81話~85話まで
------------------------- 第81部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
入学試験1
【前書き】
私は生きるためにこの力を存分に使うよ。右手しか動かなくても世界を救えるということを証明しないとね。 十七条の禁術の書より 作者不明
【本文】
5番馬車に乗った葵たち三人は、目的地に着くまでの間荷物整理などをしていた。
そして、見つけてはいけないものを見つけてしまった。
「…どうしよう春ちゃん。ひろ君の地図持ってきた」
「え、それ冗談抜きでやばいんじゃない?」
「透たちがいるから大丈夫だって!」
洋一の地図を持ってきてしまい、少し不安な気持ちが心の中で渦を巻いていると、馬車が止まった。
どうやら目的の場所に着いたみたいだった。
「よし、ひろ君たちよりも早くついて驚かしてやろう!」
「「おー!」」
こうして、私たち三人は馬車から降りると、持ってきてしまった地図を見ながら学校へ向かって歩き出した。
4番馬車に乗った洋一たちは、馬車の中で目的地に到着するまでのんびりしていた。特に俺に至っては、馬車の中で寝ていた。外の景色を楽しもうにも、上から布をかぶせられているので、外が見えない。かといって、手元がまともに見えるわけでもなく、そういう魔法を覚えているわけでもないので、ただ待つしかなかった。
そうしてゆっくりとした時間が少し過ぎた後だった。
「おい!そこのお前!その場所を俺に譲れ!」
俺の目の前で誰かが誰かに向かって叫んだ。馬車一台一台の座席部分がせまく、みんなかなりぎゅうぎゅうに乗っているはずなので、正直な話譲る席なんてない。
まぁ、こんなことを言っている奴も相当な大馬鹿野郎だとは思うが。
「聞こえていないのか!おい!そこのお前!」
叫んでいる誰かが、さらに声を大きくした。
寝ている俺にとっては不快でしかない。周りの空気が嫌なムードに包まれていく。
誰だよ、こんなところでマナーもろくに守れない奴は。
「お前だよ!そこの眠っているくそやろう!」
そう言って、さっきからずっと誰かに叫び続けていた男は、俺の肩を揺らした。
どうやらずっと俺に向かって話しかけていたらしい。
「…なぜ席を譲る必要があるんだ?ただでさえ狭いんだ。文句言わずに座ってろよ」
「うるさい!僕は貴族なんだ!貴様らのような下民とは違うんだ!いいからどけろ!このゴミ野郎!」
この一言で、完全に目が覚めたと同時に頭にカチンときた。
何か言い返してやろうかと思い、口をひらこうとしたが透たちが俺の口に手を当てそれを遮った。
「…洋一。相手は貴族だ。何か言えば、こっちの身がどうなるかわかったもんじゃない。な?ここは、大人しく譲ろうや。俺らも場所動くからさ」
「…わかった」
結局その後、透たちが怒り狂っている貴族の坊ちゃまらしき人物を慰めてから席を譲り馬車の出入り口の方に場所を移した。
「なんだよあいつ」
「しゃーないさ。まぁ、ここでもめても面倒ごとになるだけだし」
「洋一が怒るのが分からないわけじゃないんだけどね~」
「相手が悪かったな」
まだ少し苛立ちがおさまらない俺を、透たちがいろんな言葉をかけてなだめてくれた。
そのおかげで、先程のとはあまり気にしなくなった。
そして、俺たちの馬車はまだ止まることなく先へと進み続けた。
そして、それからかなりの時間が過ぎた。
上から被せてある布の隙間から、冷たい風が吹いてきた。
どうやら、夜が近くなってきたらしい。
「透、目的地に着くまでこんな時間かかるのか?」
「…いや、ごめん。俺たちもそこまで知ってるわけじゃないんだ」
「ゴリラに無理やり連れてこられたし」
「…ちょっと、いつごろ到着するのか聞いてみるか」
そうして、馬車の入り口付近にいた俺は立ち上がると所狭しと詰めて座っている人たちの間をすれすれで通りながら、布の外で馬車を操っている人に声をかけた。
