131話~135話まで
------------------------- 第131部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
手作り料理に愛を込めて5
【本文】
リナが父と言った酒臭いその男はおぼつかない足取りで台所に入ってくると、酒を入れている引き戸を開けそこから酒をいくつも取り出し始めた。
「お父さんやめて!」
リナがそれを止めようとしてその男にしがみつく。けれども、それを止めることはできずリナは邪魔だといわんばかりにその男に殴られ地面に倒れこんだ。さすがに見ていられなかった。倒れたリナの腕を引き、リナを俺の背中に隠すようにリナの前に立つと、リナの父と思われる男の腕をとった。
「あんた、勝手に入ってきて何してんだ」
鋭く睨みながら、その男に声をかける。リナが大切にしている場所だと知っているからこそ、この男の行動は許せなかった。このまま大人しく引いてくれればよかったのだが、酒に酔っているということもあって、手に持った酒瓶のようなもので俺は頭を殴られた。瓶が割れると同時にガラス片をまき散らしながら中身のほとんどが自分に振りかかった。突然の衝撃と、酒によって視界を奪われ体が硬直する。その間にその男から顔面をおもいっきり殴られ、俺はリナのいる方に倒れた。
「洋一さん!」
リナが悲鳴じみた声で俺の肩を揺らす。酒にはアルコールパッチでめっぽう弱いことを自覚しているので、頭から勢いよく被った酒のせいで、視界が安定しなかった。それに思考がうまくまとまらない。鼻から何か熱いものが流れているのを感じるが今はそんなことを気にしている場合ではなかった。泣きそうな声を出す少女の為にも無理矢理立ち上がる。こんな子一人守れないようで、何を護るってんだ。揺らぐ意識の中、俺はその男から視線を外さなかった。…これくらいしかできない自分が惨めだったが、相手は本当に手を挙げたわけではない以上、武器や魔法を使うわけにはいかない。ここで逆にこちらが手を出せば、さらに面倒なことに発展しかねない。ただでさえ目をつけられているうえに紫雷さんたちから守ってもらっているのだから、何としてもここで問題を起こすわけにはいかない。だからと言って俺にこの場を切り抜けるようなそんな妙案が浮かぶわけでもない。こんな状況でどうすればいい!そう思った時だった。
「はい、ストップ」
突如として俺の目の前に見知らぬ少女が現れた。赤と白を基調とした巫女装束のような服装に、腰辺りまである長い黒髪がとても特徴的だった。そしてなんといっても…
「おじさん。自分の子供にわけもなく手を上げるなんて、人として、親としてどうにかしてるよ」
そう言いながらリナの父に向かって金色に輝く細剣を突きつけていたことが、とても印象に残った。さすがに目の前に鋭利な武器を突きつけられて驚いたのか、リナの父は俺とリナを一瞥し睨むと、酒のほとんどをもって店を出ていった。それを確認した俺は、アルコールと殴られた頭からの出血で意識を失った。
私はそうして倒れる彼を受け止めた。こうなることは昔から何度も倒れて来たから知っていた。だからこそ、今回も慌てずに対処することができた。
「洋一さん!?大丈夫ですか!?」
リナはまだ泣きそうな顔で、意識を失った洋一のそばに寄ってきた。いつも笑ってる顔しか見ないから、こんな顔を見ることは本当に珍しかった。けれど、私はこの光景をもう数えきれないほど見てきた。
「災難だったわね。とりあえず、この人を寝かせましょうか。……それと、こんなことを言うのは酷だと思うのだけれど、御飯を2人分食べさせてもらえないかしら?もう……私何日も食べてなくて…」
………私は結局、彼に影響を受けたまま変わることができずにいる。だからこそ、自分になることができない。今回の行動も、彼の深層意識がそうしなければいけないと感じたから、私もそう動いただけだ。外面は変わっても中身は変わらないのね、そう思いながら私は栄養不足でその場に頭から倒れこんだ。
