51話~55話まで
------------------------- 第51部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
perfect order
【本文】
「ひろ君とサーシャちゃんは旋回してジャルさんに近づいて!春ちゃんはひろ君たちがジャルさんの近くに行けるように、出来るだけ注意をひきながら岩の壁をたくさん出して!」
「なんか私だけやること多くないかな!?」
「あと、私に攻撃が来ないようにしてね!」
「無茶苦茶すぎるよ~!」
春香がそんな泣き言を言っている傍らで俺とサーシャは二人は同時に円を描くように走り出した。
こんなことはサーシャとは始めてやるはずなのだが、なぜか息をぴったりと合わせることができている。
現に今、向かい側にいるサーシャと走るスピードが寸分狂わず同じように見える。
あいつは本当に商売人なのかと疑問を抱きたくもなったが、今はそれどころではなかった。
ジャルが近づいてくる俺とサーシャめがけて数えきれないくらいの炎を繰り出してきた。
避けるとするのならば、確実に無理がある量だ。
「あー!もうっ!アースクエイク!」
春香が葵のそばでやけにそう叫びながら、地面にこぶしを振り下ろした。
そこから地面に亀裂が走り、複数の岩が地面からせりあがり俺とサーシャの姿をくらませた。
突然的が壁によって隠れたせいか、そのほとんどが壁にぶつかり爆ぜ散った。
しかしいくらかは、その岩の隙間を縫ってこちらめがけて飛んでくる。
それを後方にいる葵がテレポートを使い、少しばかり位置をずらす。と言っても、ジャルからは遠ざかってしまうのだが。
葵が位置をずらしてくれたおかげで、着弾しなくて済んだ。
少しばかりサーシャと位置がずれる。
すぐさませりあがっている岩に足をかけ、ギアを使い一気に体を加速させた。
そのあまりのスピードに、誤ってジャルの真ん前に出てしまった。
「何やってるんですか貴方は!!」
サーシャの声が聞こえる。
確かに間違ったのは俺だ。
多分もっと、岩をせりあがらせた状態で葵は戦いたかったんだろう。
”俺が最も得意とする戦場で”
だが、ここまで来たら……やるしかないだろ!!
ジャルが槍を振り下ろす。それに応えるように刀を下から振り上げる。
まじりあったその衝撃で、空気が震えた。
ぬあああああああああああああぁぁぁぁ!!!!
重い!めっちゃくちゃ重い!
腕がどうにかなってしまいそうだった。
かといって受け流そうとしたら、確実に腕一本は持ってかれる。
でも受け流さなかったら受け流さいで体を両断されそうな力だった。
これを!今だけでいいから子の重たい一撃を何とかしのぐ力を!
そう心から強く願った。
その時体に何かが宿ったような気がした。
とても暖かい、まるで人の心のようなものが。
俺は、その力を感じながら咆哮を上げた。
「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!」
どこからか湧いた、その不思議な力のおかげで、ジャルの槍をしのぎ切ることができた。
腕が痛い。腕をちらっと見るとところどころ内出血を起こし、皮膚の色が青黒く染まっていた。
だがそんな痛みを気にしている場合ではない。
ジャルはすぐに態勢を立て直すと、強烈な一撃をまたしても繰り出した来た。
それを、横に飛んで回避する。
その横に飛んだ時、頭の上でガラス玉が弾けるような音がした。
すぅっと腕の痛みが、引いていく。
どうやらサーシャが回復系統のクオーツを投げてくれたらしい。
「ありがとう!」
俺はサーシャの方こそ向けないが、大きな声でお礼を言う。
だが、次に返ってきた言葉は
「何がありがとうですか!さっさとこちらに戻ってきてください!葵さんの作戦通りじゃなくなっちゃいます!」
あ、やべ。
さっきの衝突で完全に作戦の事が頭から飛んでいた。
後ろから、殺気が二名分ほど伝わってくる。
だからといって、ここからジャルが逃げ出してくれるわけもなく、俺に隙を与えないように切り返し何度も何度も槍を突き出してくる。
それをあたるか当たらないかのすれすれの所で避けていく。
と、突然ジャルが戦い方を変えた。
