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91話~95話まで

------------------------- 第91部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

入学試験11 残り五日


【本文】

ここはどこだろう。真っ白で埋め尽くされた世界。そんなところに俺は一人立ち尽くしていた。服装も先程まで着ていたものではなく、何か不思議な力を感じる青い服を着ていた。

そして目の前には、謎の青い球体。

それに向かって片手を伸ばす。冷たくてとてもひんやりしている。氷と水の中間のようなそんな感じだ。

そのままもう片方の手を入れようとしたときだった。


「それ以上は踏み込んじゃいけない!今すぐ彼女から離れて!」


後ろからそう呼びかけられた。後ろを向くと、見たことのない恰好をした風華がそこに立っていた。



「………っきろー…」


「おっきろーー」


「起きろって言ってんだろうがこの寝坊助がぁ!」


「ぐふぉぇ!」


誰かから腹部を殴られ、その痛みで目が覚める。


「あ、ようやく起きた~。それじゃぁ、少し待っててくださいね~」


俺の腹部を殴って起こしたその少女は、俺にその一言を残して、そのまま部屋を出ていった。

…ちょっと待て。いろいろとおかしなところがある。少し整理してみよう。

まず俺はさっきまでグレゴリアスと戦っていたはずだ。…えっと、確か神器が光ってそれを引き抜いてから……俺は何を……?

グレゴリアスと戦ったということは覚えている。なのに、戦いの時の記憶がすっぽりと抜かれてしまっている。まるで、四島列島での修業期間を師匠に消されたあの時のように。


「ようやく起きましたか。数日ぶりですね、洋一。あの後あなた方の生存が確認できなかったので、心配だったんです」


そんなことを考えていると、先程少女が飛び出していった扉からある人物が入ってきた。

背が小さくて、少し毒舌で、何より俺をこの前まで助けてくれていた人物が。


「サーシャ!?お前何でここに!?あの時お前だけいなかったから、どうなったんだろうって内心ずっと心配してたんだぞ!」


「そのことについては、後で話します。まずは落ち着いてください」


そう言ってサーシャは俺が色々と聞きたかったことを話してくれた。

まず、あの時どこにいたのか。実はあの時隠れて奇襲するために一度距離を取っていたらしく、その時にゴーレムが現れて俺たちと離れ離れになってしまったらしい。その後、どうにかしてブライから退くことに成功。日がたってから、ほぼ崩壊してしまったフリーテに戻りジャルの墓を作ったところに、緊急招集がかかり、転移系のクオーツでここまでやってきた、ということだった。


「……私は大体こんな感じです。しかし洋一、貴方はなぜここに?カイルがいることは前情報で聞いていましたが…」


そこで俺は、今までの事をサーシャに話した。あの後海賊の砦に流れ着き、海賊とともに海を渡ったこと。その時に謎の魔物やドラゴンに乗った少女に会ったこと。ある街でとある女性から、ドルーナに潜入してほしいとお願いされ、今そのドルーナに入学するための試験を受けているということ。その時になぜか、死の森に流されたということ。途中で謎の生物や人との出会いがあって、今ここにいるということを。


「大体の事は把握しました。つまり今洋一は、試験を受けている最中なんですね?」


「まぁそんなところだ。っと、そう言えば他にも一緒に試験を受けてたやつらがいるんだが、そいつらは今どこに?」


「他の方々ならもう目を覚ましてますよ。呼んできましょうか?」


サーシャはそう言うと、入ってきた扉から外に出て行ってしまった。そして、それと入れ替わるように透たちが部屋に入ってきた。そのあと透たちと話してからしばらくして、俺は寝かされていたベットから起き上がり透たちとともに部屋を出た。

部屋を出るとそこにはサーシャと先程の少女がいた。というかその二人しか人の気配を感じることができなかった。

俺たちが部屋から出てくるのを見て、サーシャたちは自分の手荷物を持つと俺たちの方に寄ってきた。

そして、


「話は透さんたちから聞いています。貴方は大切な私のお客様でもありますし、少しの間ですが協力させていただきます。感謝してくださいね?」


「サーシャさん、ただでさえ売り上げ少ないですもんね~」


「ウィッカ~…何か言った?」


「べっつに~。あ、お兄さん方私の事もよろしくです~。私はウィッカって言います~。出会った時はぜひ私の方で商品を買ってくださいね~、サーシャさんよりも納得のいく金額で商品を提供させていただきますから」


