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96話~100話まで

------------------------- 第96部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

入学試験16


【本文】

「いやいやいや……いやいやいやいや」


まてまてまて、このひよこはいったい何を言ってるんだ?だってこいつ、死の森で生まれたばかりであそこの事しか知らないって言ってたじゃねえか。


「えっとッピねー、この先に湖があるからそこに行けば白馬がいるはずだッピ!」


ペピーはそう言って、自信満々に胸を張った。

…やはりおかしい。なぜこいつは”いるはず”だと言い切れるんだ?そんな確証どこにもない。あるのは百年前の伝説の話だけだ。なのに、どうして…


「…どうして、そこまで言い切れる。ペピー」


俺はこの思いをおさえきることができず、そのまま口に出してしまった。

その言葉を聞いて、ペピーは頭にはてなマークを浮かべた。


「なぜって、それは僕が……僕が……」


そこで、ペピーの言葉が詰まる。


「僕は……誰だッピ…?」


その時だった。サーシャの顔つきがふっと変わったかと思うと、右手に三つのクオーツを持ち、俺の後方へと投げた。その爆風で俺とペピーは軽く吹っ飛ばされた。


「サーシャ!お前!俺を殺す気かよ!」


昨日ため込んでいた愚痴の中に、聞かれてはいけないことでもあったのか?その記憶を俺事消そうとしたのか?こんなことが理由だったら、もう俺人間不信になるぞ。

しかし、サーシャがクオーツを投げた理由はそうではなかった。


「湖まで走って!」


俺たちに、真剣な顔でそう叫んだ。サーシャがクオーツを投げ込んだ方を見ると、そこには地竜が二匹こちらの事を見下していた。


「地竜!?なんでこんなところに!」


「……これは聞いてないわよ…ナタリー…!!」


サーシャは恨めしそうな声で、唇をかみながら目の前の地竜にそう吐き捨てた。

そして俺を見て「三人を連れて湖まで走りなさい!」と、俺に言った。

言われるまでもない。こんな叶いそうにない相手、こちらから願い下げだ。だが…


「サーシャ!お前は!?」


「時間を稼ぐわ!だから、走って!」


サーシャはそう言うと、両手にペンデュラーを装備し、二匹の地竜に向かって走っていった。

俺は、透たちと合流し遠くに転げていたペピーを拾い上げて、サーシャの無事を祈りながら、湖へ走った。

ペピーはなぜか、錯乱状態に陥っており「僕は…僕は…誰だッピ…?」と何度も何度もつぶやいていた。

出会ってからいろいろと謎が多い奴だと思っていたが…より一層、謎が深まっただけだ。めんどくせえ。

本当に、俺に関わるやつらは…問題しか抱えてねぇ!どいつも…こいつも。それでも、今は前にしか進めない。後戻りできる人生なんて…存在しない。

俺たちはただまっすぐに無我夢中に走った。途中で何度も転びそうになった。が、何とか踏ん張って走り続けた。


「…待ってくれ、洋一…。もう足が…うごかねぇ」


俺は透からのその一言で、ようやく足を止めた。かなり長い間走っていたらしい。気が付けば、空の色は赤く染まっていて、太陽が一日の終わりを告げていた。

辺りを見渡すと、先程とは全く違う木々、植物、地形が広がっていた。

林太と翔斗は、息が上がり過ぎていて少し過呼吸気味になっていて、透はところどころ足を怪我していた。


「…すまんっ!…」


昔からの悪い癖が出てしまった。俺は何かについて考えているとき、周りの声が全く聞こえなくなる。昔はそれでよく葵たちに迷惑をかけていた。

疲れ果てている透たちに急いで近づき、得意の回復魔法で傷を癒し、三人を落ち着かせて適当な木の下まで運んだ。


「少し周囲を確認してくる」


透たちにそう言って、俺はギアで地面を一蹴して空に出た。高いところから見た感じだと、ここがどこなのかまったくわからなかった。あぁサーシャから地図を借りたりしとけばよかったと今更後悔した。その時、遠くの方でかなり明るい場所を見つけた。地面に落下しながら、凝視してそれを見る。見覚えのある建物がぼやけてだが見ることができた。


「見えた!…パチェリシカ!」


嬉しさのあまり、大きな声を出してしまった。

そして一度地面に着地して、透たちにこのことを伝えようと思った時、ふと気が付いた。

ペピーがいない。先ほどまで抱えて走っていたあいつがいない。

すでにもう日は沈みかかっている。あいつに認識阻害の個性があるとしても、ここはあまりにも開けていて比較的に明るそうな森だ。身を隠せるような場所なんてそう見つかるようなもんじゃない。

俺は完全に暗くなる前に透たちに一言先に断ってから、ペピーを探しに出かけた。

そのまま一時間ほど森の中を走り回って、ようやくペピーらしき影を見つけることができた。

急いでその影を追うと、少し開けた場所の湖に出た。そこにペピーはいた。


「おい、ひよこ!勝手にどこか行くなよ!…心配したぞ!」


しかし、ペピーは答えない。

まだ、意識が混濁しているのだろうか。とりあえず、このままだと危ないのでペピーを抱き上げた。

そして顔を上げた時だった。何かの重い蹴りを顔面に喰らった。

俺はその勢いで地面を転がり、木に背中を打ち付けた。

クッソ!口切った!いったい誰だ!

