11話~20話まで
本編にも感想評価頂戴(必死の懇願)
------------------------- 第11部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
迷霧の中へ
【本文】
暗い暗い空間。一度来たことがあるような場所に自分は立っていた。
「やぁ、起きたかい?」
後ろから声をかけられ、振り替えると人の形をした黒い物体がそこにたっていた。
「また、この世界に来たんだね」
なんと言い返せばいいのかわからず、ただただ呆けていると相手が自分の方に近づいてきた。
「う~ん………やっぱり、一度死にかけてるね~」
「は!!?死にかけた?俺が?」
「あれ、覚えてないのかい?………ま、無理もないか…………」
そうして、黒い物体は自分の前で足を止めた。
「君は、自分が何をしたのか覚えているかい?」
「自分が……何をしたか?」
「………………………なら、質問を少し変えよう」
そう言うとその黒い物体は自分の右手を掴んだ。まるで、自分を逃がさないようにするためのように。
「君は、いつ、その力を、……をとり………………………」
暗いその空間にヒビが入り始める。もう、この世界が崩壊する合図だった。
周りが明るくなっていく。その黒い物体が次第に見えなくなっていく。
最後に見えたのは、その黒い物体の瞳だった。
はっと目が覚める。
………あれ………確かさっきまで魔物と戦っていて、剣が折れてそれで…………?
「おお!!ご無事でしたか!!洋一さん」
声を掛けられた方に顔を向けると、村長とその他数人の女性がそこに立っていた。
「びっくりしましたよ!!この村に入ってきたとき、お腹に大きな穴があいていたんですからね。何とか応急処置を施しましたが………体を起こせますか?」
そう言われたので、試しに体を起こそうとしてみる。するとお腹に激痛が走り体など動かせる状態ではなかった。
「………やはり無理をなされたのですね。私達が頼りないから………本当に申し訳ない………」
「あー………気にせんでください。こんくらいなら何とかなりますから」
そう言うと、俺は一番痛いと思うところに、魔方陣を展開した。薄い緑色で形成されたその魔方陣は、俺の体の傷に吸い付くように張り付いた。
「ヒール………」
その言葉を口にすると、傷が一瞬のうちに消えてなくなった。
試しに体を起こしてみる。痛みなど全く感じなかった。
ポカーンとしている村長。……まあそうなるだろうな。
自分は昔ヒーラーやってました~、とかここでいったらどうなるかわからんな……。
それよりも、意識をそらさないと、こっちのことで質問攻めにあいそうだな……。
そう思った俺は、自分の異常な回復魔法の強さについて聞かれる前に、さっきの戦いで思ったことを口にしてみた。
小さな違和感から、少し確信に変わりつつある事を全て話してみた。
初めはボーーーっと聞いていた村長だったが、途中からもしかしたら霧が消えるかもしれない、といった瞬間から飛びついてきて、正直鬱陶しかった。
「じゃあ、もしもその方法があっているのならば……」
「あぁ、向こう側に抜けることが可能かもしれない」
「でも、一体どうするんですか?それをするためにはそれ相応の道具が………成る程。あの子に作らせるわけですね?」
「そゆこと、じゃあ俺は今からあのポンコツ野郎に文句と注文してくるから、話はまたあとで」
そう言い残すと、俺は家からでてあのへっぽこ野郎が住んでいる家へと向かった。
外は星が綺麗に輝いていた。
「おーい、ポンコツ~。起きてるか~?」
鍛冶屋の前に来て、少し挑発がてらそんなことを言ってみた。しかし、鍛冶屋は出てこない。
……こいつ、寝てんのか?そう思って帰ろうとして来た道を戻ろうとしたとき、扉がキィと音を立てて開いた。
出てきたのは、鍛冶屋の事をお兄ちゃんと呼んでいた小さな子供だった。
「あの……、家に何かごようでしょうしょうか?」
夜遅くに扉をどんどんと叩く俺を、迷惑そうに見つめていた。
そして、凄い眠そうな顔をしていた。
「………何か…、すまん。睡眠の邪魔をしたっぽいな」
「い、いえ!それよりも、今日起こった出来事の方が……本当に申し訳ありませんでした」
「いいって、結局自分が判断をミスっただけだから」
「………、とりあえず家にあがりませんか?」
鍛冶屋の入り口から入って、そのすぐ近くにある扉をその子が開く。
そこから、上へと続く階段がありついていくと机が一つしかない殺風景な部屋に出た。
適当にくつろいでおいてください、そう言われてその子が台所?と思われるところにいくと、瓶から茶葉らしきものと水をとりだし、何かを作ろうとしていた。
「……何も置いてないんだな」
「えぇ、家はそんなに裕福ではないので。はい、どうぞ」
自分の目の前に黄色い色をした液体が出される。見た目はあれだったが、少しだけ香る匂いはそんなに悪いものではなかった。
口に一口運んでみると、口一杯に酸味が広がった。
「……これは、何て言う飲み物なんだ?」
「これですか?これは、フェアマの茶葉で他の物とは違って酸味があって魔力回復を促進する作用があるものです。お口にあいませんでしたか?」
「いや、凄く美味しいよ。あとで、何処で売ってるのか教えてくれ」
「わかりました。でも今はそれよりも……」
そう言って、その子は机の上に紙を広げた。
「武器の作成の依頼ですね?」
「いや、……まぁ確かにそれもあるんだけど………」
じゃあ、なんでここに来たんですか、見たいな顔でこちらをみる。
そんな顔でこっち見ないでよ。心が痛むよ。
「実は…………」
「………つまり、こんなものを作って欲しいと?」
机に広げた紙に俺が説明した通りに書いていく。一本一本丁寧に引かれるその線から、この子の物を作る思いが伝わってくる。
「そう、それなんだけど………今日の朝までに作れるか?」
「朝までに、ですか………。少し待っていて下さい。兄に確認してきます」
そう言うと、その子は階段を急いでかけおりていった。
あれ、あの糞鍛冶屋、下にいたのか?それにしても、何の音もしなかったけど……。
すると、下で急にドタンバタンと騒がしい音がしたかと思うと、糞鍛冶屋が階段をあがってきた。
「よう、糞鍛冶屋!」
「糞鍛冶屋!じゃねぇよ!!!俺にはちゃんとジルって名前があるんだ!!そっちで呼べ!」
「じゃあ……糞汁で!!」
「てめぇ潰すぞ?」
出会ったすぐそばから険悪な雰囲気になると、ジルをお兄ちゃんと呼ぶその子が俺たちの間に入った。
「二人とも喧嘩しないで下さい!そんなことをするためにこんな時間まで起きてるんじゃないんですよ!!」
俺ら二人とも何にも言い返せなかった。
「それで、俺にこの依頼か?ふざけんなよ。俺は武器以外は作らねぇって決めてるんだ。その俺にこんな訳の分からない物を作れって?」
「そこを何とか頼む!!」
両手を顔の前で合わせて、ジルに頼み込む。
ここで、これを作ってもらえなければ俺が頭のなかで考えている作戦が全て無駄になる。
「大体、これを作る意味が分からんぞ。何なんだこの針が浮いているやつは」
「あぁ、俺らはコンパスって呼んでるんだけど、……まぁまだこの時代にはないか………」
「そして、これを俺に作れってか…………はぁ」
「頼む!!この通りだ!!」
ジルの前に立つと、俺は頭を深々とさげた。
………こんくらいしないと、こいつおれてくれそうにないし。
「…………今はもう帰ってくれ。俺は疲れた。寝る」
ジルは俺にそう言い放つと、そのまま布切れを地面にしいて眠ってしまった。
こいつ………、お願いしているやつの目の前で寝やがったぞ。
「すみません、兄が迷惑を…」
「いや、いいよ。気にせんでも。こんな時間に押し掛けた俺が悪いんだし」
そう言うと、俺はそのまま階段をおり、外に出ようとした。
「待ってください!!」
扉に手をかけたところで、その子に呼び止められた。
「兄からの伝言です。朝になったら家に来い だそうです。それでは、お休みなさい」
そう言うと、大きな欠伸をしたその子は目を擦りながら上に上がっていった。
さて、俺も明日の準備でもしますか。
そうして、そのまま村長の待つ家へと帰った。
そして、翌日の朝。清々しい、とまではいかなかったが、それでもいい天気ではあった。
外に出ると、村に残っている人全員が、外に出ていた。
皆、自分が出てくると、わぁっと歓声をあげると何人かの子供に引っ張られて、皆の中心へと連れていかれた。
されるがままにしていると、そこには昨日コンパスを作って欲しいとお願いしたジル兄弟が立っていた。
二人とも眠そうな表情をしていて、足もふらついていた。
「やっと……来たか……。ほら……注文の品だ………」
そう言うと、自分の手にコンパスと注文していない一本の刀が手渡された。
「おい、この刀…………」
「俺はもう寝る。じゃあな」
ジルはそう言うと、そのまま鍛冶屋に入っていった。
ジルから手渡された刀を抜いてみる。形は少しイビツだったが、所々努力した痕が見られた。
あいつ………俺が昨日大怪我したのを気にして………。
こりゃぁ、絶対に失敗はできないな。
そうして、村の皆の方を見る。まだ、知らない人が多いがそれでも自分が頼られているという思いが伝わってきた。
「村長、それじゃあ」
「えぇ、どうか無事に戻ってきてください。その時は村の皆で歓迎します」
「はは、じゃあそれを楽しみにしとくよ」
そう言うと、俺は村を後にして、霧の中へと歩みを進めた。
霧の中に入ると、予想道理どちらの方向に進めばいいのか分からなくなった。
そして、コンパスをとりだす。見ると赤い色をした方が右にきていた。
……ってことは、今西に向かっているのか………。しかし、この霧の量、帰って来れなくなったと言われても納得せざるをえないぞ………。
そして、ぜっさん今迷子中である。
ある程度歩いて、ふうと一息つくべく地面に座り込んだ。
そして、何となくコンパスを見ると、赤い色をした針が左側にきていた。
………ちょっと待てよ。俺は向きは変更してないぞ!!?