酒を抱えた男はいつものように酒をいつもの場所に置いた。生きているのがつらかった。リナを見るたびにいつもそう思ってしまう。似すぎている。あまりにも、妻に。手を出してしまいそうになる。愛しい娘なのに、自分が支えてあげなければいけないのに、逃げてしまっている。あいつの懐に飛び込んで全てをはきだしてしまいたかった。あの時そうしてもらったように、何もかもさらけ出してしまいたかった。だが、その妻はもうこの世にはいない。……酒でも飲んでいなければ気がくるってしまいそうだった。……きっとあいつらが見たら俺の事を罵倒するだろう。あの時よりも、みじめに臆病者になったと。だが、あいつらに理解できるのだろうか。最愛した人を目の前で何もできずに失うみじめなこの気持ちが。何があっても必ず守ってやると決めたのに、その約束は果たすことができなかったみじめな男の気持ちが。……それなのに今、俺の目からは涙すら流れてこない。心が死んでいる。そう自分でも思うほどに空っぽだった。そう思いながら、夜空を眺めた。曇りなく光るその一つ一つに、妻との思い出全てが詰まっているかのように思えた。行かないでくれ、消えないでくれ。そう思って手を伸ばしても、そこには空しかない。その手は何も掴むことができない。あぁ……みじめだ。
「それならば、新たに感情を作ればいいじゃないですか」
誰かから話しかけられる。酒に酔っているせいもあって、それがどこから聞こえてきているのか、それとも幻聴なのか区別ができなかった。
「辛いでしょう。苦しいでしょう。………なら、すべて吐き出してしまいましょうよ」
誰かから触れられる。どうやら幻聴ではないらしい。
「さぁ……私の人形となり……動きなさい」
その言葉を最後に、意識が途切れた。
------------------------- 第132部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
手作り料理に愛を込めて6
【本文】
頭が割れるような痛みを感じ、頭を抱えながら俺はその場から起き上がった。すると、足元に頭からぽてっと少し湿ったハンドタオルのようなものが落ちた。
「おはようございます、洋一さん。……昨夜は父がご迷惑をかけました」
近くにいたリナが、俺が起きたことに気が付くと、まず初めに深く頭を下げた。別にいいよと言いながら、立ち上がりあたりを見渡すと、窓からは朝日が飛び込んできていた。どうやらかなりの間、気を失っていたらしい。
「ごめん、リナ。大変な時に真っ先に気を失っちゃって…」
「いいえ!そんなことないです!酒瓶で殴られるのをかばってもらいましたし……本当に感謝してるんです!それに……その……」
そこまで言うと、リナは顔を赤らめながら下を向いて手をもじもじとし始めた。どうやら何かを言おうとしていて、恥ずかしくて言えないようだった。小夜を相手にしていた時にもこんなことがあったので、リナが何かを言うまでずっと待っていると、その恥ずかしさで頭がいっぱいになったのか、その顔を隠すかのように逃げるように台所へ行ってしまった。それを苦笑いしながら見送ってから客用の机の上に一枚の手紙がのっていることに気が付いた。リナにも声をかけようとしたが今の状況から考えて多分こちらに来てくれないだろうと思ったので、とりあえず差出人と宛名を確認する。その手紙には差出人の名前は書かれていなかったが、宛名の所にとてもきれいな文字で俺の名前が書いてあった。一体何だろうと思って一応すぐに燃やせるように火属性の魔法の魔法陣を展開してからその手紙をひらいた。
洋一様へ
ご挨拶できなくて申し訳ありません。先ほどの者です。名は聞かないでください。私があなたに言いたかったことは一つだけです。戦いの中において、死人が存在しない戦争はない。あなたの、全ての人を護りたいという気持ちはわかります。私もそうでしたから。しかし、それではあなたが前に進めません。だからこそ、冷酷になってください。たとえどんな悪名が広がろうと悪い噂が広がろうと、時には命を切り捨てる覚悟を持ってください。
……何だこれ。俺の事を知った気にでもなったのかこの送り主は。あほらし。その手紙に少し腹が立った俺は、準備していた火属性魔法で燃やすと、とりあえず朝の支度をするためにリナのいる台所へと向かった。
それからいつものようにリナと一緒に朝の準備をしたのだが、リナが視線を合わせてくれない。え、なんで?と、途方に暮れていると最近よく通って頂いているおじさんから声をかけられた。
「なんだ坊主!嬢ちゃんに無視されてるじゃねぇか!!何かやらかしたのか?」
「その逆なんですよ…何もしてないのにああなっちゃって」
「ほーほー、それはもしかして……嬢ちゃんがお前さんの事を少し意識しだしたんじゃないか?」
「まっさかー!」
「乙女心ってのはわかんないもんだぜ!」
