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146話~150話まで

------------------------- 第146部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

デスゲーム9 ガーディアン


【本文】

私の目の前に揃った銀狼さんの掛け声とともに、その場に集まった5人の人たちは一斉に動き出した。その一つ一つ動きは、私たちとはレベルが全く違うというくらい揃っていて、時折2人同時攻撃のシンクロを連続で何度もやってのけたり、怪我をすれば直ぐに陣形を変えて体勢を立て直し、6人がかりではあったものの暴走していたひろ君を圧倒的な戦術で押していっていた。だけど私はそっちにばかり集中して入られなかった。


「葵!春香とその怪我した子の治療するわよ!!春香は特に心臓に短剣が刺さってるから止血してから抜きなさい!」


「わ、わかりました!」


回復は専門ではないけれど、マーズ先生にそう言われたのだからやるしかない。それに、大切な友達を助けるためにも、ここで頑張らないといけない。私は春ちゃんの胸の辺りで回復魔法の魔方陣を展開すると、回復に全力を注いだ。



紫雷は目の前で戦う彼らの戦いを見ていて何か違和感を持っていた。狐火のあの姿に対する驚きも確かにありはする。だがそれよりも……戦いかたがかなり差はあるものの似ているのだ。狐火と銀狼の戦いかたが。小さな回避行動や指示のだしかた、そして何よりも片手剣であるはずなのに所々に見える狐火の使っている技の影。彼はいったい何ものだ?そう思っていたときだった。近くにいるフェル学長が笑みをこぼした。


「まさか…古代遺産同士の戦いを見ることができるなんて思ってもいませんでした。……そして…見つけましたよ、ガーディアン!!!」


そして、高笑いを始めた。初めてみるその姿に誰もが恐怖の念を抱いた。


「第二席の言う通りでした!!私のもとへ宿敵であるガーディアンが現れるという未来予知は間違ってはいなかった!!そして、女神も一緒とは都合がいい!!」


何だ!!?何をいっているんだこの人は!?頭の理解が追い付かない。この時代のことはある程度勉強したはずだ。それなのに、紫雷である自分でさえもフェル学長が何をいっているのか全く理解できなかった。そして、そんな高笑いしているフェルの目の前で狐火と銀狼戦いに決着がついた。勝者は……銀狼だった。狐火の胸を貫くようにその剣を突き付けていた。そしてそこから、何か闇のようなものが溢れだし、狐火を覆っていた闇のオーラが完全に消え去った。それを確認してから銀狼は狐火の胸から剣を抜き去ると一瞬のうちにその傷を癒し、狐火を抱えあげて仲間を引き連れてこちらの方へやって来た。銀狼はそのまま春香君の方へ足を進めると春香君の真横に狐火を並べて寝かせた。葵君は一度手を止めて顔をあげた。


「安心しろ、こいつらはここで死ぬと定義されていない。……少し待ってろ」


そう言って銀狼は死体の山が積み重なる方へ手をかざした。すると、そこから何か魂のようなものがいくつか出てくると、銀狼の胸の中に消えていった。


「…丁度二回分か……」


そう言いながら胸から先程の魂のようなものを二つ取り出すと、その一つ一つを狐火と春香君の胸の中に押し込んだ。すると、呼吸を止めていた二人とも同時に息を吹き返した。まるで神の力を見ているかのようだった。


「さてと……聞きたいことは山程あるだろう?フェル学長…いや、魔族連合第三席、傀儡師フェル·レイン」


銀狼は立ち上がり、そう言いながらフェル学長の目の前に立った。


「えぇありますとも!!ですが……」


そう言ったフェル学長は指をパチンとならすと、銀狼を囲うように狭い間隔で魔方陣を一瞬のうちに展開させると


「貴方は我々の作戦においてもっとも邪魔な存在。……ここで死ねええぇええぇええええええ!!!!」


叫び声に近い声でフェル学長はそう言うと、魔法を発動させた。なんて酷い殺しかたをと思った次の瞬間には、いつの間に回り込んだのか背後からフェル学長の首に銀狼の剣が構えられていた。


「あの程度の攻撃で倒せるとでも思ったか?」


銀狼は笑みを浮かべながらそう呟いた。本当にいったいこの子は何者なんだ!?


「まぁこんなことをするためにここに来た訳じゃない。俺はあなたに用があってきたんだ」


そう言って銀狼は剣をしまうと僕の方に向かって歩いてきた。そして彼は僕の近くに来てから


「……あと3日で来ますよ。準備は早めに」


そう呟いてから、彼は仲間とともに鳥のような魔物に乗って何処かへと旅立っていってしまった。彼らが消え去ったその方向から太陽が上ってくるのと同時に、試練終了の合図の鐘の音が辺り一面に響いた。計3000人いた子供たち、今となっては350人程度しか残っていない。そんな中、自分の生徒が瀕死状態になりはしたものの生き残ったことをまずは喜ばなければいけないだろう。そして、恐らく銀狼という彼の残したあの日数は……。

紫雷は空を見上げた。暗く染まっていた空が今は淡い青と赤の混ざったような色をしていた。紫雷はそんな空を見て不安な気持ちを押さえきれぬまま、生徒を引き連れてドルーナへと引き返していくのだった。


