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風の想い人  作者: 北見海助
三章 風雲児編
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百十六話 卒業

予告していました通り本日からゴールデンウイーク連続更新が始まります。29、30、1日。2日は休みで3、4、5日までの予定になっていますが内容や物語が進むスピードで更新を増やすかどうか決めようと思います。よろしくお願いします。

3月1日今日は中学院の卒業式が行われる日だった。


「やっと……今日で終わる」


後半はほとんど中学院に来ていない時成は、隣にいる真に小声でそう言った。もうすでにいろいろ注目されていたが学院生の力ではどうすることも出来なかった。


「最後まで気を引き締めねぇと何が起こるか分からないのが世の中ってやつだと思うぞ。他にも例のがあるかもだしな」


真は時成に真剣な顔で言い返した。


「だな」


時成は笑って返事をした。だがこの卒業式が簡単には、終わることはないと真は、分かっていた。何故なら、この卒業式の祝辞のなかに報告通りに『飯田正則』と書かれていたからだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


卒業式が始まる中、問題が起きていた。来賓の中に飯田正則が座って居たからだった。そして卒業式の参加者には春風時成がいる。その状況の中でいつ一触即発するか分からないと言う不安を抱えて卒業式が始まってしまった。


そしてその不安は的中してしまった。そしてその日、偶然にも卒業式に出席した人々は歴史が変わる瞬間を目撃する事になってしまった。


その事件は飯田正則が祝辞を言うために登壇した時のことだった。


「皆さん卒業おめでとうございます。先ず早速ですが私から言いたい言葉があります。その言葉は『籠の鳥』と言う言葉です」


笑顔に話す正則は、一旦真顔になってから不敵な笑みを浮かべて一息ついた。


「心当たりがあると思われる人物は居ると思います。『黒の殺し屋(ブラックキラー)』の皆さんがた」


その言葉でざわざわする保護者や学院生の人達。その言葉を聞いて黒の殺し屋(ブラックキラー)を探して目線の移動が激しくなり次第に人々のざわめきが大きくなる。そんなざわめきを断ち切るかの用な言葉を正則は口にする。


「とある人の遺言でも言いましょう」


正則は笑いを止めて真剣な表情になってから殺気を込めて話し始めた。その言葉を聞いて多くの人は黙って耳を澄まし始める。


「辻斬りは、最後に笑いながらこう言っていた。『風雲の血は跡絶えてないと』。お前をここで殺す意味が分かるか?亡霊の生き残り」


それを聞いて一気に体育館は注目し、学生はもうすでに立ち上がっていたのか時成を避けるかのように下がって行く。そして静かになった体育館で時成はこう言った。


「さーな。でも、ここで全ての決着(けり)を着けなければいけないってことは分かっているつもりだけどな」


その声は体育館全体に木霊する。ある生徒や数名の保護者以外全員が今、時成が言った言葉の真意が解らず疑問を感じた。時成は、飯田正則の脇差に目を移した。登壇している正則はさらに殺気を出しながら、淡々と時成に煽りを入れる。


「何も守れない辻斬りは死んでいった。記憶使い(メモリー)も俺が殺した。所詮その息子は弱者だ」


そう言って首を少し上げて目を細め壇上で嘲笑う正則は、腰の剣帯から刀を抜刀する。その表情は先ほど見せた笑みではなく険しい表情をしており地面を掴むように立つ力が強くなった。


「ここがお前の墓場だ」


正則は階段を下り時成の方に走っていく。多くの生徒が席を立ち後ろへ下がって行くなか時成は、静かに笑っていた。


「沙奈香、刀を」


時成の目の付近が暗くなっていき、その目は緑になっていった。それと同時に髪が緑色に変色していく。


「母さんを父さんを……お前は絶対に許さない。コロシテ殺る」


そう言うと時成は飯田正則に突っ込んで行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


もう止まらない。止められない


学院生に混ざっていた沙奈香と弥生はそう判断して行動を開始した。まず沙奈香は用意していた転移魔法陣を二つ展開する。


一つは時成の刀を渡すため。もう一つは、ここにいる人を保護者席までワープさせるために。


魔法付与(エンチャント)


展開した魔法陣に魔法陣をエンチャントすると言う異様な技を使った。


半径15メートルの魔法陣の中身は、転移魔法。時成と正則以外の生徒と先制は一瞬で保護者席まで動いていた。


その光景を見た保護者や先生方は、今になって、その常識はずれな技の凄さに気がついた。


「な……に、何が起こった」


「魔法陣に魔法付与(エンチャント)?」


「あり得ない」


多くの人が驚いているなか時成は当たり前のように自分の近くにあった魔法陣に手を伸ばして刀を取り出した。


その刀を握り時成は抜刀した。白い鞘に黒い刀身、殺気の出し方まで辻斬りを彷彿させるような時成に、弥生や沙奈香、真は感づいてしまった。


「暴走する」


弥生がそう言った瞬間、時すでに遅く時成は、目と髪が緑色に変わっていた。パリンと言う音共に沙奈香が展開していた結界魔法陣が砕け散った。


「ここまで影響力があるのね」


少し驚いた沙奈香は、冷静に今の現状を考えていた。


保護者には隊長と副隊長は来ていないが他の黒の殺し屋は全員いる。けど……誰も動かないよね


子供の成長を第一に考えて10年以上動いてきた黒の殺し屋(ブラックキラー)が今の状況になっても動かないことは沙奈香には分かっていた。それでも時成の暴走は止めなければいけない。そんな焦った紗奈香に弥生が声をかけた。


「時成の暴走を止める手段は私が持ってる」


「ほんと」


「うん。だからこのノート、渡しとくね。誰かの血で汚くなるのは嫌だから。それに時成の暴走の止めかたとかも書いてあるから」


と言って弥生は少し悪い顔してから服の内側にある胸ポケットから小さなノートを取り出した。そして沙奈香にノートを手渡した。


「このノート……もしかして」


ノートを手にした沙奈香は最初は誰の物か疑問に感じて眉をよせていたが数ページめくった後、目を丸くさせて驚いた。


「やっぱり。筆跡が太陽さんのと同じ。と言うことは辻斬りの遺書だね」


小声で言う沙奈香はまだ表情を隠しきれていなかった。


「今日何かが起こると思って持ってきたけど。正解だった。沙奈香は魔法まだ使える?」


「ごめん。後一回が限界みたい」


「分かった、時成は私が止めるから真君を連れて来て」


「了解」


弥生は時成を止めるため黒の殺し屋の方へ、紗奈香は真を探しに二人は別々に歩き始めた。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

次回『風の想い人』百十七話は4月29日に更新する予定です。

次回もよろしくお願いします。

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