「私の客を取ろうとしないで!」


というわけで、サーシャとウィッカが俺たちに協力してくれることになった。


------------------------- 第92部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

入学試験12 ペピー、サーシャの怒りを買う


【本文】

洋一たちがその場所をから出ていくのを、遠くから見ているものたちがいた。


「いや~、やっぱり若い時は冒険しないとね~。君もそう思うだろう?ルー?」


「………」


「そろそろ口ひらいてもいいんじゃないかなー?ルタ君?」


横にいる彼女に話すことなど全くないので、僕は口を一切開かなかった。


「…はぁ…まぁ、確かに身柄を確保したのは悪いとは思ってるけど、それは」


「あなた方が闇ギルドだから。と、でも言いたいんですか?」


その女性、ナタリーは僕のその言葉を聞くと僕の方を指さしながら「だーいせーいかーい」と言ってきた。

駄目だ。この人から何かを有力な手掛かりを得て、連合に逃げ帰ろうと思ったけれど、この人全く隙が無い。常に笑顔でいるにもかかわらず、だ。というよりこの人……おそらくだが、この付近の生物のどれよりも強いと思う。


「ま、許してちょーだいな。代わりに君が欲しいと思う情報を上げるから」


「……代わりの話?」


僕がそう言うと、彼女はコクンとうなずいて、口を開いてこういった。


「君の探してる女の子は生きているよ。水の方のお姉さんと一緒にね」




先程の場所を出て、歩きながらだが今いる現在位置と今から向かう目的地を教えてもらった。

現在いるところはアトリスタ大陸の南東シトセ村付近なのだそうだ。その村ではシスターとして修業する女性が多いので、様々な物資を外から運んできてもらっているらしい。もちろん私たちも運んできますと、ない胸を張りエッヘンと威張るサーシャ。…まな板とは、これほどまでに悲しいものなのか。一瞬ギロリと睨まれたが、サーシャはすぐに話を戻し、そこでなら馬で物資を運んできている人がいるはずだから、その人たちに乗せてもらおうと考えている、といった。

ある程度歩いて、休憩に入った時地図で指さしながら説明してもらったが、離れている距離がえげつなかった。

凄くざっくり言うと、今まで移動してきたコラからフリーテまでは大体日本で言うと山口県辺りから京都、滋賀辺りまでの距離だ。そして今いる位置からパチェリシカまでの距離は北海道から福岡辺りまでの距離。これを、残り五日で行かなければならないのだ。そりゃ、馬でも借りようって話にはなる。


「でもここ最近風の噂で変なことを聞いたんですよ」


一通り話が終わってから、サーシャは先程とは違う話の話題を切り出した。

俺が、どんな話なんだ?と聞き返すとえっと、確か…と言いながら、自身のバックの中をあさり始めた。

何を出すのかなーと思って少し待ってみたが、なかなか見つからないのか終いにはポイポイと外に投げ始めた。…とりあえず、その何かが見つかるまでは暇だし、別の場所でも見ておくか。

俺はそう思い、透たちの方へと視線を移した。

透たち三人はどうやらウィッカと話が合うようで、四人固まってずっと話をしていた。何の話をしているのか、正直気になるところだ。


「あった!」


その時サーシャが目的のものを見つけたのか、バックの中から目的の物を取り出した。だが、サーシャが手にしていたものは、どこかで見たことがあるひよこだった。しかもなんか食ってるし。


「ッピ?」


そいつは、ペピーは口に何かを口の中に含んでいた。よく見ると先がとんがっていて、何か取っ手のようなものがあるナイフのような……ん?ナイフ?

