111話~115話まで
------------------------- 第111部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
あっちでもこっちでも戦闘
【本文】
確かに私は言われた。遠くから見守れ、と。確かに先輩はそうはいったけど…あの状況はあんまりじゃないかな!?
「でも……下手に動くと歴史が変わっちゃうし……」
私は……どうすればいいの!?
「ひろ君!バインド!!」
「任せろ!!」
この逃げ場のない状況でもなお、葵は臆することなく俺たちに指示を出した。そして、俺は葵の言う通りに行動阻害魔法であるバインドを詠唱し鳥竜種の魔物を空から切り離した。
「今のうちに全員移動して!!」
と、そんな感じで何とか俺たちはピンチを脱することができた。
「……ほっ…」
よかった~。と私はその場で安堵感から尻餅をつきそうになった。やっぱり不思議な感覚だ。自分より強い人の弱かった時を見るというのは。もう、ハラハラする。こんな気持ちライブ前の緊張でしか感じたことがないよ~。
「でもよかった。本当に」
後はこのまま何事もないまま戦闘を終えるか、逃げてくれでもしてくれれば私が後処理をするんだけどな~。その時だった。
背後から幾度か感じたことのある殺気を感じた。とっさに私は、先輩に…洋一たちに見つからないようにその攻撃をかわした。
「…私の攻撃を初見で避けるとは……なかなかですね」
私に攻撃してきたその声の主は、少し驚いたようにその言葉を漏らした。
「そりゃぁ避けれますよ。こっちはその攻撃を何度も受けて入退院を繰り返したんですからね!!サーシャさん!」
その声の主、サーシャは私から名前を呼ばれたことに驚いたのか少しだけその動きが止まった。
ピンチは脱した。けれども戦闘が終わったわけではなかった。魔物はすぐに俺のバインドを破壊すると、そのまま一度態勢を立て直すかのように空中に逃げた。
「さて……」
どうする。葵の案でいくのが現状のベストかもしれないけれど、リスクの方が大きすぎる。そんなことを考えているときだった。後方で突如数ヶ所で爆発がおき、誰かがこちらに吹き飛んできた。
その人は、四角い箱のような物を背負っていて、小柄で謎の武器を使う…
「サーシャ!?なんでここに!?」
「話は後です!!とりあえず後ろの魔物はあなたちでなんとかしてください!!私は…あいつの相手をします」
そう言ってサーシャがキッと睨んだその先に、どこかで見たことのある武器を手に持った少女がこちらに歩いてきていた。
「…サーシャンさんから仕掛けてきておいて、逃げるのはないですよ……」
そして、その陰から姿を現したのは先日助けてもらった七海だった。
少し遠くななれたとある場所。銀狼はそこであるものを見に行っていた。
「………本で読んだことはありましたが……ここまでとは……」
「そう言えば、将平は初めてだったか」
「あの時は留守番でしたね。けれどこうして実際目にしてみると驚きすぎて言葉が出てきません」
「それな。俺もこれを見つけた時は開いた口がふさがらなかったからなー」
「……でもこれ、どうやって入るんですか」
将平は見に来たものの前に壁として立ちふさがっている、赤い障壁に近づいた。
「触んねぇほうが良いぞ。死ぬから」
「………そういうことは、もう少し早めに言ってもらいたかったんですが!」
そう言った将平の手はすでに赤い障壁に振れていた。その触れた場所から、波紋のような何かがシールド全体にいきわたると、けたたましい警告音と時代には会わない近代的な電子音、それにメッセージボイスが聞こえてきた。
「シンリャクシャハッケン。ボウエイモードキドウウウウウウ。…テテテキキヲママママッサツツツツシシシシシシ」
障壁の中に朽ちたかのように思われたロボットが同時に起動し、システムで埋め込まれた文章を機械的に発し始めた。