------------------------- 第147部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

エスケープ1 秘密の部屋


【本文】

胸の辺りに妙な違和感を覚えて、俺は目を覚ました。頭がガンガンとトンカチか何かで叩かれてるように痛い。一体何でこんなことになったんだ?頭痛の収まらない頭を抱えながら体を起こすと、ここがドルーナの医務室であることがわかった。どうやら何かしらあってベッドで寝かされていたらしい。ふと横のベッドに視線を移すと、そこには深く呼吸をして眠っている春香が横になっていた。何だ、春香も一緒に………?あれ?今まで俺は何を……。そこまで思考するとひどかった頭痛がさらにひどくなった。まるで、思い出すのを拒んでいるかのように。割れるように頭が痛い。脳みそを直接ぐちゃぐちゃに混ぜられているかのようなそんな気分に思わず吐きそうになったところで、マーズさんが頭を抱えて入ってきた。そして、俺が体を起こしているのに気づいてから、急いで回復魔法で簡単に処置を行うと急いで葵を連れてきた。


「もう!!びっくりしたんだからね!!春ちゃんは胸に短剣が刺さってるし、ひろ君は変な闇のオーラをまとってるし……心配したんだから!!」


そう言いながら、葵は涙を流していた。どうやらかなり心配をかけたらしい。それに葵の発言のおかげで、自分が何をしていたのか大体思い出した。左手の甲を念のため確認する。そこには先程まであった最後の狐の尻尾は消滅してしまっていた。俺はあの時感情に流されるまま神威を発動させてしまった。おそらくかなり貴重な一回だったと思う。それをあんなにも簡単に、しかも人を傷つけるために使ってしまった。そしてたちの悪いことに、俺に神威後の記憶はない。そういうところも含め、自分は未々未熟者なのだと、だから神威にも使用回数を定められたのだと、改めて名も知らない師匠に感謝しなければいけないと思った。もし、今の俺が神威を制限なく使えたのなら、大切な人たちを殺しかねない。


「洋一、今日は早く寝なさい。一応明日紫雷から話があるみたいだし、体調は万全の状態にしておかないとね。葵も今日は早く休みなさい。貴女は特にそこの2人に加えてあの子らの面倒も見ていたんだから」


自分の行動を反省していると、マーズ先生から優しい声で、そしてどこか緊張した声でそう言われて、葵も実際疲れていたのか、その言葉に頷くと、また明日ねと一言残してから女子寮の方に戻っていった。


「それじゃぁ私は隣で寝るから、何かあったら呼びなさい。それじゃぁお休みなさい」


そう言ってマーズ先生は医務室の明かりを消して入り口とは別の扉からとなりの部屋へと移動した。俺もまだ少し具合が悪い。体調は確かに整えていた方がいいだろう。改めて横のベッドで寝ている春香に目を移す。……本当に……本当に、生きていてくれてよかった。心からそう思いながら、俺は再びベッドに横になりそのまままぶたを下ろした。


…………………………


……………


………



駄目だ。おかしいと思うくらい眠れない。寝ないといけないと意識すると、なぜだかどんどん眠れなくなっていく。羊も数えてみたが、途中から訳のわからない生物を数えていたりして逆に目が冴えたり、何をしても逆効果だった。気分転換……って訳にもいかない。一応まだ病人扱いの身だ。変に外に素振りにでも行こうものなら恐らく葵から笑顔で殺される。冗談抜きにそれだけはさけたい。……そう言えばここの書庫に気になる本があったな。確か……ウィルダム旅行記……だったか?大きな鳥にのって作者であるウィルダムさんが旅をする物語だったはずだ。あの時ははじめの方しか読むことが出来なかったし丁度いい機会だ。このさい眠くなるまで読んでしまおう。そう思って俺は体を起こすと、誰も起こさないように静かに部屋の扉を明け閉めし、忍び足で書庫へと向かった。

夜だということもあって、書庫はかなり静かだった。だがこの静かな雰囲気が個人的に気に入っていた。探すと意外と面白いものが出てくるのだ、この書庫は。さて、ウィルダム旅行記はどこにあったかなー、ふらふらと本棚を調べながら歩いて数分。目的の本を見つけることができた。さて、これを持ち帰って読もうと思い帰ろうとしたときに、たまたま月明かりの当たる場所を通った。すると、なぜかこの前は無かったしおりが本に挟んであった。前に借りた人が忘れたのかなと思い、でも一応気になってしおりの綴じてあるページを開いた。そこには


"月明かり指す場所から月の下る方に進み、一番星が輝く場所で立ち止まれ"


そうかかれたメモが入っていた。……なんだこれ?誰かのいたずらか?それにしては出来すぎているような気がする。だって、月明かりの指す場所は偶々なのか今日はこの場所しかない。他の場所はきちんとカーテンで光が遮られている。つまり、これは……俺に当てられたメモの可能性が高い。ならこれは…月の軌道通りに進んで一番明るい星……つまり北極星辺りで止まればいいのか?簡単すぎないか?このメモ。……いや、でもこの知識は未来のものだ。おそらくこの時代の人は、北極星何て言葉知らないはずだ。…やはり、誰かが意図的に俺を呼んでいるとしか思えない。俺はメモの通りに月の軌道であろうと思われる本棚の間を通り、北極星のあるであろうと思われる場所で止まった。さて、メモはここまでしか指示がないが……そう言えば北極星を見つけるためには、上を向くよな?そう思い、棚の上の方を見ると明らかに違和感しかない本が少しだけ本棚から飛び出していた。