ふいに突き出すのをやめたかと思った瞬間、自分の視界は反転していた。
柄を使って俺の足を払ったのだ。
ジャルが槍を持ち替え、俺の心臓めがけて振り下ろす。
その時だった、地面にたくさんの亀裂が走り地面が岩となってせりあがった。
俺はそのせりあがった岩にはじかれるように、空を飛んだ。
「ひろ君!言いたいことはいろいろとあるけど!!」
葵が空中を待っている俺に大声で叫びながらそう言った。
そして、
「準備できたよ!!思いっきり暴れておいで!」
空中から見えたその景色は、俺が最も得意とする戦場
地面が少なく、障害物が多く、死角ができやすいごちゃごちゃとした場所。
俺がジャルとやりあっている中で、どうやら準備してくれていたらしい。
そのまま岩を蹴りながら、ジャルの視界の入らずできるだけ遠いところで着地する。
本来葵が建てた作戦とは全く別の物になったかもしれないが、ここからは俺の仕事だ。
刀を鞘に納め、足に神経を集中させる。
呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる。
そして、
「頭義流抜刀術奥義、駆車!!」
地面をけった。
------------------------- 第52部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
限界突破
【本文】
地面からせりあがった岩を蹴り俺はジャルの方へと接近していった。
岩と岩の間隔が相当狭いので、岩を蹴ったらすぐにまた岩を蹴らなければいけなかった。
だが、それが俺の狙いだ。
色々なところから、足音をたててジャルを混乱させる。
そして最後に背後から、ぶった斬る。
この隠れながら相手をかく乱させ戦うことこそ、俺が最も得意とする戦い方だ。
この方法で負けたことは今の所一度しかない。
”グレゴリアス”
こいつだけだ。
だから人間相手には、必ず通用するはずだ。
場所を特定されないように、出来るだけ細かく不規則的に動いていく。
ジャルの近くまで来ると俺はその周りをまわるように動いた。
時には方向を換えたり、岩を一つ飛ばしたりして、かく乱していく。
でもこれだけじゃ…まだ足りない。
足に力を、全神経を集中させる。
小さな魔方陣がそこに形成され、俺の足を包みこむ。
「さてと…飛ばしていきますか!!」
足に今残っているすべての魔力を注ぎ込む。
俺らの時代では、こんなことができるのは俺だけだ。
魔力を注ぎ込むことで、自分の個性を強化することができるのは。
もちろん制限もあるし、使えば一時的に足が動かなくなる。昔はそれで死にかけたこともある。
だが、今はそんなこと気にしてはいられない。
そして俺は、その足でまた岩を蹴り風と一つになった。
洋一が駆車で岩に入ってからしばらくして、突然の烈風が葵たちを襲った。
その風で、体が少し浮きかける。
そこで皆の体が吹き飛ばないように、春香が三方向に岩をせりあがらせて一時的な避難所らしきものを作った。
その場に残っていた、葵、春香、サーシャの三人がそこに身を隠した。
「あの馬鹿!もしかして個性を強化して使ってんじゃないの!?」
そこに入ってすぐに春香が怒鳴った。
怒っているというわけではなく、どちらかというと心配のほうが多い声だ。
「個性の強化って何ですか?」
しかし、春香はサーシャのその質問には答えてくれなかった。
代わりに葵がその質問に答えた。
「個性の強化はね、偶然から生まれたものでね、私たちの時代ではひろ君しか使えないの。多分ね、春ちゃんが悔しがってるのはね」
「葵ちゃん、それ以上はやめて!」
春香が葵に向かって怒鳴る。
その言葉で葵も黙ってしまった。
子の三人は、この人たちの時代で何を体験してきたのだろう。
その疑問が、サーシャの中でモンモンと残った。
俺の足がこの状態でいられるのは、一分間だけだ。
それ以上は足が持たない。
だからその限界をまた超える前に一気に勝負をつけなくてはいけない。
一発の弾丸のように、狭い岩と岩の隙間を蹴ってはまたくぐっていく。
その光はやがて二つになり、ジャルの頭上を覆った。
光が突然二つに分裂したことで、ジャルの顔に困惑の表情が見て取れる。
攻めるなら今!