俺の事を蹴ったと思われる奴がいる方を見る。

そこには、美しい毛並みを持ち、頭には鋭い角を持った白馬が神々しい光を放ちながら、俺を見下していた。


------------------------- 第97部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

入学試験17 決意の試練、思わぬ乱入者


【本文】

俺は今自分に何が起こっているのか、この状況を全く理解できていない。

突然いなくなったペピーを探しに来たら、謎の白馬に蹴られる始末だ。わけわからん。

だが…今、こいつが俺の敵であるということは間違いなさそうだ。

ってか、顔面ける必要なくね!?鼻血出たんですけど!

と、内心文句をグダグダと言いながら鼻血をぬぐい、立ち上がって刀を抜き放った。

その間、目の前に立っていた白馬は、俺の事をまるでゴミでも見るかのような目で見ていた。

そして、


「…男はやはり、汚い。心も、体も……何もかもだ!」


と言って、前片足で地面を力強く踏みつけた。白馬が踏みつけた地面から、魔法陣が展開され、そこから無数の光の矢のようなものが生み出されていく。

危険を感じた俺は、白馬を中心に円を描くように走りだした。


「…逃がすわけには…行かない!」


その言葉と同時に、先程生み出された光の矢が俺に向かって飛んでくる。俺は出来るだけ障害物が多い木々の間を走った。後ろを確認なんかしている暇はない。まず振り向いたら死ぬ。人間としての本能と、昔からの勘がそう告げている。かといって、幻夢を使っているような暇もない。なんせ、今個性のギアをもってしても、逃げるのがやっとの状況だ。…さてこの状況、どう切り抜ける。一番無難な手は駆車で白馬を斬りつけながら、ペピーの回収。そして、月歩げっぽによるスタン攻撃。からの逃走、が一番ベストな気がする。


「…とりあえず、仕掛けてみるか…」


丁度目の前にあったよさそうな木を蹴って走る方向を変えると、刀をしまいながら足に力をためた。すぐそばにまで、光の矢が近づいてくる。


「…駆車!」


俺は地面を力強く蹴り、白馬の目の前へと降り立つ。突然俺が目の前に出てきたことに、その白馬は少し驚いていた。


「さっきの仕返しでも、喰らいやがれ!」


俺は、その場で面食らっている白馬の顔面にサマーソルトを入れた。そして今まで走り回っていた速さで宙を一回転しながら、俺は刀を引き抜いた。頭義流抜刀術、月歩。駆車からの連携技として師匠から教わったもので、相手にサマーソルトをくらわしてから、怯んだ相手に斬撃を叩きこむというかなり殺傷性の高い技だ。俺の経験上サマーソルトを喰らった敵のほとんどは、二度目の斬撃で仕留めることができている。

…お前に何があったかは知らないし、俺を攻撃する理由も知らないけれど…俺が生きるためだ。お前にはここで…死んでもらう!

しかし、二度目の斬撃はむなしくも空を斬った。

そして次の瞬間、俺の真後ろと真横から多量の光の矢が俺に襲い掛かった。

何一つ回避行動をとれず、全ての攻撃を喰らって俺は湖の方に吹き飛んだ。


「……我が王に刃を向けるなど、愚か者のすること…。その身をもってその罪、償いなさい」


白馬がもう一度、俺が飛んでいった湖の方に先程の光の矢を、逃げ場のないように数を増やしてきた。

その時、俺は吹き飛ばされた湖からようやく顔を出せた時だった。意外にも湖が深かったおかげで、吹き飛んでいって壁に体を打ち付けるなんてことはなかったが、かなりの傷を負った。顔を出すとすぐに狩られそうだったので、魔力をあまり無駄遣いしないようにクイックヒールで体の傷を癒してから顔を出してみたら、このざまだった。やばい。俺の個性ギアは地面を蹴るという行為があるからこそ、その力を発動できるものだ。だが、今体は水の中。地面を蹴るためには、湖の端まで行かなければならない。だが、そんな悠長なこと言っていられるほど時間もない。考えろ。今何ができる。今の俺には、いったい何ができる。


「…散りなさい!」


白馬がその一言を発すると、湖に向けられていた光の矢がすべて、湖に降り注がれた。

この攻撃だけは、防ぎ切らなければならない。生き残るために、葵たちのもとに帰るためにも、必ず!

