百二十八話 敵は狂信者
一方その頃本部の北側にある軍部の訓練施設ではと龍我炎狐と軍部隊長、深中動仁が椅子に座って話あっていた。
「今の時成の勢力はどうなのですか?」
龍我炎弧は疑問に思っていることを動仁にぶつける。
「時成若様の最大勢力は暗部だ。暗部の幹部クラスの実力は言わなくても分かるだろう。だが忘れてはいけないのは幹部クラスの全盛期はもう過ぎているが、時成の側近は全員優秀だってことだ」
「側近とか知らないです。そもそも時成が表に出てきたのは1か月前からですよ」
炎弧が全く分からない首を振って動仁に疑問をぶつけていく。それを分かったかのように動仁は自分の推理を教えていく。
「『グリーンアイ』の時成が若本人だ。ならその近くで一緒にいるのが側近で間違いはないのだろう。現に『冷眼の娘』は同世代だ。なら普段から近くにいて飯田家陥落の現場で一軍隊を壊滅にまで追い込んだ『斬撃使い』真と飯田から狙われ今回の騒動の原因となった『冷眼の娘』弥生。それに今言った三人の影に隠れて化け物クラスの魔法を使う紗奈香の三人が側近だ」
「その紗奈香は異名がないですしたいした実力は持っていないのでは?」
「俺も当日現場を見たわけではなく聞き込みの報告によれば3月1日に魔法陣に魔法陣を付与してテレポートの魔法陣を展開した沙奈香があの一件で世間に通り名が轟かなかったのが不思議だがあれは一種の化け物だ」
魔法使いは魔法陣が展開出来れば魔法使いと名乗れるのでとても数が多くて異名がつきにくい。そのだからこそ個性が強い魔法使いでなければ他の誰でも使えるためだけに代名詞になる異名がつけられない。金城沙羅も数多くの魔法を使うのであのレストム要塞防衛戦のときに異名がつくまでは異名が無かった。
「化け物ですか?」
「そうだ。金城沙奈香は両親の得意分野を引き継いでいる。魔法陣の付与だとか魔法陣の展開量とか魔力の大きさとかな」
「両親?」
「ソーキと沙羅。いいや創一と咲か。思い出したから確定しているが風雲家譜代家臣で属性付与が得意な金城家と氷系統が得意な生花家だ」
はぁとため息を吐く動仁は何でこんな事になったのだろうかと、敵対するのはもっと後の方が良かったなと思いたくなってくる。
因みに補足をするなら生花家はもともと持っている高い魔力で高火力の魔法を打ち込むのが得意な家系だったのだが最後の当主や沙羅が得意な魔法が氷魔法だったので動仁が勘違いをしているだけだった。
「だから赤に近い髪色なんですね」
「一概にそうとは言いきれないが魔力を多く持ってる人は髪の色が赤に近くなると言われている」
「厄介ですね。ただでさえ接近戦が得意な時成と真に魔法使いの援護が加わると手がつけにくくなりますから」
「暗部も面倒くさいがそれと同等で面倒くさいのは、水笠家と海鮫家の、南側領主だ。奴らは昨年11月に飯田軍を僅かな戦力で防衛した。五代目の代からこの二つの家はラインが繋がっているがその件でより強固なラインになったはずだ。そしてその両陣営を的確に繋ぐ暗部が味方した。暗部のメンバーは全員10年前に死んだ五代目を、死んだ後でもずっと忠誠を近っていた狂信者達。そしてその五代目を殺した飯田正則を五代目の息子である時成が倒した。もう言わなくても分かるだろう」
「亡くなった五代目に向けていた暗部の忠誠が時成に変わったと言うことですか」
「そうだ」
この会話をしながらレストム要塞防衛戦の時に蓋突村から南下してきた飯田軍の奇襲に対応しきれずもっと敵を減らせていればと後悔が強くなってくる。動仁は少し唇を嚙み締めた後少し天井を見てから作戦を話し出す。
「暗部の殆どの人の行動は先読みだと五代目が若い時に聞いたことがある。その様なはずなのに数多くの正確な情報をいつも握って帰って来ていた。それは今も変わらないだろう。もう此方の情報も渡っているかもしれないな」
「では俺達はどういう作戦で戦うのですか?」
「この勝負は暗部が苦手なことで攻めようと思っている」
「野戦ですか?」
「いやそれもそうだが今回は違うな。向こうは攻城戦が苦手なはずだ。だから即席要塞を作り、防衛しながら隙を見て旗をとりに行く。だが森野や浪花家は従わないこともあるかもしれないが現場で修正をかけながら指揮していくつもりだ。この作戦で行く」
暗部を普通の人より知っている動仁はニヤッと悪い顔になって炎狐に説明していた。
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次回『風の想い人』百三十話は6月30日に更新する予定です。
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