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風の想い人  作者: 北見海助
三章 風雲児編
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百二十五話 決定的な内部分裂

3月3日。飯田家が滅んでから初めての幹部会が開かれていた。会議は飯田正則に勝った報告と現在は地下牢獄に投獄しているという情報を伝えた後テツが動いた。


「幹部の皆様に見てもらいたい物があります」


テツはそう言って仮面の奥で口角を上げながら机の上に一つの紙を置いた。それをまず見たのは長老の透だったが透は3月1日に見ている為さほど驚いてはおらず軽く紙に書かれているのを見てテツに質問した。


「控えはあるのだろう」


そう聞く透に頭を軽く下げるテツを見て他の人たちに一通り見せた後、テツの思惑通り浪花から文句が出た。


「ここに書かれている南雲弥生って冷眼の娘だよな。こんな女との婚姻なんて認めるわけにはいけねぇよな。貴方様は仮にも五代目の息子。もっと格がある人と結婚するのが普通でしょ」


その言葉を聞いて時成の中で殺意が芽生えるが隣にいるテツに足を踏まれて表に出すことはなかったがその声には浪花家に恩や懇意にしている格大臣からは賛同するものが多数。黙っている人が少し見受けられ場は一気に騒然となったが透はパンと手を叩いて注目させた。


「そこまで言うのならこの結婚が多数決でも取った方が良いじゃろ。そうじゃな時成」


そう聞かれて時成は目を瞑り軽く頷いた。


結果は軍部隊長と中呂村領主中橋漸三郎(なかはしぜんさぶろう)と東に中呂村、南に海中村、北に多那箕田村、西は広大な海に面している後江(こうえ)村の領主雨墨 渡司(あまずみわたし)が手を上げず棄権したが賛成多数で可決した。それを見て時成は立ち上がりこう言った。


「もうこの会議には意味がありませんね。帰りましょう影さん」


それだけ言って立ち上がると背後に控えていたのに気が付いていなかった多くの幹部は驚愕した顔をしていたがそれも気にも留めなかった。


「逃げるのか」


「逃げるのではありません、戦略的撤退です。とりあえず話になりませんので帰らせていただきます。今回の件は皆様方が納得すると思っていました。ですが皆様方は自分の利益を優先し難癖をつけて認めようとはしません。僕はこの件だけはどうしても譲れません。たとえどんな人間が敵対しても……。後で暇になったら飯田がどうして滅んだのかを確認してくださいね」


それを聞いた南部領主とテツが目を見開いて見つめあった。その行動がお互いに意思を疎通したのか立ち上がりテツはあえて見せていなかった一つの紙を見せた。そこにはこう書かれてあった。


一つこの春風太陽と南雲天将の血判が本物であることを認める。

一つ二人の婚姻を認めない及び仲を裂くような人がいればそれを敵とみなし対応する。


その用紙には太陽が死んだ時点で書かれていなかった文が追加されているのだがこれは四者会談の時に項目を追加することを水笠、海鮫領主の同意の元でテツが加筆したものだった。この用紙には暗部の幹部と水笠、海鮫領主の血判があることにより政治的に見てもこれは時成を支持することとなると同時に加筆文の影響で連合を組むとまで言っているようなものだった。


「あとは次の行動に移すので戦力を集めます。次会うときは戦場ですね」


ある意味落ち着いている時成なのだが少しずつ殺気が漏れ始めていた。そして時成は森野を見るために振り返ると目は緑色に変色し近くに居る、自分の結婚を認めない幹部達をあざ笑うかのような薄い笑みを浮かべて睨みつけていた。これは時成が本気で怒る前兆だと分かっているテツは行動しなければどうにもならないと思い、声を出した。


「影。若についてくれ」


「了解」


「若様何なりとお申し付けください」


影が扉を開き退室を促して時成は歩いて退室していった。それを見た瞬間賛成したメンバーが笑い出した。話にならないのはそちらだろう。ここは多数決で物事を決める場所だと多くの人が思っただが、飯田がなぜ滅んだのかその直接的な原因を知っている動仁は自分の足が震えているのが分かった。そして今後自分達が炎狐を六代目の椅子に座らせようとするなら、この一件が大きすぎる災難になることが確定したようなものだった。


緑の目(グリーンアイ)


それを口にした炎狐だったがその声は動仁の声にかき消された。


「始まりはどうであれ直接的な原因は南雲弥生を拉致したからだ」


自分で言ったその言葉にふと最後に直接会った太陽の「俺も賭けているんだよ、サイコロふってんだよ。救われた命を賭けた、人生最後の大博打を……な」という言葉が蘇ってきた。それを聞いて動仁は思案し始める。


サイコロ……人生最後の大博打……とは隠してきた真実を全て明かして時成に賭けたこと。救われた命とは……。


思案し始めた動仁を置いて動仁がポツリと言った言葉に全員が顔を見合わせた。その状況に近いことを今、彼の前でしたのではないのか、自分たちも滅ぼされるのではないかと恐れ次第に多くの人の顔が青ざめてくる。


「良く知っているじゃねーか動仁。正解だよ。まぁそれでもあれは認めるべきだった。若は母親とは違うが同じ以上の優しさと違った意味でのカリスマに父親の信念を継いでいる」


テツは覚悟を決め、3人は合流して透の近くに来る。


「あーあ。本気で怒ってましたね、テツさん」


それが脅威とも何とも思わない翔は平然と心の中では時成を敵に回した阿呆ども哀れんだ。


「ほんとだよ全く。今剣を抜かないで本当に助かりましたよ」


ここに血の海ができるのではないかと少し焦った亮二は心を落ち着かせていた。


「全くだ。こんなに馬鹿な連中が身近にいるとは思わなかった。今、若がここで剣を抜くと近辺が血の海になるし後始末も大変だからあれで矛を収めてくれてほんと助かったよ」


翔はのんきなことを言っているのだがもともと時成を敵に回す予定だった浪花はこう言った。


「時成さんもまだまだ子供だな」


それを聞いて三人は笑い出した。無知とは幸せなことだなそう思いながらテツは笑いをこらえ仮面の奥では笑いすぎたのか涙が出ていた。


「せいぜい楽しみにしていろ。時成の前で弥生を軽んじたものがその後どういう人生を歩んできたのかその身に刻み込んでやるからさ飯田の馬鹿どもと同じようにな」


テツは右手に拳を作ってそう言うとため息をついてから長老にこう言った。


「「「例の旗取りをお願いします。負けたら俺らは命を捨てるので」」」


そう言うと三人は頭を下げた。それを見て認めないわけがない長老はこう言った。


「認めなければお前らが連合組んで攻めてくるだけだろう。認めるよ。詳しい話は後日にする。以上解散」


そう透が言うと幹部のメンバーはその場で頭を下げた。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

次回『風の想い人』百二十六話は6月9日に更新する予定です。

次回もよろしくお願いします。

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