この霧………もしかして、マジックミストか?
だとしたら、何処かに術者だけが移動できる道が存在するはずだ。
まずは、それから探すか………迷わないように、な。
そうして立ち上がると、俺はその術者専用の道を探し始めた。
------------------------- 第12部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
双子
【本文】
あれから、1時間近くが経過した。俺は突破口を見つけられぬまま、この霧の中をずっとさ迷い続けていた。
「くっそっ!!コンパスまでイカれやがった………いったいどうなってんだ?この霧は………」
さっきから、手元のコンパスを見るが針がずっと回り続けていて使い物にならなかった。
だから、来た方向も帰る方向も全くわからなかった。
もし、俺がここで迷っているうちに昨日みたいに魔物が来たら………、それはないか。
ありゃきっと、霧の中にいたせいで村側にしかこれないようになった魔物だろうな。
そうでなきゃ、この霧の特性が全くわかんねぇからな。
村の事を心配しながらただ真っ直ぐ進んでいるだろうと思われる方へと足を進めた。
真っ直ぐ進んでいると、霧の中に何かボヤーっと何かが目に写った。
ふと、コンパスを見ると針が正常に起動していて、正しいのかは分からないが赤い色をした針が右を向いていた。
「これ………抜けたってことでいいのか?それよりも、あの変な影みたいなのきになるなぁ……近づいてみるか」
ゆっくりと、足をボヤけている影の方へと進める。
近づくと、それが繭の様なものであるのがわかった。
「何だ、これ?魔物か?」
不思議に思ったので、ジルから貰った刀で試し斬りがてら繭を斬ってみた。
真ん中からスパッと綺麗に斬ることができた。
まぁ繭だしこんなもんだろ。…さすがにヒビは入って……ないな。よかった。
すると、繭の中から何かが転がり落ちてきた。
とっさに後ろへ飛び刀を構える。
「あれは………人か!?」
刀をしまい急いで近寄ると、所々に傷のある人だった。
「おいっ!大丈夫かあんた!!」
耳元で大声をだして呼び掛ける。昔ヒーラーだったころに教えてもらった、医療の基本動作だ。
すると、意識があったのか目を微かに開け、口を動かした。
「よかった……。魔力の消耗が激しいけど、なんとか生きてるな。今すぐ助けてやるからな」
「…げ…。…ぶ…い」
「どうした?言いたいことでもあるのか?」
「にげ…。あぶな……い」
「バードゲージ!」
後ろの方から突然謎の声が聞こえたかと思うと、下に何かの糸の様なものが出現していた。
怪我をしている人を担ぎ上げる暇もなく、俺は急いで横に飛んだ。
直ぐに怪我をした人の方を見ると、また繭に捕らわれてしまっていた。
「あら、………貴方は他の人とは違うようね……。フフ、面白いわ……。ねぇ、風華」
「ですね、お姉さま。この人は、どうやらこの時代の人でもないようですけど」
「なっ!!?何で俺がタイムリープしたことを知ってる!!あれは、俺ら5人しか知らないことなのに!」
「あら……、わかるわよそのくらい。ねぇ、風華」
「ですね、お姉さま。そんなことも判断できない人のようでは、やはり向いてないのでは?」
「そうね………。でも試してみる価値はあると思うわよ」
「意味わかんねぇ話をすんじゃねぇ!!それよりも、姿を現せよ!!」
さっき捕らえられた人の事もあるし、まず姿が見えなきゃ対応しきれねぇ。
魔力の反応もこの霧のせいなのか、全く反応がないから、相手の場所を特定できない。
さっきまで声がしていた方向に刀抜いて構える。
「そんな変な方を向いてどうしたのかしら?洋一くん?」
顔に謎の手が背後から伸びていた。色は水色で、明らかに人のそれではない。
ただ、恐怖と言う感情が頭の中から離れなかった。
「あらあら、そんなに恐がらなくてもいいでしょうに……ねぇ、風華」
「ですね、お姉さま。私たちは、ただ"試している"だけなのに」
手が顔から離れる。けれども、後ろを振り返るほどの勇気は俺にはなかった。
「こっちを向きなさい、洋一。」
「そうですよ、洋一。お姉さまの言う通りにしないと、あの男性みたいになりますよ。だから、こちらを向いてください。」
言うことを聞いてないと、本当にああなりそうだったので大人しく声がする方を見てみる。
そこには、青い肌をした女性と緑色の肌をした女性が宙に浮いていた。
その2人は、顔や身長もほとんどの一緒で双子のようにも見えた。
「………あんたら、いったい何もんだ。なぜ、人をあんな風に捕らえている」
「私達は、それを貴方に答える義務がありません」
「だから、貴方の質問には答える事は出来ないわね」
自分の前に浮いている女性達がそう答えた。
「まずは、ついてらっしゃい。話はそれからよ」
そのまま自分を何処かに連れていくのか、その真意はわからなかったが、こっちにこいと手招きをした。
俺は何の宛もなかったので、刀の柄を握り警戒しながらその2人についていった。
そのままついていくこと30分。何の会話もないまま進んでいた。
流石にここまでくると、この2人は本当に敵対しているのか疑問に思えてくる。
今、俺がこの2人についてわかっていることは、人間ではないことと多分妹と思われる緑色の肌をした女性の名前が風華であるということぐらいだ。
……ってか、本当に何処に連れていくきだ?もう、結構歩いたぞ。
すると、姉と呼ばれている方の女性が自分の方を振り返った。
「へぇ……貴方、ちゃんとついてこれたんだ。これは意外ね。ねぇ、風華」
「ですね、お姉さま。まさか、本当についてくることが出来るなんて、私は考えてもいませんでした」
「………は?何いってんだ?ついてこいって言ったのはそっちだろう」
やはり、何度聞いてもこの2人の会話についていくことと理解することができなかった。
というかか何の話をしてるんだ?
「なぁ、あんたら。ついてきたら何か話があるんだろ?いったい何の話だよ」
さっきから、意味不明な話についていくことのできない自分は、少しイラつきながらも話しかけた。
「それもそうね………ついてきたら話をするって言ってしまったものね」
「ならば、始めましょうか。お姉さま」
「フフ、そうね。それがいいわ」
そう言うと、2人は何かの魔法を使った。
その瞬間、景色が変わった。
霧もなく、とても静かな場所に移動させられていた。
そして、その中心にある台座には黒い2本の剣が突き刺さっていた。
「ここは………どこだ?」
そう尋ねるが、2人は全く反応してくれない。
それどころか、俺をおいて剣の所へと向かっていてしまった。
慌てて追いかけようとしたが、なぜか足が動かせなかった。
必死にもがいてみたが、どんなに頑張ってもやっぱり動かなかった。
「何をしているの、洋一。大人しくしときなさい。今から貴方が適合者なのか試すんだから」
「お姉さまの言う通りです。大人しくしといてください」
大人しくしろって言う方が無理があると思うが………。
まぁ従わなかったら繭にされそうだし、ここは大人しく従っとくか……。
そう思って、じたばた動くのを止めて、2人を見る。
「フフ、いい子。それじゃぁ」
「はい、お姉さま。始めましょう」
その2人は剣のところまでくると、その剣を抜き放ち自分の方へと刃を向けた。
「これより、神器の適合者の可能性があるものの試練を開始する」
「我らに、己が強さを示し己を主人と認めさせればいい」
「は?神器?ちょっとお前ら言ってることがわかんないんだけど」
「なお、失敗は死を意味するものとする」
おいおいおいおい、ちょっとまて。何かスンゲーめんどくさいことにまきこまれてないかこれ?
凄く殺されそうなんだけど、俺。
しかも神器?教科書にも載ってる有名な武器じゃねぇかよ!!
