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46話~50話まで

本編にも評価やブックマークしてね!!(がめつい)

------------------------- 第46部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

氷の槍騎士


【本文】

それから数日の間、体を休めるためにできるだけ戦わないようにした。

ジャルの案内のもと全員でフリーテを観光したり、買い物したり、ジャルとサーシャを二人きりにしてみたり……と様々なことをした。

その度に、全員の中が深まっていくようなそんな気持ちになった。

しかし、そんな楽しい時間はいつまでも続かなかった。

それはある日の夜だった。

今日の出来事を肴に皆で宿でドリンクを飲んでいると、金属甲冑を着た複数人の男たちが突然入ってきた。

その光景に、宿にいた全員が何事かとその男たちを見る。

その男たちの中から一人、一歩前に出て何かが書かれた紙を前に突き出して、こう叫んだ。


「ジャル・マーリアに告ぐ!これより貴族連合の会議があるため出席されよ!」


ジャルの名前が呼ばれたとたん先程まで笑顔だったジャルの顔が曇った。

そして、そのまま顔を下に向けた。

ジャルの事も気になったが、それよりも聞きなれない言葉に興味をひかれた。


「…春香、貴族連合ってなんだ……」


春香の肩をたたき、小声で尋ねた。


「…私たちの軍と考えの違う、頭の固い奴らの集まり…みたいな感じ」


うん、こいつに聞いた俺が馬鹿だった。

今の情報だと、とりあえず、敵対してる集団としか取れない。

ならここは、サーシャに聞くのが一番か……。


「…サーシャ、貴族連合ってなんだ……」


先程の春香と同様に肩をたたいて尋ねてみた。


「…………」


だが全く反応がない。


「…サーシャ?」


「……え……あ、あぁ……貴族連合についてですか?……正直話したくないです……何も…」


その声は、今までに聞いたことがないほどの殺意、憎しみに満ちた声だった。

この空気で、サーシャに聞くことができるはずもなく、とりあえず周りを見てどんな印象を持たれているのか、人々の顔を見た。

そのどの人の顔からみても、好印象を持たれてはいないようだった。

とりあえず、こいつらは最悪な集団であるということだけは理解できた。

あながち、春香の説明も間違ってはいないようだ。

つまりはこうだ。

軍、春香が所属している団体は市民のために動いたり、国のためになるようなことをすることが多い。

変わって貴族連合、おそらくジャルが所属しているであろう団体は、独裁的な行動をすることが多くこちらのことなどお構いなしという具合だろう。

もし、本当に俺の考えた通りだったら最悪だけどな……。


「……ここにはいないか…ちっ…行くぞ」


その男は、誰にでも聞こえるように大きな舌打ちをした後、そのいら立ちを近くにあった机にぶつけた。

その机が宙を舞い、近くに座っていた人たちにぶつかる。

その光景が信じられなかった。

人を救うはずの立場の人間がそんなことをしているのが。

だから、このまま黙っていることができなかった。


「おい、待てよ。さすがにそれはないだろ」


立ち上がり、先程机にあたった兵士を呼び止めた。


「あ?んだ坊主」


「さっきの物にあたるのはどうかと言ってるんだ。それに他人を傷つけただろ。謝れよ」


「ちょっと!ひろ!何馬鹿なことしてんの!謝って!早く!」


「なんでだよ!俺は何んも間違ったこと言ってないだろ!」


春香が俺の頭を掴み無理やり下に下げようとする。

だが、今回ばかりは春香の思う通りになるわけにはいかなかった。

俺は、頭を掴まれた腕を無理矢理ほどくと、その男の前まで足を進めた。


「仮にも人を守る立場にある人間だろ。そんなことしていいのかよ」


俺が、その男にそういうと後ろにいる兵士たちが笑い始めた。

多分だが、相当馬鹿なことしてるぜこいつ。みたいなことでも思ってるんだろう。


「おい、坊主。今ならまだ謝れば許してやるからさぁ……もちろん、頭を何度も地面にこすりつけながらだけどなぁ!」


目の前の男も俺にそういうと笑いだした。

何なんだこいつらは、人を大切にしようという心がないのか?