俺は、地面に着地するとジャルめがけて走り出した。
その風の速さのままでジャルに接近する。
「目ぇ覚ませ!ジャル!!」
俺は雄たけびを上げながら、ジャルに斬りかかった。
だがそれがいけなかった。
ジャルはその声に反射的に反応するように、俺に槍を突き立てた。
その槍は、俺の頭から体までを貫いた。
そしてその俺は、その体を岩へと変えた。
そう、戦いで普通そんな馬鹿なことはしない。
相手に接近するために、囮を使うことなんてよくあることだ。
だがやはり、お前にも俺の夢幻は見抜けなかったか。
正直な話、あんなバカでかい炎槍撃つから見抜かれると思っていた。
だけど、やっぱり中身はジャル、お前のまんまだったみたいだな。
突然俺が岩になったことで体の動きが止まったジャルに向かって上空から飛び出す。
さぁ、その呪縛から俺が今開放してやるぞ、ジャル!!
ジャルの背後から、俺は状相破斬で斬り伏せた。
今度は人ではなく、きちんとジャルの着ていた似合わない鎧めがけ、それを斬った。
その鎧は、その形を保てなくなり、そのまま宙に光のかけらとなって散った。
「風が……止んだ」
「どうやら決着がついたみたいだね」
葵がその言葉を発したと同時に、春香が自分で作った岩をこぶしで粉砕して、洋一のもとにかけていった。
「いいんですか?止めなくて。仮にもし負けていたとしたら……」
「それはないよ、だって二人の弱弱しい魔力がこっちに近づいてるから」
「このクソがーーー!!!!」
「ちょっと待て春香!俺今限界なんだって!」
「そ、そうですよ……それに僕も頭痛いですし」
「し・る・かーーーーーー!!!!」
鈍い音が響きこちらに向かって、ぼろ雑巾のような二人が飛んでくる。
それは、何度か地面に転がるようにぶつかった後、私たちの前で止まった。
「うわ……目も当てられない姿なんですけど…葵さん、これどうするんですか?モザイクつけときますか?」
「いや、回復しようよ……」
「し…死ぬ……」
そしてしばらくの間、俺らの回復でかなりの時間を使った。
サーシャはジャルにずっと回復クオーツを投げ続けるとかいう、雑な回復方法だったが。
そして、ようやく体がまともに動くようになった。
「いや~成功してよかった。個性の強化を使ったかいがあったよ」
「それで、春ちゃん心配させたら駄目じゃん。ひろ君」
「それは…まぁそうだな。すまん、春香」
春香は頬を膨らませてそっぽを向いて拗ねていた。
確かにあれは、春香にとっては相当なトラウマだと思う。
でも、使わなかったら、きっとこう放っていなかったと俺はそう思った。
あの反応速度ならきっと、夢幻を使っていたとしても即座に反応されていたと思う。
だから使ったことに後悔はしていない。
足はかなり痛いが、歩くくらいの事は出来そうだ。
「すみません皆さん…僕のせいで迷惑をかけてしまって…僕、兄さんと会ってから記憶がなくて…」
ジャルが頭を下げながら俺らに謝罪をした。
「気にすんな。今こうしてみんな生きてるんだからな」
「そうですよ、ついでに私との約束も忘れてもらっては困りますからね」
サーシャがそう言いながら、ジャルの頬をつねった。
え、約束?
