百二十三話 「次の時代は風にあり」
『春風時成、飯田正則に勝利する』
その出来事が風の民の住人に報告が入ったのは3月2日だった。そして人々は手に取りあって喜び時成を称えた。人々の声は特に南部から大きく上がっていた。だがそれを聞いて驚愕したのは一部の風の民の人間と旧妖魔共和国の評議員だった。
そんな評議員は3月2日。もう焼け落ちた飯田の拠点の近くで全33人の議員が出席する議会が開催されていた。
「飯田正則が負けたらしいのじゃよ」
この議会の最高齢のフリッツ翁卿のその一言から議会は始まった。だがこの日の議会は荒れに荒れた。
「今更何をおっしゃります。春風時成の怒りを買ったんです多少の犠牲で和平しましょう」
と海側に面した南部陣営から
「いや最後まで徹底抗戦だ。所詮やつはまだ子供軍を再編して攻めましょう」
と山側の北部陣営からからはこのように意見が出て対立を深める形となった。少し前までは足並みを揃えていた人たちが今では対立する意見を言うようになった。これが良いのか悪いのかはわからないがこの議会は休憩を挟みながら約5時間もの間議論は続いたのだが結論は出なかった。
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そしてもう一人3月3日に日付が変わった後、アイスジーナ王国にこの事件の第一報が届けられた。
「夜分遅くに失礼いたします。あれっまだ起きていたのですか?」
アイスジーナ王国の軍長の執務室の奥にある図書館には一人の男が歴史書を読んでいた。その男の名前はレショット・ジーナ。アイスジーナ王国の第一王子だった。
「ああなんか寝付けなくてな」
「それはちょうど良かったです。報告します。飯田正則が『グリーンアイ』に負けました」
その言葉を言った後報告に来た部下は頭を下げた。
「ついに殺りやがったか。そうだなー……」
少し考える素振りを見せたレショット・ジーナはこう言った。
「朝にいつものメンバーを集めてくれ。ちょうど会議がある日だからな。いつもの軍長が呼んだと言っておいてくれ」
部下はもう一度軽く頭を下げてこう言った。
「拝命いたしました」
レショットはそう指示すると軍長の執務室に入って窓から空を見上げた。空には満月から少し欠けた月が煌々と輝いていた。そんな中レショットは振り返って背後に立っていた報告に来た部下にこう話した。
「次の時代は風にあり」
どこか大人びた18歳の王子が月の光に照らされて月から来た使者に見えて仕方がなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』百二十四話は5月26日に更新する予定です。
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