俺は両手を前にかざし、出来るだけ厚く大きな水属性のシールドを展開した。だが、俺は光魔法を完全に防ぐシールドは使えない。使えるのは、炎、水、物理の三つだ。シールドは他の属性でも防ぎきれないということはない。が、対応する属性で防がないといとも簡単に割れてしまう。

…だから、俺のこの行動は相当無謀なものだ。シールドを重ねまくって厚くして、攻撃を耐えきる。あまりにも単純で、それでいてばかげている行動だ。

さぁ、来るなら来い!何としてでも俺は防ぎきってみせる!

自分のシールドと光の矢が激突した時、光の矢があたりを明るくしながら散っていった。そして、俺のシールドをものすごい速度で破壊していく。俺は覚悟を決めて目を瞑った。

………静寂があたりを包む。

攻撃が…止んだ?恐る恐る目を開けてみる。目の前には最後のシールドがボロボロの状態で宙に浮いていた。その時の俺は攻撃を防ぎ切った嬉しさで、声が出なかった。だが、辺りを見て俺がすべての攻撃を防ぎ切ったのではないと分かった。

俺の周りには気が付けば、光のベールのようなものが俺を覆っていた。


「…やはり、ひ……銀狼ぎんろうの言うことは当たりますね。すべてを体験してきただけはあります。七海ななみ、洋一さんよろしく」


「は~い。…よっこいしょ!」


誰かの声とともに、突然はさみのようなものが俺の方に伸びてきて、俺を挟むとそのまま湖から引き上げられた。


「無事だね~、さすが。……ヒーローは違うね」


「主ら……誰だ!貴様らも、我が王に手を出そうとするものか!」


俺以外の人間の登場に、目の前の白馬が怒り狂っている。それとさっきから、王という言葉を何回も言っているが、いったい誰の事をさしてるんだ?


「……過去と未来では、やはり性格は違いますね。それで、将平しょうへい先輩、銀先輩からは何をしろって言われてるんですか?」


「…俺はやることがあるから、適当に戦っててね。よろぴ~、…と先程連絡が入りました。なんでこんな緊急事態であの人はあそこまで気楽で行けるのか、不思議でなりません」


「ってことは、とりあえず一時的に協力しろってことですよね?…ってなわけなんだけどさ、洋一せ……さん。なんやかんやでとりあえずこの戦いだけ手伝うことになったから、よろしくね~。あ、私は七海、ななちゃんって呼んでね!」


「七海、ここで職業病を出さないで」


……なんなんだ。今、俺の目の前にいる二人は何を言っているんだ。互いに知らない者同士だ。いや、もしかしたら、知らないのは俺だけかもしれないが。普通なら、協力なんてしようと思えないだろ。

…だけど、なぜだろうか。この人たちは、なぜか信頼してもいいような…そんな気がした。だから俺は、言葉は何も発さず、首を縦に振った。


「…少しだけ、断られるのかと心配してましたが、貴方はやはりどの時間でも…貴方ですね。僕らの事は何でもする駒だと思ってください」


「そーそー!私たちにできないことなんてないんだから!」


「…じゃぁ、あの白馬をおさえることって…できますか?」


「「もちろん」」


目の前の二人は力強くうなずいた。


「洋一さんがスタート切ってくれれば、すぐにでも動きます!」


「そうですね、いつでもどうぞ。もうすでに準備はできています」


そう言うと、七海と呼ばれている少女ははさみのような槍っぽいものを。将平と呼ばれている男性は金色の長いステッキのようなものを構えた。


「…なら、お願いします!」


そして、三人同時に地面を蹴った。


------------------------- 第98部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

入学試験18 地を駆けるもの


【前書き】

exキャラクター奥義集

銀狼 全てを喰らう銀狼の牙!貴様に全て受止めけきれるか!行くぞ!牙狼虚影斬!

捺 月よ!私に力を!…行きます!モード、ムーンラビット!

史奈 師匠直伝!これでもくらえ!月光閃!

七海 太陽よ!私に力を!いっくよー!モード、サンラビット!

将平 あの時とは…もう、違う!僕は今度こそあの人を護るんだ!奥義!炎槍グングニル!


【本文】

突然現れた謎の二人組に、一度白馬の事をおさえてくれるように頼んだ俺は、一直線にペピーの元へ走った。それを阻むかのように白馬も攻撃をしようとするが、それを邪魔するかのようにあの二人が立ちふさがる。


「…どけええええええ!!」


「どきません。貴方が何をしようとしているのか、そのことはわかってはいますが、今洋一さんを失うわけにはいかないんです!」


「そうそう!私の大切ななっちゃんに手を出した人だから、しっかり責任取ってもらわなきゃいけないの!」


そう言って白馬の出す光の矢の攻撃を、一人がとても大きなシールドを展開して簡単に防いだ後、もう一人がはさみのような武器を白馬に突き出す。それをシールドで防いだ白馬。しかし、勢いのあまり体が後方へ下がる。


「あははは!今でもこんなに強いんだー!倒しがいがあっていいね!」


「七海、倒したら駄目だよ。ユニコーンには洋一さんたちをパチェリシカに運ばないといけないんですから」


俺が普通に苦労する敵を、あんな簡単にあしらうなんて…あの二人はいったい何者なんだ。それに、まるで何もかも知っているような口調だし、まるで未来からでも来たかのような…そんな感じだ。