当たり前のように人をゴミのような目で見てくるこいつらに怒りを覚えた。

だから、気づいた時には……手を出してしまっていた。

俺は近くにあった椅子を持ち上げると、その男の顔面めがけて殴りつけた。


「調子にのんなクソガキ!」


椅子で殴られた顔をおさえながら、怒りの声をあげ俺に殴りかかってきた。

だが、そこで確信してしまった。

こいつらは弱い、と。

殴るにしても剣を使うにしろ、どんなものにでも基礎基本がある。

この男はそれを守っていなかったのだ。

しゃがんでそれをかわすと同時に足でその男の足を払う。

その男は宙に浮くと、そのまま情けない恰好のまま顔面を地面に打ち付けた。


「……よっわ……こんなので連合って……」


あまりの手ごたえのなさに、思わず口に出してそう言ってしまっていた。

もしかして、ケルミン並みに弱い?

そんなことすら、頭に浮かんでいた。


「あぁもう!ひろ!逃げるよ!」


春香がそう叫んだ


「逃げる?なんで」


「騒ぎを聞きつけた会いたくない連中が来るからに決まって」


「それは……僕の事かな?」


宿の入り口から、声がした。

そちらを見ると、長槍を持つ茶髪の長身の男がいた。


「……なんだ、ジャルいるじゃないか」


「………兄さん……」


ジャルはその男を見てそう言った。

じゃあこの人が、ジャルのことをあの屋敷で守ってくれていた人なのか。

なんだ、そんな悪そうな人じゃないじゃん。なんで逃げる必要が…

そう思い、春香の方を見る。

だがその顔は、決して味方を見ているような感じではなかった。

明らかに敵意だ。


「……君たちが、ジャルの事を言わなかったのかい?」


「……え、いや。ただ本人が明らかに行きたくなさそうな感じだったから」


「そっか………じゃぁ、死んでくれ」


その言葉と同時に、俺の真上に鋭くとがった氷塊が複数出現した。


「ひろ君!」


葵がそれを見て、俺を自分の近くまでテレポートさせる。

それと、地面に氷塊が刺さるのが同時だった。


「氷魔法!?そんなのありかよ!」


「転移魔法…なかなか面白い魔法を使う子がいるんですね……」


「葵さん!ほかの皆も!私の近くに来て!飛びますよ!」


サーシャがそう叫んだ。

その場所に急いで走り寄る。

だが、ジャルだけがその場から動かなかった。


「ジャル!早く来い!!」


ジャルの方に手を伸ばす。

だが、その手をジャルが取ることはなかった。

サーシャはこのままだとまた攻撃を喰らうと考えたのか、何かのクオーツを取り出すとそれを地面にたたきつけた。


「ジャル!」


もう一度、その名前を呼ぶ。

だが、その声がジャル本人に届くことはなかった。

次の瞬間、俺らは狩りの時に訪れた軍施設の中にいた。


------------------------- 第47部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

