一話 悲しみの宣言
初投稿です。よろしくお願いします。
雨が強く地面を打ち付けている。本当は今日、綺麗な満月が見えるはずだった。
しかしその満月は雨を降らす雨雲に隠れ、さらには、この戦いの音以上に雨粒は大きく強く降っていた。
「待てぇー」
男達は、二人の親子を死に物狂いで追いかけていた。それもそのはず二人追いかけ始めてから1時間以上は経過していたからだった。
母親の名は、七美。雨に打たれてぼろぼろだが美しい女性である。そして、息子の名は時成。まだ5歳と幼すぎた。
今追いかけている場所は、寂れた商店街、雲の扉。ここは妖怪の商店街としても知られていた。
「もうここまで」
七美は、足を止め男達に向き合った。七美の目からは、「ただでは、死なない」と言いたげな覚悟を決めた目をしていた。その姿は小さな時成から見ても、とても勇ましくかっこよかった。
「いい。努力をすれば何物にでも成れるからね。成りたい自分になってね」
その言葉は、母親から子供に送る最後の遺言でもあった。
今、時成は近場に音をたてず、泣きそうなのを必死に我慢して隠れていた。
七美は、白い鞘の脇差しの柄を握る。
「飯田正則様」
近くにいた男に男達は、全員頭下げ敬礼する。その姿からはヤクザの大親分にすら見えてくる。
「久しぶりかな記憶使い。いや、初めましてかもな…。そして永遠にさようならでもあるのかな」
飯田正則は、無表情で言う。それは、暗殺者に等しい冷徹さから。それは、暗殺者から暗殺ターゲットへの敬意の現れなのかもしれない。
時間はどれくらい経ったのだろうか、雨の音はさらに大きく強くなっていた。
商店街では、6人の人影が写しだされていた。その6人は、倒れている1人の女性を囲んでおり、中には涙を浮かべているものもいる。
倒れている女性の近くでは、真っ赤に染まってしまった地面を雨が時間をかけて流していた。
一人の女性の命は散ってしまった。それが動乱の幕開けだとは、今は、誰も思いもしなかった。
「お父さん」
隠れていた時成は、亡くなった母の近くに姿を表した。
お父さんと呼ばれていた人の刀には、血がしたたっていて悔しそうにうつ向いていた。その父に向かって時成は、宣言した。
「僕は……強くなって飯田正則を斬って……いつか、世界を変えてやるんだぁー」
この宣言は、今はまだ小さい男の子の戯れ言でしかなかった。そしてそれを真に受け止めたものは、誰もいない。雨の勢いは少しずつ落ち始め、雨粒も小さくなった。
始まりは、時成の心に大きな傷を残していく。
この事件を人々は後にこう言った。
「『雨の十五夜』」
と。
そしてこの事件をきっかけに風の黄金時代は、終わりを迎えた。
この物語は、10年後時成が15歳になる年から加速するお話。