その時、バキボキ!と音がして、ペピーは何かを飲み込んだ。


「いや~、ここにあった武器とってもおいしかったッぴ~ごちそう様だッピ!」


目の前の状況に頭が全く追いつかない。一体俺は今何を目にしているんだ。というか、ペピーを持っているサーシャの顔が怖い。体から、溢れんばかりの殺意がにじみ出ている。これは少し、距離を置いた方がよさそうな気が…。

しかし、俺がそこまでの事を頭で考えているころにはもうすでに何もかも遅かった。

サーシャは右手にペンデュラーを五本すべての指に装着すると、それをペピーに向けて至近距離でぶつけた。もちろんこの後は語るまでもなく、俺たちはサーシャの使用した爆発系のクオーツの巻き添えを喰らった。


------------------------- 第93部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

入学試験13


【本文】

「…このちっこいのは何ですか?そして、なんで私の商品を…しかも高い武器ばかりを狙って…」


「いや~ごちそう様だッピ!美味しかったッピよ!」


爆発騒動が落ち着いて、ようやく怒りが静まりかけていたところにペピーがまた油を注ぐ。

そしてまた、サーシャの顔色がどんどん変わっていく。これじゃぁまた俺たちが巻き込まれるだけだ。


「…ウィッカさん。シトセ村までの案内、お願いします」


「…わかりましたー」


そうして俺たちは、これ以上爆発騒動に巻き込まれないように、その場を急いで後にした。

少し離れてから、聞いたこともないようなサーシャの声と、ペピーの断末魔が響き、いったいどんな目に合っているのかと、全員が恐怖した。



「全く…こういうペットを飼うのならしつけはしっかりとしてください!」


あの後帰ってきたサーシャはそう言って俺にぼろ雑巾のようになっているペピーを手渡した。

口の中から魂が出かかっているような状況になっている。大丈夫か、これ。


「…まぁ、武器は集めなおせばいいので特に問題はありませんが…肝心のシトセ村の情報のメモが…」


「ペピーに食われたのか…」


俺がそう言うと、サーシャは力なくうなずいた。まぁこうなってしまった以上仕方がない。何か問題が起きているのなら、村の近くまで行けば何かわかるだろう。というか、今は方法がそれしかない。

特に俺たち男組四人は休んだとはいえ、疲れが抜けきっていないので正直きつい。

早く村について、休みたい。それが今の俺の、いや俺たちの心の声だった。

その時、ウィッカが急に口を開いてこういった。


「シトセになら五日前に行きましたけど、村にはもう協会しか残ってないですよ~。魔物の襲撃にあったみたいですからね~」




一方そのころ、葵、春香、千里たちはというと…。


「よしっ!パチェリシカが見えた!ゴールまであと少しだよ!葵ちゃん!千里ちゃん!」


「……うん…」


「……そうだね…」


試験が始まって三日目の昼に何とかパチェリシカを視界にとらえるところまでは来ていた。ここまでくれば遅くとも夜までには必ずつけるだろう。何も起こりさえしなければ。


「じゃぁちょうど昼頃だし、昼ごはん食べよ!私が作るね!」


そう言って春香は私たちを置いて、どこかへ駆けて行ってしまった。

あぁ……本当に何も起こりませんように。そう願わずにはいられない葵だった。


------------------------- 第94部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

入学試験14


【本文】

ウィッカの話があった後、俺たちは速足でシニア村まで急いだ。

シニア村に着いて俺たちは改めてウィッカの言っていたことを理解した。いや、本当はわかっていた。ただ信じたくなかった。今目の前のこの村の惨状を。

家だったところは跡形もなく焼け消え、噴水の水は完全に涸れ、中にはいくつもの死体が転がっていた。見るだけで吐き出してしまいそうになる光景だった。それを見て、透は我慢していたようだが、顔色が悪くなり、林太と翔斗に至ってはその場にうずくまって吐いてしまった。無理もないだろう。多分こいつらは本当の戦いを知らないのだろうから。