「すみません、この馬車っていつ頃止まるんですか?」
しかし返事はない。
少なくとも声は届いているはずだ。
だが、もしかしたら集中していて声が耳に届いていないのかもしれない。
布の上からだが、肩を叩いてみるか。
そう思い布に触ったところ、なぜか少し濡れていた。
…汗、というにはあまりにも多く、よく見ると布の色がそこだけ違った。
まさかと思い、ルール違反だが思い切って布をめくってみた。
「…おいおい…冗談だろ…」
「洋一!?何やって……え…」
布をめくり、数時間ぶりに見る外の景色に誰もが絶句した。
なぜなら、そこには人とはいいがたい肉片が飛び散っていて、馬が全く別の生物に、いわば魔物に変わっていたからだ。
その馬のような魔物を操っている魔物がこちらを向いた。
そして、俺たちを見ると、不気味な笑みをこちらに向けた。
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【サブタイトル】
入学試験2
【本文】
まず、俺は目についた魔物を魔法を当てて、馬型の魔物の上から突き落とした。
そうしないと、このままどこに連れていかれるか分からない。
魔法を撃ったあと、馬車から勢いよく魔物の背中に飛び乗った。
どうやら、馬と同じように扱えばいいらしい。
馬を扱うのは、四島列島での戦い以来ぶりだが何とかするしかない。
俺は馬を無理矢理止めるために、手網を思いっきり引く。
馬の顎がクイッと上がる。しかしこれは逆効果だった。
突然、視界を前から上に向けられた魔物の馬がびっくりしたのか突然暴れだした。
その突然のことに、反応しきれなかった俺は馬から地面に叩きつけられた。
その勢いで俺は何度か地面を転がった後、どこかの草むらに突っ込んだ。
体中に激しい痛みが走る。何本かあばら骨が逝ったらしい。
だが、そんな俺を置いて暴走しかけの馬車は俺を置いて走って行ってしまった。
追いかけようとするが、体の走る痛みが俺の動きを遮る。
動きたくても、動くことができなかった。
体が、脳が、休息を必要としていた。
俺はそんな意志に逆らうこともできず、気を失った。
「……ッピ」
「………きろッピ!」
「起きろッピイイイイイイイイイイイイ!」
顔面をぺちぺちと何かに叩かれながら、耳元で大声で誰かから呼びかけられ目が覚めた。
あたりは暗すぎて何も見えない。どうやらあれから夜まで眠ってしまったらしい。
「ようやく起きたッピ…。全くこれだから人間は……」
俺を起こしたその生物は、そんなことを言いながら俺から離れた。
その容姿は色こそ暗くてわからないが、丸々としたひよこのような生物だった。
「お前は…いったい…」
「まずはお礼が先だと思うッピ!こうしてお前を今の今まで守ってやったんだからッピな!」
そのひよこのような生物からそう言われ、目を凝らしてよく見てみると、薄い膜のようなものが貼ってあった。
「これは…」
「…お礼も無しかッピ…。まぁいいけどッピ。これは、僕特有の認識阻害の魔法だッピ。感謝するッピよ?たまたま、精霊の僕が見つけたからよかったものの、ここ死の森で寝るなんて森の名前の通り死ぬことになるッピからね」
「ま、待て!精霊?死の森?もう少しそこらへん詳しく聞かせてくれ!」
「それよりも、体の怪我をどうにかするッピ。それと話は動きながらだッピ。…さすがに、人間の血の匂いをこれ以上漂わせるわけにはいかないッピ」
謎のひよこのような精霊からそう言われ、俺は怪我をしていたことを思い出した。
だが、不思議なことに大怪我はしているのだが、馬から落下した時に折ったあばら骨がすっかり完治していた。
「なぁ、お前は回復魔法とかできるのか?」
「僕ッピか?できないッピよ。僕ができるのはせいぜい今やってることくらいだッピ」
…じゃぁ、なんで俺の折れたはずの骨は完治しているんだ?
