百十七話 復讐者
ゴールデンウイーク連続更新前半1話目です。よろしくお願いします。
保護者席の片隅で卒業式を見守っていたのは天将とたくとソーキと沙羅だった。そしてそんなメンバーが密かに護衛していたのは透だった。
「あいつまた、暴走してるぞ」
天将は、時成の嫌な光景を思いだし大慌てで隣にいた、たくに話しかけた。
「また気絶させるか、天将」
とたくはそう言った。またとは時成が初めて暴走したときのことを差していた。
「私が何とかしてみせるからちょっと待って」
人々の間を駆け抜けて、隣まで来ていた弥生が天将に力強い声でそう言った。だが天将は首を振ってから否定する。
「お前に何が出来る。飯田は、時成は、お前が干渉して、どうにか出来るのか」
否定的な言葉を並べる天将だが、そんな鋭い言い方でも弥生の心配をしていた。ただ、その不器用な心配や様々な想いは今ここでは弥生に伝わることはなかった。
「お父さんなら分かってくれると思ってた。けど私が甘かった。大切な人を失った事のあるお父さんなら……ね」
「……」
天将は弥生の覚悟をした顔を見る。今の弥生の顔は自分が本気で愛した人の面影が映っているように見えてしまった。15年以上前のあの時、自分はそんな愛した人に何も出来なかった。
今、目の前であの日の事件が起こっているなら自分ならどうするのか。その答えは自分の中で初めから決まっていた。様々な想いがある中で今の状況を考えると自分がその立場になれば同じことをするだろうと想天将は弥生に対して何も言えなくなってしまった。
千愛。やっぱりお前の娘だよ、弥生は。たった一つ、自分の中で進む道を決めてしまったら、それに向かって真っ直ぐに突き進んで行く。例えそれが誰に邪魔されても関係なく。
「あーもう分かったよ。好きにしろ」
天将は弥生を引き留めることを諦めた。そして成長した、娘に時成の未来を掛けてみるにした。
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能力が使えねぇじゃねぇーかよ
自分の能力が使えない正則は、少し焦っていた。
「オマエをコロシテやる」
時成の刀が正則の懐まで入っていた。グサっという音が聞こえたと思うとすぐに刀が弾かれてしまった。
「正直暑いと思って着るのを躊躇っていたが、ここに来て役にたつとはな」
正則が着ていたのは、鉄のチェストプレートの外に着ていた服は時成に斬られていた。
「オ前ヲコロス」
全くと言って良いほど怯まない時成は、殺気を放ちながら刀を右斜め上から左下に振り下ろした。その太刀筋は、正則の胸にまで届いていた。バサッと言う音が聞こえるが、やはり正則の服しか斬れてはおらず、ダメージも入っていなかった。
「なまくらだと思っていたが、斬られたとはな」
「コワシテ殺る」
時成の剣先が再び正則胸のまで届いていたが、正則の剣先も時成の胸付近まで届いていた。
ぐしゃーと何とも言えない鈍い音が響く。そして時成の胸は正則に斬られて赤い血が流れ、その証拠に正則が下に向けた剣からは赤い血が滴り落ちていた。
それでも時成は攻撃を止めなかった。今度は正則も斬られていたがチェストプレートに弾かれて甲高い音が鳴っていただけだった。
「当たりはするけれど、結局はお前の刃は俺まで届かない。残念だったな。そしてもう限界だろその体。今から楽にしてやるよ」
正則がそういった通り、時成の息づかいは激しくなり流れる血の量も少しずつだが多くなっていく。その影響で上半身の服は自分の血で真っ赤に染まっていた。
だが時成はぼろぼろの体でも依然として黒い刀身の刀を握り続け、立ち続ける。その姿に正則は決着をつけようと一気に時成との間合いを詰める。
「まだこいつは死なせないぞ」
真は自分の剣を正則の剣に当てるとはじき返していた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』百十八話は4月30日に更新する予定です。
次回もよろしくお願いします。




