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31話~35話まで

------------------------- 第31部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

想定外の結末と、絶望的な戦局


【本文】

俺が今使える抜刀術の流派は頭義流(かしらぎりゅう)三嶋流(みしまりゅう)の2つだ。

基本的に使うのは三嶋流抜刀術、これは過去に来てから師匠に教えてもらった待つ抜刀術だ。

あまり攻めずに、相手の隙をついてそこ穴を突くのがこの流派。

あまり時間がなくて、全てを体得することができなかったものだ。

そしてもう一つ、頭義流抜刀術。これは…


「行くぜぇ~!ブラザァ~!!」


「っ!!!」


瞬間的に距離を詰められ、刀と短刀が激しくぶつかり合うけたたましい音が耳元で響く。

相手が片腕になったとはいえ、とてもじゃないが両手で柄を握っておかないと刀が弾かれそうだ。

それほどまでに、こいつの力は強いものだった。


「さあ!早く出せよ!あの時みたいに白い槍でかかってこいよ!!」


「………いったい……何の…話だぁ!!」


全体重を刀にのせペインキラーを押し返しはねのける。

そのまま逃げるように距離をとった。

あいつはさっきからいったい何を言ってるんだ…。こっちを困惑させようとしているのか?

それに、あの時ってことは数日前のあの街での戦いのことか?

正直、胸辺りに大きな衝撃が走ってからはあんまり覚えてないんだが…。

そんなことを考えていると、気づけばペインキラーがその場から消えていた。

まさか、葵達の所に…!!?

急いで行かないと葵達が危な………待て……。

走りかけた足を止め、一度周りに魔力を感知出来ないか探ってみる。

先程まであった壁は、もはや原型すら残しておらず、廃墟と化していて隠れるところなどない。

いるのならば、上か地面……あるいは……。

霧で視界の悪い中、薄暗く気味の悪い林の方を見る。

微かに、何かの影が揺れ動くのが見えた。

罠……という可能性もある。だが…葵達を逃がすためだ。そんなこと、気にしてはいられない。

そして、俺は霧の中に見えた影を追うように林の中に入っていった。



「サーシャちゃん!今!」


「はあああぁぁぁ!!!!」


「…………」


何なの…!!何なのよ……こいつは!!