「あわわわ……どうすればいいんですか!?」
「戦うしかないだろ。それに、あの程度でうろたえるようだと今対峙している敵には勝てないぞ」
銀狼の発せられたその言葉に、将平は確かにそうだと思った。今対峙している敵は実体すらない。でも、あれには実体もあるしおそらくだが弱点もあるはず。
「…そう……ですね」
そうして将平は右手を前にかざすと神器を呼びだした。
「弱点などは?」
「機械って言ったら大体あれだろ」
銀狼がそこまで言った時、大量に起動したロボットたちがこちらの方に向かって飛んできた。
「……飛んでるんですけど…」
「ロボだからな。そりゃぁ飛ぶだろ」
「それとあれって何ですか?」
「あぁ…それは………」
その時、数体のロボットがこちらに突っ込んできた。と思ったのもつかの間それはすぐに鉄くずへと化した。
「いい感じの角度で殴って倒す!」
そう言った銀狼の手にはすでに2本のガンブレードが握られていた。
「…ですよねー」
そうして、将平は神器を強く握りなおすと向かってくるロボットとの戦闘を開始した。
サーシャは今上空に強力な魔物がいるのにもかかわらず、今目の前にいる七海に武器を向けていた。
「……」
「ひどいなー。私何もしてないのに」
確かに彼女の言う通りだった。彼女はなにもしていない。なら…なぜ私は彼女に手を出したんだっけ?
「……もう、矛盾が生まれてる…のかな?」
そう目の前の彼女は言った。あまりいい顔はしていない。私に攻撃されることは、何か不味いことだったのかもしれない。それは、なぜ?
「ほら、こっちばかり見てると目の前の魔物に食べられちゃいますよ?」
「サーシャ!!避けろ!!」
背後から切羽詰まった洋一の声がした。私はとっさに自分の個性を発動させて、いつも商売道具を入れている空間に逃げ込んだ。そしてすぐに外に出る。私の個性はあまり融通がきかないので入り口と出口が全く同じ場所になっている。そのため、急いで外に出なければ待ち伏せされて叩かれる。だから私はそこを叩かれないために迅速に行動しなくてはならない。…無駄な行動など決して許されない。それが私。ユーリュとしての務めなのだから。そのまますぐに空間から抜け出すと、ひとまず洋一たちと合流した。
「サーシャちゃん、大丈夫?」
葵が私のことを心配して、ヒール回復魔法をかけてくれた。あまり怪我はしていなかったが、そういう心遣いはありがたかった。ありがと、と一声かけて私は一度空を見上げた。未だ空にはその魔物が飛翔していた。
「あれは…」
「鳥竜種っていうらしい。春香がいってた」
「…鳥竜種……」
話には聞いたことがあった。竜種と鳥種のハーフ。生まれることのない生物。あるMCの創造者が興味本意で作り出した魔物。
「…なんであんなものが……」
空を見ながら、サーシャはそう声を漏らした。
空から何度も地上へと滑空する鳥竜種の魔物を見ていて、紫雷は洋一たちが無事であることをひたすら願いながら山道をマーズとともに走っていた。
「急いでくれ、マーズ!」
後ろを走るマーズにそう声をかける。自分とは違い、あまり走ることのない彼女は辛そうに息をきらしていた。
「流石に……もう……無理」
そう言って、その場に座り込んでしまった。生徒の危機だというのに、何でこんなにもゆっくりとしていられるのか。…前のこともあるのに。
その時、道ではない茂みの方から草を掻き分ける音が聞こえた。とっさに刀に手を回す。少しずつそれが私たちの方に近づいてくる。そして……
「ようやく出れたーー!!」
そう言って茂みの中から1人の少女が私たちの前に現れた。そして私を見て
「あ、すみません。ここの…あの魔物がいる場所まで行きたいんですけど、道がわからないので案内してくれませんか?」
そう言って、目に前に現れた少女はにっこりと笑った。
------------------------- 第112部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
