もいなかった
「世代が変わるとき中立でいるのはそれ以上の代償がいる。そして新たな主がどちらになろうとも出してきた条件を守る必要がある。どちらか片方の味方をするのは簡単だ。賭けた主が勝った場合今後の繁栄が期待できる反面、最悪の場合、賭けた主が負ければお家断絶、一族処刑の未来が待っている可能性がある。選ぶ方よりはるかに難しいのが中立にいるということだ。お前が北部領主の味方になりたいのならなれば良いだがその時点でお前をこの家から破門する。幼くて世間知らずで知らないとは言わせないし、それよりもあの時の幹部会議の内容を詳しく話をしたはずだ。時成若様を敵に回して負けたらどんな未来が待っているかをな」
それを言いながら違和感の正体にやっと気が付いた漸三郎は部屋の最奥の角に向かってこう言った。
「まぁ後は、ここに暗部のツートップがいる時点で俺たちは警戒されているという訳だ」
「よく気がつきましたね。最初からですか?」
そう言うと影道は能力を解いてそこにいる人物が現れる。黒い仮面に黒い服装の暗部の正装を着ていたテツと影道だった。
「影道の能力は気持ち悪いくらいに溶け込んでいるが長年そこに住んでいたらいつもと違う違和感と雰囲気があるんだ。若い氏は騙せても年寄りには騙せないかもなそれでうちの息子は斬りますか?」
「敵にならないのなら斬らなくても良いですね。ここにいる理由は興味半分と保護者半分ですよ」
そう言ってテツは仮面の奥で笑った。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』百三十話は7月7日に更新する予定です。
次回もよろしくお願いします。