戦いの始まり


【本文】

「……ここは……」


「軍の基地内じゃない…サーシャちゃん、どうやってここに……」


「あの時撤退用として裏で準備していたものが、こんな形で役に立つなんて……」


「みんな……足元」


「「「え?」」」


葵が俺らの足元を指さしている。

その指の指す方、自分の足元を見てみる。

偶然だったんだろう。

そこには、俺と春香、サーシャに踏みつぶされ下敷きになっている、友恵がいた。


「……あんたらは……私になんか恨みでもあんのか!」


「いや、偶然だし!それなら、サーシャに言えよ!って今はそれどころじゃない!」


「なに私だけ悪者扱いしてるんですか!傷つきます!」


そんなことを言うサーシャを置いといて、俺らは先程あった出来事を友恵に話した。

その間に春香は軍の何人かの人間を集めて、どこかの部屋に行ってしまった。

俺の話を聞き終えた友恵は小さな溜息を吐いた。

そして、俺のほうを見るとこういった。

”馬鹿野郎が”と

俺にはわからなかった。

確かにさっきは危なかったが、自分は間違ったことはしていないとはっきりと言える。

なのにどうして、ここまでいろいろな人に非難されなければいけないのか、それが俺にはわからなかった。

ただ、なぜ俺が責められなければいけないのかを考えていると、キーちゃんがとことこと一杯の水を持ってきた。


「…これのんで!」


両手に持っていたコップを俺の目の前に差し出す。

だが今は、自分がなぜ責められなければいけないのかということで、それを受け取る気にはならなかった。

そうしていると、俺の目の前から、コップが消えた。

その代わりに、頭に冷たい何かをかけられた。

顔を上げると、キーちゃんが俺の頭の上でさっきのコップを逆さまにしていた。


「…おちついた?」


あまりにもその以外すぎる行動に、口をぽかんと開けているとキーちゃんが俺の手を取って言った。


「…だれもお兄ちゃんをせめてないよ。ただね………、よていがぜんぶぱぁになっちゃったから」


そう言うと同時に、春香が先ほど入った部屋から出てきた。

何かを決心したようなそんな顔をしていた。

春香はそのまま、壁沿いに歩きその壁にある何かのボタンのようなものをこぶしで殴った。

すると、大きな音で警報が鳴りだした。

それを合図とするかのように、扉をバタンバタンと開閉する音が響き渡り、五分後にはここにいるであろう軍の関係者全員が集まっていた。


「皆!そこのクソ馬鹿がやらかしてくれたせいで、予定にはなかったが、貴族連合に真っ向勝負を仕掛ける!武勲を上げたい奴は今から出るぞ!」


春香がそう叫ぶと、集まっていた人ら全員が雄たけびを上げ、出撃するための準備をし始めた」

そこ光景に驚かされていると、キーちゃんが俺に向かって笑って言った。


「…ね?だいじょうぶでしょ!」


つまりはだ、こういうことだ。

前々から、このフリーテの貴族連合をどうにかしようと作戦を立てていて、今回はたまたまこの大陸の救援に来て、後は帰るだけだったところをどうやら俺がさわぎを起こしてしまった。という具合だろう。

つまり、皆が俺に馬鹿野郎というのは、お前のせいでで今から攻めなくちゃいけないじゃんか!馬鹿野郎!