っと、そんなこと考えている場合ではない。早くペピーを助けないと。

二人に迷惑をかけないように急いで走って、ようやくペピーに手が届いた。

急いで拾い上げる。


「むにゃむにゃ……御飯……美味しいッピ…」


ペピーを拾い上げると、幸せそうな顔をしてそんな寝言を言いながら寝ていた。

とりあえず、顔を見てイラっとしたので一発思いっきりぶん殴った。


「ぷぎゃああああああああああああ!!!痛いッピ!誰ッピ!?」


「…気持ちよさそうに…寝てんじゃねぇ!こっちがどんだけ心配したと思ってるんだ!」


「心配?なんの事ッピか!?僕はお前の元からどこにも行ってないッピ!というか、ここどこッピか!?」


…こいつ、記憶がないのか?いや、そんなはずはない。だってこいつは俺たちの所から勝手に離れた…はずだ。だから、どこにも行っていないなんて言うはずがない。それに、そんな都合よく記憶喪失になんてなるはずがない。だが…もし、先程の急におかしくなったことが原因なのならありえない話ではないのかもしれないし、今のペピーの話からだと、そう判断するのがもっともな気もする。…殴ったことは目を覚ますためだとかそこらへん適当な嘘をつけばいいか。


「まぁ…心配したんだ」


「なんで棒読みッピか!いろいろと怪しいッピ!」


「とりあえず、黙ってろ」


そう言って俺はペピーの腹をもう一度殴って気絶させた。……よしっ、これで解決だ!


「解決にはなっていないでしょう」


後ろからそう言われて何かで軽く叩かれた。振り返るとそこには将平先輩と言われていた人が肩に金色のスッテキを担いで俺の方を見ていた。


「こちらは片付きましたよ。意外と大変でしたけどね」


あんたらが大変って言うと、なんか何でも大変なことになりそうだからそんなこと言わないでほしい。と内心思った。だが実際にこの人が言うように何もかもが片付いていた。

七海と言った少女が伸び切っている白馬をペシペシと叩いている。確かに抑え込むことはできるかとは頼んだ。だが、まさかここまでやってくれるなんて…


「さぁ、まずはこちらに来てください」


将平にそう言われ俺は言われるがままその後をついていった。白馬の前に着くと、将平にこの子に乗ってくださいと言われた。


「大丈夫なんですか、これに乗っても…」


先程まで敵対していた奴だ。目が覚めたら俺の事を襲ってきたりしそうで怖かった。


「そのことについては、心配しなくていいですよ。すでに手は打ってあります」


「ほんとに…?」


「大丈夫だから、早く出発してあげなよ!銀郎が言ってたけど、早くしないと三人の命が危ないって!なんか、サーシャが二匹の地竜のうち、一匹を仕留めそこなった?的な話を来る前に聞いたよ!ところで、三人って誰?将平先輩」


「僕も知りません。おそらく僕もあったことがない人たちだと…」


「なぁ!どうすればこいつは起きる!」


「あ、お尻叩けばすぐにでも行きますよ」


将平から、そのことを聞くと俺はすぐにこの白馬のお尻を叩いて、透たち三人を待たせている方に走らせた。



「…あらら。行ってしまいましたか」


突然馬を走らせた洋一を見て、少し呆れながら将平は残念そうにそう言った。

その横では、七海が自分専用の武器、”シェーレランス”を両手に持ち背伸びをしていた。


「う~ん、なんか色々と呼びづらかった!それに、やっぱ洋一先輩が私と同い年なのって新鮮すぎて、ずっとそっちの事ばかり考えてましたよ。将平先輩はなんか思ったことはありましたか?」


思ったこと…か。沢山ありすぎて、なんといえばいいものか…。そうだなぁ…しいて七海に言うのであれば…


「…やはりこの時に戻ると、自分がどれだけ無力であり洋一さんの助けになることができなかったのかと……あの時の後悔する気持ちが込みあがってきます」


「…それは、昔の自分としてのってことですか?」


「なかなかに痛いところをついてきますね…。そうですね。昔の僕は弱かった。あまりにも無力だった。だから、あんなところで死んでしまった。けれど…今は違います。力も…神器も手に入れた。洋一さんと同じ場所で戦うことができるようになった。僕は今、それだけで十分なんです」


「ふ~ん。やっぱり、男の人ってよくわかんないですね!」


「七海がそれを言ったらいけないでしょう…一応アイドルですよね?」


「歌って踊って戦場を舞うアイドルです!」


「…その前置きは…いるの?」


「いりますよ!そりゃぁ!」


その後ブーブーと横で七海からアイドルやらなんやらについて語られたが、正直何も頭には入ってこなかった。僕はアイドルには興味がないし、正直なところ、僕の瞳にはあの人しか映っていない。