「……ビンゴ」


でもこのままだと届かないので、近くから梯子をとってくると俺はその棚に立て掛けてその本を引き抜こうとした。だが、何故か引き抜くことが出来なかった。


「…何か奥にでもつまってんのかなー」


なら一度押してみたら、意外と出たりするかな?と思い本を棚の方に押してみると、何故かそこだけ本が奥の方まで押し込むことができた。かちりという音と同時に何処かが開いたような音が響いた。


「…何だ?」


音のする方に足を運んでみる。するとそこに、普通では見つけられないどこかへと続く入り口のようなものがぽっかりと口を開けていた。人一人しか入れないような広さだ。……この先、何があるかわからない。それに今、武器も持っていない。神器も何もかも部屋に置いてきてしまった。だが、今行かなければこの場所には二度といけないような気がする。


「……進むか。危なかったら引き返そう」


そうして俺は暗闇の中一歩を踏み出した。


中は洞窟のようになっているのかとても気味が悪かった。だが、壁をよく見てみると、岩ではなくきちんと整備されたものになっていた。隠し通路か何かだろうか。そのまま足を進めること10分先の方に明かりが見えてきた。一度気配がないか探ってみたが、人の気配はしなかった。一応魔法を何時でも撃てるように詠唱して手元に残した状態で、俺は明るい場所へと足を進めた。その場所に飛び込んでみて、俺は驚きを隠せなかった。回りにあるのは全て本、本、本。しかし、どれもこれも埃を被っていて長年ここに誰もここに訪れていないということが分かった。そしてその埃の被っているはずの道に埃の積もっていない箇所があった。それは、人の足跡のような形をしていて、奥の方まで続いていた。おそらく、この足跡の主が俺をここまで呼んだ人だろう。慎重に、慎重に足跡をたどっていくと、テーブルと椅子のおいてある読書スペースのような場所にその人は何冊か本を積んで、眠たそうにまぶたを擦りながら本を読んでいた。


「…銀狼!?」


驚きのあまり思わず、目の前にいる人物の名を口に出してしまった。その声に反応したのか、銀狼は顔をあげると、俺の事をみてから


「いらっしゃーい。ようこそ、古の書物庫へ。っていっても招待したのはお前だろってな。はっはっはー」


「いや、何を言ってるんですか。というかここに呼んだのは何か伝えることでもあったんですか?わざわざこんな方法取らなくても、呼び出してくれればよかったのに」


「そらぁお前……ってあーそっか。知らんのか」


頭をかきながらそう呟く銀狼。知らないって何を?


「まぁいい、まずはこれを受けとれ」


銀狼はそう言って俺に一冊の本を手渡した。かなり綺麗に製本されているもので、とても高級そうな雰囲気が漂っていた。


「これは……?」


「お前ら17条の禁術の本を持ってるだろ?」


「……何でその事をしってるんですか?」


「まぁまぁいいじゃない。そんで、それは第13条のクイックってものだ」


「…クイック?スピードが早くなるとか?」


「いや、分かりやすく言えばゼロ詠唱で魔法が撃てるようになるってものだ」


「!!それって……!!」


ゼロ詠唱で魔法が撃てるようになる。これは、魔法を使っている人間なら誰もが渇望する最終的な目標だ。普通魔法を撃つのには詠唱時間をもうける必要がある強力な魔法になればなるほどそうだ。だが、この本にはそれを完全に省略する魔法がのっているという。チートとしか言いようがない品物だ。


「あー、勘違いしてるかもしれんから言っとくぞ。その本は別に詠唱時間を無くす方法がのってるだけで、そういう魔法があるわけじゃないからな?そんなのあったら、とっくにみんな使ってるだろうし」


俺にその本を手渡した銀狼は俺に苦笑いでそう言った。


「いや、それでもゼロ詠唱で魔法が撃てるようになるって相当すごいことだと思うんですけど…これを何で俺に?」


「それは……今後必ず必要になると思ったからな。お前らがこの学校を脱出するときや、これから旅をしていくときに」


それを言われて俺はかなりどきりとした。この学校を脱出しようという話は紫雷さんたちとしか話していない。だから、それを部外者である銀狼が知るはずがない。知っている方が逆におかしい。


「…どうしてそんなに何でもしっているのですか?」


「ん~?俺がか?そんなことないよ。あ、怪しいとか思ってないか?安心しろ、俺はお前らに危害を加えるようなことは絶対にしない。神に誓ってもいいぞ~」


「………言葉が軽いんですけど……」


「アッハッハ!!気にすんな!!」


そう言って銀狼は俺の背中を叩いた。叩かれた背中は少し痛かったが、どこか温もりを感じさせるような、励まされているようにも思えた。


「…さてと、本題はこっちだ。お前さんから俺に何か聞きたいことはないか?」


突然そう話をふられて、俺は少し驚いた。まさか話をふられるとは思ってもいなかった。それに、何か聞きたいことはないか?と聞いてきたってことは、今なら何でも答えてくれるってことなのか?