「「「その話詳しく」」」
俺と葵と春香、三人が同時にサーシャとジャルに質問した。
「え、ただジャル君が私の護衛についてきてくれるって。まぁ私が守る側になりそうですけど」
「「「ジャル君……」」」
三人でジャルのほうを見る。
ジャルの顔は真っ赤だ。
「べ、別にいいじゃないですか!僕が誰と何の約束をしようかなんて!」
顔のにやにやがおさえられない俺ら。
「まぁそれは、一回基地に帰ってから聞こうじゃないか、さぁて」
「まさか、この兄から逃げ切れると思ってはいないよね?ジャル」
撤収しようぜという言葉を遮るように、その声は聞こえた。
俺ら全員が、その声をする方を見る。
そして、その光景に言葉を失った。
そこには自身の親の首を槍に突き刺したままで俺らに歩み寄ってくるジャルの兄がいた。
------------------------- 第53部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
VSルーク・マーリア
【本文】
人間の首が槍に串刺しになっているその光景は、見ているだけで頭がおかしくなってしまいそうだった。
そんな中で、初めに口を開いたのはジャルだった。
「兄さん……何を……してるの……」
声が震えている。
ここにいる人間は誰だってそう思うだろう。
あんなのおかしいに決まってる、と。
そして、ジャルの兄はその言葉の返答にこう答えた。
"邪魔者を消しただけだ"と。
「そうだろうジャル。憎かっただろう?辛かっただろう?この薄汚い豚のように腹の出た使えないクズを相手にするのは」
相してジャルの兄は槍の先端、首が刺さっている方をこちらへ向けた。そこには、この前、ジャルの事を散々コケにしたジャルの父の首が突き刺さっていた。
「確かに、父さんの相手をするのは辛かった……、でも兄さん!殺すのは間違ってる!!それだけは……それだけは、やっちゃいけないよ……」
悲痛な思いをジャルが叫ぶ。だが、その声は届いていないようだった。
「せっかくジャルの為にやったことなのにそれを否定するのかい?……昔は素直でいい子だったのに……そうか、そこにいるゴミと一緒にいるからそんな考えを持つんだ、だったら」
その瞬間、ジャルの兄はその場から姿を消した。
そして、足がほとんど動かない俺の背後にその姿を現した。
「まずは、仕留め損なった君から殺すとしよう」
その場にいた誰もが反応できないスピードだった。
そして、その手に持った槍を俺の頭に向かって突きつけた。
しかしそれを受け止めた者が二人いた。
「全く……これだから洋一は私たちを未だに呼び出せないのです」
「お姉様の言う通りです。少しは私たちを使えるようになろうという意識をもって欲しいものです」
「水連!風華!」
黒の神器、水連、風華。その姿を見るのは久しぶりだった。
二人はその槍を弾き返すと、俺のそばについた。
どうやら俺を守ってくれるらしい。
「…黒の神器…か。君は面白いものを持っているんだね。……成る程…」
そう言うと、ジャルの兄は崩れたその体制を立て直し、槍を構え直した。
「狩り甲斐があるじゃないか」
背筋が凍るような殺気を感じた。
このままだと間違いなく、この場から動くことのできない俺は殺される。
いや、だからだろう。こいつらが出てきたのは。
主を失っては困る、と言うところだろうか。
「そこの二人の神器使い、いい加減に力を開放なさい。今のままでは、あの男にはまず勝てませんよ」
風華がそう口にした瞬間、葵の右腕にリクリエイサー、春香のこぶしにはペラネルが瞬時に現れた。
そして、それは水連と風華と共鳴するかのようにまばゆい光を出して光りだした。
その中の一つ、葵のほうを見て風華はなぜか顔色を変えた。
だがすぐにいつもの表情に戻ると、いつものでぃすってくるその口調で俺に命令した。
立ち上がって戦えと。
出来るならばそうしたい、だが足が個性の強化を行ったせいで思うように動かないのだ。
「……あなたの真の個性を使えばいいじゃないですか……」
「……真の……個性……?」
無理矢理にでも立ち上がろうとしているところに、風華がそうつぶやいた。