だが、そんなことを悩んでいる暇はない。今はこのひよこに従うしかない。
クイックヒールで体の傷を癒し立ち上がった。するとこのひよこ、俺の頭まで飛んでくると頭の上にちょこんと乗った。
「さぁ、出発だッピ!とりあえず、このまま僕の領域まで行くッピ!」
なぜ頭の上に乗るんだ頭の上に。
そんな思いを胸の中に隠しながら、俺はそのひよこの言う通りに足を進めていった。
早く透たちと合流しないと。そう、焦りながらも。
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【サブタイトル】
入学試験3
【本文】
ひよこの言う領域なるところまで歩いている間、色々なことを話した。
「まず、ここはどこだ?」
「ここは、死の森だッピ。元は紅葉の森と言って、常に赤い葉が舞散っていた綺麗な森だったらしいッピ。だけど、百年前のドラゴン誕生がきっかけで森の状態、魔物の姿が変化したらしいッピ。そのせいで、森に住んでいた人々は行方不明になり、この森に何度も送った調査隊が誰一人帰ってこないことから、死の森と呼ばれているッピ」
ペラペラとこの森のことを語るひよこ。そのしゃべり方は、まるでその出来事を見てきたかのようなそんな感じだった。
「そんなにこの場所を知っているなら、お前はいつから生きてるんだ?」
「生まれたのは最近ッピよ。紅葉の森のことは、そういう本があったから知っているだけだッピ」
「本?歴史関係の何かか?」
「多分日記だと思うッピ。学校のこととか、ドラゴンのこととか。あと女神とドラゴンの関係性について何とかみたいなのが書いてあったッピ。と言ってる間についたッピ。ここが僕の領域だッピ」
そう言って、ひよこは俺の頭から飛び降りるとペタペタと前を走っていった。
ドラゴンと女神の関係性という話がとても気になったが、ここでおいていかれればどうなるのか分からないので、後を追った。何かを通りすぎたのを感じてすぐに、それまで見えていなかった月光が辺りを照らし出した。崩れかけた家や壊れた家具、それに…何かの骨。…昔誰かがここに住んでいた後のようなそんな光景が視界を埋めつくした。恐らくは、あのひよこが言っていた村なのかもしれない。
「こっちだッピー!」
小さい体で大きな声を出し、体をピョコピョコしながらあのひよこが俺を呼んだ。
…こんな暗い場所でのちょっとした癒しだな、あれ。
そんなことを思いながら、呼ばれるままひよこの元へ向かった。
「見てみてー!料理できたよー」
「「………」」
「葵ちゃん?千里ちゃん?」
「あ、えっと……凄い…料理…だね」
「春ちゃん……これは…また…ゲテモノを…」
「……ほ、ほら!料理は見た目じゃないし…た、食べてみれば美味しいかも」
「じゃぁ…頂きまー………」
「千里さん!?ちょっと!大丈夫!?」
「ブクブクブクブクブク………」
「泡吹いてる……」
料理はできるようにならないといけない。そう思った葵だった。
ひよこに呼ばれた場所へ行くと、簡易的ではあったが休めるスペースがあった。
「とりあえず、今日はここで休むッピ!明日、日が出ているときに、森の外に出れるように案内してやるッピ!」
「待ってくれ!俺以外にも、ここに来た人がいるんだ!そいつらを助けたい」
「……それは…正直諦めた方がいいッピ。特に夜は、何が出るのか分からないッピ。最近魔物の会話を盗み聞きした情報だと、地竜が住み着いたっていう話も聞くッピ」
「だけど!」
「諦めろッピ。お前もここに来るまでに、色んな気配を感じたはずだッピ。どれも上位の魔物の、しかも強いのばかりがいるッピ。それを分かっていくのであれば…止めないッピよ。ただ、そうすれば生きてここを出ることは、保証しないッピ」
何も言い返せなかった。確かにこのひよこの言った通りだった。ここに来るまでに、自分たちを簡単に殺せるような強さを持った者や殺意むき出しの危ない者の気配を沢山感じた。一人ででれば、例え四島の戦いを生き抜いた俺でも、死ぬだろう。そんなことは分かっている。だけど、俺が今こんなところで立ち止まっている間に、透たちに何かがあったら……。それに、もう、家族やルル……ジャルのようにもう誰も失いたくない。
そう思った。その時、ひよこの頭のアホ毛のようなものがピンと上に立った。
「領域内に侵入者ッピ!?…の割には、弱々しすぎだッピ。とりあえず何が来たのか確認に行くッピ」
そう言ってひよこはまた俺の頭の上に乗ると、反応を示したであろう方向をその羽のような小さい手で指した。俺は警戒しながら、ひよこの指す方へと足を進めていった。
その方向へと進んでいくと、どこかで見たことがあるような人物が血を流して倒れていた。
すぐに駆け寄って誰なのか確認すると、そいつは俺に向かって席を譲れと言ってきた貴族の坊っちゃんだった。
「た……助け」
そして、助けを求めようと声を出した瞬間、そいつは脳天を矢で貫かれた。
「な…何が」
「馬鹿!声出すなッピ!」
「え?」
「動き回れッピ!」