「では、これより、私水連と」
「風華による」
『黒の神器の試練を始める!!!』
そう言うと、目の前にいた2人の姿が突然消えた。
「拒否権はないってか………。いいぜ、やってやろうじゃねぇかよ!!!!」
頼んだぜ、ジルの作った刀さんよ!!!
そうして俺は刀を抜き放った。
------------------------- 第13部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
黑の神器の使い手として
【本文】
二人が目の前から消えてから直ぐに周りに霧が出始めた。
どうやら、あの魔力が感知できなくなるマジックミストはあの二人のうちのどちらかが出していたようだ。
しかし、そのせいで前が見えない。
さらに、最悪なことに視界が悪すぎてどこから敵が来るのかさっぱりわからない。
大きな一撃をもらう前になんとかしないと……。
神経を研ぎ澄まし、音に全てを集中させる。
音も何もならない。ただ、静かに緊張の走る空間のなかに閉じ込められてしまったかのようだった。
その時、後ろの方で微かに空気が動いた気がした。
後ろを振り向きながら、防御の体勢をとる。
するとそこに、水の流れのような斬撃がとんできた。
刀では防ぎきれないので急いで横に転がる。
直ぐに立ち上がろうとした時、足元にあの時の嫌な感触をおぼえた。
下を見ると、バードゲージのネットがそこにしかれてあった。
その場を離れようとしたが、今回は足がネットから離れなかった。
そして、そのままネットに囲まれてしまった。
「まずい……このままだと力尽きる…」
かといって、何か打開策があるわけではない。
内側から試しに斬ろうとしてみたが、中のネバネバのせいで、全く斬れなかった。
………なら、アレを使うしかない。
使ったばっかりで正直10秒くらいしかもちそうにないけど。
魔法陣を展開し、意識を右目に集中させる。
洋一の右目が青く光った。
「あらら……あの子出てこなくなったわね……」
「しょせんその程度だったのでしょう、さぁお姉様。あの者に止めを」
「そうね……少しは期待したのだけど、まだ子供だったのが駄目だったわね」
そう言うと、水連は自分の持つ青く光る黒の剣をバードゲージに向けた。
そして、少し距離をあけるとそれに向かって剣を突きだしながら突進した。
「さようなら、未来から来た少年」
そう言い捨てながら、バードゲージを吹き飛ばした。
魔力を感じることが出来ない。
死んだな。
そう思った水連はそのまま振り返って、風華の元へと戻ろうとした。
しかし、その考えは間違っていた。
突如背後から先程の物とは考えにくい強力な魔力生まれた。
後ろを振り返っている暇などなかった。
背中に何かが突き立てられたような感触を覚えた。
「お姉様!!」
まさか、そんなことがあるはずがない。
お姉様の直撃をくらって生きているなんて、絶対にあの人以外考えられないのに。
しかも、この急な魔力の増加は……まさか!!
前方に思いきって踏み込んで剣をふるってみた。
何かに弾かれる。
禍々しいほどに青く、綺麗に光るシールドの魔方陣。
そして、そのなかに先程の少年と姿が崩れかかっていて剣に吸い込まれているお姉様の姿がそこにはあった。
あの少年がお姉様を倒した?ありえない。ありえるはずがない。
あの力を少年が防ぎきるほどの力を持っているはずが……。
「まさか……お前は……開眼者なのか……」
その少年の、洋一の右目が青く光っている。
その眼は透き通っているガラスを感じさせるほどとても綺麗だった。
その瞳に風華が見とれているうちに、洋一は姉が持っていた方の剣を手にとった。
何故かとても持ちやすく、軽い。
そして、そのまま風華を斬りたおした。
風華の姿形はそのまま剣に吸い込まれていった。
勝ったのか?………本当に10秒だったか?
「………よっしゃ………か……」
そして、洋一も力尽きそのまま地面に倒れた。
「ご主人様。目を覚ましてください」
「お姉様がそう言っているのです。目を覚ましてください」
変な声が聞こえて眼が覚める。
目をあけると、そこにはさっき倒したはずの水連と風華の姿がそこにあった。
急いで起き上がって距離をとろうとする。
しかし、体は動かない。
きっと目を開眼させたせいで体に相当な負荷をおわせたんだろう。
おかげで、体のあちこちが痛い。
それに、さっきご主人様って……。
「……今、どういう状況だ……。さっぱりわからないんだが…」
「あぁ、説明しないとですね。貴方は私達の試練を乗り越えた。ざっくりと言うとね」
「………つまり?」
「神器の使い手として、選ばれたと言うことです。そんなことも知らないなんて無知ですね。ですよね、お姉様」
この子の口調は相変わらずだな……。
でもそんなことよりも、何とかこの霧の問題は解決出来たっぽいな。
早いところあのバードゲージに捕まっている人たちを助け出して、村まで送ってやんねぇと。
所々痛む体を無理矢理動かして起き上がった。
立つだけで頭がガンガンしてとても痛い。
それに具合も悪い。
立っていられる時間もそう長くはないな……。
なら急いで村まで戻って、ジル達に手伝ってもらうか。
そう思い、重い足を動かしながら村に戻ろうとした。
すると、二人に腕を捕まれて、止められた。
「何だよ、何か言いたいことでもあるのか?」
「えぇ、もし今すぐにでも村に戻ると言うならば自殺行為よ。ここで少し時間をおかないと……」
「はぁ?何でだよ。体は向こうでも十分に休めることが出来るじゃねぇか」
すると、風華がため息をついた。
まるで、呆れているようなそんな感じだった。
「……なぁ、本当に何なんだよ。そんなに村に行かせたくないのかよ」
「…………」
「お姉様、ここは私が言います。なので剣に戻っておいてください」
風華は水連にそう言うと、水連姿がパァっと明るく光ったかと思うとそのまま光の球体になって剣に吸い込まれていった。
そっちも凄く気になったが、今はどうやら風華の方の話の方が気になるので、とりあえずなにも聞かないことにした。
「それで、話って何?」
すると、少しだけ風華は間をあけた。
タイミングを見計らうように。
そして口を開いた。
「貴方がこの試練を乗り越えたことによって、この森に住む主が……正確に言えば、ビッグブル。ブルの大きい状態のものが村に攻めこんでいます。だから、ここで休憩を……」
今、なんて言った。村が魔物に襲われている?
それを、こんなところで休憩して、救える命を捨て置くのかよ。
そんなの、自分が許さない。
あの時、家族を殺された自分にとっては何よりもそれが許せない。
「おい、風華。俺の体をどこまで復活させられる」
「まさか、行くんですか!?それは絶対に許しません!例えそれが主の命令であったとしても、最優先事項は主の命なので」
「だから、なんだってんだよ!!目の前に救える命があるのに、それを捨てるのかよ!そんなこと、俺が、俺自身が許さねぇ!」
風華が自分の言ったことに何も言い返せずに黙る。
けれども、それでも主の無事を祈らずにはいられない。それはわかる。
俺は昔の相棒にそうやって助けられて今を生きているから。
「大丈夫だ。絶対に死なねぇ。それだけは約束する。だから協力してくれ。お前の姉と一緒に」
「……そんなこと言われても、私は!」
「風華、諦めなさい。こいつには何をいっても無駄よ」
いつの間に出てきていたのか、水連がすぐそこに立っていた。
「ですが、お姉様!今のこの人の状態ではあのビッグブルに勝てるかどうかも……」
「それをサポートするのが、私達の役目でしょう?だから、ここはこいつの言う通りにしときなさい。死んだら死んだでその程度だった。それだけの話だから」
さらっと怖い発言をした水連少し恐怖を覚えながらも、どうやら協力はしてくれるらしい。
ならば、やることは決まった。
あの時悲劇をこんなところで繰り返さないように、今度こそやってみせる。
「じゃあ……頼めるか?二人とも」
渋々頷く風華とコクリと頷く水連。
性格も何もかもが違うこいつらとなら、出来るかもしれない。
そう、思わずにはいられなかった。
------------------------- 第14部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
一難去ってまた一難
【本文】
俺は森を抜けるために、走った。
全力で、足がはち切れそうになろうとも。
もう何も失わないために。
新しく手にしたこの力を使って。
「聞いてる?ご主人様?今の貴方では立ってるだけで、体が限界なのよ。それなのに無茶するなんて……ねぇ、風華?」
「全くです、お姉さま。でも、無茶するのならば、せめて勝率を少しでもあげてください」
そうして、風華は幾つかの繭を指差した。
一方そその頃、村では壊滅的な状況に陥っていた。
大量のブルが村に攻めこみ、家を次々と壊していった。
「兄ちゃん!逃げなきゃ!ここは危険だよ!」
「じゃあ、あの店を捨てろって言うのかよ!お前だってそんなことしたくないだろ!ディナ!!」
「お店はどうにでもなるじゃん!今は伝統を引き継ぐことのほうが重要だよ!」
あの、ジル"兄妹"の鍛冶屋も、沢山のブルによって、半壊してしまっている。
今では、家としての原型すら保っていなかった。
妹に引っ張られるような形で、ジル兄妹は魔物ができるだけ少ないところに走った。
村の人も散り散りに逃げてしまって、いったいどこが安全なのかわからない。
とりあえず、目に入った大きな影に向かって走った。
もしかしたら、隠れられるかもしれないと思ったから。
ディナを今度は引っ張るような形で、その影に向かった。
そして、絶望せざるをえなかった。
そこには、村長を含む村人全員が今まさに、親玉とも言えるビッグブルに食されようとしていたからだ。
「もっと速く走ってください!何か強力な魔力が小さな魔力を食べようとしています!」
風華からそんな事を言われたのは森をもう少しで抜けるところであった。
「洋一、もし今の速さで走ってたら間に合わないわ。何か打開策を探しなさい」
水連からもそんな指摘を受ける。
そんなことが出来るほどの魔力は今持ち合わせてねぇんだよ!
