百七話 隣に立つ人
本日から三章が始まります。また本日で『風の想い人』は2周年になりました。
今後ともよろしくお願いします。
太陽の死から2日経った夜。オーバヒートで倒れていた時成はこの日意識が戻っていた。医務室から出た時成の前に頭を下げるテツに並々ならぬ威圧感があった。
「こちらに」
そういわれてついて行ったのは前に見た時にはなかった地下室のドアであった。
「簡易的ですけど……」
そこまで言ってテツは言葉が出なくなり黙ってドアを開けて中に案内する。その場所はとても寒く薄暗かった。その場所には上向きに寝て亡くなった太陽の姿がそこにはあった。
「せめて最後くらいは会わせないと俺達には貴方に合わせる顔などないですから……」
涙を流しながらそういうテツに時成は何も言わず太陽の近くに歩みよってからとあることを聞いた。
「死因は何だったのでしょうか?」
「飯田正則との戦闘で負けた。その時にはもう助からないくらいに血を流していました」
「テツさんが敬語で話すということはそういうことですよね」
「ええ勿論でございます。約束は守りました」
テツの涙は地面にこぼれ落ちながら俯くその様子に時成は涙を流しもう握り返してこない冷たくなった太陽の手を握るとテツにこういった。
「少し遺体はそのままにしておいてください」
時成は目を擦り涙をふくと太陽に一礼してからその場を離れた。
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少し時間が経ち道場では鬼気迫る勢いで木刀を振る時成がいた。そんな場所に弥生は歩いて来ていた。
「もう木刀は振らないでくれる。体壊れるわよ」
弥生の目からもわかるくらい悲しみと怒りに任せて木刀振っているのが見て取れた。それだけに体を治した弥生にとってそれを見るのがとても悲しかった。
「どうでも良いだろ。どれだで努力しても勝てない敵だっている。それでも。それだとしても結局、俺は弱い」
その言葉ではっきりと今の心情が分かった弥生にとって、それは昔から立ち止まっている時にする時成の行動だった。
「ずっと、太陽さんの後を追って剣の腕を磨いてきたんでしょ。時間が命ではないの?立ち止まって自分の弱さに泣いて、そのままで良いの?貴方が積み上げてきたものは全て無駄だったって言うの?」
努力していた事実と時成があの時言った言葉。今の現状。あらゆることをその言葉に乗せて弥生は木刀を振るのをやめさせる。そして時成は剣を落とした。
「それは違う。だがあいつ飯田正則だけは絶対に許せない……それだけは」
はっきりと言い切った時成に見え隠れする復讐心。それにこのやり取りは紗奈香や真をはじめ多くの暗部が見ている視線を弥生は感じた。
「私は、私達はそんな人のために命を賭けて戦っていた訳ではないのよ」
昔からある復讐心を軽く否定する。暗部に帰ってきて約一年。時成に嬉しそうに教えている父たちや、仕事について熱く語っている暗部のメンバーの人々。それを見た弥生がいつも思っていることを口にする。
「貴方には多くの人々に未来を魅せるのが、貴方の背中を見てついてくる人をその先の未来へ旗を振るのが貴方の仕事じゃないの?魅せた未来を掴むために私達がいると思うの。それにそんなあなたに付いてくる人は沢山いると思うのだけど……」
そこまで言った弥生にうずくまって泣いている時成が昔よく泣いていた幼い時成の面影がまだ残っているように感じ、やはり余り人前では泣かないように変わってしまったのは10年ぐらいまえの『雨の十五夜』以降だなとそう思えて仕方がなかった。
「やっぱりお互いに早くに大人の世界に足を突っ込んでしまったものね……」
そう思った弥生は時成が落ち着くまでそばから離れようとはしなかった。
「弥生に任せて良かったな。でも本当に昔の太陽と五代目を見ている感じがしたよな」
道場の壁越しに聞いていたテツは聞いていた人達にそう声をかけた。
「そうだね。やっぱりあの書類にはサインして良かったと思うわ。彼の隣に立つ人は本当に彼女じゃなければいけない気がしてきた」
そう言うのはもともとサインを書くつもりでいた沙羅がそう答えたがその場所には他にも書いた人たちがおりそんな人たちも頷いていた。
「もうあきらめろ天将。直ぐにそう言いに来ると思うぞ」
そう言うのは影道だが天将は笑ってこう言った。
「やはりそう見えるのですね。ですがもう僕はあの子を認めていますよ。そうじゃなければ剣なんか教えませんよ」
それを聞いた人たちは笑いあってその場所から離れた。そして自分たちだけに訪れている夜の夜明けに向かって歩き始めた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回『風の想い人』百八話は2月24日に更新する予定です。今後の更新につきましては3月4月と週一回木曜日に更新させてもらいます。(もしかしたら4月の最終週は更新日を変更するかもしれません)
活動報告を更新する予定です。もし時間がありましたらお読みください。
次回もよろしくお願いします。