「それじゃぁ…………」


そして俺は今まで疑問に思っていたことや聞きたいことを、銀狼に長い間尋ねまくった。


------------------------- 第148部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

エスケープ2 重要なヒント


【本文】

長い間質問をして分かったこととさらに混乱したことがあった。まずは、銀狼たちの正体について。これは何度聞いても協力者としかいってもらえず、最後には質問やめるぞとまで言われてしまい、聞くことを断念してしまった。結局、この人たちについては謎が残ったままになってしまった。次にこの学校のことについて何となく聞いてみた。すると、


「知っているとは思うが、この学校は貴族連合及び魔族連合の精鋭兵を育てるための施設として10年前に第3席であるフェル·レインが城を変えたものだ」


どこで手に入れてきたのか、俺の把握している情報と把握していない情報を当たり前のことのように話し出した。


「…ということは、ここは元々城だったのか?」


「そうだな。男性寮は元々兵士とかの仮眠室だったはずだ。現場を見てないから確実性はないが」


「それに、さっき学長が第3席とか言ってたけど、あれは?」


「分かりやすくゲームで例えていうと、四天王みたいなもんだ。貴族連合及び魔族連合をまとめる1人の人物が選んだ10人の精鋭。この集まりのことを10席と呼ぶ。番号が若ければ若いほど、より強者になる。この意味が分かるな?」


「……学長は魔族連合で上から4番目の強さってことか」


「そうだ。そして、その強さは軍事力、豊富な魔法に対する知識、そして何よりも厄介なのが攻撃が当たらないってことだな。他にも10の部隊がいるが……まぁここら辺は、自分で解決するんだな」


かなり気になる台詞を残して、銀狼は俺に次の質問を促した。なので先ほどもらった17条の禁術について聞いてみた。


「17条の禁術か。これについて分かっているのは、これが誰かの日記であると言うこと。そして、戦争に勝つために作られたと言うことだけだ。だが一つ理解しておかないといけないのは、これらの魔法はこの世界の魔法と仕組みが違うと言うことだ」


「仕組みが違う?」


「あぁ。今の俺らは魔方陣を描くだけでいいが、それらは言葉をきちんと言わなければいけないんだ。その分かなり強力だがな」


「?そんなに違うものなのか?」


「………いずれ、分かるよ。他にはあるか?」


「うーん……」


聞きたいことが多すぎるせいで何を聞けばいいのかこの時は全くわからなかった。


「……次で最後の質問な。これ以上残ると、また怒られそうだ」


そう言って苦笑した銀狼はすぐに発てるように積んでいた本を片付け始めた。それもあってか俺は余計に焦ってしまった。何を聞こう、何を聞こうと試行錯誤していると銀狼が話をふってくれた。


「…お前は神威の力をどういうものだと思っているか?」


「神威?」


言われて左手の甲へと視線を移す。もうそこにはない狐の尻尾の影を思い出しながら


「……呪い、かな?使用中に何度の変な声に人を殺せって言われた事があるんだ。この前もそうだったし…」


「まぁそれが妥当な回答だな。正しくは神獣、邪神に近いと言われる魔物の死骸から作ったものの副産物だ」


「……神獣や邪神の死骸から……」


驚くべき情報が銀狼の口から発せられた。


「この技術もこの世界では失われてしまっているから、神威ができる武器はとても貴重な物なんだ。その適合者もまたそうだけどな。それは、後で詳しい人に聞いてくれ」


そう言うと荷物をまとめ終わった銀狼は立ち上がって、俺が入ってきた入り口からじゃあな、明日頑張れよ。できるだけサポートはするからさ。そう言って古の書物庫から出ていってしまった。残された俺は、他に何か面白い本がないか探してみたが、どれも読めない文字や知らない歴史の話ばかりでどれも全く役に立ちそうになかった。だがそんな中で1つだけ気になった本があった。それは、歴史についての本でそこから先の年代が作られていない物だった。その本を開くと、終盤にこのような記事があった。


"新たにガーディアンが4名、女神が1名誕生。世界にようやく希望が見えてきた"


"ガーディアンたちと連絡が突然取れなくなる。それと同時に海や大地が割れ、生物の大半が死滅"


"終わりは近い"


「……これは……どういうことだ?」


不思議でならなかった。なぜなら、世界が滅んだという歴史は未来でも習ったことがなかったからだ。だとしたらこれは…先ほど銀狼が言っていた失われた技術と関係があるのか?……わからない。情報があまりにもなさすぎる。……きっと今ここで考えるだけ無駄だろう。俺は本を閉じもとの場所に戻すと銀狼にもらった本とウィルダム旅行記だけを手にもってもと来た道を戻った。もとの部屋に戻ると、扉は勝手にしまってしまった。また来るときがあるのなら、あの本を探し出して押さなけれならないのだろう。そう考えながら俺は大きなあくびをもらした。長い間話していたせいで、すっかり眠くなってしまった。今夜はもう寝よう。意識が段々と遠くなっていくのを感じながら何とか医務室のベッドにたどり着くと、横になってそのまま寝てしまった。