と、言いたいがそんな事をこいつらに言ってもどうせなんもしてくれないだろうし……。
「魔力が足りないなら、貸すわよ」
水連が突然そんな事を言った。
「……お前、何で俺がそういうこと考えてるってわかったんだ?」
「何でって…、契約を交わされた次点でそうなってるのよ。知らなかったの?」
……いや、未来にはそんな事伝わってないからわかんねぇよ!
わかってたら、もっと有効活用するわ!
でも、今は文句言ってる場合じゃねぇ。
村の人が危機かもしれないときに、奥の手を使わないのはいけないな。
「頼む、水連。俺の固有魔法、ギア を使うために力を貸して欲しい」
------------------------- 第15部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
黒の希望
【本文】
タイミングが悪かった。
そう思うことしかできない。
頭には、死の文字しか浮かんでこない。
先程から、ビッグブルはずっとこちらを見ている。
人が見上げるほどのその巨体、あまりにも大きすぎる牙。
そして、狙った獲物は逃がさないと言わんばかりのスピードを持つと言われているブルの長。
それが今、自分達兄妹の方を見ている。
獲物を見つけた
と、捕食者の目で。
何とか…何とかしないと……皆…皆死んじまう!
……でも…俺は……戦う力なんて…何にも……。
ティナが自分の手を握りしめてくる。
弱く、小刻みに震えるその小さな手で。
ビッグブルがこちらの方に向き直った。
ターゲットを定めたのだ。
こうなってしまえば、もう逃げることはできない。
自分の死を受け入れるしかなかった。
ティナの手を強く、ただ強く握りしめ抱きしめた。
最愛の妹を庇うような形で。
後ろから、ドスン ドスン と大きな足音が近づいてくる。
その時だった。
「おんどりゃあーー!!!!!」
後ろで何かと何かが衝突したような音がした。
顔をあげて見てみると、そこには黒の双剣をもったアイツがいた。
「…………」
「お?何だ?ジル。まさか恐怖のあまりに声が出なくなったとか?」
「ばっ……んなわけねぇだろ!!」
アイツに向かって強がっている自分がいる。
出会ってから、何かと話していた相手だったからと言うのもあると思う。
いや…、違うな。
アイツだからこそ、こんなことができるんだ。
その様子を見ていたひろは、ジルの肩をポンと軽く叩いた。
「リラックスしろよ、ジル。あれはただの雑魚だ。すぐに俺が片付けてやるからよ、だから……」
ひろは、ジルの手を握り立ち上がらせると背中を思いっきりぶっ叩いた。
「いった………てめぇ、こんなときに何を」
その時見た、アイツの目は何か不思議な感じだった。
ただ、真剣で、俺達を絶望から立ち上がらせてくれた 希望 そんな気がした。
「はしれ!!その子を絶対に守りぬいてみせろ!!」
それと、同時にひろは敵に、ジルはティナを連れて反対方向へと走った。
その大きな巨体から大きな方向が自分に向かって吐き出される。
走ってそいつに向かいながら肌にピリピリとした圧を感じる。
こいつは…強い。でも、今の自分なら!
右手で握っている剣に柄を強く握りしめる。
「安心なさい、洋一」
「えぇ、足りない部分は私とお姉さまで補いますから、あなたはただ前を見て私たちを使いなさい!」
………。こいつら、まださっき手にしたばっかりなのにもうそこまでやってくれんのか…。
んなら、期待に応えるしかねぇじゃねぇか!
そう思ったのとおなじタイミングで、ビッグブルが突進してきた。
そのスピードは、たとえるならリニアモーターカー並みの早さだった。
もちろん、周りの家々が衝撃で吹き飛んでいく。
それを、ギアで横に飛び何とか回避する。
しかし、自分というターゲットを見失なわないまで追ってくるのか、その巨体ではありえない急カーブをして、また突進してきた。
どうやら、こいつはこの図体でありえないスピードを誇るが…突進しか脳がない様だ。
なら、チャンスはある。もう一度ギアでその攻撃を回避し、すぐさま上空に向かってギアを使い上空へと移動する。
ビッグブルは、また自分のほうへと向き直るべく、急な方向転換をしたが、そこに俺がいないことに気が付くと立ち止まって俺の事をキョロキョロと探し出した。
チャンス。
ここしかない。
二刀流で戦ったことなんて一度もないけれど、ここで一撃で決めてしまうしかない。
そうすれば、被害が最小限で済む。
だったらかける力は……、首元ねらって地面に一直線のコース!
ていっても、どうやって振り下ろそうか…。
そんなことを考えていたせいで、体が地面に向かって落下を始める。
この時の自分はまだ落下しているということに気がついてはいない。
うーん、そのまま地面に突き立てるような形がいいかな?それとも、めっちゃ回転しながら切り裂くほうが効率がいいか…。
「うーん、なやむなぁ~」
「下!下見て!地面地面!」
「このままだと主様落下死しますけど大丈夫ですか?」
ん?落下している?
ずっと考え事をしていたので、下を見て初めて地面に衝突するまであと数秒も残されていないことに気づく。
あ、これめっちゃやばい。
まぁいいや、とりあえず、こいつは斬る伏せる!
少ない時間の中で、体を少しだけひねり下方向へ向かって首を斬りおとすために剣を2本とも背後に持って行く。
そして、上空から落下するその勢いでビッグブルの首を斬りおとした。
勢いあまって地面に衝突する。
そこで自分は勝利したことを確かめる間もなく、気を失った。
------------------------- 第16部分開始 -------------------------
【第2章】
間章 仲間を求めて
【サブタイトル】
ニケア大陸、この広大な大地へ今一歩を踏み出し仲間を求めて
【本文】
窓から朝日が差し込んでくる。霧の晴れた、気持ちのよい朝だ。
ベッドから体を起こす。昨日、どんちゃん騒ぎをしたせいで体が重い。
それでも体を動かし、服を着替える。
服には出来るだけ通気性が良いものをと村長が選んでくれた、とてもレアな魔物の革から作られた物に、軽くそれなりの防御力を誇るビッグブルの革で作ったチェストプレート。それに簡単な布で出来た上着。
更に、ズボンは動きやすいように出来るだけ柔軟性のある物で作ってもらった。
そして、靴は今まで沢山動いたせいで破けてしまったものを修復して、更には丈夫にしてもらった。
それらの服を身に纏って、立ち上がる。
刀の所まで行き背中に背負う。そして、腰にはあの黒の双剣を身に付ける。
右手にある、神器持ち現す紋章をグローブで隠し、荷物をまとめ静かに扉を開ける。
首だけを覗かし、キョロキョロと回りを見回す。
村長は大きなイビキをたてて、まだぐっすりと眠っている。
その事に感謝しつつ、何も言わずに立ち去ろうとしている事に少し胸を痛めながらも、忍び足で玄関まで進み外に出た。
まだひんやりとした空気が肌を撫でる。それが、まるでこの村とのお別れを告げているような気がした。
少し名残惜しくなり、村を一周することにしてみた。
それほど、この村に印象が残っているわけでは無かったがぶらぶらと歩いているうちにあの場所へとたどり着いた。
ジルの営む鍛冶屋。風神を無くしてここ武器を作りに来たときの最初の印象はお互いに最悪だった。
それが、ほんの僅かな期間でちょっとした信頼関係までできてしまった。
もう一度だけ、あの口喧嘩がしたい。そう思った自分は鍛冶屋の扉に手をかける。
そして、そのまま少し考えたあとその扉から手を離した。
この時代で友達を作ってどうする。どうせ、この時代の人達は過去の人間。
過去は何があっても変えられない。歯車が大きく狂わないかぎり……。
そして、そのまま村の入り口へと向かった。
起きたときに俺が居なかったら皆驚くだろうな…。
そんな事を思いながら村を一歩出たその時だった。
「待てよ!」
背後から呼び止められた。あの声だった。