先程から攻撃を続けるサーシャはそう思わずにはいらればかった。

爆発系のクオーツを五個取り付けたペンデュラーをなんども、なんどもなんどもなんどもぶつけている。

なのに……!!目の前の謎の敵は、まるで羽虫が飛びかかってくるのをはねのけるように流している。

もはや、強いとかの次元の話じゃなかった。

こいつには……勝てない。

見えてはいけない絶望のどん底にある感情が芽生える。

戦闘で、それは絶対に考えてはならない事だ。


「絶望……したな……?」


「……ぇ」


敵がそう呟いた時には、サーシャの体には激痛が走っていた。


「ああああああああああ!!!!!!!!」


何が起こったのか全く理解できなかった。

ただ、あまりの痛さに声を出さずにはいられないほどの激痛だった。

まるで、脳が何かに食われているかのような、そんな感じだった。

そして、そのまま力なくサーシャは地面に倒れた。


「………駒にはなってくれませんでしたか…………まぁ、いいでしょう。まだ、使えそうなのはいますから……」


"駒にはなってくれなかった"って……どういう事なの……。

急に何もしないで突っ立っていたと思えば、急に接近してきて相手を簡単に倒してしまう何かを使ってくる。

この強大すぎる敵は……いったいどこから…。

それよりも……


「そこの人!腰抜かしてるんじゃなくて、さっさとサーシャさん助けにいってあげてください!」


「なっ!!……僕には無理だ!敵となんてろくに戦ったこともないのに!」


「私だって!ひろ君だって8歳でなにもわからない状態で戦場に出されたことがあるのよ!貴方みたいないい年した男が、立たずしてどうするんですか!?」


は…8歳から戦場……?この人は…一体何をおかしいことを言っているんだ…。

そんな子供に、戦いなんて…ましてやろくに逃げることすらもできないじゃないか。

君は……君達はそんな環境のなかを生き抜いてきた………そう言いたいのか……。

ジャルは、目の前に立つ女の子がそんなところを生き抜いてきたとは、思えなかった。


「私がひきつけますから……サーシャさんの治療、お願いしますね。…婆様、いって参ります」


そう言って、葵は杖を握りしめ敵との距離を詰め始めた。




林の中はあまりにも暗く、視界が悪いっていうか、霧のせいで見えない。

少し開いた場所に到着すると、周りを何かがグルグル動き始めた。

決めに来たか…。

そう思った俺は、ならばこちらもここで決めてやろうと、刀を鞘にしまい構える。

少しの間、静寂でみたされる。

その時、背後の木を蹴った音が微かに聞こえた。


「もらった!!!!」


ペインキラーの確信と思われる声が、響いた。

目の前の敵はまるで動こうとしない。勝った。

俺の腕を、目を奪った男に……!求めていた強敵に…っ勝った!!

そしてそのまま、短刀を動かない体に押し付けた。

地の臭いが辺り一面に目一杯広がる。

殺せた…殺せた殺せた殺せた殺せた!!!!

その嬉しさのあまり大声を出して叫びそうになった。

だが……声が出ない。出したいのに声が出せない。

これは……いったい…。


「…頭義流抜刀術、一の型 状相破斬(じょうそうはざん) ………ふぅ、何とか成功したみたいだな」


はっと、声がする方向を見る。

そこには、確かに刺したはずの男が刀を構え立っていた。


「何か言いたいんだろうけど……御免な。これは…この技は、人殺しの為に作られた物だ。だから……」


その男が、そこまで言ったとき、自分の目の前がいったいどうなっているのかペインキラーはようやく知った。

今、自分の短刀が突き刺していたのは、自分自身。

それが、胸元辺りに深く刺さっていた。


「…状相破斬、名前の通り姿、形状を破壊する技だ。もちろん、使うときにはそれなりの代償が必要だが…今、貴様をここで葬りさるには……これが、このくらいの倫理から離れた技でもつかわにゃ、やってらんねぇからな」


洋一は、そういい放ちペインキラーに近づいていった。


「……ど……や…………て」


「どうやって……か、簡単な話さ。お前の残る左腕の形状を破壊したんだ。ただ、それだけだ……。はぁ…師匠から人には使うなって言われてたけど…こういうことだったのか……」


改めて、かろうじで立っているペインキラーを見た。

切りつけた場所は確かに、もとの形ではなかった。だが、まるで書き換えたかのように、切りつけた位置から腕が色々な方向に伸びていた。そして、最終的にペインキラーの胸に突き刺さって、その連鎖は終わっていた。