その言葉と同時に、俺に向かって矢が飛んできた。
それを、ギアで動き回りながらかわしていく。
「狙撃!?どこから!?」
「それよりも、まずいッピ!領域が…破られたッピ!」
その言葉を聞いてすぐに、後ろから感じたことのない殺気を感じた。
だが、この状態では逃げるに逃げ切れない。
「…まずは、狙撃するやつを倒すしかないな」
「そんなこと言ってないで、早く走るッピ!!あれは多分」
ひよこがその言葉を口に出す前に、後ろからそいつは姿を現した。
何でも砕きそうな顎をもち、発達しそこねた翼をもち、どっしりとした体。
「地竜だッピ!!」
「…冗談だろ!!?」
一気に絶体絶命のピンチにまで追いやられた。
月明かりが射し込んでくるなか、ワインの注がれたグラスをもち学長のフェルは"人形"たちが帰ってくるのを待っていた。
その部屋に一人、黒い格好の者がフェルを訪れた。
「どうですか。人形たちの状況は」
「ハイ、一バンバシャ、ノコリ、ナナヒャクニン。ニバンバシャ、ノコリ、ハッピャクニン。三バンバシャ、ノコリ、ナナヒャクニンニジュウニン。四バンバシャ、ノコリ、ゴジュウヨニン。五バンバシャ、ノコリ、キュウヒャクニン、デス」
「ほぉ……死の森でまだ五十人以上も生き残っていますか…これは…期待出来そうですね。下がりなさい」
フェルが黒い格好の人にそう言うと、そいつは影のようにその場から姿を消した。
「さぁ…紫雷、あなたも飲みなさい。私の警護ばかりはつまらないでしょう」
「いえ、私はあなたの最後の壁です。そのような者が酒を飲み、主を守れなかったとなったら、話になりません」
「…それは、実に残念だ。なら、一週間後になら良いであろう?」
「……まぁ、その時になりましたら、頂くとしましょう」
「では、一週間後、ですね。ふふふふふふひひひひひひ…楽しみですね……」
不気味な笑みと声をあげながら、フェルはグラスを月に掲げ、全て飲み干した。
そして、一言
「全ては、あの方の為に」
そう呟いた。
------------------------- 第84部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
入学試験4
【本文】
「あああああああ!!!!」
「早く!もっと早く走れッピ!!」
「さっきから全速力だよ!くそったれ!!」
くっそ!マジで死ぬ!こんな板挟みの状況どうやって切り抜けりゃいいんだよ!
前からは謎の狙撃、後ろからは俺らを食べようと地竜が追いかけて来ていた。
きっと絶体絶命とはこういうことを言うんだろう。ってそんなかとを考えている場合じゃない!
まずはどちらかをどうにかしないと何もかも始まらない。
何か、何かないか!こういう危機を乗り越えれそうな道具や魔法は……魔法?
意識をそらす……幻夢……幻夢!!そうだよ!こいつがあった!
最近色々と考えることが多くて、すっかり自分の使えるモノを忘れていた。
でもこれがあれば、どちらかには対応できる!
…だが、どちらに対して幻夢を使えばいいのだろうか。
弓を打つ何者かに使えば、きっと俺が二人いるということで困惑させることができるかもしれない。
地竜に使えば、完全に弓を打つ何者かに集中することができるかもしれない。
…どちらを封じるべきか…。
まぁ、とりあえずはこの地竜から逃げないと…な!
俺は走りながら、木の枝を折りありったけの魔力をそれにぶつけた。
見事、幻夢を作り出すことに成功した。
「よし!…頼んだぜ、俺の分身!」
そうして、地竜の意識が幻夢の方に向いてくれることを願いながら、俺はギアを使って矢を射る何者かの場所へと向かった。
もしかしたら、話し合える相手かもしれないから。
幸いなことに、地竜は幻夢の方に向かってくれた。
それに、かなりのスピードで前にきたおかげか矢がとんでこなくなった。
「ピー……死ぬかと思ったッピ……」
「流石に幻夢なかったら……かなり危なかったな」
「というか!!あんな隠し玉があるのなら、最初から使えッピ!!」
そういって、頭の髪の毛をムシャムシャとむしられる。
「やめろ!禿げるじゃねえか!」
「てめぇの髪の事なんて知るかッピ!!」
まだ出会ったばかりの相手に、それはひどいんじゃないかな!?というか、むしるな。痛い。
羽なのか手なのかわからないひよこのそれをどけ、あたりを見回した。
何かの気配を感じることもない。魔力反応もないのでとりあえずは安心してもいいだろう。
だが、ここでそんな気を緩めることもできない。急に襲われても逃げれるように、木の上に登った。
そうして、木の上に登った俺はそこから顔を出して、再度辺りを見回した。
静寂という言葉がぴったりなくらいに静かだった。…裏を返せば、まったく生気を感じることができなかった。さすが死の森と呼ばれるだけはある。そう思った。
そんな時、少し離れたところから明かりが見えた気がした。
もしかして、生きている誰かか!?そう思った俺は一目散にそれに向かって走り出した。
そして、そんな洋一を遠くから見る一人の人間がいた。