そう言って、おじさんは俺の背中を叩き大きな声で笑いながら手荷物を持つと、じゃ、昼も来るから!と言ってお代を置いて扉から外へ出ていった。…リナが?俺を意識してる?……まさかね。そう思いながら、俺はいつも通り食器を机の上から片づけて台所の方へと持って行った。そして空いた時間に、今日も新しい料理を作れるようになるためにリナの特訓を始めた。
「ほんじゃぁ、今日はどんなのが作りたい?」
俺がそう言っている間も、リナは俺と視線を合わせようとはしなかった。そんな嫌われるようなことしたか?本当に不安になってくるんだけど。そう思っていると
「あ、あの……洋一さんは……どんな料理が……す、好きですか?」
顔を真っ赤にしながら、俺にそう質問してきた。
「好きな料理?」
「は、はい。その……えっと……いつも、教えてもらってばかりで、お手伝いもしていただいているのに、これと言ってお礼もできていないので、せめてその……洋一さんのす、好きな料理くらい作れるようになりたいなー……なんて…」
俺の好きな料理か……。リナに言われてから改めて俺は自分が好きな料理について考え始めた。これと言って好き嫌いがあるわけでもなく、基本的に何でも食べることができる俺は何か決まって大好きな料理などはなかった。ただ、一つだけ言うことがあるのならば…
「貝類は駄目だな。一度当たったことがあってそれがトラウマで食えないんだ」
「………」
俺がそう言うと、今まで見たこともない速度でリナがそのことをメモした。いや、この情報いるのか?早く続きをという顔でこちらを見た後に、リナは顔を赤らめてまた視線をそらした。……なんだろうか。この空気、凄く気まずい。この微妙な空気、地味に何かを伝えたいのに伝えきれないから気づいてください的なこの空気。すごい苦手なんだけど!でもここで下手に相手について聞けばどうなるか俺は知っている。春香と一度、似たような空気になりそのことについて尋ねたところ、思いっきりぶん殴られたことがある。ここは慎重に言葉を選んでいくべきだ。ならまずは、出来るだけこのことを考えないように、リナの質問に答えよう。そうやって現実を直視せずに俺はリナの質問の事だけを考え始めた。
「豆とかは好きだぞ。豆の入ったトマトスープなんかもよく作ってたし、白菜のベーコンまきなんかもオリジナルで作ってたし……あ」
そうやって考えていると、一つだけとても大切にしているレシピの事を思い出した。
「……母さんが俺に唯一教えてくれたレシピがあるんだよ。それが一番好きかな」
「そ、それって、ど、どんなレシピですか!!」
俺がそう言うと、食い気味でリナが質問してきた。そこまでして俺の好きな料理が知りたいのか…。女の子ってわからないなーと思いながら、俺はそのレシピの事を話した。
「コスト自体はすごく軽くてじゃがいもとピーマンと鶏肉、調味料に醤油と少量の酒、少量の片栗粉で作れるんだ。まずジャガイモを…………」
と、レシピの隅々まで言うとリナはそれを全てメモした後に、満足したような顔をした後ぺこりと頭を下げるとそれじゃぁさっそく作ってみますね!と言って張り切って調理しだした。そんな様子を見て俺は一つだけ思ったことがあった。
幼な妻ってこんな感じなのかなって。
その日はリナがたくさん作った俺の教えたレシピの味見やアドバイスをし、常連のおじさんにからかわれて一日を終え、昨日帰ってない分帰らないといけないと思い、リナにそのことを伝えてから俺は学校に戻ったのだった。
------------------------- 第133部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
手作り料理に愛を込めて7
【本文】
それは、リナと俺がリナの父親から襲われて数日たった日の事だった。
「狐火!君はリナ君の店が何か問題を起こしたか知っているか!?」
まだ早朝。ようやく人が起きだすような時間帯に、紫雷さんは俺たちの部屋の扉をけ破って入ってきた。さすがに突然の出来事に思わず跳ね起きてしまった。
「な、なんんすか!?紫雷さん?」
「知らないのなら急いで来い!!」
そう言われるがまま、俺は起きたばかりで着替えてもいないというのに、無理やり部屋から連れ出され、リナの店へと向かった。
そこで俺が目にしたものはかなり信じがたい光景だった。
「この悪党めが!!」
「悪びれもなくそれをあなたの料理として発表するなんて!!」