振り返る。やっぱり…そこにはジルが立っていた。
「……もう行くのか?」
「…まぁな、俺がここに留まる理由もない。俺は今から俺のやるべき事をやるだけさ」
「……なら、いつか!いつかでいい!」
そして、ジルは俺を指差す。目から一粒の涙が零れたような気がした。
「お前の刀をもう一度打たせろ!約束だからな!」
……約束、か。
今までどれ程の約束をしただろうか…。今まで一度も守れたことはないが…、こいつとの約束は何故か守れそうな気がする。
「…おう!いつかな。それまでに、そのへっぽこな技量をもっと上げとくんだな」
「う、うるせーー!!」
そうして、最後にジルとの会話を済まし、村の外へ一歩踏み出した。
そして、昼を過ぎた頃。
「………迷った」
「冗談ですよね?我々の主がまさかそんな……ですよね?お姉様」
「これは、迷ってるわね。こんな道記憶に無いもの」
現在、道に迷ってるどこにいるのか分からずじまい。ましてや、地図すらも持ってきていなかったという始末。
感覚的に行けば大丈夫だろうと安易な考えが一番いけなかった…、と今さら後悔する。
しかし、今から村に戻ったところでそれがどうにかなるとは限らない。
ただせさえ、資源不足だったあの村に地図なんかが置いてある可能性は低いといってもいいかもしれない。
だったら、この危機は……この危機はどう乗り越える。考えろ、考えろ~…。
その時、後ろの方でガサガサと音が聞こえた。
咄嗟に後ろに飛び背中の刀に手を伸ばす。
その音はどんどん自分に向かって近づいてくる。
「風華!」
「接近魔力は2つです!一体は魔物の様ですが………」
その時それは、目の前に現れた。
「プギャオオォォォォー」
「か……返してください!それは、商売で大切な品物なんです!」
一匹は、通常なら物凄く温厚な魔物のケルミン。容姿はフワフワと浮いているような可愛らしいぬいぐるみのような魔物のでよくペットなどに用いられてきたが……。
こんな温厚なモンスターが怒るなんて……それほどの事があったに違いないな…。
「ちょっと~そこの人~立ってないで捕まえてください!」
先程茂みを抜けてきた少女は、自分に向かってそう言った。
「やだ、動くのめんどくさいし」
「お、お礼はしますから!」
「よし、やるか!」
「ご主人、汚い」
うるせぇ、と風華に返しつつ刀を抜く。そのまま腰の方まで持っていき、呼吸を整える。
フーッと一息はくと同時に、足元にギアを展開する。
「ギア、発動!」
そして、その掛け声とともに自分の体が前に物凄いスピードで押し出される。
それは、風と言うよりは鎌鼬の方が近いにかもしれないと言うほどのスピードで。
そして、そのまま魔物を斬りふせた。
そして、目がグルグルと回っているケルミンと商品らしいものを持ってその少女の場所まで戻った。
「ほい、これでいいか?」
「あ、有り難うございます!これで、お仕事を首にならずにすみます……」
その商品を四角い鞄のなかにしまった少女は自分の方へと向き直った。
「ご紹介がまだでしたね、私は近代国家アラマティウスの商品関係のギルドに属するサーシャと言います。先程は助けていただき有り難うございます」
「ご丁寧にどうも。それよりも、この森を脱出するために地図が欲しいんだが持ってないか?」
そうすると、サーシャは鞄のなかを探り始めた。
これでもない、あれでもないとドラ○モンが道具を探すときみたいに回りに散らかしていく。
そうしている間にケルミンが目を覚まし、何かの商品を取っていってそそまま逃げてしまった。
「……おい、商品取られたけどいいのか?」
「…あ、あんなものどうでもいいんです。それよりも、はい」
そうして、一枚の紙切れと金色の羽を渡された。
「………なにこれ」
「自分がどこにいるのか分かるようになっている地図です。通常はアラマティウスにしかない品物なので、料金は少々高くなりますが」
「お礼はするっていったよね?」
「………………いや、でも私も今お金があんまり」
「お礼、するっていったよね?」
そして、そのまま脅した形で地図を手に入れた。
サーシャは涙目になりながら、俺は地図を見ながら茂みを抜けていった。
「…ううぅ……1万セニーもする高価な地図が……」
「もういいだろ、お互いwin winなんだし」
「私には何の win もないんですが!?」
そのあとも、サーシャに色々と文句を言われながら街道といえるところに出たのだった。
床は綺麗に整理され、両脇には魔物の侵入を防ぐための魔法具が木に貼り付けられている。
街灯と呼べるようなものもあり、まるでそれは現代の道と見間違えるほどのものだった。
「…これは……」
「ニケア大陸を繋ぐ一本の巨大な道、大陸の名前をとって、そのままニケア街道です。そんなことも知らないんですか?」
「知るわけねぇだろ、ここに来てまだ4日しか経ってないんだから」
4日?とサーシャは首を傾げたが、その事についてはあまり聞いてこなかった。
そして、そのまま無言で街道を進む。日は傾き、空には月と星が見えはじめた。
「ここら辺で私は野宿をするんですが、貴方はどうしますか?」
「………まぁそこら辺で寝るさ」
「ここら一体は毒を持つ蜘蛛が多いんですが、それでもそこら辺で寝ますか?」
「……ご一緒させてくれるなら」
そして、サーシャはテントを張り始めた。
自分は枝集めを命じられ渋々枝を集め始めた。
これから始まる、夜に向けて。
------------------------- 第17部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
毒蜘蛛とクオーツ
【本文】
薪がパチパチと弾ける音がする。
空には満天の星空に、夜の象徴の月が一際輝いている。
そんな、普段なら見ることのできない満天の星空を眺める事もなく、洋一とサーシャはただただ薪をくべ、洋一の持っていた肉を食べていた。
そうなった原因は1つ。そう、会話のネタがないのである。
出会ってまだ半日もったっていない人間同士、しかも性別も違うなか暗闇のなか一緒に夜を越そうとしているのだ。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………あの、そんな静かになられても色々と困るんですが……。あと、1つ聞いてもいいですか?」
サーシャがここ沈黙を我慢することが出来なかったのか、洋一に話しかけてきた。
「ん?何々?」
「貴方は、なぜ腰に2本の剣をさげておきながら、全く別の武器を使って戦っているのですか?貴方に出会ったときから、ずっとそれが気になってしまって……」
サーシャに言われ、腰にさげている2本の剣を見下ろす。
鞘はあまり飾り気がないが、その中から感じる魔力は確かに群を抜いていて、この武器を使えば戦闘もいくらかはよくなると思う。
しかし、どう頑張っても抜けないのだ。
水連や風華が自分から出てくることはあっても、今の自分の力では、どうやらコントロール出来ないらしい。
まだこの世界についても、神器についてもシステムがよくわかっていない洋一には答えられなかった。
「うーん、何かね、抜けないんだよ、この剣。どうやら必要な時しか抜けないようで」
「だとしたら、その剣は意志を持っているのかもしれませんね」
体が少し反応してしまう。神器使いであるとばれてはいけないと、水連と風華から村を出てからずっと言われていた。もしかして、これが神器だってばれたか?
でも、そんな心配はする必要はなかった。それどころか、昔話にでてくるお話をし始めた。
「その様な話がよく昔話にも出てくるんです。確か………"楓"と"刄嶄"……だったかな?そんな名前の刀が、この世界で意志を持って生まれた武器だそうですよ。まぁ実物なんて見たこともないですけど……。貴方はこのお話を聞いたことがないんですか?」
「……いや、聞いたことは……………楓…………?」
何で、俺の刀だったものの名前が出てきてるんだ……?