「……いえ、失言でした。お気になさらずに、それよりも今は集中してください。今私たち黒の神器を中心にほかの二人との意識の共有しますから」
「意識の共有!?何その新しく追加されましたみたいな機能」
「……お姉様、この馬鹿が何を言っているのか全く理解できません」
「仕方ないわ風華、だって本当に馬鹿なんですもの」
こ、こいつら……。
戦闘中じゃなかったら間違いなく地面に叩きつけてやるところだが、そんなことを考えている場合ではない。
とりあえず、意識の共有とか言ってたからもしかしたら念話みたいなことができるのかもしれない。
試しに葵と春香の名前を脳内で唱えてみる。
すると
”わわっ!?”という声と"…え、なに?キモ…”という二つの声が響いた。
どうやら本当に念話ができるらしい。
というか春香キモイはないだろキモイは。
”悪かったね!そんなこと言って”
と殺意にまみれた返事が脳内で響く。
わぁーこの状態の時何か考えただけで相手にその考えが伝わるんじゃん……。
ということは……隠していることが何もかも共有されちゃうのこれ。
「風華さん!?なんでこんな大事なこと早くに伝えてくれないかな!?」
「あなたが呼び出せないのが悪いんですよ、この無能のクズが」
「辛辣ぅ!!」
「…神器使いが三人…か。面白い、相手にとって不足はない」
ジャルの兄がそう言いながら、槍を頭の上で振り直しもう一度構えなおした。
そして不敵な笑みを浮かべると、
「さぁ……僕と……遊ぼう!!ジャル!!」
そう言い放ち、こちらに向かってきた。
------------------------- 第54部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
サーシャの本気
【本文】
ジャルの兄は、不敵な笑みを浮かべたまま俺らに向かって走り出した。
相手は槍だ。武器のリーチで今の所あいつに勝るのは、サーシャと同じ槍のジャルだけだ。
他にも魔法を使えば、何とか攻撃できるかもしれないが、相手は上級魔法の氷属性を使ってくる。
だから間違いなく、俺らが予測できない魔法を使ってくる。
だからできるだけ接近戦でねじ伏せなければいけない。
だからと言って、近づいて簡単に倒せる相手でもないのもまた事実だ。
実質さっきは、水連と風華に助けられたわけだし……。
それに今の俺は、足がほとんど動かない。
この状況で……どう戦う。
「春ちゃん!」
「わかってる!」
葵が春香に向かってそう叫ぶと、春香は地面を数回殴ると、後ろに下がった。
そして、地面を軽く一回叩くと、その腕を高く空に突き上げた。
地面が大きく揺れ、先程とは日にならないほどの大きさの岩の塊がいくつもせりあがった。
その無茶苦茶な光景に思わず釘付けになる。
「ちょっ!?なにこれ!?」
だが、驚いているのは出した当の本人も同じようで春香は大きく目を見開き、この岩の塊を見ていた。
「サーシャちゃん!ジャルさん!お願いします!」
葵も顔には驚きの表情を浮かべているが、すぐに次の指示を出した。
サーシャはこの一言で納得したようで、そのままこの岩の塊をのぼっていった。
1人指示内容がわかっていないジャルは、助けを求めるように俺のほうを見た。
「洋一さん~」
「いや、突っ込んで連携して足止めしてこいってことだと思うけど。まぁさっさと行ってこい」
俺はそういうと、ジャルの足元にギアの魔法陣を展開させた。
それに驚くようにジャルはあたふたしたが、そんなことはお構いなくジャルを上空に飛ばした。
「ちょっと待ってええぇぇぇぇ~~~~!!」
そして、そんなことを叫びながらジャルはせりあがった岩の塊の山を越えていった。
……大丈夫だよね?落下死だけしないように心の中で祈る。
さすがにそれはないと思うが……。
そんな感じで飛ばしておいてなんだが、ジャルの事を少し心配していると、少し離れた場所にいた葵と春香が駆けよってきた。
「ひろ君、足はどう?」
「……正直、立つのがやっとだ」
「はら、掴まって」
春香が俺に向かって手を差し伸べる。
その手を握り、引っ張られてようやく立ち上がる。