太陽の兎
【本文】
その後も俺たちは、鳥竜種の魔物にずっと圧倒され続けていた。
それは、サーシャが加わったからと言っても変わらず、状況はどんどん悪くなっていっていた。
疲労、魔力不足、それらが幾重にも重なり、透や千里たちにはもう限界が来ていた。
そこまでの状況になってから、ようやく今まで戦闘をずっと見ていた彼女が…七海が行動を起こした。
「…本当は、使ったら駄目だって言われてるんですけど、事が事です。何かあった時の責任は私が何とかします」
そう言って七海は、俺たちの前に出た。
それに目を付けた鳥竜種の魔物が、真横から高速で体当たりを仕掛けてきた。この場所に居続ければ間違いなく俺たちも攻撃を喰らうので、俺たちは急いで木陰に隠れた。それなのに、七海はその場から動こうとはしなかった。それに魔物すら見ていなかった。七海が見ているもの。それは…太陽だった。
「さて、と。それじゃぁ…片づけちゃいましょうか!」
そう言って七海は天に右手を掲げてからこう叫んだ。
「モード!サンラビット!」
その言葉と同時に、魔物が彼女を飲み込んだ。その瞬間、魔物の嘴が爆発した。
予想外の出来事に、誰もが口を開けてその状況を見ていた。自爆でもしたのかと初めは思った。だが違った。
彼女は…兎はそこで体を炎で包み、自分を一度は飲み込んだ魔物を見下していた。
遠くで何かを感じた。おそらくそれは、将平も同じだろう。
「今のは……やはり、七海ですかね」
「…だろうな。…全く、何をしているんだか。でもあっちにはあいつもいるし、なんとかなるさ」
「だといいんですけど…あ、洋一さん。これはどうでしょうか?」
そう言って、将平は何かをこちらに持ってきた。それは、表紙がビリビリにやぶれ、風化しきった一冊の本だった。
「…これは…、古の書物庫への行き方か…」
…なるほどね。これで、歯車を合わせろと。
「将平。用はもうなくなった。ここからでるぞ」
「え、じゃぁもう未来に?」
「いや…おそらく、こっからが本番だ」
一言で今の七海の状況を語るとするのなら、誰もがきっとこういうだろう。熱の塊、と。それほどまでに、彼女の放つ熱量はすさまじいものだった。
「……信じられない……!!」
葵が不意にそう言った。その声はどこか困惑しているようだった。
「何が信じられないんだ?」
「あの子…私の個性でサーチしても、全て測定不能って出るんだよ!?」
測定不能。つまり…強さ未知数。その言葉を聞いて俺はようやく、葵が困惑している理由を理解した。俺たちが戦った敵の中で、そう言う敵がいなかったわけではない。グレゴリアスがその例だ。だが、人間で全て測定不能と出るなんてこと、今までになかった。出たとしても、せめて俺のように、回復力未知数くらいなものだった。
「無茶苦茶だよあの子…知り合いなんでしょ?」
「知り合いというより……一応命の恩人なんだ。サーシャ、なんで七海の事を攻撃したんだ?」
「あなたたちが戦っている最中に木陰から武器を持ってちらちらとみてる人間がいたら、怪しいと思うでしょう!?」
…どうやら、サーシャは七海の事を早とちりで攻撃したみたいだった。あの様子なら、七海は怒ってはいないようだし仲直りすれば何とかなると思う。…今はあんなんだけど。
七海の方を見る。人ではない何かに変わった彼女は、先程よりも好戦的になっていた。手に持った槍のようなものをぶんぶんと振りまわし、突き、薙ぎ払う。その攻撃が魔物に当たり、その当たったところからは炎が上がっていた。突然状況が変わったことに、魔物は困惑しているようだった。魔物は一度、七海に向かって吠え七海の動きを一時的に封じた後、死に物狂いで空へと飛翔した。
「逃がさないからね!!」
そう言って、七海は槍のような武器を敵方向へと向けた。
「さぁて、見せちゃうよ。炎の一閃!」