「なぁ、その楓って刀、まさか狐火を纏って幻覚を見せながら戦う武器じゃないよな………?」
「え?多分そうだと思いますよ。でも刄嶄は真逆で圧倒的な破壊力を見せたらしいですけど……。と言うか、何で貴方はそんなに詳しいんですか?」
「いや、詳しいもなにも」
あの刀は前に使ってたことがある。そう言おうとしたその時だった。
サーシャが突然、自分の体に向かって体当たりしてきたのだ。
しかも、最悪なことに下は草のカーペットはなく綺麗に鋪装された石で敷き詰められた街道。
そこに、おもいっきり背中を打ち付けた。
「ごほぉ!……おい、急に何を」
「魔物です!!!」
サーシャに怒鳴られ、立ち上がりながら刀を抜く。
回りには何もなく、ただただ静かに心地よい風が吹いている。
何で自分はさっき急に吹き飛ばされたんだ?何か理由も説明もないし……スゲー腹立つんだけど…。
目の前にいるサーシャを見ると、手に紐のようなものをぶら下げており、先端には何か武器の様なものがついているものを装備していた。
それを、さっきからビュンビュンとあちらこっちらに振り回している。
「なぁ、サーシャ。これはいったい何をしてるんだ?それとも、気でも狂ったか?」
すると、馬鹿にしないで下さいと言わんばかりに睨み付けられる。
状況が分かっていないのかこいつはと少し馬鹿にされたような気がした。
さっぱりなにもわからない自分は、とりあえずさっきまで居たところに目を向けてみた。
見ると、そこの地面の色だけ緑色ではなく、どす黒く謎のジェル状の物へと化していた。
「な……何じゃありゃ……地面が……腐ったのか?」
「正確には、毒蜘蛛ですね。しかも、こんな強力な毒は初めてです……もしかしたら、新しいタイプかもしれないですね」
やっと状況が理解できた洋一は、サーシャと背中を合わせるようにして全体を見回せるようにする。
先程まで、涼しく気持ちよいと感じていた風も、今では生暖かく嫌な風に思える。
そうして、時が一刻一刻と過ぎていく。
月は、気づけば天高い位置に移動していた。
1日が終わる。そう思ったその時、焚き火の火は消え、それは大量に落ちてきた。
大体1匹30cmは有りそうな超がつきそうなくらい大きな蜘蛛。
それは、青く目を光らせ自分達を囲うように中心にゾロゾロと集まってきてきた。
「こいつら……まさか、肉食系ですか?だったら、凄い私怖いんですけど…」
「……まだ、あれに比べたら……このくらいましか」
「ちょっと!まさか貴方戦う気ですか?危険です!ただでさえどういう魔物かもわからないのに!」
「だからこそ、潰す。昔の様に。もう二度と、大切な物を失わないためにも」
その時、蜘蛛の中の1匹が飛びかかってきた。そのまま頭にしゃぶりつこうとしているのか、口を大きく開けていた。
サーシャは逃げる場所もないので、どうにかして回避しようとするが、もう足場が無くなってきてる。
何故魔法を使わないのかが気になったが、とりあえずとんできた蜘蛛を叩き斬る。
真っ二つに斬れた蜘蛛からは、紫色の液体が中から飛散した。
それが、丁度武器に触れた瞬間、一瞬にして溶けてしまった。
「なぁぁぁ!!?ジルに貰った刀が一瞬で……」
そうしている間に、3匹同時に自分にとびかかってきた。
たまらず、シールドを展開する。しかしそれに向かって毒を吐かれ簡単にシールドが崩れさってしまった。
「魔法すら溶かすのか!こいつら!?」
まずい、武器がもう神器以外もうない!喰われる!
そう思ったとき、何かのピアノ線のようなものが頬をかすったような気がした。
そして、突然目の前で爆発が起こった。
突然の事にシールドを展開することもできず、その爆発をもろにくらってしまった。
当然後ろに弾き飛ばされる。吹き飛ばされた後地面を転がるのかとでも思ったがそうではなく、何か柔らかい綿のようなものが自分を受け止めた。
「全く……無茶はしないで下さい。死ぬところでしたよ」
「……それよりも、その手に持ってる宝石の方が気になるんだが」
綿のような物に受け止められた自分は、自分が死にそうになったことよりもサーシャが手に持っているカラフルな宝石の方が気になってしまった。
男の子だもんね、仕方ないね。
「これですか?これはクオーツといって、魔法の力を封じ込めた魔法石のような物なんです。アラマティウスで独自開発されている物でして……、って今はそんなことはいいんです!」
質問に答えてしまった事を恥ずかしがるようにサーシャは顔を真っ赤にさせながら、そっぽを向いた。
…もしかして、こいつ説明させたらずっと話続けるタイプ……か?
それよりも、とサーシャがまだ顔が少し赤い状態で話しかけてきた。
「一旦場所を移動しましょう。このままだとこちら側があまりにも不利すぎます」
「そうだな、まずはある程度広いところまで走って逃げるか!」
「そうですね、まずは………あの、何で手を急に握っているんですか?まさか……」
「ギア!」
そして、空中に向かって大きく飛び出した。
「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!死ぬ!死んじゃう!誰か!誰かー!」
突然の事にサーシャパニック状態に陥る。
まぁ、あの時も葵も春香も宗次も鉄も龍馬もそうだったし……、まぁいっか。
地面に落ちながら、何処か良いスペース探す。
見ると、少し先に何やら広いポッカリと空いた空間があるではないか。
「目的地は、あそこで決まりだな。サーシャ!あそこまで行くぞ!!」
「djうぃfjwkdhふうぃsbdjsぁお!!!!!!」
あぁ、だめだこいつ。パニクってる。まぁこのまま抱えて運ぶか。
そうして、地面に降りた洋一は、サーシャを抱えながらその空間まで走り出した。
「な、なななな、何て事してくれるんですかーー!!!!私高いところが苦手なのに……貴方って人は…!!」
「何だ、そうだったのか、いやーお前何時も大人ぶってるけど可愛いところもあるじゃん」
そう言うと、赤くなった顔が更に赤く染まっていく。そして、とりあえすぶん殴られた。
それからは、サーシャと協力して洋一が足止め、サーシャが攻撃を繰り返し何とかある程度の数を退けることが出来た。
気づけば、回りは元の緑色の大地はなくそこには、黒く汚い腐った土があった。
「…こりゃ、街道に戻るまでに足が汚れるな」
「……いっそ、燃やしましょうか」
「それだけは止めとけ」
そのあと、またサーシャの手を握りギアを使って元の場所へ戻った。
それで、戻ったは戻ったで良いのだが……テントや焚き火は毒で消滅しており、留まれば確実に死ぬであろうと言わんばかりの空気を醸し出している。
偶々、別の場所に置いていた荷物を持ち、真夜中の街道を2人で歩き出した。
そして、それを見ている大きな影が1つ彼らを見つめていた。
「そう言えばこんな話を知っていますか?」
回りを警戒しながら歩いていた自分を気遣ったのか、サーシャは何かしらの話をふってきた。
どんなものだ?と尋ね返すとサーシャはこう答えた。
最近、35日感覚に一度其々の地方で流星が落ちていて、現在3本の流星が確認されているんです。
しかも、その流星は実は人が空から落ちてきたものなんです。
けれど、不思議なことは空から人が降ってくるときは絶対に上空にスカイピアがあるはずなんですけど、それが存在しなかったことなんです。
不思議だと思いませんか?
サーシャから、一通りそのお話について話を聞いてみた。
似ている。俺が空から落ちてきた時と全く同じだ。
「なぁ、それってどこに落ちたかって情報はあるか?」
「勿論です!先ずはここ、ニケア大陸、魔女の森付近。最大の面積を持つアトリスタ大陸、南国ベリオル付近。ペチェラス諸島、希枝付近。と言った所でしょうか。………どうして、そんな情報を知りたいと思ったんですか?」
「………、そうか…」
鉄を除けば、葵 春香 宗次。人数にもズレはない。あいつらもこの時代に飛ばされてきている!
その情報を手に入れることが出来たのだ。
この時代に来て、これ程の大きな情報はない。
なら、先ずは…、魔女の森付近。次の目的地はここか…。
どうやって、行こうか。
「あのー、急に黙らないで下さい。私こういう明かりもなにもないとこ案外怖いんですから」
「あ、すまんすまん。夜が怖いのか?」
そう尋ねると、サーシャの顔色が少し暗くなった。
「まぁ…その、色々とあったんです。この話は聞かないで頂けると有りがたいんですが…。と言うか、レディーにそんなこと尋ねちゃいけないんですよ!紳士として貴方どうなんですか?」
「俺、紳士、違う。俺、空気読めない、ぶち壊す」
「最悪じゃないですか。あと、急にカタコトにならないで下さい。気持ち悪いです」
「うっせ!」
餓鬼みたいな対応をしながらも2人はそのまま街道を歩き続けた。
しかし、森のように生い茂った街道から、何故か脱出することができなかった。
そして、そのまま1時間が過ぎた。
「……どうなってるんだ、これ」
「わ、私に聞かないで下さい…」
仲良く迷子になった。
------------------------- 第18部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
月夜に咲く一本の牙
【本文】
あれから2時間程、洋一とサーシャはただひたすらに真っ直ぐと続く街道を歩き続けた。
けれども、周りの景色は全く変わらず、それどころか先程から月の位置が全く変わっていなかった。
「…おかしいですね。さっきから、全く進んでいないような気がするのですが……」
「それは、俺も同感」
周りは相変わらず茂みと木々が両端にあり、中心に1本の街道があるだけ。
本当に何の変化もない。一体どうしたんだろうか。
まさか、さっきの新種の毒蜘蛛がそういう類いの魔法か特性を持っていたとか?
…でも、あんな強い毒があるのにこれ以上の進化がいるだろうか?