そう罵倒を浴びせながら、石やらほかにも様々なものをリナの店に向かって投げ込んでいた。そのせいか外はかなり汚れてしまっていて、窓ガラスも割れてしまっていた。しかしそれを、常連のおっさんが店の前に立って何してるんだお前さんら!と怒鳴りながら人を退けていた。
「常連のおっさん!」
とりあえず、これ以上リナの大切な店が傷つくのを見たくなかったので、おっさんの元へ紫雷さんとともに近づいた。
「おう!坊主じゃねぇか!!この人だかりはなんなんだ!おめぇさん知ってるか?ってなんじゃそのだらしない恰好は!」
「知ってたら、こんな格好で来たりなんかしませんよ!!」
「狐火、話し合うのは後だ。…仕方がないから、武力でどうにかするぞ」
「紫雷さん!?さすがにそれは…」
「おいおい、お兄さん。それはまずくねぇか?」
とおっさんと二人で止めよとしたが、紫雷さんは俺らの言葉には耳も傾けず刀”轟”を抜き去るとそれを空に向かって掲げた。すると突然曇り、そこからいっせいに雷が複数落ちてきた。しかし、それにあたる人は誰もいなかった。
「…次は当てるぞ」
その言葉をリナの店にものを投げ込んでいた連中に言い放つと、その言葉と先程の雷に恐れをなしたのか集まっていた人たちは散り散りにどこかへ行ってしまった。それを確認してから、紫雷さんは武器をしまうと一息ついてからこちらに向かってきた。
「まずはこれで撒きましたが…狐火、リナ君が心配です。一度確認に。それと、貴方とも少しお話がしたいです。」
それに一つ返事で俺はリナの安全を確認しに、リナの店に入った。
店の中は特に大きな被害はなく、中が荒らされたというわけではなかった。そんな店の端っこでおびえた目をしながらリナは小さく縮こまっていた。昔どこかで見た光景と重なってしまい、俺はすぐに抱きしめて安心させてやろうと思ったがぐっとこらえてからまず声をかけた。
「リナ、俺だ。大丈夫か?」
その声に反応するように、リナがこちらの方を見る。そして俺の存在を確認したとたんにおびえていた眼に少しだけ光がともった。だが、それでも恐怖心に打ち勝つことはできていないようで、腰を抜かしていた。すぐに近づいてこの子くらいなら大丈夫かなと、お姫様抱っこで抱え上げるとリナが無事だということをつたえるために俺はそのままリナを連れて紫雷さんたちの元へと戻った。リナを抱えた状態で表へ出ると、紫雷さんから少し驚いた顔をされたが、俺との付き合いの長い紫雷さんはすぐに理解してくれたようで俺がなぜこんな抱え方で運んできたのではなく、リナの無事をまずは喜んでくれた。しかしここで想定外の事が起きる。
「坊主~。運んでくるのに、お姫様抱っこは少しやり過ぎじゃぁねぇのか」
そう言って笑う常連のおっさん。いやいや、別にそんなこと考えてお姫様抱っこで運んだわけじゃないから!まぁ少し意識はしたけれども!!そのおっさんの発言のせいで、リナがそのことを意識したのか顔を赤くした。
「狐火。一応聞いておこう。手は出してないよな?」
「あなたまで疑いますか!?紫雷さん!!」
その後、紫雷さんとおっさんにからかわれながらリナを安全な場所、俺らの寮へと運んだ。学校に戻ると、俺が紫雷さんに無理やりどこかに連れていかれたことをほかの皆にも話したのか、校門にはマーズ先生をはじめみんなが待っていた。すぐに合流してから軽く事情を話すと、落ち着いた場所で話そうということになり紫雷さんの部屋におっさんも含め全員集まることになった。そこで聞いたことにさらに驚きを隠せなかった。
「…料理研究ギルドに喧嘩を売られた!?」
「は、はい………これ、朝玄関が騒がしかったら行ってみたらこれを突きつけられて……その後周りの方々が石を長て来たので……怖くて……」
そう言いながら、果たし状のようなものを取り出しながら差し出したリナの声はかなりふるえていた。なぜこの時そばにいてやれなかったのかと、そんなことを思ったりもしたが、過ぎ去ったことはどうもできない。今をどう切り抜けていくかをこれからは考えていかなくてはならない。とりあえず、今はその突きつけられた果たし状らしきものを見てみないと。だが、それをひらこうとしたときに、マーズさんから待ったと止められてそれを取り上げられた。
「ちょっ!マーズ先生!なんで急に!」
「君は人形になりたいの!!?」
初めてこの人に鋭い目をして怒られた。いや、これは……この言い方は……恐れ?