その時、右手につけている連絡端末に反応があった。右手を軽く振ると、端末がブブブッと震えるとあの人の声が聞こえた。


「…そっちは順調に事が済んだか?」


「はい、こちらは無事に済みました。それで…見つかりましたか?”ナイトメア”についての情報は」


「…駄目だ。やはり、あいつはこの時代付近で生まれたわけではないらしい。裏にも色々話を通したが、何にも出てこなかった」


「なら、どうするんですか?」


「…三カ月、ここら周辺でクエストをこなしながら待機。ドルーナの”全校生徒対象の大会”の時に生徒に紛れて侵入。その後、”古の書物庫”へ行く。あそこなら、きっと”ナイトメア”に対する何か有効な手段が見つかるはずだ」


「なら今から、パチェリシカへ向かえばいいんですね?」


「あぁ、こちらで魔法陣は展開しておくからいつでもいいぞ。じゃぁまた後でな」


そう言って、あの人からの通信は切れた。


「さぁ、七海。リーダーが呼んでます。行きますよ。僕たちのギルドが壊滅する前に」


「わかってますよ。なっちゃんの為にも、私が…頑張るんですから!」


そうして二人は、地面に魔法陣を展開させるとそのままどこかへ姿を消した。



俺は先程の二人に言われるがままの事を信じて、白馬を走らせた。

早く!早く!ただ心の中でそう一心に願った。その思いに応えるように、白馬はかなり入り組んだ山道をすいすいと進んで行く。そして、十分もしないうちに俺が透たちと別れたポイントまでたどり着いた。

俺は馬から転げ落ちるように降りると、大声で透たちの名前を呼んだ。しかし返事がない。…遅かったのか?…また…また…俺は同じ過ちを…!!

何もかもが終わってしまったと思った時だった。白馬の方にいたペピーが突然俺の頭に乗ってきた。


「…っ!こんな時にまでお前は!」


また髪でも引き抜きに来たのかと思った俺は、掴んで投げ捨てようとした。

しかし、今回はこいつの様子が違った。まるで別人のオーラのようなものをまとっているような、そんな気がした。そして…


「三人とも、北東の方に向かってずっと走ってる。何かから逃げているかのよう……な」


そこまで言って頭に乗っかってきたペピーは頭の上で態勢を崩すとそのまま俺の前の方に倒れこんだ。それを俺は両手で受け止める。


「…北東…」


一度空を見上げた。月は俺の方から見て右側にあった。まだ夜になったばかりだ。月が右側にあるというのはおかしい話だ。つまり俺が今向いている方が…どっちだっけ。…多分、南…のはず。ということは…。

俺はペピーを両手で抱きかかえながら月の方に体を向けた。


「…こいつの事を信じるていいのかは…正直賭けなところがあるけれども……」


今はその情報しかない。なら、行くしかない。俺はもう一度白馬に乗った。ものすごい嫌な顔をされたが、文句を言わずに乗せてくれたところ、あの二人は本当に何かをしてこいつを手なずけたということだ。…本当に何者だったんだ?あの二人。…まぁいい。今はそんなこと関係ない。今やらなくてはいけないこと。それは、あいつらの救出。ただそれだけだ。


「白馬、頼む!北東に方に向かって走ってくれ!」


「…白馬ではない。我が名はユニコーン。精霊王を支える四匹の大精霊の一匹だ。覚えておくがよい。………」


「ならユニコーン!さっき言ったとおりだ!頼む!」


「なら、しっかりと捉まっておきなさい。振り落とされないように!」


そう言ってユニコーンは前両足を一度高く上げ、高い声で鳴いた後先程よりもさらに早く走り出した。

その速さは、例えるのなら高速道路で馬鹿みたいに速度を出している車の上にいるかのような、そんな速さだったように思えた。そして俺はおそらく透たちがいると思われる北東の方へとユニコーンとペピーとともに向かった。さぁ、足はそろった。あとは…おまえらだけだ!透、林太、翔太。俺はユニコーンが走っている間、心の中で三人の無事をただ祈った。


------------------------- 第99部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

入学試験19 約束


【本文】

ただ無我夢中に大地を蹴った。十年前のあの時のように、心が少しだけ軽い気がした。久しぶりに嬉しいという感情を抱いたものだ。…ベリア。ようやくです。ようやく貴女の仇を取る機会がまわってきたようです。……貴女の願い、スカイピアの奪還は必ず”私たち”が成し遂げて見せます。だから…この汚らわしい男を背に乗せること、今だけはお許しください。



「早く!急いでくれ!ユニコーン!」


「…言われなくても、わかっている」


ユニコーンが急いでくれていることはわかっている。それでも、こうやって急かさないと心が落ち着かない。それはきっと、今まで以上の恐怖を感じているからだと思う。約束をまた破ってしまう。それが今、自分が恐れている事だった。俺は二度約束を破ったことがある。一度は四島列島の皆とまた会おう、と約束したのに、数か月後に葵以外は皆グレゴリアスに殺されてしまい、二度と再会できなくなったこと。もう一つは、ルルを過去に返す方法を探して家族のもとに返してあげるという約束。ルルはこの約束をした後に戦場でグレゴリアスに殺されてしまった。……襲ってきた魔物が最強最悪のドラゴン種だったということもある。仕方がないといえば、そう言いくるめるかもしれない。だが、試験に行く前に葵たちとかわした「次に会うときはここで」という約束。叶えなければならない。やり遂げなくてはいけない。今度こそ。自分がもう、あの時のように弱くはないのだと証明するためにも!