よく分からないなぁ……。
そんなことを考えていたその時、何かが後ろから飛んできた。
すぐさま、2人とも後方へと方向転換しながら前に飛ぶ。
しかし、後ろには何もいなかった。
だが代わりに、さっきまで洋一達が歩いていた街道がどろどろに溶けていた。
「あの毒蜘蛛か!?まだ潰しきれてなかったか」
「いえ、街道を溶かすほどの毒は持っていなかったはずです。と言うことは……」
その時だった、それが頭上から降ってきたのは。
あまりにも突然だったので、反応が遅れたが、サーシャが爆発系のクオーツを投げてくれたおかげで、敵に潰されることなく回避することができた。
ただ……。
「んじゃありゃー!!」
おもわず、叫んでしまった。
全長は、先ほどの様な小さめの魔物ではなく、大体6m位の大きさで蜘蛛には似つかわしい硬い甲羅、おまけに鋭利な足が何故か10本。蜘蛛と呼んでいいのだろうか…これ…。
地面に着地したその大蜘蛛は、8つの目で自分達を確認すると、その鋭利な足を前に突き出してきた。
それを、バックステップで回避する。
すぐさま戦闘…、といきたいところなのだが…。
自分の腰に残った刀の鞘を見る。
肝心の刀は溶けて消えてしまったし、かといって今神器が使える訳でもない。
はてさて、一体どうしたものか…。
「上から来ます!」
サーシャの声が聞こえ、咄嗟にその場から離れる。
突如、頭から刺し殺すような形で何本もの足を大蜘蛛は地面に突き立てる。
…殺す気満々じゃないですか…。
一撃でも貰えば…、いや、あれよりはまだ遅い。
だったら、隙さえつけば鞘でも仕留めれるかもしれない。
……あれを使うか。
「サーシャ!俺が少しの間前衛に出る、その間援護してくれないか?」
「…あんなのと真っ正面から戦うなんて、貴方正気ですか!?」
「大丈夫、グレゴリアスと比べればこんな敵、まだ可愛いもんだ!」
「…あ、貴方、今、何て…!」
「んじゃ!宜しく!」
そうして、話し合うこともなく洋一は敵に向かって走り出した。
先ずは…、お腹に潜り込む!
敵の攻撃をギリギリのところで避けつつ、お腹に潜り込む。
そして、ここで……!!
洋一は、地面に転がっていた小さな石ころを拾った。
あ、あの人は一体何をしているんだろう…それに、今最恐の魔物の名前を……。
「サーシャ!」
下腹部から出てきた彼は、そのまま鞘を持ち攻撃を回避し続けている。
私も援護しなくては。
クオーツを武器にセットし、敵に向かって投げつける。
瞬間、1本の足に命中したクオーツがそこに蔦となって、敵の行動を制限する。
我ながら見えない物に当てる技術は凄いと感心しながら、全ての足に同じように当てていく。
全ての足を蔦で縛ると、今度は毒を吐いて攻撃してきた。
それを、なんなく避ける。
流石にこの距離あれば…!!
ふと、目が敵に行ったときだった。
彼の上半身が無かった。
…え?その事で、頭がフリーズしてしまった。
体の動きが止まる。
その隙をつかれ、敵にお腹を鋭利な足で抉られる。
完全にお腹を貫かれたサーシャは薄れる意識の中で、彼が上空から降りてくるのを見た気がした。
「サーシャ!!」
あの時とおんなじだった。あの時もこうだった。
自分が判断をしくじったせいで、また友が消えていく………。
させるか………。
二度と、他人を俺の目の前で死なせてたまるか……!!
気づけば、神器を2つとも抜き放っていた。
先ほど仕留めたはずの獲物が空中から攻めてくるとは予想していなかっただろう。
おかげで、サーシャが突き刺さった足を完全に切断することができた。
聞いたこともない声で叫ぶ大蜘蛛。
しかし、そんなことはどうでもいい。
今は、治療をしなければ…!
「風華!治療してる間、少しだけシールドを張っておいてくれ!」
「かしこまりました。しかし、今の私では30秒と持ちませんが…」
「10秒で十分だ」
すぐさま、サーシャのところに行き、回復魔法を唱える。
通常なら、この傷を治す為には相当な魔力と気力を消耗しなければならない。
普通であるならば。
「…クイックヒール」
「……な!!洋一!一体何を……!」
クイックヒール。通常ならかすり傷や火傷などの怪我にしか使わないこの回復魔法。
その暖かな光は、サーシャのお腹を包み込むと、完全に無くなった臓器もろともを一瞬で修復した。
その光景に絶句したのか、風華口をパクパクと動かしている。
そのまま、実体化していない水連を手に取り、敵の真っ正面に立つ。
目の色は黒から青へと変わっていた。
敵はそんな自分を見て恐怖という感情を抱いたのか、後退りをしていた。
「……逃がすか……!」
瞬間、洋一は敵の頭に剣を突き立てる。緑色の血がそこから滲み出てくる。
そして、剣を抜くと同時に相手を一回転しながら斬りつけ、空中へ浮かす。
「我流、奥義、月光牙!!」
そして、何の抵抗も出来なくなった蜘蛛に向かってギアを使い一瞬で斬り捨てた。
その蜘蛛は空中で汚い花火となると、血と毒を辺り周辺にばらまいて、散った。
そのまま地面に着地すると同時に開眼の力が切れそのまま洋一は地面に倒れた。
辺りが急に明るくなる。
光が木々の間から、差し込んでくる。
また、新しい1日が始まる。
薄れゆく意識の中で洋一はそう思った。
------------------------- 第19部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
新たな街へ
【本文】
目蓋の中に光が差し込んで、私は目を覚ます。
移動用の服のおなかの部分が完全に破れてしまっている。
腹部にあの足が刺さったのは夢ではないようだ。
しかし、完全に回復している。
これはいったい……。
そこで、初めて地面のことが視界に入った。
「なっ……何…これ…」
サーシャの視界に入ってきたのは、自分の周り以外地面が完全に腐敗しそのきれいな緑色の大地から、地獄でも連想させるかのような黒くでこぼこな大地へと変化していた。
彼は…!彼は!いったいどこにいるの!
すぐに起き上がろうとするが、足元がおぼつきなかなか立ち上がることができない。
多分軽く毒が回っているんだろう。
それでも、無理やりに体を動かす。
私が、年上の私が人ひとり守れないなんて…!
途中で、何度も腐敗した地面に足を取られ転んだ。
何かの肉が腐ったようなにおいも混じっている。
まさか、本当にあの時上半身をえぐられて…。
そう思った時だった。
少し先に行ったところに、緑色の大地が見えたような気がした。
そこにふらふらと歩きながら、到着すると自分が心配していた暗い気持ちが一気に吹き飛んだ。
そこには、あの黑の2本の剣を抜き放った状態でうつぶせに倒れる彼の姿があった。
何か所か軽く傷を負ってはいるが、私ほどひどくはないようだった。
とりあえず、そのことに安心するとサーシャの体に限界が来たのか、そのまま覆いかぶさるような形で倒れこんだ。
そして、その衝撃で洋一は起こされた。
「ぐほぉ!…痛ってぇな!……ってサーシャじゃん。どうしてここに…、ってかなんでこんなところで…って、あの毒蜘蛛と戦って青眼使ったからぶっ倒れてたのか…」
まぁ、今ここにサーシャがいるってことは、とりあえず応急処置はちゃんとできてたみたいだな。
…とりあえず動くか。
そうして、立ち上がろうとしたとき、右手に何か違和感を感じた。
あれ、なんか怪我でもしったけか?と思い右手を見ると、謎の青い鉱石のアクセサリーが手に巻き付いていた。
「……なんだ?これ……。まぁいいか。報酬だとでも思っておくか」
手に巻き付いてたアクセサリーを首にかけ、サーシャを背負うととりあえず休憩できそうな適当な場所まで歩き始めた。
なんとなく、街道までそのまま出た洋一だったがひとまず感じたことがある。
こいつの背負ってた荷物が重すぎる、と。
普通に50kgはあるんじゃないかって感じるほど重い。
中に一体何が入ってるのか知らないが、見てみたい。
好奇心に負け1度荷物を開けるために立ち止まる。
サーシャを草のあるところで寝かせ、荷物を自分の真正面に置きどこから開けれるのかいろいろと探ってみる。
四角い箱の形をしたサーシャの荷物は、見た目がどこぞやの機械かよって思う見た目だった。
適当にいろんなところをいじくっていると、突然ピーという機械音が鳴り、上部のふたがあいた。
1000年も前にこんな高等な技術があったことに驚きつつ、興味本位でその中をのぞいた。
その中には、茶色のまるで制服のような服と、商売道具であろうと思われる商品の数々が入っていた。
そして、洋一は何となくその制服らしきものへ手を伸ばした。
その時だった。
「…何を…してるんですか……」
ばっと後ろを振り返ると、そこには先程寝かしていたはずのサーシャが腕を組んで立っていた。
「いや…えっと、これは、その」
「女の子の荷物を覗くなんて……貴方って人は!!」