次の日、起きてから俺と春香は身体検査を受けて大丈夫とマーズさんから太鼓判をもらってから、紫雷さんたちが待っている教室に二人一緒に入った。そこにはすでに葵、透、林太、翔斗、千里の全員が座って待っていた。だが、葵はともかく千里たちは本当に顔が暗かった。そんな千里の手には千里のことをかなり心配しているぺピーの姿があった。


「よし、そろったな」


俺と春香が教室に入ってきたのを確認すると紫雷さんはできるだけ小さな声で、それでいて全員に聞こえるようについにこの一言を告げた。


「今夜、スカイピアがこの場所の上空を通過する。そのタイミングで野外訓練という体で外に脱出する」


ついに来たという空気が教室中を駆け巡った。


「………時刻は21時、正面玄関に集合。それまでに各自荷物をまとめておくように。そして、これを決して口外しないように」


そう言うと、紫雷さんは俺たちを急かすように、さぁさぁ寮に戻った戻った。と言って入ってきたばかりの教室から無理矢理俺らを追い出すと、それじゃぁ後でといってそのまま姿を消してしまった。

そして時間はあっという間に過ぎていってしまった。



月明かりが一際輝いていた。荷物をまとめた俺たちはいつも通りを装って紫雷さんに指示された集合場所へ向かっていた。その道中で、俺は部屋に忘れ物をしたことに気がついた。


「悪い、先に行っててくれ」


と一言残して俺は急いで部屋に戻った。部屋に戻ると、俺の机の上に昨日の夜見つけたウィルダム旅行記と禁術の書が置いてあった。これを忘れるなんて、抜けてるなと思いながらそれらを無理矢理荷物の中に押し込むと急いで部屋からでた。その瞬間、別世界のように空気が変わった。反射的に刀にてを伸ばす。だが辺りから殺気のようなものは感じられない。だが、誰かから見られているのだけは分かる。銀狼か?いや、銀狼は確かに不思議な人だがこんな方法はとらないだろう。なら一体誰が………。そこで今思い付く名前は1人しかいなかった。


「……いるんですよね?夜さん」


そう言って俺は先ほど出てきた部屋の方へ視線を写すと、そこにはあの時と別人のような格好をした夜さんと男性1人がそこにたっていた。


「……やっぱり、君には敵わないなぁ……」


寂しそうにポツリと夜さんは呟いた。


「…教えてください。何で俺らにこんなことをさせたんですか?そして…貴女は何者なんですか?」


今俺が一番抱いている謎を直接ぶつけた。


「……頼まれたの、私にしかできない仕事だって。…………」


そう言って無言で俺を夜さんは見つめていた。


「………これで、何を変えられたのかは分からない……でもきっと、結末が変わっていることを、私は信じてる。君が、最後の一手を打ってくれると信じている」


「夜さん?」


「……パラドックス現象を見つけたら、世界はその対象を消そうとするの」


「夜さん?一体何を………」


夜さんは何か覚悟を決めたように顔をあげると、俺の方を見て力強い声で


「幻霊石を持つ仲間が12人いるわ!探しなさい!それが未来に戻るための鍵になる!」


そこまで発言すると、空間が突然うねり始めた。俺には今目の前で何が起こっているのか理解できなかった。それに、先ほどから横にいる男性のことも気になってしかたがなかった。


「夜さん!!」


大きな声を出して、俺らをこの事態に巻き込んだ人の名前を叫ぶ。


「……夜じゃないわ!!私は……私の神名は、ティナグラ·マリアス!六神龍を守護する守護神よ!!」


その声と同時に激しい金属音が辺りに響き渡る。俺は先ほどまで夜さんがいた場所に手を伸ばした。


「夜さん!!」


「…また、未来で会いましょう!!」


その声と共に歪んでいた空間がもとに戻った。そこは先ほどと同じく今まで自分達が生活してきた部屋だった。ただ、違っていたのは…夜さんのたっていたと思われる場所に、血の水溜まりが出来ているくらいだった。あの人に、どんな事情があったかは分からないし、本人が消えてしまった以上、聞こうにも聞くことはできない。でも、あの人なりに動いていたんだろなとは思った。その水溜まりのような血を少し眺めてから、一応合掌して、俺は皆待っている入り口へと急いだ。


------------------------- 第149部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

エスケープ3 VS第3席 傀儡師 フェル·レイン


【本文】

訳の分からない体験のあと、俺は皆が集合している正面玄関へと急いで走った。玄関にたどり着いたときには、俺以外の全員がその場所に揃っていた。


「…よし、そろったな」


紫雷さんが俺が来たことを確認してから、そう呟いた。


「全員、準備はいいな?」


紫雷さんが俺が呼吸を整えている間に、そう言ってもう一度忘れ物ややり残したことがないか確認していた。そして、全員からgoサインを確認しいざ出発しようとしたまさにその時だった。