「マーズ、何を感じた」
「感じるのよこの手紙から!生徒たちがもぬけの殻になった時に感じる魔力を!!」
「マーズ、わかったから少しは落ち着いて…」
「落ち着いていられるもんですか!関係のないこの子が狙われた!遠隔的にこの子を操って、洋一を自分の人形にしようとしていたって事じゃない!それ以前に関係ない子までもを」
「マーズ!!」
何かにおびえるように話し続けるマーズ先生を、紫雷さんは一声で黙らせるとその手紙をマーズ先生の手から取り、それをひらいた。すると、その紙から何か魔法のようなものが紫雷さんに向かって光をまき散らしながら発動した。あまりのまぶしさにそこにいた全員が目を瞑るか、手で隠した。そして光がおさっまたと思ったところで目を開くと、そこには先程と変わらず紫雷さんがいた。しかも普通に手紙を読んでいた。その光景に一番驚いていたのはマーズ先生だった。しかしそんなマーズさんを置いといて、紫雷さんは手紙の中身を読みだした。
「あなたの作った料理は我々が特許を届け出たものと非常に類似するほか、それをまるで自分の料理のようにふるまった点、その点について我らがリーダーが非常にお怒りです。すぐにお詫びに来るように」
それはわけのわからない文章だった。料理については俺が教えたものだし、第一そんな料理のレシピを独占しようなんて考え持ったこともない。ただ、リナが今後この店を続けていくために最低限の知識が必要だろうと思って俺が教えていただけなのに。まぁ初めの動機は全く違うものですけど!!まぁそんなことよりも、この手紙はまったく何を言いたいのかが理解できない。だが、一つだけ確信して言えることがある。
「特許権は類似作品ならば発動しないし、対象のものを独占して作れる権利なだけで、そんな怒るようなことでもないし、まずは料理人にそんなことで怒るやつはくそだ!!」
「いやひろ、あんた詳しすぎでしょ」
そう熱弁した俺に、鋭く春香からツッコミが入った。だが、とりあえず今やらなきゃいけないことは一つだ。紫雷さんもおおよそ分かってくれたのか、うなずいてくれる。そして、
「狐火、行ってこい。そして、この手紙を送りつけてきた主を探るんだ。だが、行ってもらうのは、狐火君と……あんただ」
そう言って、紫雷さんが指をさして指名した先にいたのは常連のおっさんだった。
------------------------- 第134部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
手作り料理に愛を込めて8
【本文】
数日後、俺はリナと常連のおっさんとともに指定の場所に訪れていた。そこは以外にも…
「………」
「………」
「………おい、坊主。呼び出された場所は本当にここで会ってるのか?」
「……合ってます。というか…」
「いつの間に私の店の前にこんなお店が……」
リナの店の目の前にある店だった。この前訪れた時にはまったく影も形もなかったのに、ここ数日リナをかくまっていただけでこんな建物が目の前に建っていた。怪奇事件かよ、と思いながらも入らなければ始まらないと思い、俺らは恐る恐る店の中に足を踏み入れながら俺は紫雷さんに言われたことをもう一度頭の中で整理し始めた。
「いいか、狐火。おそらくこれは、君を貴族連合側へ加入させようとさせる罠だ」
「罠…ですか」
「あぁ、これを見るといい」
そうして紫雷さんから一枚の紙を見せられた。どうやら新聞みたいなもののようで見出しには大きく
”貴族マーリア家滅亡!これからどうなる!?”
と書かれていた。
「……これは…」
思い出したくない出来事が再び頭の中をよぎった。キーをかばったことにより、最後のマーリア家の血を引くジャルの死亡。あの時は、ジャルの死を悲しんでいる余裕さえなかったが今再びこのような記事を見ると悲しい気持ちで胸がいっぱいになった。
「まぁ見出しも気になるだろうが、実は目を向けてほしいのはこっちだ」
そうして紫雷さんはその新聞のページの隅の方を指さした。そこには小さな文字でだったが
”主犯は小さな子供5人の犯行とみられており、現在これを調査中である”
と書かれていた。
「…君がここに来るまでの事は僕に話してくれただろう?その中に、これととても類似するものがあったからね、気になっていたんだ。……そして悲しいことに、貴族連合はすでに犯人の特定を…つまりは君たちがこの事件を起こした犯人だということに気が付いている」
「あれは事件を起こしたかっただけじゃ!それに、事件を起こしたのは俺らじゃ!」