「ひぃー!ごめんなさい!」
「問答無用!」
サーシャの手から一つのクオーツが洋一に近距離で投げられる。
もちろん、殴られると思っていた自分は、それに対応することもできず、むなしく爆発に巻き込まれた。
それから1時間後。
お互いの体調がだいぶ良くなってきたので、二人でまた一本道の街道を歩き始めた。
そして…。
「なぁ、それ本当に着て商売するのか?」
「もちろんです!かわいくないですか?」
ひらりとスカートを揺らしながら、一回転するサーシャ。
よく見ると、靴も先程の動きやすいものから変わって、少し動きづらそうな革靴を履いている。
「…動きづらくないか?その靴?」
「な·ん·で!そっちに目がいくんですか!貴方は!っていうか、いい加減名前教えてください!ずっとこの呼び方も、いやですから!」
なんで、こいつ怒ってるんだ?うーん、女心って分からん。
そんな事を思いながら、そう言えばサーシャに自己紹介を言われたことで思いだし、改めて自己紹介をした。
そのあと、サーシャに現在の国の状況だとか流星が落ちた場所をもっと詳しく聞いたりした。
そんななか、サーシャが1つの疑問を自分にぶつけてきた。
それは、あの時上半身部分が抉られたのを見たのになぜ今生きているのかと言うものだった。
「あー、あれか……。昔、まだ8歳位のときある人から教わった"幻夢"っていう技なんだ」
「どんなやつなんですか?」
「まぁ…簡単に言うと、ありったけの魔力をある対象にぶつけることによって、それを自分だと勘違いさせるっていう……まぁ、目眩ましの上位版だと思ってくれればいいよ」
そんな簡単なものではないと思うのですが、とざっくり話をたちきられてしまったところで、目の前に木で囲んである、門みたいなものが視界に入った。
街道もどうやら、そちらの方へ続いているらしくサーシャもそこへ向かおうとしていたので、とりあえず後を追うことにした。
門の前まで来ると、見張りが許可証を見せるようサーシャに言った。
サーシャ何かをサッとみせると、そのまま俺の腕を掴んでずんずんと街のなかに入ってしまった。
なぜか、その時の兵士の顔は物凄く怯えていたが。
街のなかに入ると、兵士が数多く視界に入った。
さらに、奥手にはまた門が見える。
どうやらここは魔女の森とこの街道を分断する関所のようだ。
「ところで、貴方は…洋一はどうしますか?私はこれから商品を売りさばいてきますが…」
「ん?あぁ。多分いても邪魔になるだろうし、そこら辺をブラブラとしとくよ」
「そうですか…。では、宿をとっておくので6時までに集合というこで」
「わかった、そんじゃあとでな」
そう言うと、サーシャは急いでその場所から走っていってしまった。
何で走る必要があるんだと疑問に思ったがその疑問はすぐに解決された。
「サーシャちゃんがきたぞ!!」
「野郎共!探せー!!」
「今度こそ、一緒にご飯を食うんだー!!」
と、変態達がサーシャの後を追っていったからだ。
大丈夫かあれ……。少し心配なんだが。
「あ、私の心配はいいですよ?あれダミーですから。それじゃ宿で」
「………え、いや、サーシャ!!?」
え?なにさっきのあれ。分身でもしたのか?
この子何気凄いな……。
まぁ、いいや。
とりあえず、情報を集めながらぶらっとまわってみるか。
そして、………。
「どこだ、ここ」
明らかに太陽の下で暮らしていないような人達がたむろっている場所に洋一は来ていた。
これは…まさか、また迷子ですか?
と言うことで、迷子になった。
------------------------- 第20部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
サーシャは機嫌が悪い
【本文】
「おいおい、兄ちゃんよぉ。ここがどこだかわかって入ってきたのかい?あぁん!!?」
あ、はい。やっぱここまずい場所だったわ。
筋肉モリモリのごっついお兄さんやおっちゃんに現在囲まれている状態。
いや、好きでこんなところに来たんじゃないんですけど!
誰かに、この感情をぶつけたいけれども、サーシャは何処かへ行ってしまっていてしかも6時のまではほぼ合流できない感じだし…。どうすっかなぁー。
「おい!餓鬼!こっちの話きいてんのか!?あぁ!」
「あ、ごめん。聞いてなかった。で、何?」
あ、やっべ…つい本音が。
「ああん!!んだとくそ餓鬼が!」
目の前にたっていた図体の大きい男が拳を振り上げる。
しかし、あまりにも分かりやすい攻撃だったので後ろの方にヒョイと避ける。
見かけ倒しの強さか?と思ったがその拳が地面に当たったとき、軽く衝撃波が生まれ地面にヒビが入った。
どうやら、力だけはあるらしい。
こりゃぁ、隙をついて脳震盪起こさせるしかないか…。
でも、この人数さか……。
回りを見渡すと、絶対に30人は越えているだろうとおもわれる男達が剣やら斧やら槍やらを持って自分に構えている。
これは…逃げれはしないな。
手刀か魔法、あるいはギアで武器を奪うかの3択か。
でも、とりあえずは!
気づけば近くに数人の男が近寄ってきていて斧を降り下ろす。
咄嗟に横に飛んだが今度は槍と剣が同時に前につき出される。
こちらはシールドを張って対処。
すると、シールドの張れていない後方から最初に絡んできた男が拳を降り下ろした。
ここで、ギアを発動して全力で逃げる。
とは言ってもこの空間からは出ることは出来なかった。
上の方には、どうやら弓を持った人間もいるらしく、自分めがけ一斉に矢が飛んできた。
このままだと、完全に回避に専念することになりそうだったので、とりあえずここで水魔法を使った。
空中に水のボールをいくつか作り、その場に停滞させ、自分はそのまま矢の当たらない場所まで避難。
と、同時に矢が水のボールに当たった。
そして、それを男らの足にめがけて放つ。数人に当たり少しだけ攻撃人数を減らしたが、このままだと、いつか絶対負けるときが来る。
くっそ!武器を奪えるチャンスがあれば……。
「け……けんかは、そこまでです!!」
突然、か弱い声が空間に響いた。
そこにいた全員がそちらの方へと顔を動かす。
そこには、兵士の格好で長槍を持った青年だった。
うっわ…弱そう。洋一は心の中でそう思わざるをえなかった。
何せ、明らかにひょろひょろな腕に、はりのない声。
それだけで、こいつは戦ったことがない人間だと思った。
なのだが……。
「…おい!こいつ!まさか!」
「…う…嘘だ!こんなところにこんな化け物家庭の人間が入るわけがねぇ!」
一旦逃げるぞ!といいのこしてから、洋一に絡んできた男は回りの人間とともに、とっとと何処かへ消えてしまった。
残ったのは、その兵士と洋一だけ。
「……あ、あのっ!大丈夫……ですか?」
その兵士は自分に近づくと少しビクビクしながら話しかけてきた。
「…あんたはいったい何者だ?」
初対面の相手に失礼かもしれないが、そう聞かずにはいられなかった。
こんな武器も振り回したことのないような兵士に怯えるなんて…。
「あ、えっと自分は……」
「何をしている新人!」
その時、先ほどその兵士が入ってきた通路から、何人かの兵士が出てきた。
中には、格好がまわりのものと違う者までいる。
どうやら、循環警備をしていたらしい。
洋一は、その弱そうな兵士の名前
聞くことが出来ぬまま、とりあえずその人たちに保護された形で連れていかされ、そこで色々と聞き出されたがとりあえず正当防衛をしたのちの騒ぎだった、と言うことでまとまりなんとか釈放されたのだった。
空の太陽は既に沈みかけていた。
とりあえず、今度こそ迷わないようにサーシャとの集合場所の宿へと向かうのであった。
「何でそんなところに行ったんですか貴方は……馬鹿なんですか?」
「馬鹿じゃねぇし!!確かにテストの点は赤点ギリギリだけど馬鹿じゃねぇし!!」
「そう言うことを聞いてるんじゃないんですが……」
と言うわけで、何とか無事に宿まで到着できた洋一は、宿内で男に囲まれるサーシャを部屋まで引きずって来て、さっきあったことを話したらこのざま。
うん、確かに葵や春香にもそう言うこと言われたことあるけどさぁ。
少し当たり方酷くね?ってか部屋一室だけなの?どっちかっていうとそっちの方が気になるんだけど!
サーシャの方を見ても、先ほどの男達の対応していたことに結構腹をたてていたのか、凄くイライラしているように見える。
これは…何かしらの話題をふらなければ自分の身が危なさそうだ!
ここは、男として少し頑張るしかない!
「なぁ、サーシャ」
「…何ですか、貴方の話を聞いて呆れているのと、男どものせいで今は機嫌が悪いんです。少しの間放っておいてくれないですか?」
「まだなんの話もしてないのに、その冷たい反応されると流石に傷つくぞ」
「だったら…何ですか?」
「少したったら……夜になる。少し散歩しないか?」