そうして七海は地面を蹴った。そのスピードは俺のギアよりも早かった。一瞬だった。本当に何が起こったのかわからないほどに一瞬だった。気が付いた時には、魔物は空中で爆発四散していた。
「いっちょ上がり~!」
そう言いながら、空中を蹴って降りてくる七海の事を俺たちは口を開けてみていることしかできなかった。人でもここまで強くなれるのかと、そう思った。
その時、俺たちが来た道から3人の人が坂を上り入ってきた。紫雷さんたちだった。
「狐火!大丈夫か!?」
紫雷さんは焦っていたのか、洋一君と呼ぶと言っていた俺の事を、昔の呼び名で呼んだ。どうやら、あの魔物はそれほどまでに強い魔物だったらしい。大丈夫です、と返事をして紫雷さんにどこにいるのか伝えた。息をゼイゼイと切らしたマーズさんが、こちらに来てけがをした人いないかと確認してきた。
『それよりも、マーズさん。あなたの方こそ大丈夫ですか?』
全員がハモってそう言った。そして、全員がふきだして笑った。
遠くから笑っている先輩を見て思った。あぁ、きっとこの笑顔に捺はひかれたんだろうなと思った。
「七海ちゃん!探したんだよ!勝手にいなくなっちゃうから!」
どこかで聞いたことのある声が、私の耳に届いた。
「結衣先輩…」
「全く……大丈夫なの?こんな大ごと起こしても?怒られても知らないよ?」
「それは、神様たちがどうにかするでしょう~」
「考えが安直すぎ!」
べしっと頭を叩かれた。そりゃそうだ。勝手に行動したんだから。
「ほら、あっちの方に気がいってるうちに行こ」
「ですね」
ミッションは完了した。なら、部外者は去るべきだ。そうして私たちは、その場から先輩に気が付かれないようにその場を後にした。
あの後、気が付けば七海はいなくなっていた。紫雷先生が言うには、もう1人女の子がいたらしいがその子も姿を消したらしい。マーズさんが魔力追跡を行ったが、すでに探すことができる範囲の外にいるということが分かっただけだった。とりあえず、全員無事だった俺たちはその後、紙に書かれていたやることを無事に遂行して山を下った。そのころにはすでに日は沈み、突きが昇り始めていた。
「…今日の事は僕のミスだ。すまない」
街についてから紫雷さんは俺たちにそう言って頭を下げた。
「いやいや、俺たちが変なことしただけですから…」
「それでも、あの魔物が出るとはあの紙に書いてはいなかった。そこは詫びさせてくれ」
と、紫雷さんはずっと頭を下げてしまい、こちらも頭が上がらなかった。その時だった。マーズさんがこんなことを言い出した。
「そんなに悪いことをしたって思うのなら、この子たちに何かしてやればいいじゃない。例えば…あそこの店で晩御飯をおごるとか…ね?それでいいと思うでしょ?」
「いや、しかし…そんなことで相殺できるはず…」
「い・い・か・ら!私が食べたいの!!」
そうして、紫雷さんはマーズさんに襟をつかまれ引きずられるようにその店に入っていった。どんなに強いといわれた剣豪でも、結局は女に勝てないのだと改めて思った。
どうしたの。早く来なさい。とマーズさんに呼ばれたので、俺たちはおずおずと店の中に入った。
「い、いらっしゃいましぇ!!はぅぅぅ……噛んだ~」
そして店に入ると、ウェイトレス姿の小さな女の子がそう言って出迎えてくれた。
------------------------- 第113部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
酒で人は変わる者
【本文】
俺たちの目の前で赤面しつつも、小さな女の子は俺たちを空いている席に案内してくれた。と言っても、ほとんど空席で、みた感じ店はあまり繁盛してはいなさそうだった。その子は俺たちを席に案内した後で、緊張しているのかそれとも人が苦手なのか。
「…あの子は初めてここに来た時もずっとああだったんだ」