「大丈夫か?」


俺がそう声をかけると、三人とも首を横に振った。まぁ…そうだろうな。正直俺も長い間はここにいたくない。…俺はこういう人のメンタル的な医療については全くの専門外だ。…いや、全くと言うわけではない。現に四島列島の戦いで俺は鬼だと思って切っていた魔物が、実は全て人間だったことを知った時、精神が不安定な状況に陥り、自殺しようとしたことが何度もある。…おかげで、今では人が死んで悲しいのに涙すら流さなくなってしまったけれど。ふと、ジャルの事が頭に浮かんだ。だが、頭を振ってそのことをかき消す。今は、そのことについて考えている場合ではない。まずは、この村の状況の把握と救助。それが終わってから馬を借りてドルーナを目指さないと。


「洋一、教会の方と話をしてきました。とりあえず、少しだけ場所を貸してもらえるそうです」


村についてから、すぐに教会に交渉に行ってくれたサーシャが俺たちのいるところまで戻ってきた。


「それで、どうだった?」


俺がそう言うと、サーシャは首を横に振った。やっぱりか。こんな状況だ。まともな馬なんて一匹もいないだろう。


「とりあえず移動しましょう。仮にもしここで襲われでもしたら、私と洋一は良いとしてもこの方々が死んでしまいますから」


そう言って、サーシャは林太と翔斗を肩に担ぐと、二人を引きずりながら前を歩き始めた。…身長が低いといろいろと不便そうだなと、この時素直にそう思った。鋭い眼光で睨まれたが気にしないでおいておこう。

俺は透に声をかけ、背中をゆすりながらサーシャの後をついていった。


教会についてから、分けてもらったスペースに三人を横にして寝かせ、俺はサーシャと一緒に今ここを仕切っているであろう方の所に挨拶に行った。


「ビータさん、今回は無理言ってすみません」


サーシャがとあるシスターであろうと思われる女性の目の前で立ち止まって話しかけた。


「いいんですよ。あなた方、黒の明星にはいつもお世話になってますから」


「ちょ!ビータさん!ここでギルドの名前はあまり出さないでください……」


「あら、ごめんなさい。それで、この子が先ほど言っていた少年かしら?」


そう言って、ビータと言われる女性が俺の方に向き直った。


「すみません、お忙しい時に」


俺はそう言って、ビータと呼ばれる女性にぺこりと頭を下げた。


「あら、礼儀正しい子ね。…サーシャちゃんの将来の夫に良いんじゃない?」


ビータさんがそう言うと、サーシャが少し頬を赤らめつつ冗談はよしてくださいと言ってビータさんを睨んだ。そして俺の方を見ると、「別にそんなこと思ってませんからね!」と言って逃げるようにその場を後にしてしまった。


「あらあら、恥ずかしがり屋さんなのは相変わらずなのね」


いや、今のはどう見てもあんたのせいでしょうビータさん。俺が見ててもあれは少しかわいそうだったよ。というか、あれ後で俺に変な怒りがぶつけられるんじゃ……。

と変なことで俺が頭を抱えていると、ビータさんは改めて俺に話を切りだした。


「馬を借りたいという件については、本当にごめんなさいね。最後の一頭を今ある人たちに貸しちゃってるから」


「ある人たち?」


「ええ。貴方の腰に差しているような黒い色をした二本の短刀を持った方と、小さな女の子にね」


……なんでだろう。知っている人間の中にまさに当てはまりそうな人間がいるんですが。


「でもね…決していないというわけではないんだけど…出てくる可能性が低いのよね…」


「まだ馬がいるんですか!?いったいどこに!?」


「…貴方はこの村ができた理由を知っているかしら」


ビータさんは馬の話から突然別の話へと切り替えた。俺がそのことについて首を横に振ると、ビータさんは話を続けた。


「百年前、龍との戦争が各地で行われていた時の話よ。紅葉の森に住んでいた人々が魔物に追われて、あるところに櫓を築いた。必死に防衛を続けて数日、とあるスカイピアの学生たちがここを助けに来てくれたの。その時の学生さんたちが戦争が終わってから、何人かがここに住み始めたの。それがこの村の始まり」


