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風の想い人  作者: 北見海助
第二章 恐怖の象徴編
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百二話 時代の節目

時刻は7時15分を過ぎた頃。太陽の前に転移魔法で転移して行ったはずの『開花』の虹目が帰って来ていた。


「っち帰って来やがった」


魔力を多く使っているのか虹目からは魔力の気配が少ししか感じないがそれでも相手にするのには厄介だった。


「良し、虹援護頼むぞ」


笑顔になった正則に太陽は自身の身の危険を感じていた。だが太陽は冷静だった。


虹目の赤色の炎弾が飛んで来るが太陽はその場所から動かなかった。いや、正則と虹目の目には動いていないように見えた。炎弾が太陽の腹部を貫くがその太陽は靄のように消えていく。


「陽炎だ気をつけろ」


正則は目を細めて自分の感覚を研ぎ澄ましていく。そして太陽の足音だけを聞きつけると小さな声でつぶやいた。


「来る」


太陽は背後から正則を攻撃したのだが正則は白い刀で反応していた。そして虹目が太陽やな向かって炎弾で弾幕をぶつける。


「攻略済み何だよ、陽炎は」


正則は弾幕の中を真っ直ぐ通ると弾幕を避け続けていた太陽に近づいて一太刀浴びせたが斬ったのは太陽の仮面の紐と薄皮一枚だけだった。


仮面が地面に転がり落ちる。段々と気温が上昇し酸素が薄くなっていく。そして正則と虹目は太陽の顔を見て驚いて、攻撃するのが遅れた。


もう妖力も体力も限界が近づいて来ている。陽炎もダメ、風の感覚(エアロフィーリング)ももう使えない。やっぱり散るなら派手に逝きたいな


太陽はボロボロの体で白い鞘を左手に持って右手には黒い刀身の刀を握る。体も既に斬り傷が入り血も流れている。それでも仮面の奥では笑っている。


「正真正銘の最後の一撃」


握っていた刀を納刀し、膝を下げ、足の指で地面を掴むかのように踏ん張り右手を鞘に手をかけた。


抜刀 辻斬り


素早く鞘引きをして瞬発力を使い一瞬で虹目を吹き飛ばして壁にぶつけると、右足で反動を溜めて腰を回転させて刀に勢いをつけると今度は反対側に正則の懐に切り返して入った。


「しねー」


そんな正則は刀を使い太陽の攻撃を防ぐと同時に白い刀でカウンターする。その攻撃が太陽の腹部に入った。太陽の腹部から横一線に血が吹き出して壁にぶつかった。もう動くことが出来ない太陽に警戒しながら近づいて来て剥がれた仮面を見た後太陽の顔を見て疑問に感じたことを言う。


「一つ聞きたいことがあったんだ。お前何者だ」


風雲(かざくも)だよ」


「戯れ言を。もう滅んでいるんだよ、あんな国は」


飯田正則は頭に血が昇り太陽の肩に刀を突き刺した。じわじわ血が広がり服が血で濡れていく。


「風雲の血は……跡絶えてないぞ」


ニヤリと笑う太陽になぜかわからないが恐怖を感じた。それでも自分たちが言い続けて正しいと信じていることを覆すかのように言った太陽に反論する。


「はぁー?俺は跡絶えたとはっきり言った父を見ていて覚えているんだ、何を言っている」


「そうか忘れているのかーこれが。まぁどのみち、すぐ分かることにはなるさ」


「もういい聞きたいことは聞いた。死ぬとなって訳の分からないことを言っているだけか……」


正則は太陽に向かって自分が持っている刀の剣先を太陽の心臓に向けて構えた。


「あばよ『辻斬り』」


「俺が死んでも風は死なないぜ」


そう言ってニヤリと笑う太陽の胸に向かって剣を刺してから太陽の刀を引き抜いた。地面には赤黒い血が流れ始めるが太陽は歯を食いしばり音一つすら立てることはなかった。壁にもたれかかった太陽の背中付近や服は血で真っ赤に染まり握っていた刀は転がり落ちていくだが援軍はすぐそこに駆けつけていた。


「親父……おやじー」


階段から降りてきた時成は刺された太陽を見て、能力を使って髪と目が緑に変色するが直ぐにその変色は元に戻った。そして意識がなくなった。そんな時成を見て弥生はすぐさま彼の手を握った。


「ちょ……無理しすぎてるって分かってたはずだよ……ね」


弥生は時成の異変に気が付いたので彼を見たがその後太陽を見た弥生は言葉を詰まらせる。そして諦めて握った時成の手を引っ張ると自身の体に近づける。それを見たボロボロになったソーキは涙を流しているのか仮面の下の付近から水がこぼれていた。そして時成を支えるように捕まえる。