先に店に入っていた紫雷さんがそう言いながら、こちらに寄ってきた。とりあえず、マーズさんの魔の手からは逃げることができたらしい。と言ってもすぐそばにいるけれど。しかも気が付けば葵、春香、千里、サーシャも無理矢理席に座らされていた。葵はかなり表情が引きつっていてすぐにでもここから離れたいと言わんばかりだった。春香は軍に所属してたこともあってか、顔色はあまり変えていなかったが、どうせそれは表面上の事だけだ。内心絶対面倒くさいと思っているだろう。千里は、今から何が起こるのかとハテナマークをたくさん頭の上に浮かべていた。サーシャはこの中でただ1人、なぜか目を輝かせていた。一体向こうで何が始まろうとしているのか。とりあえず、関わりたくはない。それよりも、紫雷さんの言ったことが気になった。
「ああだったって…あんなにもビクビクしていたんですか?」
俺の言葉に紫雷さんはうなずいた後
「まぁ、話は座ってからにしよう。みんな疲れているだろうし。…それに、もう出るにも出れないしな……」
紫雷さんが少し涙目で、マーズさんたちの方を見た。そちらを見ると、すでに出来上がっているマーズさんがいた。
「うわぁ……」
「紫雷先生、あれ止めなくていいんですか?」
「…次の瞬間火だるまになる覚悟があるのなら止めてもいいよ」
『あ、遠慮しておきます』
「とりあえず、食べようか…」
そう言って紫雷さんは席に座った。その席に俺たちも座って1つのテーブルを5人で囲んだ。それを見て、先程の小さな女の子がテケテケとメニューを持ってきた。
「あ、あの、紫雷さん!今日は…何を食べていかれますか?」
「いつものでいいよ。あと彼らの分もそれでいいから」
「は、はいっ!それでは、少しだけ待っててくださいね!」
そう言ってパッと笑顔の花を咲かせると、厨房の方へと駆けて行った。
「紫雷さんにはビクビクしないんですね」
「まぁ、常連だからね。それに……。まぁ後でこのことは話そう。それに今日はいい機会だ。あまり話すことのできていない透君、林太君、翔斗君。今日のこの場をきっかけに僕は君たちの事を教師としてもっと理解したいと思っている。今日はぜひ君たちの話を聞かせてくれ。何なら、僕の話をしてもいい」
最後のセリフに、3人が食いついた。
「紫雷先生の話ですか!?めっちゃ聞きたいです!!」
「俺は、もっと強さとは何なのかについて聞きたいです!!」
「僕は、もっと戦場でのうまい立ち回りなどを…」
………こりゃぁ長くなりそうだな。でも、改めてこの状況を乗り越えていく仲間として、透たちの事を知れるいい機会になるだろうし…それに、昔みたいに逃げ口がるわけでもないし、とりあえず酒だけは飲まされないように注意しよう。
混沌。この場を現すのにはちょうどいい言葉だ。机の上で顔を真っ赤にして目を回しながら伸びている葵、春香、千里。いいねぇ~あんたいける口だね~。そちらこそ~。とか言いながらもう何杯目かもわからない酒を喉に通すマーズさんとサーシャ。まぁまだこっちは整ってるからいいよ。まだ。自分の机の方に視界を向ける。
「強さって~ろうしたら~てにいれひゃれますか~!!!」
「おっぱい……おっぱあああああああい!!!」
「ネムネムです…………」
「ハッハッハー!!それでな~僕はそいつに言ってやったんだよ!!センスだけで勝てるわけないってね!!」
………。机の上はすべてジョッキで埋め尽くされており、強烈な酒の匂いがそこら中に広がっていた。
「注意した結果がこれだよ!!」
どうしようもねぇよ!ってかなんで教師が未成年に酒薦めてんだよ!何が君たちの事を知りたいだよ馬鹿やろー。酒癖は昔と変わってないじゃねぇかよ今畜生。挙句の果てに全員酔いつぶすとかどうにかしてるぞこの人ら…教師かよ本当に……。それに、透に至っては同じ言葉しか繰り返さない機械みたいになったし、林太に至ってはもう性癖叫びまくってるし、翔斗は気持ちよさそうに寝てるし……。それに、なんか女性陣がまた更に酒注文してるし!!金足りんのかよ!!