「…それと、馬の話に何か関係が?」


「えぇ。実はこの学生の中にね、ペガサスを召喚獣に持つ女性がいたの。彼女は自身の召喚獣をこの村の守り神としてくださったの」


「つまり、今のこの状況だからこそ、もしかしたらそのペガサスに出会えるかもしれないということですか?」


俺がそう言うと、ビータさんは首を縦に振った。


「けれど、これは私の推測でしかありません。もし、の話です。」


「いえ、貴重な話をありがとうございます!」


俺はそう言ってビータさんに大きく頭を下げた。その後いろいろなことを伝えてもらい、最後に馬が帰ってきたらすぐにあなた方にお貸ししますから、とりあえず今日は休んでくださいと言われ、ビータさんとの話を切り、その場を後にした。


ひとまず村の状況を見ておこうと思い、俺は村の外に出た。日はとっくに傾いておりもうすぐで夜になりそうだった。そして、外ではサーシャがペピーを抱いて俺を待っていたかのようにその場に立っていた。


「何してんだ?」


「いえ、別に。外を見ていただけです。少し寒かったので、この子をずっとモフモフしてました」


そう言いながら、サーシャはペピーの事をまだモフり続けていた。ペピーが助けてほしそうな顔でこちらを見ていたが、今まで髪を散々引っこ抜かれたことに対する俺の怒りがあったので、みて見ぬふりをした。


「そう言えばウィッカは?ここに来てから全く姿を見ないんだけど」


「ウィッカなら、”お客様からの注文が入ったので失礼します!”とか言ってそのままどこかへ行きました」


…あの子商売の為なら、何でもする何でも屋さんかな?


「はぁ、ウィッカにはそのやる気を本職で出してほしいんですけどね」


サーシャはそう言ってため息をついた。なんか色々たまってそうだった。


「…あの時の続きでもするか?」


「…あの時?」


「ほら、俺たちが出会ってから初めに着いた街で夜道をぶらつこうって提案したじゃん」


「……この中でそれをやるのは、少し無理があるんじゃないですか?」


「でも、愚痴とかたまってんだろ?」


俺がそう言うと、サーシャは少し苦笑いをして一度下の方を向いた。

そして顔を上げて、


「…なら、今夜は寝かせませんよ。覚悟してくださいね」


と言って、たまっていたであろう物を俺にはきだしはじめた。





「現在の報告をなさい、紫雷」


「一番馬車の生存人数は五百人程、二番馬車の生存人数は六百人程度、三番馬車の生存人数は同じく六百人程度、四番馬車の生存人数は残り四名、五番馬車は七百人程度となっております」


「…なんと、死の森に行って四人も生きているとは……素晴らしい……実に、素晴らしい!!」


学長のフェルはそのあまりの興奮に思わず立ち上がり、手に持っていたグラスを宙に投げ捨てた。


「帰ってきたら、ぜひあなたのクラス、特務科クラスに入れてあげなければいけませんね……」


そう言って学長のフェルは指を鳴らした。する多影から、数人の影が現れた。


「四番馬車の生存者へ地竜を放ちなさい」


そう言うと、影は頭を下げると、その場から姿を消した。


「よろしいんですか?そのようなことをされても」


「ふっふっふっ……わかっていませんね、紫雷。これは”厳選”ですよ。新たなる私の駒の」


そう言って、フェルは落ち着きを取り戻し、また席に座った。


------------------------- 第95部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

入学試験15 


【前書き】

簡単なキャラクター紹介

透 武器 片手剣 個性 タフ(身体的にも精神的にも耐性を持つことができるようになる)

林太 武器 斧 個性 ウォークライ(攻撃力上昇)

翔斗 武器 弓 個性 エアリアルハイド(敵から姿を隠すことができる)


【本文】

サーシャのたまっていた色々なものをはきだしてもらった時には、すでに日が昇り始めていた。いや、確かに寝かせませんよとは言ったかもしれない。だがな、サーシャ……


「てめぇが先に寝落ちすることはねぇだろうがよ!」


夜の間ずっと、動きもせずにサーシャの話を聞いていたから寒いったらありゃしない。ペピーを何とか救出しておいて、布団代わりにすればよかったと今更後悔した。もう遅すぎるけどな!