そして、かなり走ってからようやく血痕のようなものがうっすらと地面に点々としているのが見えた。

…近いか!できるだけ神経をとがらせ、目を閉じ音に集中する。どこだ……透!林太!翔斗!俺は探索系の個性や魔法は持ってないんだ。できるだけ何かわかりやすい合図か、大声でもいいから、出してくれ!

そう心の奥底から願った時だった。


「くっそ!洋一のやつ、どこ行ったんだよ!」


「耐えるしかないぞ、透!…こんな、化物でもな」


「援護射撃はするよ!透!林太!前衛頼んだ!」


三人の声が聞こえた。俺は、走っているユニコーンの背中から飛び降り、木を失っているペピーをわきに抱えて声の聞こえる方に走った。そして、三人の姿を視界にとらえることができてすぐに、俺はペピーを空中の方に投げ刀を抜き放ち、三人の目の前に立ちはだかっていた地竜に斬りかかった。

だがこれは、難なく避けられてしまった。


「大丈夫か!?三人とも!」


俺は地竜に斬りかかった勢いを殺しながら、三人を背にし地竜の方を警戒しながら三人の声をかけた。


「洋一!無事だったか!ずっと帰ってこなかったから、心配したんだぞ!」


「そうだ!心配したんだぜ!」


「無事で何よりだよ!洋一!」


どうやら、三人ともほぼ無傷らしい。間に合った。何とか間に合った。…だが今は、そんなことで喜んでいる場合じゃない!

三人が怪我をしてもしもの時に、急に動けないようなことがないようにクイックヒールを飛ばして俺は地竜の方にもう一度斬りかかった。その行動を見た地竜は口から炎のブレスを吐いてきた。それを、難なく避けると、俺は地竜の顔面を下から思いっきり足で蹴り上げた。そして、そのひるんだすきに、地竜の右足に刀を振り下ろした。ガキンと嫌な金属音が響く。どうやら、この刀の刃ではこいつの鱗は斬れないようだ。…くっそ!楓が今ここにあったら……すぐにでも倒せるのに!

だが、ないものをねだってもしょうがない。それに今の攻撃で分かったことはただ一つ。

逃げること。それが今の俺たちが最も生存しやすい唯一の手段だった。

だけど…四人もあのユニコーンには乗せることができない。せいぜい乗れても三人が限度だろう。

…俺以外をユニコーンに乗せて、俺だけギアでこいつらの後を追うか?いや、だめだ。俺の体力が持たないし、まずユニコーンの速さについていけない。じゃぁ…どうすればいい!

そんなことを考えながら、俺に目を付けた地竜が振りかぶってきた右足を受け流す。と言っても、ほとんど避けたようなものだが。


「洋一!危ない!」


右足を避けた俺に透がそう叫んだ。しかし、声が届いた時には、俺の体にものすごい衝撃が加わっていた。わけもわからず、それに吹き飛ばされる。地面を何度か転がった後で、俺はようやく体勢を立て直し立ち上がった。体中に激痛が走る。急いで応急処置のクイックヒールで傷を癒す。体の痛みは一瞬で引いてくれた。だが、それでも体の数か所が熱を持ったように痛い。おそらく内出血しているのだろう。…俺でもさすがに目に見えていないものを治療することはできない。…ちくしょう。まずった。


「大丈夫!?」


吹き飛ばされた俺のもとに一番に駆け付けてくれた翔斗が、俺にヒールをかけてくれた。だが、あまり回復したような感じはしなかった。

…回復力の差…か。こればかりは仕方がない。今までこの時代でもだが、俺以上の回復力を持った人間を見たことはない。

翔斗には一言ありがとうと言ってから立ち上がると、俺はユニコーンを呼んだ。

俺が一言言ってからすぐに、ユニコーンはその姿を現した。その光景を翔斗は口をぽかんと開けてみていた。


「ユニコーン。お前は人を何人乗せることができる?」


「…男は乗せたくありません」


「それを承知で頼んでるんだ。…頼むよ」


「……男なら二人が限度です。それ以上私に乗ると、汚れてしまいます」


…二人か。厳しい数だ。…あぁ!馬がもう一頭いれば!