「ほら~何やってるんだ~狐火~!!お前も付き合わんか~!!」
「………」
今ならわかる。苦しい修行をさせた後に、ありえない量の酒を飲まされるから助けてくれと、俺の部屋に逃げ込んできた雷光さんの気持ちが。話を聞かされていただけだったが、ここまでひどいとは思っていなかった。しかも人格変わっているし…。自分の知っている剣豪のイメージが音を立てて崩れ去っていく。…まぁ、それも個性…か。仕方がない。とりあえず、どうしようこの人たち。そんなことを考えている時だった。
「よっしゃ!私の勝ち~~!!」
後ろでサーシャがガッツポーズをしながら立ち上がってそう叫んだ。どうやら、マーズさんに呑み比べで勝ったらしい。一度言ってみたい。お前何もんだよと。
「はぁ……」
後片付け……どうするんだろうなぁ…。そのことを考えると頭が痛かった。そこに…
「あ、あの…これ……」
ウェイトレスの女の子が一枚の紙を持ってきて俺に差し出した。そこには普段見ない数の0がたくさん並んでいた。そして悟った。あ、これ駄目なやつだ、と。はぁとため息が止まらない。なんかもうどうでもよくなってきた。もうここまで来たら、酔いつぶれるのもいいかもしれない。俺は、自分用に準備されていた酒を手に持つとそれを一気に飲み干した。
------------------------- 第114部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
鍛錬怠るべからず
【本文】
結局俺はあの後2杯しか飲まず、ウェイトレスの女の子と一緒に自分たちの散らかした食器を片付けた。そこで少しだけその子と話をした。名前はリナというらしい。母親が死んで、父はあまり帰ってこないので、死んだ母のレシピを見ながらひとりで店を経営しているようだった。
「辛くない?」
「いえ…。生活するのは大変ですけど……私は、この生活が気に入ってるので」
リナは笑って、そう言った。なぜ笑っていられるのか、そう聞こうとも思ったが、その言葉を俺は飲みこんだ。それは、自分にも言えることだ。なぜ、笑って生きているのか、と。それは……言葉が浮かばなかった。俺は、なんで本当にこうして生活できているのだろうか。そのことが少し不思議に思えてきた。そうやって、リナの仕事を少し手伝っていると、窓から日の光がさしてきていた。もう朝だ。早いもんだと思った。
「それじゃぁ、請求は紫雷さんに」
「はい。ご来店有難うございました。……また来てくださいね」
「…もちろん」
そう言って俺は、すでに酔いのさめたサーシャとともに、酔って爆睡している全員を学校まで運んだのだった。全員を部屋に運び込んでから、俺はサーシャを見送るために校門へと来ていた。
「色々とありがとな」
「いえ。こちらも楽しませていただきましたし、別にいいですよ」
「これからどうするんだ?」
「そうですね…次はスカイピアに商売に行こうと思ってるので、3ヶ月後に出るここの飛行船に乗って、って感じです。なので、しばらくはこの付近に滞在しているので、呼んでくれればいつでも商売しに来ますよ。あなたは大切なお客様ですから」
「ま、そん時は呼ぶよ」
「では、また会いましょう」
そう言ってサーシャは歩いてどこかへと行ってしまった。朝。静かな朝。この時代に来て、久しぶりの落ち着いた朝を迎えた。さて、これから何をしよう。正直眠いから寝てもいいが、この時間に寝ると、今後色々と都合が悪くなりそうだし……久しぶりに、稽古でもしようかな。
洋一と離れてそれはすぐの事だった。昨日の兎へと変化した少女が私の進行方向に立っていた。思わず身構える。しかし、そのような行動をとった私の事なんか気にもせず彼女は私の近くに寄ってきた。
「今のあなたの力が必要なんです」
私の近くに来るなり彼女はそう言った。私の力?それは商売の方?それとも……。
「裏情報の提供を求めます。けれど、欲しいのは私じゃないんでついてきてくれると助かります」