「大丈夫だ……今すぐにその苦しみからは解放してやる。ただ……死んでも覚えとけ、それが傷つけられるってことだ……」


俺はもう一度刀を構えなおすと、心臓めがけ一閃……するはずだった。


「…っ!!」


目の前で、何かがペインキラーめがけて降ってきた。

そいつは、綺麗に脳天と心臓の二つを見事に突き刺し、貫通させていた。


「……ようやく……殺せた……憎むべき悪党め……」


そいつは、そう呟くとペインキラーの持っていた短刀に手を取った。

まるで、これは本来自分の物だと言わんばかりに剥ぎ取るように。


「……あんた…一体、何を……」


「貴様こそ……だが、こいつは元々私の獲物だ……ペインキラーとしてのな」


その言葉を聞いて、俺は武器を構えながら一歩下がる。


「……どういう意味だ…。その、ペインキラーとしてって言うのは……」


「…決まっているだろう……」


そう言うと、ペインキラーと名乗る人物はあの短刀を振り上げようとした。

感覚的に何かヤバイ予感しかしなかったので、おもいっきり横に飛んだ。

スパンっと何かが切れる音が聞こえた。

地面を転がり、体勢を立て直してさっきまでいた場所を見る。


「……っ!!!」


信じられない光景がそこには広がっていた。

霧が、地面が、木が今のたったの一振りで真っ二つに切れているのだ。

仮に、だ。こいつがペインキラーだとしよう。あの時のペインキラーはあの短刀を加速用に使っていた。

だがもし、この使い方があっているのならば……本当に音もなく殺せ


「思考は、実行する力を阻害する。そして、それは致命的なミスとなる」


気がつくと、そいつは自分の目の前にまで迫ってきていた。


「さよなら、力なき人の子よ。今は静かに眠れ……」


そいつは、そういい放つと心臓めがけてペインキラーがしたように短刀に風をまとってつきだした。

だが……残念だったな。……そっちは…。

俺を突き刺したと思ったペインキラーらしい人物は、突き刺したそれを見て目を丸くしていた。


「…これは…」


「遅い!!!」


刀を突きだし、月光牙を放とうとした、が簡単に受け止められてしまった。

火花が散り、刀身が少し赤く光っている。そのくらい激しくぶつかったという事だろう。

ペインキラーらしい人物も、この一撃は予想してなかったのか、受け止めるので精一杯らしかった。

このまま、押しきれるかと思ったその時、ペインキラーらしい人物は刀を凌ぐと、そのまま腹パンを俺に入れ、俺の体勢が崩れたと同時に距離をとった。

しまったと思ったが、相手から攻撃が来ることはなかった。


「人狼族」


「……は?」


「覚えておくといい、我が一族の名だ」


「何でそんなこと教えるんだよ」


「気が変わっただけ、惜しい男だと思ったからよ。偽物をここまで追い込んでくれたんだもの。何時かだけど礼はするわ」


「そ……そうか……」


「それと……魔女の村には行かない方がいいわよ」


「何で……」


「多分…魔将クラスの魔人が来てるから」


「っ!!!」


「行っても死ぬだけ……って、もう行ったか……」


まぁいい。あんな人間一人死んだくらいで、何かが変わる訳じゃない。

私はただ、私の理で動くだけ。

そういって、ペインキラーはその場から姿を消し、そこに残ったのは誰かとも分からない男の死体だけだった。


------------------------- 第32部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

次元の違う敵


【本文】

何で……何で……!!

魔法が一発も当たらないの!?

葵はサーシャが負傷してから、回収·治療をジャルに任して時間稼ぎの為に炎系統の魔法を連発していた。

確かに、敵の超高速スペルには驚いたが、すきがないわけじゃない。

常にスペルを唱えたり魔方陣を展開した瞬間に攻撃を放っているのだ。

一発ぐらい当たってもいいはず、なのに……

敵は、何も喰らっていないかのような振る舞いで、葵に向かって魔法を飛ばしてくる。

あり得ない、途中途中で追尾弾だって放ってる。まだ慣れきってない上級者向けの魔法だって撃ってる。

なのに、真っ正面から喰らっていて無傷というのは、明らかにおかしい。

何で……本当に何でなの!?

葵は戦いながら、今までの戦闘の中でヒントになりそうなものを必死に探した。

だが、今までの戦いの中で魔法を喰らわないなんて敵は、見たことがなかった。

…まだ、私の個性サーチで探れば、何かの策を見つけれるかも知れないけど…。

私の力を使うには、少し時間がかかるし何より、今時間を稼げそうな人がいない。

ひろ君が今どこにいるのかも分からないし……、あーもうっ!何で衛星飛んでないのよ!この時代は!