「おやおやおやぁ~……紫雷?何をしているのですか?」


今もっとも聞きたくない人の声を聞いた。紫雷さんとマーズさんが俺達を庇うように前に出た。


「フェル学長、一応夜での野外活動をすると報告していたはずなんですが」


「えぇそうですね……ですが、OKをだした覚えはありませんよ」


笑顔でそう言いながら近づいてくるフェル学長。紫雷さんは俺達に小声で下がれと呟いてマーズさんとさらに前に出た。


「もう一度聞きますよ、紫雷。………ここで何をしていたんですか?」


その声とともにフェル学長の目の色がどす黒い赤へと変わった。それと同時に辺りの色が一変した。今までの透き通るような夜が、ドロドロとした赤の世界へと変化していく。


「…私は特にあなたたちを殺したくないんですよ。紫雷は未来を知るものとして、マーズは唯一の意識を持つMCとして。そして……君達は私の有用な駒として」


そう言いながら、フェル学長は笑っていた。もはや恐怖しかそこには感じなかった。そして同時に……確実にこの人物には勝てないと判断した。


「…狐火。私が一瞬だけ隙を作る。その隙に3ヶ月前に植えた種のある丘へ行きなさい」


俺と同じことを思ったのか紫雷さんは静かな声で俺にそう告げた。


「…でも!!それだと……」


「未来だと私はもう死人として扱われているんですよね?」


この言葉を聞いて直感的に感じた。この人はここで俺たちのために死のうとしている。恐らくそれは、マーズさんも同じだろう。


「ですけど!!」


必死に止めようと説得を試みた。だがそれでも紫雷さんが首を縦に振ることはなかった。


「もう託せるものは君たちに…彼に託しました。私はそれでもう思い残すことはないんです」


「………………っ!!!」


…何で、何でそんなこと言うんだよ、紫雷さん。あんたを待ってるやつは未来にもいるんだよ。一番弟子の雷光さんはどうするんだよ。あの人はまだ貴方の教えが必要だろ!部隊の方はどうするんだよ。あんたがいないとあの人たち上手に動けないだろ!言いたいことは沢山あった。胸倉をつかんで耳元でそう叫んでやりたかった。でも…………俺にはそれができなかった。紫雷さんの判断は正しい。神器という強大な武器の力を魔族連合の手に納めさせないために、こうしているのだ。それは未来のため、俺たちのためでもあるのだろう。だから俺は……涙袋に溜まっている涙を堪えながら頷くしかなかった。


「では……後は頼みました。狐火!!」


そう言って紫雷さんは雷魔法を使い、天井に穴を開けるとマーズさんが移動魔法の力で俺たちを外へと追いやった。これが、今の俺にとって生きている紫雷さんを見る最後の機会となってしまった。マーズ先生の力で不時着ではあったが無事にフェル学長の空間のような場所から脱出することに成功した俺たちは、戸惑いながらも校門入り口を目指して走り出した。道中で葵、春香、透、林太、翔斗が紫雷さんやマーズさんたちの元に戻ろうと行ったが、何度もそれを制止させた。そして逃げている最中には死んだような目をした生徒たちが俺達に襲いかかってきていた。それを刀を抜き放ち斬り捨て、時には突き刺し、葵は一斉に生徒を火属性に魔法で葬りさり、春香はその自慢の拳で生徒の体を砕いていった。透たちも、剣を振り弓を放ち斧を振り回しと奮闘した。誰もがいい顔をしなかった。それどころか、途中で翔斗は我慢しきれずに地面に嘔吐してしまっていた。林太が翔斗の背中をさすりながら俺たちは逃げ道を必死に逃げ回った。けれど、どれだけ走っても出口にたどり着かず、度々戦闘が続いた。そして終いには囲まれてしまった。葵、春香、透、林太はまだ戦える。だが、翔斗と何よりも千里が限界だ。だが、ここで逃げ切れなかったら紫雷さんに、マーズさんに会わせる顔がない。


「…死ぬ気で押し通るぞ!!」


俺は自分自身に喝を入れるために自分に言い聞かせるためにその言葉を吠えた。


「…そうだね。マーズ先生たちのためにも何としても押し通らないとね!」


「ひろのわりには良いこと言うじゃない!!」


「だけど、そのくらいの意気込みがなきゃこの先は越えられない!」


「ああ!!洋一位がちょうどいい!!」


それが意外にも全員の心に火をつけた。戦える全員で武器を構える。だが、だからといって状況が変わった訳じゃない。一方的にまだ悪いままだ。ギアや駆車を使うという手もあるし魔法で蹴散らすことも出来なくはないだろう。だけどもしそんなことをしようものなら、きっとこの町を出るまでに体力尽きてしまう。できるだけ力は温存しておきたい。さて……どうする!!その時だった。


「下がってろ!!」


敵の人混みの中から子供の声がした。下がるも何もと思いつつ中心の方に全員で固まると、声の聞こえてきた方向の生徒たちが突然からくり人形のようにぐたんと倒れたかと思いきやぎこちない動きで動きだし、俺達に背中を向けて目の前の生徒たちに立ちふさがった。


「ここは、お兄ちゃんと僕に任せてください!!」


そう聞こえてきた方を見ると、そこにはこの前激しい戦闘を繰り広げたハッシュと弟のコージュが立っていた。


「話は聞いてる!こっから走っていけば広場に出るぞ!後は一直線に行けば外に出れるはずだ。空にスカイピアの存在も確認した!上陸するんなら急げよ!あれはそんな長くは留まらないぞ!」


