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風の想い人  作者: 北見海助
第二章 恐怖の象徴編
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百三話 手のひらの上2

暗部が飯田の屋敷を強襲が始まって少し経った6時23分頃。


水増村から少し離れた最西端で旧国境付近では、かつてレストム要塞を襲った飯田軍が銀世界(シルバーワールド)を受けて妖心村まで撤退していた。そこに水笠家当主、水笠亮二と海鮫家当主の海鮫翔は翌日、自身の部下、合計600人を旧国境まで派遣して、そこに野戦陣地を築くと約3ヶ月の間両軍はおよそ1キロの場所でにらみ合いが続き膠着状態に陥っていた。


そのような場所に当主の二人が部下を率いて現れた。事実この膠着状態を解消するために海鮫家は500人、水笠家が350人、暗部が10人の合計850人の援軍が到着した。


「首尾の方はどうだ」


「何時でも奇襲できます。士気を上げるための演説をお願いします」


亮二は3ヶ月前のレストム要塞防衛戦の時を思い出し、力強い言葉で多くの人々を鼓舞した。


「良く、ここまで持ちこたえた。ずっと我慢してきたんだ。さぁここから反撃の時だ。水笠家、当主としてそして一人の風の民を守る人としてこの国を侵攻しようと試みる輩を討ち滅ぼせ。行くぞー」


そのかけ声と共に、水笠家の魔法部隊約120人が敵陣を目標に大小様々な魔法を撃ち込む攻撃から逆侵攻作戦が開始される。


ー-------------


3時間後。


妖心村にいた飯田軍、約700人は約1時間ぐらい抵抗したのち戦力差と指揮官の差で壊滅させて人的被害を多く出しながら首都魔京に総撤退し始めた。そして両家連合軍は水笠家の一部を旧国境の野戦陣地に残してレストム要塞まで総撤退していた。その作戦は太陽が死ぬ前に言い残していたものとそれが書かれた紙だった。

 

『龍我太陽として、妖心村にいる飯田軍の殲滅を水笠家と海鮫家に任せる。決行日時は2月17日の午後6時から。但し、妖心村の占領はしないこと。これをすれば北側に文句以上の面倒くさいことが起こるはずだから絶対にするなよ』と。


その紙には自分の血を親指に塗って用紙に指紋をつける血判の形とサインが残っていた。


今はそんなレストム要塞では奇襲作戦が成功した勝利の宴がされていた。そのような中で亮二と翔は二人で指揮官室にいた。そこに暗部からの情報が入ってくる。


「失礼します。ここにいましたか。報告がございます、両当主様。訃報です。2時間前、『辻斬り』春風太陽様がお亡くなりになりました。死因は飯田正則との戦闘による失血死です」


この訃報の報告を一番初めに聞いたのはこの二人だった。だが二人とも冷静になっており亮二はあらかじめに聞いた話の結果を静かに聞いた。


「それで飯田家はどうなったんだ?」


「はい。飯田家の『開花』と当主は重傷ですが転移魔法陣での逃亡が確認されています。また『狂戦士』の死亡が確認されています」


それを聞いた亮二はこの暗部に一つ伝言を頼んだ。


「落ち着いたらで良いので会談させて下さいと、隊長に伝えてください」


「了解です。それでは失礼します」


報告に来た暗部を下がらせて、翔の方に向いて気になった質問をする。


「あの書類にサインして良かったんですか?」


「あの書類?……ああ、『グリーンアイ』と『冷眼の娘』の()()()()()()やつのサインでしょ、あれは大丈夫だよ」


少し考えた翔だが笑ってそう答えた。それは今後も自分たちの味方になると言葉では言わないがそう言っていると亮二は解釈した。


「まぁ理由はここで紗奈香ちゃんが放った銀世界(シルバーワールド)の威力を見てかな。それでもテツと太陽から聞いた話で決まったよ。俺は未来が明るい方に賭けてるつもりだぜ」


「なんか貴方らしいです。あの時も。貴方は周囲の人を黙らせて味方に付いてくれた。俺は今でもあの時のことは忘れませんし、覚えています」


「五代目の時か……懐かしいな」


「ええ本当に」


そんな二人は勝利よりも五代目を思い出した懐かしさで目が涙で濡れていた。


ー-------------

その夜、人々が寝静まる深夜にとある人はとある場所で立っていた。


ここは何もない白い世界。その色は雪より白かった。そのような場所に一人の女性がぽつりと立っている。黒髪に澄んだ濃い青い目。純白のワンピースを着て、優しい表情をしている女性に目を奪われる。そんな女性は話しているかのように声をだしていた。


「あの人には辛い想いをさせてしまったな。でもあの人達が作った時間は無駄では無いと思うなー。おっともう始まっていたのか。初めまして。いや初めましてではない人もいるでしょう。私の名前は龍我七美。風の五代目でした。この時間も長くはないから本題に入りましょう」


今の光景を見ている人はこの女性の名前を絶対に忘れるはずがなかった。龍我七美。『雨の十五夜』で亡くなった故人だ。そして見ている人達は彼女の体がうっすら透けていることに気がついた。


その七美は右の口角を上げてニヤッと悪い顔になってからこう言った。


「この夢を見てると言うことは残念でした。あなた達は今まで知っている自分の記憶は全て疑ってくださいね」


今、七美は自分が居る場所を夢の世界だと明言する。そして少し間を開けてから七美は再び話始めた。


「理由は簡単です。この夢を見ている人の記憶は全て10年ぐらい前に改竄していました。ですがその効果は本日、消えました。だから今から私が本当の記憶をあなた達に返してあげましょう。この記憶こそが真実です。騙されていると思って信じてくださいね」


口元を手で押さえてクスッと笑う七美。


「皆さんは私がどんな技を使って記憶を改竄したか知りたいと思うので答えましょう。対象者の全ての記憶を改竄する技『禁忌死に戻り《きんきデスバック》』です。知っている人達はもうお分かりですよね」


左目を瞑ってウインクする七美。そして思い出したかのようにポンと手をたたいた。


「あっそうだ。最後にひとつだけ。皆さんは私、風の五代目の手のひらの上でした。だからみーんな私のお人形さん……だね」


最後に含みのある言い方をして七美は後ろに振り返って歩きだした。長くて黒い髪風に吹かれて一直線になってからふんわりと落ちてくる。少し後になって七美の後ろを追いかけるように歩いている人がいた。その人物は絶対に忘れもしない黒い仮面を着けていた。


「あらあなたもうこっちに来たの?」


「ごめん。少し早かったかもしれないな」


「ううん。あの子なら絶対に大丈夫だと心の底からそう思うよ」


あなたと呼ばれる人は自分の手で透けているはずの七美の手を掴み、愛おしそうに握った。


「俺と一緒に来てくれるか?」


「ええ勿論。もうこの手を離さないからあなたが堕ちるなら私も一緒に堕ちるから……だから逝こう」


よく思い出せば、生前七美があなたと呼んでいる人物は一人しかいなかった。その人物は多くの人が知っている『恐怖の象徴』または『辻斬り』と呼ばれた春風太陽しかおらず、あなたと呼ばれた人は彼だと分かった。だが太陽は顔を見せずに七美を追いかける。そして七美と手を繋いだ太陽は光となって消えていった。


その後この夢を見た数多くの人達は夢から目覚めた。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

次回『風の想い人』百四話は1月17日(月曜日)に更新する予定です。

次回もよろしくお願いします。

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