「分かっている!君がそんなことはしないことはわかっている!おおよその事は予想できる。僕が恐れているのはそれじゃない。君たちの名前が表ざたに発表されることだ!だからこそ狐火!ここでその脅威を一つでも多くつぶしておけ。おそらく、彼はそうゆうのが得意なはずだから」
………そうゆうのが得意って、いったいどうゆうことだろうか?この、毎日店に来てくれるおっさんが何かすごい特技でも持っているのだろうか?そんな魔力も強さも全く感じないのだが。だが、今は紫雷さんの言葉を信じるほかない。というか、今はそのおっさんしか頼れない。その店に足を踏み入れると嫌な気配を感じた。武器は構えず、その気配のする方を探る。だが、その気配をとらえることはできなかった。
「おいおい、どうなってんだこの店。人一人いやぁしねぇぜ」
確かにおっさんの言う通りだった。店だというのにその中に誰もいない。見た目もかなり豪勢に作られていたのでその光景がかなり不気味に見えた。それにおかしな点もある。呼び出されたのに、人が本当に誰もいないのだ。
「…とりあえず、警戒しながら前に進みましょう。何が起こるかわかったもんじゃないから」
「坊主の言う通りだな。そうするか。嬢ちゃんは俺が守ってやるから、俺の後ろにいな」
おっさんがそう言うと、リナはコクンとうなずいてからおっさんの背後に回った。そうしてから慎重に、慎重に足を進めた。静寂。静かすぎるこの時間が本当にとても怖かった。その時、奥の方で何かが光った気がした。とっさにシールドを展開、すぐにそのシールドに人の胸に風穴が簡単に開きそうなくらいの大きな矢が飛んできてそれをはじき落とした。
「おっさん!リナを連れて入り口に!」
やはり、紫雷さんの言う通り罠だった。なら俺らがまず取らなければいけない行動は、リナを安全な場所へ避難させることだった。おっさんは俺の声を聞いてリナとともに後方に下がりながら入り口のほうまで戻るとその扉に手をかけた。しかし、その扉が開くことはなかった。
「坊主!この扉開かねぇぞ!!」
「嘘だろ!?」
そうしている間にも、矢は休むことなく飛んできた。それをシールドでうまく防ぎながら室内を駆ける。まずは、あれをどうにかしないと、俺以外の人が危ない。ギアを発動し、一気にその矢が放たれている場所まで近づくと思いっきりそれに向かって刀を振り下ろした。しかし、刀に何かを斬った感触はなく空を斬る音だけがあたりに響いた。そのことに驚いていると、背後の方で坊主!と大声で呼ぶ声がした。急いでそちらの方を振り返ると、どこから湧いたのかリザードマンが複数体おっさんとリナを取り囲むように出現していた。駆車で瞬間的に一体の背後を斬りつけて倒しながらおっさんたちの前に出ると、こうゆうときならきっと神器が抜けるかもしれないと思い俺は神器に手を伸ばした。しかし、神器はその鞘から抜けることはなかった。くっそ!使えねぇ!と思いながら、俺は再び刀を構えなおす。どうする、こいつらはサーシャからかなり危険な個体だと聞いている。倒せるときは基本的に背後から斬りつけと奇襲を仕掛けた時だけだ。今こうして、視界にとらえられているときいったいどうゆう動きをするのか俺はそれを把握していない。……神威を使うか?でもなんとなく、それを今使ってはいけないと思った。そうこう考えている間に、リザードマンのうちの一体が俺の方にその手に持った片手剣を振りかざした。それを両手で受け止めて上にはじくと、サマーソルトで一度怯ませてから姿勢を低くして足首を斬りつけた。おっさんが見るなとリナの目を覆う。姿勢を崩したリザードマンは前のめりになりながらこちらに倒れこんできた。その無防備なリザードマンに俺は刀を頭に向かって突き出した。リザードマンの顔がゆがみ、鮮血があたりを覆いつくす。俺の手や刀にもべっとりと血が付着した。刀が抜けなくなる前に刀を引き抜き、刀の血を払うと俺は他の魔物に集中した。とりあえずは一体、だがまだまだ魔物はいる。だが、さっきので一つだけ感覚を掴んだ。どうやら、怯ませれば簡単には動いてこないみたいだった。それなら、月歩や駆車などで怯ませるか、足首を斬って行動不能にできれば、勝機はある。だが問題は、そんな状況を簡単に作り出してくれる魔物じゃないってことだ。仲間が死んだのを見てから、リザードマンたちは簡単に俺らに近づいてこなくなった。敵にしては賢い行動で、俺らにとっては最悪の行動だった。さて…どうする。下手に一歩踏み出せばおそらく簡単に殺される。かといってずっと守ってばっかでも殺される。判断を一瞬でも間違えれば簡単に死ねるぞこの状況。……葵がいれば、少しばかしはましな状況に持っていけるんだろうけど、俺にそこまでの脳はない。ただただお互いの隙を探し続ける時間が流れ続ける。……ん?隙?