この時代に文明がどうのこうのなどいっても意味ないのはわかってはいるが、それでも葵は連絡がとれないことへのいらだちを隠せなかった。

しかし、贅沢は言ってられない。

今ここで婆様に無理をさせるわけにはいかないし、ジャルさんは使えないし、実質戦えるのは自分しかいないのだから、どうにかして耐え抜くしかない。

その時、敵が撃ってきた魔法が体に少しかすった。

その衝撃で背後にあった建物に吹き飛ばされた。


「嘘でしょ…かすっただけで…こんな…」


魔法がかすった場所に手を当てる。ベットリとした感触が手から伝わる。

ゆっくりとした足取りで私に近づいてくる。

殺されるのだと、そう思った。


「……主らの目的は……17条の禁術、ではないのか?」


婆様の口から聞いたこともない単語が発せられる。

もしかしたら、それが私に継承しようとしていたものなのかもしれない。

そして、それを聞いた瞬間敵は歩みを止め、婆様の方へと向き直った。


「……やはり…そうであったか……。主らの、目的はなんじゃ」


「………我が主が為……主の願望を叶えるため………」


「だから、奪いに来た…と?」


「………」


「そうかい……だが、渡すわけには、いかないね。あれは50年前に、託された物だからね。」


「……ならば…絶望し…助けを乞い、己の惨めさを恥ながら……死ね」


一斉に敵の背後に大量の魔方陣が展開する。

パッと見ただけでも、見たことのない魔方陣多数存在した。


「婆様!!」


「そう、焦るな。……何も、心配することはないよ」


そう言うと、婆様は酷く黒く汚れた一冊の本を取り出し、あるページを開いた。


「大地よ、我が言葉を聞け。我は、汝らを深く、深く愛するものである。そして、平和と、静寂を求める者である。意思あるのならば我が声に耳を傾けよ」


そこまで言うと、婆様の足下には魔方陣ではなく、何かの言葉が浮かび始めた。


「我はこの大地に、これ以上の犠牲を生み出したくはない。そして、これ以上の争いも望まない。我が今望むのは、犠牲を出さず、争いを止めることである。もし、汝らも同じ気持ちであるならば、ここに今君臨せよ!」


「散れ」


敵のその言葉で全ての魔方陣から光以外の全ての属性の魔法が放たれた。

だが…それが、私たちに届くことはなかった。

そこには小さな、とても小さな花が一輪咲いていた。

そして、その花からはとても強力なシールドの魔法が展開されていた。

それは、ちらと光ったかと思うと、シールドをさらに大きくしていきその場にいた敵を弾くとそのまま展開を続けた。

これは…この魔法は。


「ふぅ……年になると、オリジナルの魔法を唱えるのも、一苦労じゃ」


「やっぱり……婆様のいつもここを覆っているシールドだったんですね」


「そうじゃ。さぁ、まだ生きておる者がおるかも知れぬ。今のうちに、皆を救出しなければな」


その時、さっきの魔法で生まれた花が黒く染まり、灰となった。

そして、全く同じ魔法とも思えるようなものが敵を弾いた方向から迫ってきていた。

それに弾かれ、建物の壁にぶち当たる。

それでもなお、その力は緩むことはなく、壁を破壊しても動き続けた。


「……オリジナルとは………なるほど、面白いではないか。貰っておこう」


そこに、敵はいた。

まるで、何事もなかったかのように。

次元が違いすぎる敵。あの時と同じように、また大切な人を亡くさなければいけないのだろうか。


「だが、実に残念だ。大人しく渡していれば……命を無駄にせずにすんだものを」


そう言いながら、敵は婆様の頭を掴みそして、そのまま


「させるかっ!!」


びゅんと空を切る音が聞こえた。

同時に敵がその場から離れる。


「婆さん、大丈夫か!?」


彼が、ひろが戻ってきた。 


------------------------- 第33部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