ということだった。


「ほら、ひろも葵ちゃんも準備して!あんたがやらかしたんだから、私と一緒に敵陣の本拠地に突っ込むよ!」


「本拠地?そんなのジャルが案内してくれた時はどこにも……」


そうだ。本拠地に突っ込むといったものの、そんな場所ここ数日で見ていない。

だが、俺の質問には答えずに春香はまた次々と指示を出していった。

中にはこんなのもあった。


「友恵、キーちゃんを頼めるかな?」


「私にか……。はぁ、今日も寝れなさそうだなぁ」


小さな溜息をつきながら、やれやれという感じでそのままキーちゃんの手をひいてそのままある部屋に入っていった。


そして、軍の全員の準備が整った。

この軍の隊長が腰に差した剣を抜き放ち、外をさす。


「行くぞおおおおおおおおおおおお!!!」


「おおおおおおおおおお!!!!!!」


その雄たけびとともに、隊列をなした兵士たちが勢いよく外へと飛び出していった。


「さぁ、行くよ!案内は私がするからついてきて!」


春香が俺らにそういうと、春香も外へと飛び出していった。

俺らは、そのあとを追った。





「…また、たくさんのひとが……しんじゃうね……。友恵姉ちゃん……」


部屋に戻ると、キーちゃんは隠していた恐怖心を表に出して、私の胸に顔をうずめた。

人が死ぬということは確かに怖い。

私も……大切な人をたくさん殺されたから。

優しく、キーの頭を撫でていると、入り口の方から、扉が開く音がした。

誰かが帰って来たのかと思い、キーちゃんを部屋に置いて、入り口のホールへと行くと、そこにはあの時に一緒なったグライがいた。


「なんだ…グライか。びっくりさせないでよ」


「……………」


グライは何も言葉を発さなかった。


「グライ……?」


「悪いな………あんたらに恨みはねぇが……」


そう言うと、腰に差していた、銃を取り出し私めがけ発砲した。

その弾が頬をかすめる。


「………死んでくれ」


------------------------- 第48部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

赤き眼光


【本文】

春香に手招きされるがままに、そのあとをついていく。

まだあまり騒ぎは大きくなってはいなかったが、遠くの方で男どもの雄たけびやら叫び声が響いた。

多分、捕まえてやったぜみたいなテンションで今頃盛り上がってるのではないんだろうか。

そんな、ほかの事を考えながら走っていると、春香が足を止めた。

目の前には、金属甲冑に身を包んだ兵士。

おそらくは貴族連合側、敵側の人間だろう。

相手は、持っていた長槍を体で支えるように持つと、俺らに向かってそれを突き出した。

だが、やはり遅い。

本人はまじめに戦っているのであろうが、その甲冑の重さのせいで動きが鈍くなっていた。

そして、そんな隙を俺らが見逃すはずもなく、


「あんたたち邪魔!」


春香は相手の懐に潜り込むと、自慢のこぶしでその甲冑を殴った。

ズン、と重たい音が響く。

みれば、その甲冑にひびが入っていた。

その殴られた兵士は、そのままお腹を抱きかかえるかのような態勢で泡を吹きながら倒れた。


「おっかねぇ~」


味方ながらにそう思う。

あんなの喰らって生きてる人間なんて………あ、俺か。

そういや、思いっきり殴られたな、うん。

あ、こんな時だけどめっちゃ腹立ってきた。


「春香、殴らせろ」


「……は?」


「いや、なんか急にむかついたから」


「ざっけんな!」


そしてまたお腹に春香からの重たい一撃を喰らう。

肺の中の空気が一気に外にはきだされる。


「……あの……俺ら……味方」


「知るか、バーカ。ほら皆、行きましょう」


俺を連れて行く気はないんですかね!?

と、言うか俺が問題起こしたから、必然的に行かなくちゃいけないんですけれどもさ!

めちゃくちゃ痛い腹を抱えて立ち上がる。

そして、俺が立ち上がったのを確認したと同時にまた春香は走り出した。

きっとあいつには、やさしさというものが欠けているに違いない、そう思わざるを得なかった。



この後何度も貴族連合の連中に出くわした。

それを春香が近接で、葵が魔法で、サーシャがクオーツによる爆発援護で次々と蹴散らしていった。

あの、俺の出番がないくらいにこの子ら強いんですけど。

皆離れ離れになってる間に、強くなり過ぎじゃね?

もしかして成長してないの、実は俺だけだったりして………。


「ついたよ」


悶々とそんなことを考えながら走っていると、春香が足を止めそういった。

いったい、敵の本拠地とはどんなところなのか。

その姿を、視界に入れた。

だが、そこにあったのは数日前に見た光景。

大きな鉄格子の門があり、一本の大きな道がその豪邸の入口へと向かっている。


「ここって……ジャルの家じゃねえか……」


「そう、ここ貴族マーリアの家こそが、二ケア大陸貴族連合の本拠地。ひろがジャルと戻って来た日に聞いたのよ。本人は全部話してくれたから、こうして来れたわけだけれども」


それってあれだよな。お前が俺の事顔面ぶん殴って気絶してる最中の出来事の事だよな?

そう言う大事な話が効けてないのは、いつもお前のせいなんですけど!こんちくしょう!