その時、またどこからか矢が俺に向かって飛んできた。いい方法を思いついた時にちょうどいいタイミングだ。
「おっさん!リナを頼んだ!」
「!?おい坊主!!」
俺はおっさんにそう言いながら、飛んでくるその矢に向かって走り出した。それに合わせて、魔物たちも動き始める。チャンスは一度。これを外せば確実に死ぬ。だからこそ、外せない。その矢を斬りながら俺はある呪文を唱えた。そして俺はリザードマンに体を貫かれた自分自身をを見た。どうやら、うまくいったみたいだ。久しぶりに使うから、使えるかどうかかなり不安だったけれど……幻夢がうまく決まってくれてよかった。おっさんやリナには今きっと俺が魔物に貫かれている様子が目に映っているだろう。今現に青ざめた顔で俺と認識されている矢を見ている。この状態になると、本当に空気になったような気がしてならないが、戦いで存在に気が付かれないことがどれほどいい方向に戦局を動かすのか、俺は知っている。だからこそ、この瞬間を俺は逃さない。ギアを使って低い姿勢で魔物たちが集っているその中心に降り立つと、俺はそこでまだまだ未完成の剛破斬を使用し足元を攻撃した。何体かには当たらなかったが、かなりの数の敵の足を切断することができた。突然刺したと思った俺が下から湧いて出てきて、さらに足を斬られたこともあってか敵が発狂する。鼓膜が破れそうな叫び声に思わず耳を塞いでしまった。しかし、その叫び声の中に
「おわっ!死人が生き返った!」
「きゃああああああああああ!!!」
おっさんとリナの叫び声も混じっていたが、とりあえずは無視した。だがこれで、こちらがかなり有利になったことに間違いはない。なら、逆転されないうちに速攻で攻め落とすまでだ。敵はかなり興奮している。今ならきっと思考力も低下している事だろう。そう思っていると足首を斬られたことに動ける魔物が怒ったのか、我を忘れて武器を振り回しながら突進してきた。こうなった者ほど、戦いの中でどれだけ殺しやすいものか……。俺は向かってたリザードマンのがら空きの胸に向かってする鋭いを一太刀をぶち込んだ。抵抗なく刃が通り、敵の体上部が体から切断され地面にゴトリと落ちる音があたりに響いた。それを見た魔物たちがさらに奇声を上げる。これ以上はリナやおっさんの精神面に負担を与えるだろうと判断した俺は、駆車で一気に動けない魔物を片付け、残ったわずかな魔物を二度と動くことのないように丁寧に処理した。そしてその後、落ち着いて矢が放たれていた弓を見つけることができその装置を壊すことにも成功した。ようやくあたりが静かになって、嫌な気配を感じないことを確認してから、俺は刀を鞘にしまった。今の戦いでかなりの鮮血を刀に浴びさせてしまった。この時代、刀を手入れする道具もあまりよくはないのでそろそろ買い換えないといけないかもしれない。またサーシャに何かいいものがないか尋ねてみるか。そう思いながら、俺はリナたちのいる入り口付近へと足を運んだ。リナたちの所に戻ると、すでに魔物の死体は浄化して消えてしまっていて、辺りには複数の血の水たまりができていた。リナのような子にはかなり目に悪い光景だ。できるだけ視界に入らないように立ってやらないといけないと思った。そして戻ってからすぐにおっさんにどうして生きてるんだ?としつこく質問された。そりゃそうだ。幻夢なんて技普通は見ないだろうし。俺は出来るだけわかりやすく幻夢について簡単に説明した。おっさんは俺の話を聞いてとても驚いた顔をして
「俺のギルドにはそんな不思議な個性持った奴はいねぇな」
と言った。
「え、ちょっと待って。おっさんってもしかしてギルド加入者?」
「おうとも!そういや坊主にもリナちゃんにも言ってなかったな!!」
そう言って笑いながら、おっさんは魔法のようなもので大きな斧を出現させてそれをドンッと地面に叩きつけてから
「ギルド連合一角!赤サソリの特攻隊長、ガランだ!!!!てめぇの戦いっぷりは十分に見せてもらったぜ!!改めてよろしくな!坊主!!」
いつもの笑顔で俺たちにそう言った。
突然の事に、俺の脳内処理が全く追いつかなかった。え?なんて?ギルド連合の一角?ナニヲイッテイルノカワカリマセン。
「まぁいまんなこたぁどうでもいいんだ。それで、おめぇさんはこの状況どう見るよ。罠とみるか?それとも何か別の目的があるとみるか?」
目の前の事実を受け入れられない俺の事を置いといて、おっさんは現在の状況について俺に意見を求めてきた。まぁ、確かに今おっさんの事よりかは、現在の状況の打破の方が優先すべき出来事だ。そのことについて考えていこう。
「…まず、先手から矢で撃たれ魔物の襲撃にあったこと。普通なら罠だとみます」
「なんだ?何か引っかかることでもあんのか?」
「…こんなことをするくらいなら、別の場所でした方が効率は良いんじゃないかなって」
「確かにそうではあるな。わざわざ街なかでやる必要は全くないな」
「はい、だからこそ引っかかるんです。なぜ”リナをこの空間に呼び出したのか”を」
自分で口にしながら、そのことについて考えていた。もしあの学園長が俺を自分の駒にしようとするのならどうゆう手を使ってくるだろうか。前に使われたのは、死亡率の高い場所への移動と、強力な個体の魔物との戦闘。本当に真実を知らなければ、事故だといわれてもおかしくないものだった。だから、人為的にこんな空間を用意してまで俺の事を狙いには来ないと思った。だが、正直やり口が似ていないわけではない。だからこそ謎だった。なぜ、この空間にリナを呼んだのか。
「おっさんはどう思う?」
「さぁ?俺は特攻することにしか命を懸けてないからな。難しいことはわからん」
「いやおい。あんたから聞いてきたんだろうが」
「だがな、考えるより動いたほうが良いこともあるんだぜ、坊主。……出てきな、そこにいるやつ」
俺にそう言いながら、おっさんは店の中にいくつかある建物を支える柱の方に斧を構えた。俺も自然とそちらの方に刀を構えながら向き直る。
「………見つかってしまったか」
そう言いながら柱から出てきた影に、俺とリナは驚きを隠せなかった。なぜなら
「なんで……父さんが…ここに…」
俺たちの目の前に現れたのは、完全に武装したリナの父親だったから。
------------------------- 第135部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
補足:洋一の使う抜刀術頭義流の技、そのモーションについての解説。
【前書き】
これからのための補足説明です。
【本文】
洋一の使う頭義流とは?