だが、足元がおぼつかず、春香が手を放してしまえば今にも倒れてしまいそうだった。
そんな動かない自分の足の事を、少しほど恨みながら、せりあがった大きな岩の塊を見上げた。
きっと今、あの二人はこの向こう側で……戦っている。
「ぬあーー!!」
「あいっ変わらず、役立たずですね!ジャル君!」
そのころ、洋一たちの反対側の壁の向こうではジャルが、ルークから飛ばされる氷塊を走って逃げ周りながら避け、サーシャが隙をついて攻撃をするというのを繰り返していた。
普通はここで男を見せるべきなのに、逃げ回っているジャルの事を冷たい視線で見ながら、サーシャは目の前の敵に集中した。
この男さっきから私のクオーツを喰らっておきながら、まったくひるむ様子が見られない。
普通なら、あの威力の爆発系のクオーツを喰らえば私の方を警戒するはず。
なのに、あの男はこちらには目もくれず、ジャルばかりを狙って攻撃を繰り返していた。
正直、サーシャは何かの人形のようなものと戦っているようなそんな気さえした。
そして、そんなことは人生で一度しか体験したことがない。
……だが、まさかそんなことがあるはずがない。
仮にもジャル君はあの男を兄と呼んでいるのだ。
この考えは捨てよう。そうしたほうが、気が楽だ。
それよりも、この男をどうすれば足止めできるのか考えないといけない。
そのためには、私の知恵だけでは足りない。
氷塊から逃げ回る、ジャルに向かって指に装着したペンデュラーを投げ紐でぐるぐる巻きにして、こちらに引き寄せる。
「大丈夫?」
「……助け方ひどすぎですよ…サーシャさん…」
「ま、そんなことは後回しですよ。ジャル君何か秘策とか持ってたりしますか?」
「…秘策?」
そう言うと、ジャル君は少し腕を組んで考えた後、こくりとうなずいた。
「一つだけ…正確に言えば、今日ラスト一回だけ使える技があります」
そうこうしている間に、ジャルの兄が氷塊を飛ばしながらこちらに迫ってきていた。
もう話し合っている時間もなさそうだ。
「…じゃあ、それで行きましょう。どうすればいいですか?」
「できるだけ、広いところに誘導してください、そうすればあとは……何とかして見せます」
広いところ……。
サーシャは目だけを動かし、周りを確認した。
どこも見た感じ、先程春香が出した、岩だらけだった。
「…わかった。じゃあこちらで何とかするからするから、お願いね」
「もちろんです!」
そう言うと、ジャルはその場からどこか違う場所へと、移動していった。
ジャルの兄もそれを追うように向きを変える。
だが、そんなことは私が許さない、ユーリュとしての名がそれを許さない。
ごめんね、ナタリー。少しだけ、本当の私に戻るね。
全ての指にペンヂュラーを装着する。
その瞬間、先程までの私はいなくなる。
そして、ジャルの後ろを追うルークに向かって、すべてのペンデユラーをぶつけた。
その攻撃で、ようやく敵の足が止まる。
「あなたの暗殺依頼はきてないけど……ごめんね、ジャル君には悪いけど……」
ここで、殺すね。
そして、サーシャは指を鳴らした。
その瞬間、その周辺全てをサーシャは爆破した。
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【サブタイトル】
人から魔物へ
【本文】
春香の魔法でせりあがった巨大な岩の向かい側で、今までの中で聞いたこともないほど大きな爆発音が響いた。
今のは…サーシャだろうか。
あいつ一体何個のクオーツ投げ込んだんだよ。
だが、裏を返せばそれくらいの事をしなければ勝てない、またはそれほどの量を使わなければいけない理由があるのだろう。
今はろくに動くことのない両足で、葵たちに支えられながら、俺は高くせりあがった岩を見上げた。
僕は確かに広い場所に誘導してくれって頼んだ。
そう……確かに頼んだ。だけどさ、
「これはやり過ぎじゃないですか!?」
先程サーシャと会話をしていた場所には、もう地面がなかった。
ぽっかりと、そこが見えないほどの大穴があいていた。
「サーシャさん!無事ですか!?」
そう叫ぶが返事は返ってこない。
まさか自分の爆発に巻き込まれた…?