そんなことを思っていると、透と林太がこちらに向かって走ってきた。二人とも軽く怪我をしていて、こちらに来ながら


「あんなの倒せるわけがない!」


「見つかったんだからしょうがねえだろ!透!」


と大声で話していた。…そんな大声出して走ると、他の魔物まで巻き込むぞ…。そう思った矢先、辺り一帯から複数の魔物が現れた。どこかで見たような猪の奴や、あの町で出会った人食狼、それに見たことのない植物が他の魔物複数にあの時の蜘蛛型の魔物。まずい。非常にまずい。あの時は、サーシャがいたし、俺も神器を使うことができたから何とか乗り切れた。だが今はサーシャもいない。なぜか神器からは何の声も聞こえなくて抜けやしない。それに加えて、最強種のドラゴンときちゃあ…


「…どうすんだよ…流石に見たことのない魔物は、俺は対処できないぞ」


「……クッソ!どうする洋一!このままだとマジで危ない!」


いや、透。お前はとりあえず口をふさげ。うるさい。


「もう思いっきりぶつかって一点突破するしかないな!」


いや、林太。お前はもっとうるさいんだから口をふさげ。魔物が寄ってくる。


「どうしますか、洋一!」


俺はお前たちの子守じゃねえんだよ!お前らもなんか案出せよ!


「…こんなザコくらい簡単に倒してください。…ベリアなら一瞬でしたよ…だから、貴方にも出来ないと困ります」


おおおい!!お前は俺よりも強いんだから、頼むから何かいい案を出してくれよ!こちとら、もうここ数日で起こったこととかでもう頭いっぱいいっぱいなんだよ!察しろよ!頼むから察しろよ!

しかし、ユニコーンは何も言ってはくれなかった。

その時、地竜が俺たちを囲んでいる魔物の群れに激突し、魔物たちを暴食し始めた。

これを起点に何か行動を起こせないかと思ったが、地竜は俺たちの事を魔物を食いながらも見ていた。

走り出せば、今食っているものを捨ててでも追ってきそうな…そんな生き物としての本能を感じた。

…動くにも、動けない硬直状態が続く。このままだとらちが明かない。早く何とかしないと。

…かといって、何かロクな戦術が思い浮かぶわけでもない。…本当にどうすればいい!

その時だった。どこか遠くからか、何かが一直線上に飛んできて、地竜の顔面に直撃した。

その何かで地竜はバランスを崩しその場に倒れた。

何だ!?いったい何が起こった!?その何かが飛んできた方を目を凝らしてみてみた。

何かが近づいてきている。そして、近距離になってそれが誰なのかわかった。


「…数日ぶりね、洋一」


「友恵!?」


そこには馬に乗った友恵とキー、それにもう一人シスターのような恰好をした少女が一匹の大きな馬に乗っていた。


------------------------- 第100部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

入学試験20 パチェリシカへ


【本文】

「なんでお前がここに!?」


突如俺の目の前に現れた友恵に、俺は驚きを隠すことができなかった。

だが友恵はいたって冷静にこう答えた。


「だって私たち、シトセ村に行くって別れる時に言ったじゃない」


………。確かにそんなこと言ってたような…言ってなかったような…。って今はそんなことどうでもいい!


「頼む!助けてくれ!」


「い・や・よ!」


この状況でお前はそんなことを言いますかあああああ!!