……。彼女と接触したことは昨日が初めてのはずだ。なのに、私の本職を知っている。脅威だ。すぐにでも、消さなければならない。けれど、その気持ちを私は抑え込んだ。これは仕事だ。おそらく、私たち黒の明星の事を全て知っていて、あえてこう動いたのだろう。
私にすべての権限があるということを知りながら。
「……いいわ。まずは案内しなさい。依頼人の所に」
「こっちです」
そう言うと、彼女はすぐ近くの小道へと入っていった。普通の人なら入らないならず者がたくさんいる道だ。なるほど。依頼人は相当ここで権力を持っているらしい。私はその姿を見失わないようにその背中を追った。
木刀を振るう。呼吸に合わせ、一太刀一太刀を丁寧に、鋭く振り下ろす。その度に空を斬る音がかすかに聞こえる。この時代に来てから、常にドタバタしていたせいで四島での戦い以降に身についた稽古ができていなかった。その分、今体を動かしてみて少し体が鈍っていると感じた。
「…まだまだ、お師匠には遠いな」
頭義流の開祖である師匠。名前はなぜか憶えていない。おそらく何かの術式をかけられたことまでは覚えてはいる。あの時の俺が意識を取り戻したのは、葵を斬りつけた後だった。それまでの期間3ヶ月程度。それと、修行していた過程の記憶を俺は覚えていない。なぜ、師匠が俺の記憶を消したのか、その真意は今もわからない。ただ、何となくあの人は意味のないことは絶対にしない、そんな人なのだろうと思う。だから、記憶を消したことにもおそらく何かの意味があるはずなのだ。あれから3年経った今でも、その意図は全く理解できないが。
「残り習得できていない頭義流は6つ…か」
俺がいまだ習得できていないのは、瞬時に抜刀しながら刀を下から振り上げ、その勢いで飛び上から畳み掛ける双破斬。鞘に刀を収めた状態で敵を殴り怯ませた後で刀を抜きながら瞬時に一回転して切る剛破斬。そして、最終奥義である緋吹雪。残りは知らない。前二つについては、何となくできるようになったが、納得いく形に仕上げることができないままでいる。そして緋吹雪に至っては、まったくできない。同時に敵に39連撃はあまりにも無理な話だ。ちなみに、これの劣化版としてあるのが、オリジナルである紅桜だ。首と四肢を全て斬りつけた後背後に回り心臓を一突きする。人を殺すのに特化した奥義だ。
「鍛錬怠るべからず…か」
改めて、意識せずとも習慣を乱してはならないと思った。さて、今日はもう切り上げよう。いい汗もかいたことだし、風呂にでも入ってのんびりしますかぁ~。
そんなことを考えながら、俺は一人男子寮へと戻った。
------------------------- 第115部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
お風呂イベント
【本文】
お風呂はやはりいい文明だと思う。体を湯に沈めながら俺はそんなことを思った。ここにきてから少しして大浴場があるというのは聞いていたのだが、全くと言って行く機会がなかった。そして今、誰にも邪魔されないような朝の時間に1人で入ることができている。
「最高だ…!!」
久しぶりの風呂は気持ちがいい。……あぁ、身も心もこのまま解けていってしまいそう……。
「いやー、あったかいッピねー!!」
「………」
「こういうのも、いいもんだッピね!!」
「………なんでいる……」
「ピ?」
「なぜおまえがここにいるんだ、ペピーーーーー!!!」
「ヌニャアアアアアア!!?」
「………落ち着いたッピか?」
「………あぁ…」
「先に言っておけばよかったッピね。僕は、自分の意志でいつでも実体化したりできるんだッピ!!」
「そう言うことは、普通もっと早く言うんじゃないかなぁ……」
せっかく1人でのんびりと入ろうとしていたのに……。だが、よくよく考えてみればこいつは人じゃない。ということは、実質1人なわけだからかなりゆっくりしていていいんじゃないのか?そうだよ、何を気にすることがあるんだ。
