十話 風の暗部
「でっ……相変わらず無茶な賭け事をしたあげく、飯田の奴らに姿を見せたのか、太陽」
呆れながら報告を椅子に座りながら聞いているのは、川田影道だった。
「これも時成の成長には必要なことでした。分かってください。副隊長」
「いやな……。いくら必要だったとしても、もっと違う方法があったはずだぞ。どうしてお前はこいつを止めなかった、天将」
「僕もあの二人にとって……」
「あーもう。分かった」
影道は、ついに諦めて二人の報告に渋々納得する。そこに慌てて入って来る人物がいた。その後ろには影が薄いが、もう一人人が立っている。
「任務ご苦労。良正」
影道は影の薄いほうに労いの言葉をかける。
「ありがとうございます。師匠」
と話す良正。今回の交戦で風の民側の対応が速かったのは、この男が裏で活躍していたからだった。
追目良正。年は、時成の一つ下だ。顔のパーツは、整っているが特徴がない。背も150センチと平均だ。
「俺を忘れんなよ。一応お前達の隊長だぞ、俺」
影道に放置されたテツが声を上げる。
「でっ、今回の事をどう考える。いやどうなった、太陽」
名指しで聞かれた太陽は、仕形がなくテツに今回の事件の詳細を話した。
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中央支部の一室には、剣道場がある。と言っても部屋の大きさは、さほど大きくはなかった。
「何で竹刀を振ってんの」
「良いだろ、別に」
真が剣道場に入るなり大きな声で口喧嘩をしている男女の声が聞こえてきた。
「さっきまで傷だらけだったのよ、あなた。自分の体をもっと大切にしてなさいよ」
うん。間違いない
声を聞いた時に真は、分かっていた。
口喧嘩をしていたのは、時成と弥生だった。
「羽村に勝ったのも偶然だし、何よりあいつ以上に強い敵は多くいるんだ。俺だって今のままただ弱いだけだったら、守れるものも守れなくなる」
それが今、時成が竹刀を振る理由だった。
「ちょっと真君。あれどうしたの」
いつの間にか真の隣には沙奈香が居た。そして口喧嘩をしている二人を指で刺しながら、真に質問をしていた。
「竹刀を振っていた時成に弥生が止めに入ったら口喧嘩になった……と思う」
真はこの口喧嘩の理由を知らないので、予測で沙奈香に説明する。
「確かにねー。弥生ちゃんの気持ちは、私には分かるよ。だって弥生の能力は回復だからね。それに傷を治すのに相手の体力が必要だーって言ってたもん」
沙奈香は、前に弥生と会った時に能力の詳細を弥生から聞いていた。そこでさっきの交戦を一緒に物陰から見ていた沙奈香に事実確認をする事にした。
「弥生が治した傷って、羽村の突撃を時成が受けた時だよな」
「うん。そだよ」
「あの時って、弥生を守るように時成が突撃を受けてなかったか」
沙奈香は、真の言葉であの時の状況を思い出した。
普段から太陽と剣術の稽古をしている時成なら、最初の一撃は受けても多く斬られることは無いと思っていた。
羽村が攻撃したのは三回。そのうちの一回は、三連撃だった。そして最後の一撃に合わせて抜刀技を、時成が羽村にあて気絶させた。
それから考えると今、二人が考えていることは正しいと思うことしか出来なかった。それを沙奈香が口にする。
「やっぱり時成は、弥生ちゃんを守っていたんだ。あの時の約束と同じように」
「約束は分からないけどな」
真がそんなことを言ったときには、沙奈香は隣には居なかった。
「ちょっと。二人とも夫婦喧嘩は止めなさいよ」
真が気がついた時には沙奈香は口喧嘩の仲裁に入っていた。
「夫婦じゃないし、喧嘩もしてない」
時成と弥生は、沙奈香に口を揃えて言う。
「息ぴったりじゃねぇかよ。まっそう言うことだな」
真も話しに入る為に突っ込みをいれる。
「ってか、話を聞いていたのかよ。二人とも」
飽くまでも喧嘩はしていないとアピールする、時成は嬉しそうに笑う。
どんな形でもまた四人で同じ時間を共有するのは、10年振りで嬉しかった。
「ったく、こんな所に居たのかよお前ら。探したぞ」
そこに歩いてきたのは、天将だった。
「時成。隊長が呼んでる。執務室だ、行ってこい」
「分かりました」
時成は隊長。テツがいる執務室に向かって歩き始める。
「良し。時成は居なくなったな。お前らには知ってもらいたいことがある。昔、黒の殺し屋と呼ばれた俺達全員の罪を」
三人は息を飲んで天将を見る。その隣には、いつの間にか、太陽が座っていた。
「覚悟はあるか」
ただ静かに言う太陽の言葉に、三人は一瞬お互いの目を合わせた。
「はい」
と言って、三人は頷いた。
次回『風の想い人』十一話は4月23日に投稿する予定です。
よろしくお願いします。