「んで、ジャルは私の予想だと多分手招きするために残ってくれたんじゃないかなって……期待してたんだけどなぁー」


春香がため息を漏らしながらそんなことを口にした。

期待していた、という言葉に何かがひっかっかった。

もう一度屋敷を見る。

そこには今まで見たこともないような恰好をしたジャルが、赤い眼光を発しながらたたずんでいた。


------------------------- 第49部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

身も心も闇に染まって


【本文】

ジャルは俺らの目の前に立っていた。

赤いその眼光を光らせ、手には槍を持ち俺らを見据えていた。

今までのジャルと何かが違うような気がした。

そう、まるで中身が別人のようなそんな気が。


「敵対するなら仕方ないね。一発ぶん殴ってくる」


そう言って、春香がジャルの方へとかけていった。

だがその間も何かが引っ掛かっていた。

何だろう、このもやもやは。ただ、ものすごく嫌な予感がするのだ。

春香がジャルに近づくにつれて、ジャルも春香と戦う態勢をとる。

だが、その構えはいつものような構えではなく、槍を今にも突き出そうとする構えだった。

その槍にジャルが炎をまとわせた。

ここ数日でジャルのそんな戦い方見たことがなかった。

俺は危険を感じ、個性のギアを使い春香の腕をつかみ、そのままできるだけジャルの視界に入らない場所まで地面をけった。

そして、すぐさま切り替え葵とサーシャを回収しに行く。

その時、ジャルはその手に持った炎をまとった槍をこちらめけて振りかぶった。

葵と、サーシャを掴んで、ギアを使って上空に飛んでかわした。

ジャルの手から離れたその槍は地面をえぐりながら門を壊し、そのまま止まることなく飛んで行った。


「おいおい……冗談だろ……」


空中から、春香のいるところへ二人を連れて着地して、掴んでいた二人から手を離した。

サーシャはあまりのも突然高いところに飛んだものだから、泡を吹いて気絶していた。

そういや忘れてた……サーシャって高所恐怖症だった。

失敗した。あそこで、横に飛んでいればこんなことにはならなかったかもしれなかった。

だが、横に避けていればきっとあの槍に巻き込まれ三人とも死んでいただろう。

そう思うとぞっとした。

そして、それとともに確信で来てしまった。

あそこに立っているのは、ジャルであってジャルではない別の人物なのだということを。


「どうするの?今のジャルさんと戦うの?私は反対するよ。こんななにもまとまってない状況で攻めても無駄死にするだけだから」


「じゃあ、あのまま放っておけってか葵!そんなことしたら、ここに住んでいる人たちがたくさん死ぬぞ!」


「私たちが死ぬよりかはいいじゃん!」


「それじゃ昔と何も変わんねえだろ!」


「そっちこそ!全く変わってない!危険なんだよ!無謀すぎるんだよ!?」


「ちょっと!二人とも!今そんなことで争ってる場合じゃ!」


また一本、今度は炎をまとって一本こちらに向かって飛んできた。

春香が、地面をこぶしで力いっぱいたたいた。

すると、地面から石壁のようなものが自分たちの前に複数現れた。

槍は、それにぶち当たると、その壁を何個か突き破り、そして最後の石壁の所で、その勢いが死んだ。


「来るよ二人とも!」


もうジャルは、数メートル先まで歩み寄ってきていた。

やるしかないのか……。

覚悟を決め、俺は刀を引き抜いた。


------------------------- 第50部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

VS赤眼のジャル


【本文】

とりあえずは、今のジャルの戦い方を見なければ何も始まらない。

今の所ジャルが見せた攻撃パターンは槍に炎をまとわせて、それを相手に向かって投げる。ただし、これがどこまで飛んでいくかは皆目見当もつかないという、今までのジャルからは全く想像できないものだった。