借りは作りたくない主義だけど、いたずらは好き


【本文】

「婆さん、立てるか?」


「…すまぬな、助けてもらってしもうて」


「気にすんなよ。それよりも、幹部クラスが来てるって聞いたけど…」


辺りを見回すと、あちらこちらに魔法が炸裂したあとが残っている。

さらに、地面は所々黒く染まっていて、そこから黒い霧を吹き出していた。

体に害のあるものだということは明らかだった。

そして、目の前にはあの少女が教えてくれた情報通りに、葵たちを攻撃していた敵がいた。

葵を見ると、腹部に怪我をおっていた。

葵が怪我をするということは、こいつはかなりの強敵だ。


「さて…どうすればいいものか……」


「……また、獲物が来ましたか……いいでしょう。あなた方を、私の人形にしてあげましょう!!」


一瞬にして、魔方陣が形成され様々な属性の魔法が飛んでくる。


「んな!!!!!!無茶苦茶じゃねぇか!!葵!」


「……少しくらい………怪我の方の心配も……してよね!!」


葵が怪我した場所を抑えながらもこちらの方に手を伸ばす。

体が少しふわっとした感じがしたかと思うと葵の横に移動していた。

葵が独学で習得した簡易的な転移魔法だ。

葵をそのまま担ぎ上げると、俺は森目掛けて走り出した。


「ひろ君!サーシャさん達はどうするの!?姿は見えなかったけど、まだきっとあそこに」


「………逃げるぞ」


「ひろ君!!」


「今は逃げることが優先だ!!ここで待ってたら、確実に殺される!あの日、グレゴリアスに殺されたあいつらにお前を護ってくれお願いされた!………だから………だから…………」


………ごめん、2人とも。

そして、ひろは個性のギアを使って一気に加速した。



「………逃がしませんよ…」


「そうさせると……思ってるの?」


敵がひろたちを追いかけようとしたその時、その手足首に鎖のような物が巻き付いた。


「……ほぅ……。それが、貴女の個性……異空間形成ですか……。しかしまさか、そのようにして生きているとは……ね。………貴女を人形にするのは、とても………た の し そ う で す ね ♪」


「ジャル!援護!」


「は、はいいいいいぃぃぃ!!!」


サーシャは、ジャルをつれ空間から飛び出すと、敵の手足首に巻き付いた鎖を力一杯引っ張った。

先端についたクオーツがそれを起動スイッチにしたかのように光だすと、4属性の魔法が一気に敵を襲った。

そして、それに追撃をいれるようにジャルがビビリながらガイアを唱え敵にぶつける。

爆発に巻き込まれないように、サーシャ、ジャル供に後ろに下がる。

これで、隙ができたはずだと思い、ひろたちを追いかけようと走ろうとしたその時だった。


「逃げたらだめじゃないですかー」


「逃げるのは弱者のすることじゃないですかー」


「敵前逃亡して恥ずかしくないんですかー」


先ほど、攻撃を加えたはずの敵が複数人目の前に立っていた。


「……あんた……何なのよ!」


「何者ー」


「そんなのー」


「知る必要もなーい」


「だってー」


「ここでー」


「……貴様は私の人形になるのだから」


突然首を後ろから絞められる。

手を首からどけようと必死に力をいれる。

しかし、敵の力の方が強く剥がそうとするたびに、力が強くなってくる。

………ごめんなさい…皆…。拾われた………私は…………もう………

ここまでかと思った時だった。

首を絞めていた力が一気に緩んだ。

そして、そのままサーシャは地面に吸い込まれるかのように……、いや吸い込まれた。

そこで、サーシャの意識は途絶えた。



「あ、あの…ありがとうございま」


「あなた兵士でしょう?……せめて、1人位は守り抜きなさい」


「あ、あの…お名前を……」


「……それと、助けた訳じゃない。ただ、借りを作りたくなかっただけ」


この声は……ジャル?

それにここは………?

絞め付けられた首が物凄く痛い。呼吸するのがとても辛い。

生きてる。

四肢の感覚もある。指も少しではあるが動かすことができる。

どうやら、誰かが助けてくれたようだった。


「…ほら、お仲間が目覚めたわよ。介抱してあげな」


「サーシャさん!無事ですか!僕がわかりますか!声聞こえてますか!意識ありm」


「……うっさい」


弱々しい声でそう返事をするのが精一杯だった。


「生きてはいるのね、ならもう外にいる彼らの目の前に放り投げるわよ」


「……放り………投げる?」


「……えぇ、私が作り出した……いえ、禁術で作り出したこの空間からもとの世界にね。嘘はついてないから、信じろ。じゃぁ………二度と会うことはないと思うけど、またね」


そう言うと、その人物は指パチン鳴らした。

パッと目の前の景色が変わる。

柔らかい布に包まれているかのようなそんな感触だ。

どうやら布団の中に飛ばされたようだった。

真横では洋一が寝息をたてて寝ている。

……………ん!?

真横で!?


------------------------- 第34部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

クイックヒール(物理)


【本文】

なんで…なんで……こんなことになったの!!