------------------------- 第85部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
入学試験5
【本文】
遠くから見えていた小さな明かりに少しずつ近づいていくうちに、そこにある気配が人間の者ではないことが分かった。だが、魔物が火を活用なんてすることができるのか?少なくとも、魔法をそんな器用に使うことのできる魔物を、俺は見たことがなかった。人がふだん立ち入るような場所ではないから、例外もあるかもしれないが。ようやく、その火の形がはっきりとわかるほど近くに近づいたところで、ようやく相手の姿を確認することができた。どんな魔物かとはじめは思っていたが、こうして近づいてみるとなんと人のようだった。頭から足まですっぽりと隠れるような、例えるなら忍者のような格好をしているそんな人が複数人いた。少し気が抜けそうになったが、今ここで安易に出ていって、相手が敵でしたーで死ぬのだけはごめんだ。せめて会話でもしてくれれば、判断出来そうなんだが…。
そんなことを思っていると、何人かが集まってなにかを話し出した。
「…こっからだと聞こえないな…なぁひよこ、俺をあそこ付近に近づいてもバレないようなくらい大きな認識阻害の魔法ってかけられないか?」
「できても五メートルが限界だッピ。…まさか、あの誰かわからないやつらの話を聞きに行くんじゃないッピよね?」
「なんだ、わかってるなら話は早い」
俺がそういうと、頭に乗っていたひよこは頭から降りてきて、短い羽のような手で俺の頬をつねった。
「なんでそんな無謀な事が当たり前のようにできるッピかーーーー!!」
「ばっか!お前そんな大声だしたrー」
「どうやら、飯の時間が来たようだな」
ですよねー。ばれますよねー。そりゃーあんなバカみたいな大声出したんですからねー。
俺たちがバカみたいに大声を出した所に、そこにいた複数人の人は武器を取り出しつつ、じりじりと近づいた来た。こんなことになるとは、全く予想していなかった。……正直、相手がどのくらいの強さなのか…。姿が人型ということくらいしかわからないから、どう対処すればいいのものか。
…神器を使うのもまた一つの手だが…、仮に神器を使った場合を想像してみる。
「こんな屑を相手にするために呼び出したんですか?死んで詫びてください」
「お姉さまがこんな屑の相手するわけないじゃないですか。死んで詫びてください」
…みたいなことを、言われそうな気がする。
うん、今よりきっとひどい状況になるな。
なら、無茶をしてでも勝つしかない。そして何としてでも脱出法と、人をどこかでみかけなかったかと情報を得なければならない。
腰につけていた刀にそっと手を伸ばした、その時だった。
俺と反対方向の茂みから、フードを被った小さい子供のような子が飛び出してきた。
注目が、俺から飛び出してきた人に移る。
まずいと、思い一歩踏み出して助けに行こうとしたときには…もう遅かった。
人一人が、その子に向かって武器を振りかざしていた。
この距離では、絶対に間に合わない。そう思い目を瞑った。
「グワアアアアァァァァ」
……?子供の声じゃない?まさかと思い瞑った目を開けた。
先程まで辺りを明るくしていた火は消え、辺りから魔物の気配が全く感じられなくなっていた。
そこに、まるでそこを照らし出すかのように、月明かりが注がれた。
長い黒髪に小さな背丈、それに黒マントを着た子供がそこにたっていた。
その手には禍々しい弓が握られていた。
「……ふぅ、ミッションの一つは完了…かな?…それと、さっきから僕をそこで見ている先程まで地竜に追われていた人。いい加減、そこから出てきてもらえませんか?あなたが貴族連合なのか、ギルド連合のどちら側なのかわからないので」
俺らが地竜に追われていたことを知っている!!?一体この子は…何者なんだ。それに、貴族連合かギルド連合なのか?…もう頭がパンクしそうだぞ俺は。
だが、それよりも…だ。
俺は出てくるように言われた指示にしたがい、その子に見えるような位地で足を止めた。
「…どうやら、貴族連合ではないようですね。よかった…」
「…あんたは…何者だ?…あんな強そうな魔物をああも簡単に…」
「あ、自己紹介がまだでしたね。僕の名前は……今は、ルーと呼んでください」
「俺は洋一だ。んで、こっちがひよこ」
「一応僕にもぺピーって名前があるッピよ!!」
「お前そんな可愛らしい名前だったの!!?」
「驚くことそこッピか!?」
「…あの、大声は出さない方が……。それと、お互いに情報交換しましょう。そちらの方が状況が整理できます。…まだ、僕の事を信用できないかもしれませんが…」
確かに、大声はよくないな。そう思った俺は、ぺピーに後でなんでもしてやるからという条件をつけて黙らせた後、ルーという名の…名の……。
ちょっと待て。この子は…男の子?それとも僕っ娘?それとも女の子?
……一体…どれだ。