そっか、言っていた予知夢はここなんだ。まぁ時成の無理も咎めることはできないかな。同じ人に()()が殺されてるからな


「奴めあの刀、なまくらじゃねぇか。まぁいいけど正則、逃げよう。下から沢山上がってくる」


復活した虹目は赤く染まった腹部を抑えながらそう言った。すると下の階段を見ながら転移魔法陣を展開する。そしてその展開が終わった瞬間一階から上がってきた人々を見て自分が不利と判断すると、素早く展開した魔法陣に飲み込まれていく。そしてこの状況を今ここに到着した暗部に向けて飯田正則は嘲笑うかのようにこう言った。


「残念ながらもう奴は死んだよ。それじゃあな」


正則と上野は拠点を捨ててどこかへ転移していった。炎が周り黒い煙が階下から流れてくるそんな場所に取り残された暗部は、テツが指示してすぐさま沙羅が転移魔法陣を展開する。


「ごめんなさい。もう私の妖力が残ってないの」


倒れた太陽を見て刺された箇所を僅かな力で回復しようとしている弥生に太陽は笑顔になった。


「刺された箇所は心臓から少し外れてはいるが血を多く流しすぎた。もう生きてはいられないさ」


それを言った瞬間、暗部は中央支部にまで転移していた。医務室に直ぐに運ばれた太陽だったが、医務室にいたもかなは目を瞑って首を振った。そこに飛ばされた紗奈香と美羽が帰ってきた。


「ごめんなさい。本当にごめんなさい」


太陽が寝ているベットに何度も何度も弥生の大きな声で謝る声が聞こえる。弥生に助けて貰ったソーキは俯き、そこにいるメンバーの他にも弥生の声を聴き多くの暗部のメンバーがここに集まっていた。


「いい……さ。この未来を俺は望んでいた」


「妖力不足で能力が使えないの。助けたいのに助けれないの」


顔をくしゃくしゃにして泣きながら謝る弥生。損な弥生に声が小さくなりながら、少しずつ最期願いを話始めた。


「もし良かったら……ずっと時成の隣にいてほしい。この数ヶ月間のように……本当はこの10年間も弥生ちゃんと時成が一緒にいて欲しかった」


今まで開いていた太陽の目蓋が閉じていく。もう限界なのか弥生は回復の能力を使うのをやめていた。


「太陽」


テツが叫ぶと同時に他にいた人たちも次々に太陽の名前を言う中、太陽は少しずつ小さくなる声で話始めた。


「……長老様に……今までありがとうございました。最期まで……()()……を守れず、すみませんと伝えてくれ。俺は幸せだった。みんなに出会えて幸せだった。後のことは時成に任せる。あいつのことをよろしく頼む……はぁほんとにみんなと共に生きれて良かった……今までありがとう」


少しずつ声量が失くなっていく太陽の手を天将は手を握るが太陽は握り返さなかった。


「おい、太陽。生きろよ」


天将の声が中央支部の医務室に響き渡った。多くの暗部の人が大粒の涙を流し、太陽の死に悲しんだ。


ー-------------


太陽がこの世を去った10分後。報告もかねて本部に転移した沙羅は中央支部に透と一緒に帰ってきていた。


「太陽はもう逝ったのか」


透の静かな声はとても響いた。誰もが黙って太陽を想って涙を流していた。そのような状況を見て透の目からは涙が流れていた。そこに口を開いたのはテツだった。


「約束を守れずすみませんと太陽は言っていました。……怖れながら、春風時成のことをどこまで知っていますか?」


「娘が何か記憶の改竄をしていることは最近になって分かった。けど娘が死んでから時成を初めて見たときに血のつながりを何となくじゃが感じていた。あの時強い言葉で非難したが、ちゃんと我娘のことも孫のことも考えていた太陽に娘を任せたのは間違いではなかった。じゃが本音はもっと生きて欲しかったのがじゃがな」


「終わったことは責めぬ。飯田の件は良くやった。じゃが説明責任はとれよテツ。暗部が10年間何を基準にどのように動いてきたのか、五代目が最後にどのような行動で意思で動いたのかの説明の責任をな」


「はっ」


頭を下げるテツ。それ以上透は何も言わなかった。だが大粒の涙がしたたり落ちていた。


w183年2月17日、この日、『黒の殺し屋(ブラックキラー)』、『辻斬り』、『恐怖の象徴』と呼ばれた春風太陽……いいや本名()()()()は死んだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

次回『風の想い人』百三話は1月13日(木曜日)に更新する予定です。

次回もよろしくお願いします。

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