サーシャは心の中でそう叫ばずにはいられなかった。

あの人物は、確か放り投げるといった。

だからもっと無造作に投げ出されるものばかりと思っていた。

だが、これはそれよりもたちが悪い。

この部屋の暗さからすると、カーテンで閉め切っているか、とっくに日は落ちたかのどちらかだ。

たとえどっちであっても自分がとんでもない状況の中にいるのだけは確かなことだが。

とりあえず、起こして、理由を説明したほうが一番手っ取り早いのではないか?

とりあえず、ゆすってみよう。

きしむ体で洋一の体をゆすってみる。

きっとこいつの事だから、寝起きは弱いだろうとそう思っていた。

しかし、予想とは裏腹に洋一はびっくりするくらいに素早く起きた。


「なんだ!敵襲か!?それとも誰か異常反応でも示した………」


「…過剰反応し過ぎ……」


というか、夜型かこいつ。朝より目が生きてるんだが……。

洋一は、キョロキョロしてあたりを見回している。

そして、布団がもっこりしているのにようやく気付いたらしく、サーシャを覆っていた布団のぬくもりが消えた。

そして、その瞬間突然抱き着かれた。

………!!!????


「サーシャ!!よかった!生きてたんだな!」


「ひろ!さっきからうるさい!!こっちはケガした魔女っ子たちの治療で手一杯なんだから少しは………」


バンっと扉が開き、みたこともない少女が半ギレ状態で言葉を投げかける。

そして、こちらの状況はいろいろとまずい。

不可抗力であったとはいえ、この状態は本当にまずい。


「………まさか、自分はその幼女っぽい娘とイチャコラするために休憩所に入ったとか言わないよね?まぁ理由は聞かないけど、とりあえず歯食いしばれやああぁぁぁぁぁ!!!!」


「待て、春香!少しは俺の話も聞けえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


しかし、洋一のそんな言葉も届かず、春香はこぶしを突き上げた。



「あんたは、つい嬉しいことがあったら、男女隔たりなく抱き着くのをやめなさい。その子…サーシャちゃん?だっけ?びっくりしてるじゃない」


「お前も……理由も聞かずに……殴るのはどうかと思いますけど…」


誰この人、とサーシャは俺の服を引っ張り目の前の人物に指をさす。

初対面だからまぁそこは仕方ないとして……。


「サーシャ、声でないのか?」


サーシャにそう投げかけると、コクコクとうなずいた。


「治してあげたら?ひろに治せないものなんて……例外を除いてないでしょ……。あと、起きたんなら手伝ってよね。やっぱり戦場ではひろのヒーリング能力が欠かせないから。あとさっき変な男降ってきたから、一応保護しといたよ」


「…ジャルか?まぁいいや。わかった、すぐに行く」


そう言うと、春香は部屋を出ていった。


「さてっと…まずは、サーシャだな。ちょっと顎を上にあげてくれないか?」


そういうと、サーシャはくいっと顎を上げた。

のど付近に指をそろえて当てる。何か変なしこりができてるような気がした。


「これはちょっとクイックじゃ無理か……ふっ!!」


指の先端が緑色に光りだす。そして次第に色が緑から、青へと変わっていった。

ある程度、その状態で時間がたってから俺はサーシャののどから指を離した。


「どうだ?しゃべれるか?」


「………なんであの時抱き着いたんですか!!!!」


あ、はい。やっぱそこに戻るんですね。

サーシャの腕がグイッと持ち上がる。

そして、そのこぶしが顔面めがけ力いっぱい振り下ろされた。

しかも、思ったよりも力が強くそのまま後方の扉にぶち当たり吹き飛ばされながらの隣の部屋への移動となった。


------------------------- 第35部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

記憶との誤差


【本文】

部屋から部屋に吹き飛ばされた洋一を葵と春香でちゃちゃっと治療してから、サーシャとジャルと情報交換と何でこんなところにいるのかの状況説明をした。


「……つまり、あの強すぎる敵と思われるやつから逃げてるときに、軍隊と合流したってこと?」


「んで、その副隊長に知った顔がいたって感じだ」


ちなみに、副隊長というのは春香のことだ。

俺たちと離れ離れになってる間、どうやってここまでのぼりあがったのか問い詰めたいところではあるが、今はそんなことよりも、春香やほかのみんなと再会できた喜びの方が大きかった。