「ケホッ……勝手に殺さないでください」
「うわあああああああああ!!」
後ろから砂埃まみれのサーシャに話しかけられ、思わずその反対方向に飛んでしまい、穴に落ちかける。
そんな落ちそうな自分を、サーシャが腕をつかみ引っ張り上げた。
「何馬鹿なことしているんですか。死にたいんですか?」
「いやいやいや、ふつうあんな爆発があれば、巻き添え喰らってもしかしたら……って」
「あ~足が滑った~」
突然、サーシャに大穴の方に思いっきりけられ、落ちかける。
「ちょっと!?何してくれるんですか!?」
「私は!あんなので!死んだりしませんから!それよりも!後の事はよろしくお願いしますよ!ジャル君!」
そう言うと、サーシャはその場から離れていってしまった。
「よし………!!」
ジャルは気合を入れなおすために自分の両手で顔をたたいた。
そして、自分の槍を強く握りしめると、地面に魔法陣を展開した。
先程の爆発を回避できたのは、実をいうとたまたまだ。
実は、少し前にジャルに向かって爆発系のクオーツを投げた時に、緊急時にすぐにとらえられるように同時に転移系のクオーツを仕込んでおいたのだ。
まさかこんな形で役に立つとは思ってはいなかったけれど。
実際、私の個性を使えばどうにか出来はしたかもしれないけれど……多分そんなことをしたら、空間から出てきたところで奇襲を仕掛けられ、最悪は殺されていただろう。
………この方法、離脱法としては最高かもしれない。これからもそうしよう。
そんなことを考えつつ、先程爆破したところで足を止める。
一応殺すつもりでやったけど……まぁ手加減したし、体くらいは残ってるだろうな。
そう思いながら、今もまだ煙でよく中の見えない爆破後の穴を覗き込む。
やはり、目だけで見るのは無理そうだ。
私にも魔力が人並みにあれば、魔力探知とかできるのだけれど。
そんなことを言っても始まらないので、風属性のクオーツを投げ込んで煙を吹き飛ばそうと試みる。
腕を振りかぶり投げこもうとした瞬間、煙の中で少しだけ色が違う場所を見つけた。
少しだけ、色が濃い。
本能的に伏せた。
その刹那、頭上を氷塊が通り過ぎていった。
あの爆発を耐えきったのか?
いや、ありえない。
あれは、私しか持ってない特別に作ってもらっているクオーツで、ふつうの爆弾の役割はもちろん、魔力で作られたものを壊すことができるように調整してある。
だから、たとえ氷属性を持っていて氷で体を守ろうとしてもシールドを張ったとしても、意味がない。
……実際使うには、特別な許可がいるんだけどね!
まぁそこはおいといて……それくらいの危険物だから、手加減をしたといえど体が動かなくなるくらいのダメージを負わせることはできるはずなのだ。
それなのに……魔法を使って攻撃ができるということは、相当余裕があるらしい。
一応姿だけでも確認しておくかな。
そう思い、攻撃されないような場所に移動して、今どのような状態になっているのか確認する。
しかし、それを見た瞬間声を上げそうになった。
そこには、肌が完全に焼けただれているのにもかかわらず、立ち上がり大声で笑う、人間のようなものがいた。