狐火編で洋一が行方不明になっている二年間で師匠と呼ばれている何者かに習った抜刀術。全体的に相手の態勢を崩す技が多めでどんな戦闘においても柔軟に対応できるようにできている。ただ、相手にとても接近するので、かなりの度胸が必要。
1:状相破斬
頭義流第一奥義。刀を抜刀した状態で振り下ろすような形でかまえ、魔力を剣先に集めた後標的にぶつけることでその物体、物質を破壊することができる技。基本的にガードブレイク、シールドの破壊、破壊不能な物体に使用する。魔力をためている間に大きな隙が生じるため、他の行動をキャンセルしながら放つことが多い。連携には向かない。
2:駆車
頭義流第二奥義。刀を納刀した状態で柄を握って腰に構え、走りながら敵に接近し抜刀して斬りつける技。基本的に態勢があまり決まっていないので、臨機応変に使用することができる。また複数の魔物と対峙するときにとても有効な手段の一つでもある。連携の初動によく用いられる。
3:月歩
頭義流第三奥義。刀を納刀した状態で相手に接近しサマーソルトで顔面を蹴り上げた後、空中で刀を抜き着地せずにもう一回転まわりながら刀で斬りつける技。勢いがないとできないため駆車との連携でよく使われる。相手を簡単にダウンさせることができるので一対一に持ちこんだときはとても有効な手段となる。連携の途中動作として用いられる。
4:剛破斬
頭義流第四奥義。刀を納刀した状態で敵に接近し抜刀せずにその場で一回転しながら叩き相手のバランスを崩した後に抜刀し敵を斬りつける技。素早く行わないとはじかれて逆に不利な状況になるので、現在の洋一は特訓中。連携の初動によく用いられる。
5:双破斬
頭義流第五奥義。敵に接近した時に瞬時に刀を抜刀しながら刀を下から振り上げ、その勢いを生かして上から叩きつける技。素早く行わないとはじかれて不利な状況になるので、現在の洋一は特訓中。連携の途中動作として用いられる。
ここからは新情報
6:月下り
頭義流第六奥義。上空にいる時に刀に魔力をためて魔力の斬撃を敵にぶつける技。他の頭義流の技の納刀⇒抜刀の動作が行われた後に放ちやすいようになっている。連携のフィニッシュに用いられる。第一章終盤、デスゲームにて習得。
7:桜花爛漫
頭義流第七奥義。駆車で何度も敵に接近し離れを繰り返しながら敵の命が尽きるまで斬りつける技。だが、この技は刀ではできないので他のある武器が必要となる。師匠である頭義の秘奥義でもある。
8:花吹雪
頭義流第八奥義。空中から月下りを用いて何度も魔力の斬撃を当てた後、空中を蹴り敵を一閃する技。だが、この技は刀ではできないので他の武器が必要になる。師匠である頭義の第二秘奥義である。
9:緋吹雪
頭義流第九奥義。敵の前に立ち、納刀⇒抜刀⇒納刀をする一瞬の間に敵を39回斬りつける技。超人じみたセンスと才能がなければできないので、習得は困難を極める。師匠である頭義の第三秘奥義でもあり、神器でしか放つことのできない神技でもある。
EX
・紅桜
洋一が緋吹雪を自分でもできるように改良し、人殺しにさらに特化した技。敵の正面に立ちすれ違いざまに首、両腕、両足を刀で斬った後、背後に回りこみ背後から心臓を一突きする技。殺傷性があまりにも高すぎるため、本人ですら使用するのをためらうレベルの奥義。
連携の一例
駆車⇒月歩⇒月下り
駆車⇒剛破斬⇒双破斬⇒月歩⇒月下り
月下り⇒駆車⇒剛破斬⇒月歩⇒状相破斬 etc