「はぁあぁぁぁぁぁ………」
そうため息を出しながら、ペピーを抱いて肩までお湯につかる。気持ちがいいったらありゃしない。そう思っていたら、頭を桶のような何かで叩かれた。
「………あんた、なんで女子風呂でゆっくりしてんのよ」
「………………ん?」
んんんんんんんんんん????あれ、なんか今変な声と変な事が聞こえたんだけど気のせいだよね。だって俺はちゃんと男子寮の方の風呂にきちんと確認して入ったわけだし、そんなベタな間違いを起こすわけなんて
「こっち向け、あほたれ」
さらに頭をペシッと叩かれた。
「とりあえず……怒んないから理由を言ってみようか?ひろ?」
「……春香、お前が間違ってるなんてことは」
「ここは女子寮だ」
「…まじで?」
「………はぁ、あんたのその天才的な方向音痴どうにか治らないの?」
「無理」
「少しは善処しようとしなさいよ、あほたれ」
そう言いながら、春香はため息をつきながら風呂に入ってくると俺の横に一糸まとわぬ姿のまま座った。
「……少しは追い出そうとかしないのかよ」
「…いいじゃん。……家族なんだし、たまには……ね。久しぶりに、2人で話したかったし」
「あれ、俺が言うのもなんだけどそれは大丈夫なの?」
「外には準備中の看板を出しといたから大丈夫…」
「確信犯かよ」
「いいじゃん!別に!」
それから、静寂。……やっべぇ、気まずい。なんか話を聞いた感じだと、ここは女子寮の風呂で俺はいつもの方向音痴でこちらの方へと来てしまったみたいだった。そして、そのことを知って春香は風呂に入ってきた……と。あれ、この雰囲気、非常にまずいのでは?このままだと、よくあるとんでもない方に持っていかれるのではないか?いやいやいや、待て待て待て。それはない。こいつに限ってそれはない。
「男女がこんなところで裸同士で風呂に入ってるって、2人は恋人ッピか?」
なんか空気も読まないふざけたヒヨコがなんか言い出したああぁぁぁぁぁ!!
「…さっきも言ったけど、私とひろ、それに葵ちゃん。私たちは家族なの」
「血がつながってないのにッピか?」
「そうそう。不思議よね、こいつが私たちに家族の契りを結ぼうとか言ってきたんだよ。……あの時はとてもうれしかったけれどね……」
「あの時っていつッピか?」
「……私たちの家族が全員死んだ日、かな。ずっと泣いてる私にね、本当は自分も泣きたいくせに泣かないで、家族になろうなんて言った来たのよ」
「告白じゃないッピか?洋一?」
「……………」
もうやめて。俺のそんなかなり恥ずかしい過去の事をそんな嬉しそうに話すのはやめてください春香さん!?
「私も最初はそう思ったよー。それ告白じゃんってね」
「誰もが勘違いしそうだッピ」
「まぁ、違ったんだけどねー」
「うわー、最悪だッピ!!」
何がどう最悪なのか、後でこのクソひよこはしばいてやろうと思った。
そう、あの時はとても嬉しかった。すべてを失った私。悲しみで全てが見えなくなっていた私を救い出してくれた王子様。そう思わずにはいられなかった。
「…家族になろう」
あの時の言葉がなかったら、今の私はいない。あの時の優しさがなかったら、今の私はいない。だからこそ、私はこいつの事を…………。
「そう言えばペピー、普通に春香と話してるけど大丈夫なのか?……その…トラウマとか」
俺がそう言った途端に、ペピーは嫌なことを思い出したらしくおびえてそのまま俺の中へと戻っていった。
「春香、お前本当に何したんだ?」
「……モフモフ?」
「は?」
と、そのあと俺らはどうでもいい会話を少しした後に、順番に風呂から上がった。…いやらしいことは何もしていない。そもそもあいつ、女性の武器ともいえる胸がないから、ぶっちゃけあまりそう言う感情を抱かな
「あー手が滑ったー。ごめーん」
…思いっきり殴られた。