愚痴をこぼしていた当の本人は、愚痴をこぼしながら爆睡するという珍技を出してきやがるし、それを必死に聞いていた俺が馬鹿らしくなった。だが、今回ばかりは自分のせいだ。仕方がない。今からでも寝れば三時間は寝れるだろうし、とりあえず…ここで爆睡しているサーシャを部屋に運んで爆睡しよう。

俺は立ち上がってサーシャを起こさないように無難なお姫様抱っこをして、俺たちにビーナさんが貸してくださった部屋まで移動して、サーシャを布団に寝かせると、俺もそのままその場で力尽きるように地面に寝転がり、本能に従いそのまま深い暗闇へと、自分の意識を落としていった。

そして、眠りについてからすぐに透にたたき起こされてしまった。まだ全然寝ていないようにも思えたが、明らかに太陽の位置が先ほどよりもはるかに高かった。どうやらかなりの時間寝ていたらしかった。三人とももうすぐに出発しないと試験に間に合わないと、起きたばかりの俺を急かし、寝ぼけた状態で出かける準備を済ませ、朝食を済ませた後お世話になったビーナさんにお礼を言って教会の外に出た。外ではすでにサーシャがこれから先に必要そうな最低限度のものをそろえてくれていた。お金を払おうとしたら、昨日のお礼、と言われてしまった。まぁ、そう言うことならありがたくいただいておこう。


「洋一、昨日のお礼ってなんだ?」


と、何も知らない透が少しにやにやしながら話しかけてきた。


「別に、変なことややましいことは何もしてないぞ?」


「ふ~~~ん」


「…サーシャに殺される前に、俺の話を信じていた方がいいぞ。ほら、ああなるから」


俺はそう言って、サーシャたちのいる方を指さした。

そこではサーシャが赤面で怒りを爆発させており、林太と翔斗が血しぶきを上げながら宙を舞っていた。


「……そうだね。やましいことは何も起きてないし、僕は何もこのことについて知らないし聞いてもいない」


「その考えが一番利口だと思う」


と、透と話してお互い少しふっと笑ってから、このままだと殺されそうな林太と翔斗のカバーに回った。


そんなこんなでいろいろともめごとがあり、結局シニア村を出発したのは昼近くだった。


「それで、どこ行くか場所は決まってんのか?」


「そうだね、教えてくれ洋一。僕たちは昨日あんな状態だったから、今から何をするのか知らないんだ」


と、林太と翔斗が俺に尋ねてきた。だが知らなくて当然なのだ。俺以外は誰も今から行く行き先を知らないのだから。

ということで、昼食をとるために一度休憩しているときに、皆にこれからどこに行くのか話した。


「………湖?」


「そーそー、湖。なんかそこでもしかしたら、ペガサスが出るかもしれないんだって」


と、俺がその話をして四人と一匹は目を輝かせた。


「ペガサスってあの空飛ぶ伝説の白馬ですか!?」


「今からそんなすごいのを探しに行くッピか?すごい興奮するッピ!」


「おおー!そんなのがいるのか!」


「まじかよ!すげーな!」


「伝説の召喚獣!まさか本当に要るなんて…」


と、反応は人それぞれだった。うん、おそらく会話の内容から推測するに、知ってるのってサーシャと翔斗くらいだな。俺も人の事は言えんが。


「というわけなんですが、出会い方まではさすがに俺も知らないので、誰か知ってる人ー?」


と俺が一言言うと、皆えっ?あんた知らないの?みたいな顔でこちらを見た。悪かったな。こちとらここら辺の湖に祭られていて、今もしかしたら出てくるかもしれないって情報しかもらってないんだよ。というか、知ってたら昨日の夜のうちに一人で行ってるか、お前ら全員たたき起こして現場に行っとるわ、ボケ。

そんなことを内心思っている時だった。最も意外な人物が俺のこの質問に返答した。


「あ、僕知ってるッピよ?」


それはあまりにも意外な一言で、その場にいた俺たち全員の体には稲妻が駆け巡るかのような感覚に襲われた。

そんなことを俺たちが話している間に俺たちの背後から、何かがゆっくりと俺たちに近づいてきていた。


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