「でも、確か春香たちの隊って南国の…」


「そうだよ。都市べリオル。今回はたまたま魔物討伐の件で二ケア大陸にお邪魔した時に、魔女の森方面からの連絡が途絶えたってことで、調査のために少数部隊で来てみたら、ひろたちがいたって感じね。しかもそのあと、あの子らが魔女っ子のほとんどを無傷で連れてくるってのは、予想してなかったけどね」


「……まって、魔女っ子たち?だって私たちが魔女の森から逃げようとしたときにはもうほとんどの人が亡くなってたと記憶してるんだけど…」


「……それは、一回自分の眼で確認したほうが納得がいくだろうね。ひろ、ほらあんたさっきまで休んでたんだから、とっとと仕事しなさい」


「なんで、軍の仕事を俺がやらなきゃ」


「………やれ………」


「あー、なんだかすごく働きたくなってきたわー、ちょっくらいってくるわー」


春香が洋一のことをギロリと睨むと、洋一は慌てた様子で逃げるように部屋を出ていった。

春香はサーシャについてきてと言い、洋一が向かった部屋へと移動した。

後を追うようにその部屋に入ると、とても大きな部屋に出た。

そこに、沢山の魔女っ子達が寝かせられていた。


「これは……いったい……」


「あそこにいる女の子たちと遊撃士の男が運んできたのよ」


その人物がいる方を春香は指差す。

その指が指す方へとサーシャは視線を向けると、そこに言われた通り女の子二人と男一人がいた。


「しっかしまーよくあの女の子達、あれだけの人を助けたよね。ひろが無理なら大概の事は失敗するんだけど……、多分相当な手練れだと思う」


手練れ……?あんな華奢な腕をしていて、殴ればポッキリと折れてしまいそうな…そんな体をしているように見えるのに?


「それより、なぜ洋一が出来なかったら、大概の事は出来ないとあなた方は判断出来るのですか?」


「……だって、あいつ特別に編成されたグレゴリアス討伐隊の隊長を2011年にやってたし……だからこそ……あんな抱きつく癖が出来ちゃったんだけどね……」


春香の顔を見るととても遠い何処かを見ているようなそして、思い出したくもないことを思い出した、そんな表情をしていた。

この話は多分これ以上踏み込まない方がいい、そんな気がした。

その時、向こうの方にいた女の子達がこちらに来た。


「すみません…急にこんな人数抱えてきちゃって……」


「いいのいいの!気にしないで!元々人民保護の件でニケア大陸には来たわけだし、あなた達がこうして先に行動してくれていなかったら、どれだけの人が死んでいたか分からない…。だから、後であなた達に我々から何か礼をしなきゃいけないんだけど………」