「お前らはどうすんだ!!」


「………何とかするさ!!さぁ走れ!!」


背中を押されて、不安を残しながらも二人に感謝しながら俺らは二人が来た方向へ走った。そこから道なりに進んでいくとかなりの生徒や魔物の死骸があった。あの二人、恐らくあの時は二人とも洗脳された状態で俺達と戦っていたんだろう。あの時でも強いと思ったが、ここまでとは……頼もしいな。そんなことを思いながら走っているとハッシュの言う通り、街の広場に出た。見慣れた道だ。こっからまっすぐ行けばリナの店もある。ならそちらの方に走っていけば、必ず外に……


「みぃつけたぜぇ~!!!ブラザ~!!!!」


聞き覚えのある声と同時に何かが俺の方に向かって飛んできた。それを何とか刀で弾き返すと声のした方に体を向けた。そこには……


「……どうして生きてる!!ペインキラー!!」


あの時と同じような姿をした一度は倒した敵、ペインキラーが立っていた。場に一斉に緊張が走る。どうやらこの感じだと、透たちもこの存在は知っているらしい。


「何でカカカカって~!?そリゃきまッテルルルルルル…………」


!?何だ!?発言が………


「……タイショウであルじンぶつヲはっけンンンンン。ココココレより、とうばババつをかいイシシマママす………」


機械のようなそんな声をペインキラーは発したあと、


「………いくぜぇ………ぶラザー!!!!」


二本の短刀を構えたペインキラーが襲いかかってきた。


------------------------- 第150部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

エスケープ4 VSMCペインキラー


【本文】

機械のような声をだしながら襲いかかってきたペインキラーは、真っ先に俺に向かってきた。その目はどこか別のところを見ているようだった。急いで刀を引き抜き、短刀を受け止める。あの時戦ったときは短刀が浮遊していて遠距離攻撃をしてきたから、戦いずらかった記憶があるが、今はその力がない。そのぶん少しは戦いやすくなるもんだと思っていたが……想像以上にその動きは早く手慣れていた。そのぶん、受け止める時に簡単に刀を弾かれてしまった。


「馬鹿っ!」


春香がそれを見て、すぐに俺のカバーに入ってくれた。そのお陰でおれはペインキラーの攻撃をなんとか食らわずにすんだ。葵も直ぐに魔方陣を展開し、透や林太もすでにその場から移動して、ペインキラーを全員で囲むような配置についていた。


「………5対1はひドクないカ?ブラザー?……それならせめて……こいつらでも、使わせてもらおうか!!」


そう言ってペインキラーはその鋭い爪を持つ手で指をならした。すると、その場に2つの魔方陣が展開し、そこから2人の少女が武装した状態で転移してきた。


「………」


「………」


転移してきた2人の少女は喋らなかった。その姿があまりにも不気味に見えた。それに、なぜ少女がそんな格好をしているのかが不思議でならなかった。


「さぁ……お前ら、しゴトだ。……目に前の人間を……コロセ」


ペインキラーが2人の少女にそう指示を出すと…


「了解です。製造No.1156番ミッションを開始します」


「了解です。製造No.1157番ミッションを開始します」


ペインキラーの指示に機械のようにそう答えた2人の少女は、武装している武器を抜き放つと俺らの方にその切っ先を向けた。


「……何あれ、不気味すぎるんだけど」


春香がその2人の少女を見ながらそう呟いた途端、少女らは風のようなスピードで姿を消した。背後に突然現れた足音に驚き、俺は横に転がりながら足音のする方へと向き直る。それと同時に地面に金属がぶつかる音が響き渡った。また俺の近くでは、葵の方に現れた少女を春香が気をきかせて先回りして、攻撃を受け止めていた。


「何だ!?こいつら!?」


「子供にしては強すぎる。絶対にあり得ない戦闘力だよ!!」


葵が個性であるサーチを使ったのか、少女たちを見ながらそう叫んだ。そんな突然現れた少女たちに翻弄される俺たちをみて、ペインキラーは笑っていた。


「はっはっは!!ブラザーがそいつらに勝てるわけねえさ!!そいつらわなぁ…………10年前の"兵器"なんだからなぁ!!」


!!?兵器!?いったいそれはどういうことだ!?


「くっそ!!ひろたちをあの子供から解放しろ!!」


ペインキラーの背後に回っていた透と林太はペインキラーにその剣と斧を突きつけながらそう叫んでいた。だが…


「………隙がありすぎなんだよ……若造どもが」


なれた動きで、すぐに透や林太の目の前からペインキラーは姿を消すと、なんと正面から2人の腹を切り裂いた。それを見ていた千里から悲鳴があがった。その悲鳴を聞いてペインキラーは楽しそうに笑った。


「ああ!!いいなぁ…女の恐怖からくる叫び声!!心のそこから感じる恐怖!!恐れ!!絶望!!………いいねぇ!!いいねぇ!!いい声で鳴くねぇ!!」


「……っ!!くそがああああああああ!!」


俺は何度か競り合っていた少女を刀で押しきり、ペインキラーの方に体の向きを変えるとギアと駆車を使い、一気に距離をつめた。刀と短刀が激しくぶつかり合い、火花が散った。


「てめぇ!!俺だけを狙えばいいだろ!!そいつらは関係ねぇじゃねえか!!」


「おぉブラザー…お前は戦場で牙を向いたやつを敵と見ないのカい?……違うよなぁ!!」


そう力強く声をあらげたペインキラーは俺との競り合いで押し勝とうとして、その手にもった短刀より強く俺の刀と競り合った。そして………その衝撃でついに、俺の刀は折れてしまった。


「しまっ……!!!」


「あぁ…楽しかったぜぇ…ブラザー。そして俺は今とても興奮している!!何故かって!?……殺しがいのあるやつを殺せるからさあ!!!」


おれた刀でなんとかその攻撃を受け止めようと必死に抵抗を試みたが、何度か短刀を弾いていくうちに、残っていた刃もほとんど欠けてしまった。神器は抜けるか!?いやその間に殺される!!魔法はどうだ!!銀狼から特別な禁術の本を……って中身見てねぇ!!