「……と、言いたいところだけど、色々と世話になったしね。それに……洋一は殺されないようにしなければいけないって言われてるからね。仕方がないから、助けてあげる」


そう言って友恵たちは馬からひょいっと降りると、こちらの方に馬が走るように馬の尻を叩いてからポーチから一冊の黒い本を取り出し、それをひらいた。


「さぁ……あとは洋一たちの武運を祈るわ」


そう友恵が言葉を発してすぐだった。地面の感触がふっと消えたのだ。例えるのなら、今までそこにあった橋が音もたてずに崩れ去ったような、そんな感じだった。


「……うっそだろ、おい…まじかよおおおおおおぉぉぉぉ!!」


そうして俺たち四人と一匹と一体の精霊は、友恵によって作られた大きな穴に落ちていった。


「…よかったの?禁術使っちゃっても」


私が禁術を使ってから唯奈が私にそう言った。


「別にいいの。この力は使うためにある。私の復讐を果たすためのね。…さて、それじゃぁ…」


そこまで言って、私はある一点、地竜のいる方を向いて武器を抜いた。


「ウィッカ!キーをお願い」


大きな声でそう言うと、どこからともなくウィッカが現れて、毎度あり―と言いながらその場からキーを連れて姿を消した。


「友ちゃん。前衛はよろしく!」


「…言われなくても…わかってるわよ!」


そして私たちは同時に地面を蹴った。



長い間かなり高いところから落とされた俺は、落ちていきながら意識を失っていた。

そして、自分が気が付いた時には、すでに友恵の作り出した穴からは抜け出していた…のだが。

状況は依然として最悪の状態のままだった。周りはほぼ敵に囲まれた状態で、おそらくだが先程地竜が現れたところだけ、抜け道というような感じでぽっかりと穴が開いていた。

俺はそれを見て、急いで気を失っている透たちをたたき起こした。何とか全員が起きた頃には、一緒に落とされた魔物どもまでもが意識を取り戻し始めていた。

まずい。早くここから動き出さないと、確実に死ぬ。…ここで俺は違和感を覚えた。あれ、そう言えばユニコーンとペピー、それに一頭の馬はどこに行ったのだろうかと。

さっきからぱっと見どこにもいないんだけど…。


「…探しているのなら、名を呼べばいいでしょう」


俺が首を振ってきょろきょろとしていると、上から呆れたような声が聞こえてきた。声のする方を見ると、ユニコーンと一頭の馬が宙に浮いていた。……あれ、おかしいな。ユニコーンって空飛べたっけ?空飛ぶのってペガサスの方じゃない?というか、俺たちが想像してた白馬ってどっちかっていうとそっちだったよね!?そう言えばなんでユニコーンに出会ったんだ俺!


「…伝えれらていることが、常に真実とは限りませんよ。…私に乗るのなら、すぐに目的の場所まで運んであげられますが、二人しか連れていけません。私がその二人を運んでいる間に、残った二人はその馬で逃げておいてください。…時間もあまりありません。急いで決めてください」


俺がなんか色々と変な突っ込みを入れている間に、ユニコーンは今最も適切だと思えるような一つの道筋を提示してくれた。でもその提案はあまりにも残酷な提案だった。


「二人はここに残れっていうわけか…」


「…仕方のないことです。本音を言えば男は乗せたくないのですが、これも私の目的の為です。それに、重量的な問題もあります。…体に合わない武器は選ばないでしょう?」


「俺たちの中じゃ、ユニコーンと相性が良い奴がいない。…つまり、お前と契約を結ぶかでもしない限りは、その上限は変わらないのか」


俺がそう言うと、ユニコーンは静かに首をたてにふってからこう言った。


「…強引な肉体改造は、滅びという未来しか与えてはくれませんよ」


…駄目だ。俺には難しい比喩すぎて理解できん。だけど、大体言いたいことはわかる。でも、何でこんな面倒な表現をするんだ?普通に直接言えばいいのに…。


「…とにかく、早く私に乗る人を決めてください。早くしないと、逃げれるものも逃げられなくなってしまいます」


そうだ。今は何か他のことを色々と考えている場合ではない。とりあえずは逃げよう。それが先だ。

ならまずは、誰から乗るべきか…。俺は地形はよく知らないけれど、おそらくこいつらの中では最も強いと思うから、残った方がいいと思う。となると、前衛と回復役はいるから後衛と魔法が使えるやつ…。

この条件に当てはまるのは、一人しかいなかった。


「…ユニコーンに乗る二人は、透、林太。俺はこの二人がいいと思う」


「ど、どうして!」


俺が出した提案に真っ先に反応したのは翔斗だった。まぁ気持ちは分からんでもない。俺も早くこんなところ抜けたい。


「理由はごく普通だよ。透、林太、俺は前衛。翔斗は後衛のアタッカーだ。恐らく残る二人は、馬に乗って走りながら戦うことになると思う。そんな状況で、近距離攻撃なんてしようものなら、どうなるか…。それに、それで馬を失ったら、元も子もない。って考えなんだが、納得してもらえたか?怖いのは分かる。でも大丈夫だ。…皆でまたドルーナで再会しようって約束しただろ」


俺はそこまでいって、翔斗を不安にさせないように手をとった。

その手は少しだけ小刻みに震えていた。


「…大丈夫だ。俺がついてる」


俺がそう言うと、翔斗は無言で頷いた。


「ユニコーン。…二人を頼んだ」


「…言われなくとも、無事に運びますよ。運び終わればすぐに戻ってきます。ですからこれを…」


そう言って、ユニコーンは何処からか綺麗な銀色の笛を取り出した。


「これは?」


「私を呼ぶときに使う笛です。その音を頼りにしていくので、決して無くさないように。…それでは、行きましょう」


ユニコーンに透と林太が乗ると、ユニコーンは風のような早さでその場から姿を消した。

…なんだろう。選択はおそらくこれでよかったと思うんだけど、何かを忘れているような気がする。こう…何か手に持ってたというか…ひよこと言いますか……。

あれ、そう言えばペピーどこ行った!?


「翔斗!ペピー見てないか!?」


「し、知らないよ!僕は今目覚めたばっかだし!」


そう言えば、俺はあいつをどうしたんだっけ…。確かユニコーンに乗っているときはずっと腕に抱いていたし、こいつらを見つけた時には空中にぶん投げたし……。

あれっ!?本当にどこ行ったんだ!?しかし、今から探そうとすると間違いなく今開いている隙間までも魔物に詰められてなくなってしまう。ペピーには悪いが無事を祈るしかないか…。


「行こう、翔斗。もう時間もあまり残されていなしな」


「…う、うん」


そうして俺たちは馬に乗り、魔物たちの隙間を抜けるとパチェリシカめがけて走り出した。

そして、予想通り半数ほど起きていた魔物が俺たちの乗った馬を追いかけてきた。



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