今までは、必死こいて魔法を詠唱して、その魔法を敵にぶつけるというのがジャルの本来の戦い方だ。

こんななれない戦い方をするほどジャルも馬鹿ではないはずだ。

ということは、今自分が持ってる違和感とこの考えから推測できることは一つだ。

”何者かの手によって操られている”という可能性だ。

いや、そうとしか考えられない。

だって……こんなにむちゃくちゃな戦い方ができるのなら、ジャルの父親にあんな態度はとられないはずだから。

鼻と目の先まで迫ってきていたジャルが俺に向かって慣れた手つきで槍を突き出した。

それを横に飛んでぎりぎりでかわす。

その突き出された槍を、今度はうんと大きく振り回した。

柄の部分が腹を直撃し、後方へと吹き飛ばされる。

あまりの攻撃の重さに、呼吸することが苦しくなった。

口からは、苦い鉄の味がする。

思っていた以上にこれはやばい。

操られているだけじゃなくて、完全に強化されてる。

どうにか対処しないと、まずこっちが全滅する。

春香のほうを見る。

俺同様に吹き飛ばされてはいたが、どうやら俺よりかはいいものを着ていたらしく、俺の方にお逢いと一緒に駆け寄ってきた。


「だから、言ったじゃん!」


俺の所に来た葵からは、涙声で怒鳴られる。

俺の近くに座ると、すぐに回復魔法をかけ始めた。

ようやく、苦しかった呼吸が少し楽になった。


「……すまん、葵の言ったとおりだわ。あれとはまともにやりあえん」


「…でも、やるんでしょ」


回復させながら半泣きの状態でそう聞き返してくる。

どうやら俺の事は何でもお見通しのようだった。


「もちろん。だってジャルはもう仲間だからな」


そう言って、まだ少し苦しかったが立ち上がる。

立ち上がった視界の先には、ジャルがこちらに向かって歩いてきているのが見えた。

さて、どういう戦い方で行けばいいのやら……


「葵、なんかいい案ない……」


葵に何かいい作戦がないか聞こうとしたその時、ジャルに向かって何かが投げられた。

そして、それはジャルの体にあたると同時にその周辺を盛大に吹き飛ばした。

その何かが飛んできた方向を見る。

そこには先程まで気絶していたサーシャがたっていた。

多分今投げたのは爆発系統のクオーツだろう。

でも今まであんな威力の物は見たことがなかった。

今度はこちらの方に向かって、クオーツを投げてきた。

それが地面に着弾したと同時にサーシャが目の前に現れた。


「なんで急に飛ぶんですか!心臓に悪いです!」


「いやいやいや、今のクオーツ俺はてっきり爆発系のクオーツかと思ってそっちの方でひやひやしたんだけど」


「とりあえず、後で迷惑料+今まで払ってない料金分請求しますからね!」


「それ今言うか、ふつう」


「あ、じゃあ私もそれに便乗しようかな~」


「じゃあ私は後で殴らせてね、今日の迷惑料はそれでいいから」


「…………まぁ今はその話は置いといて……なんかいい案ないか?」


「う~ん……やっぱり、操られてる可能性を考えるとそっちを探したほうが早いんだけど、なんか違う気がするんだよね……なんか別人のような……そんな感じが」


別人……か。

確かにその言葉のほうが的確かもしれない。

そうだ、今のジャルにはジャルらしい動きがない。


「じゃあその線で考えた時、どうする?」


「…気絶させる……かな?どちらにしても、一回どうにかして、捕まえる必要がありそう」


「葵ちゃん…それ本気で言ってる?」


「よし、指示は出すから三人で何とか連携して戦って。少し試したいこともあるから」


その時、サーシャが爆発した地点から炎柱が上がった。

そしてそこから、ジャルが傷ひとつもなしに姿を現した。


「四の五の言ってる暇はなさそうですね」


「そうだな、今は葵の指示に従ってみますか。じゃあ司令塔、よろしくな!」


「うん、それじゃあ…いくよ!」


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