その時だった。


「洋一さん!!伏せてください!!」


聞いたことのある声が耳に届いた。頼むぞ!!という思いを込め俺はその指示の通りに伏せた。すると…


「……輝け!!プリズムカリバー!!」


「…唸れ大地よ!!いくぞ!!アーステッパー!!」


俺の目の前にそう叫びながら武装したリナの父親と赤サソリのガランのおっさんが現れた。その攻撃をペインキラーは避けながら聞こえる大きさの舌打ちをかました。


「無事か、少年!!」


「おうおうおう!すげぇのに追われてんなぁ!坊主!」


「ハルトマンさん!おっさん!助かった!!」


「へっ!!感謝は嬢ちゃんに言っときなよ?坊主。ハルトマン、行くぞ!!」


「あぁ!任せるがいい!!」


そう言うと、2人は後方へ下がっていったペインキラーに追撃をかけるように、前に踏み出していった。そして、そのあとになって小さな足音が俺の方に近づいてきた。


「無事ですか!?洋一さん!!」


「……リナ。有り難う。助かった」


「えへへ…これくらい大したことないですよ!」


体よりも大きな両手杖持ったリナはそう言って、少しだけ顔を赤らめてテレテレとしていた。でも実際にリナがあの時声を出してくれていなかったら、本当に死んでいたかもしれなかった。


「ほらそこ!!脅威はまだあるということを忘れてないかな!!」


葵が俺たちの方を見ながらそう叫んだ。


「わりぃ!!」


「いいからまずは、透君たちの治療を!!結構出血が酷いみたい!!春ちゃん!次は右から来るよ!!」


そう言って俺に話しかけ葵は春香に指示を出しながら2人の少女を相手にしていた。向こうも向こうで忙しそうだなとは思ったが、とりあえず言われたことはしようと思い、倒れている透と林太の所へと移動して回復魔法をかけた。幸い、傷が浅かったようで何とかすぐに出血止めることはできた。2人は俺にありがとうと言って立ち上がった。

さて、急いで葵たちに加勢しようとしたその時、透に呼び止められた。なんだ?と思い透の言葉に耳を傾けると、透は静かにこう言った。


「洋一、俺たち3人をここで置いていけ」


覚悟を決めた声だった。


「………」


だが俺は透が何をいっているのか全く理解できなかった。


「…何いってんだよ!紫雷さんがなんで命はって俺たちのことをこうしてそとに出してくれようとしてると」


「わかってるよ!!」


「……っ!!」


「…わかっていってるんだ。だって僕らは君たちにとっては足手まといだろう?戦いには驚いてろくに戦えない。血を見ればすぐに体調を崩す。………元々僕たちはここに来るべきではなかったんだ」


「だからって!!そんな命を捨てるかのようなこと!!」


俺は透の肩をもち体を揺らしながら何度も説得した。しかしそれでも、俺の言うことに透が首を縦にふってくれることはなかった。


「このままだと、スカイピアに逃げることも出来なくなってしまう。だから……行ってくれ。大丈夫だ、あの2人の少女は何とかするよ。それに、洋一の知り合いの人もすぐそばにいるんだろ?」


「…………」


何とかするよ?無理に決まってんだろ!!だってお前ら、ろくに戦えないだろ!!動けないだろ!!引き時を知らないだろ!!そんなやつが……そんなやつが無責任にそんなこといってんじゃねぇよ!!そう言ってやりたかった。だけど……そのあまりにも真剣すぎるその透の目に、俺は何も言い返すことができなかった。だから俺は無言で……頷くしかできなかった。そんな俺を不安そうな顔で近くにいたリナが見ていた。


「それと……できれば、千里は連れていってくれないか?……俺の…最後のお願いだ」


「………最後だなんて言うなよ……。また、会うときまでだろっ!!お前死ぬ気かよっ!!」


俺は透の胸倉をつかみながらそう叫んだ。それがハルトマンさんたちの耳に入ったのか、ハルトマンさんたちが一度ペインキラーと距離をおいてこちらによって来た。


「俺は許さねぇからな!!助かる命を無駄に捨てるなんて、絶対に!!許さねぇからな!!」


そう言って俺は、透の胸倉をつかんでいた手を話して突き飛ばした。


「洋一君……?」


ハルトマンさんが心配そう声をかけてくれた。こんななかだと言うのに…この人は本当にすごい人だ。そう思っていると、俺が突き飛ばした透が立ち上がって


「…ハルトマンさん。よかったらここで僕らも戦っていていいですか?」


透は悲しい笑顔でハルトマンにそう言った。

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