「…春香!悪い癖!直す!」


春香にマシンガントークが始まりかけていて、いい加減サーシャも、あれ、これ止めた方がよくね?と思ったとき、八歳位の少女が春香に近より指をたてて注意した。


「この子は…?」


「キーちゃんだよ。この子が、魔女の森方面に怪我をした人間がいるって教えてくれたの」


「…春香!話!聞く!」


キーと呼ばれる女の子は、春香が自分の話を聞いてくれないからなのか、春香の腕をつかんでピョンピョンと跳ねて自己主張していた。


「分かった!分かったから!キーちゃん。後で一緒に遊んであげるから、少しだけ待ってね」


ぱぁ、とその子は顔を明るくするとトテトテと別の場所へと走っていった。


「……あのー、話、大丈夫ですか?」


「え?あ、あぁ、ごめんなさい。急にあんな話しちゃって」


「いえ、大丈夫です。もう馴れましたから」


「…馴れた?何に?」


「え?……あっ…いえ、何でもないです」


春香の所に来たうちの一人の女の子が、何かいってはいけないことでもいったかのように、バツの悪い顔をした。


「すみません…自分たちのギルドメンバーに貴女に似たような人がいるんです。この子、まだあまり戦闘馴れしてないから…」


「なっ!!史奈(ふみな)ちゃんよりはぜっっったいに私の方が強いし!■■も使えるし!!」


「私の個性と抜刀術に勝てるとでも?■ちゃんのスピードがあっても、それは無理だよ~」


「ぐぬぬぬぬ~!…帰ったら、三回勝負ね!」


「いいよ、ギルドの皆に見てもらおう。そっちの方がいい加減、力の上下関係を作れるしね」


目の前の女の子たちはちょっとしたことから、自分たちの世界に入り込んで会話をしていた。

だが……ある所が……何かを使えると言うところと、もう一人の名前が聞こえないのだ。

まるで、何者かによってその部分のみ聞き取れないようになっているように。


「ごめんなさい…名前が聞き取れなかったのだけれど…史奈さんと…?」


「私ですか?■です」


やはり、聞き取れない。

いったいなんの現象なのこれ…?


「…■ちゃん。ここでは貴女は……。コードネームの方だと聞こえるんじゃないですか?」


「えー、あれまんまじゃん。魔物の名前まんまじゃん」


「いいからいいから」


その女の子はぶぅと頬を膨らませて、史奈と呼ばれる少女に拒否の態度をとろうとそっぽを向いた。

…筈なのに、なぜかまた名前の分からない少女は史奈と呼ばれる少女と向き合っていた。


「……これ以上てこずらせないでください!!師匠にいいますよ!」


「先輩に!?そ、それだけは……それだけはやめて!分かった、言うから!えーっと春香さん!私のコードネームは、"ムーンラビット"です。今度こそ聞こえましたよね!?ほら言ったよ!」


名前の分からない少女のコードネームは、ムーンラビットと言うらしかった。月兎…?焼いて肉にしたら美味しそうな兎だなぁ…


「春香…でしたっけ?ムーンラビットはとても稀にしか遭遇しない幻の魔物です。その肉はとても美味らしいですが、あまりの早さに誰も捕まえることすら出来ていないという魔物です。今もし肉が食べたいという考えを持っていたら、その考え捨てた方がいいですよ、叶いませんから」


まさに今聞こうと思っていたことを、サーシャに言われ、あげく夢まで壊された春香は、そこで膝から崩れ落ちた。


「私の肉がーーーー!!!」


「いや、貴女のでもないでしょう……。そう言えば、貴女方…史奈さんとムーンラビットさんは…今この人の名前を当たり前のように呼んでいましたが……名前は聞いていたんですか?春香は貴女方と話すのは、初めてのようでしたけど」


「…そう言えば……確かに。何で私の名前を知っているの?」


ギクリと目の前の少女たちが反応する。一番やらかしてはいけない事をやってしまって取り返しのつかない状態になったかのような、そんな感じだった。


「いや!ほら!魔女の森人たちを手渡すときに、代表者の名前を聞いたんですよ!」


…あやしい。怪しいのにも程があるってぐらい怪しい。

その時、サーシャがあることを口にした。


「私の年齢って分かる?」


「え?17………あ」


え?17?ちょっと待ってこんなロリ体型してるサーシャさんが17!?

そして、その事を口にしたのは、ムーンラビットと呼ばれる女の子だった。

その言葉を聞いた瞬間、サーシャのペンデュラーがその子頬をかすめた。


「…私の年齢は、世界で家族とナタリーしか知らない情報よ……貴女たち……何者!!」


「えっえっ!?何で!私攻撃されてるの!?」


「■ちゃん……サーシャさんに言われてたじゃないですか…年聞かれても答えるなって。そういう、正直すぎるところ、少し直した方が良いですよ。それに、ちょうどいい時間みたいですし。ですよね!師匠!!」


史奈がそ天井に向かって叫んだ瞬間、天井に勢いよく大きな風穴が空いた。

そして、そこには……


「言え!なぜどこぞの馬の骨ともいえないやからがそれを……!!我が師の武器を持っている!!」


「だ~か~ら~、継承したっつってんだろ!!ペインキラー……いや、友恵(ともえ)!!」


「その名で私を呼ぶな!!!」


何か物凄いことになっていた。


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